モーツァルト毒殺説は本当か?

オリビア・ゴードン氏:1756年に生まれたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、間もなくして世界でもっとも有名な音楽家となりました。

7歳の頃にはすでに世界をまわり、ヨーロッパ中では音楽貴族たちを相手に演奏を披露していました。35歳になる1791年には数々の傑作が生まれ、その数は600曲以上にもなりました。

しかしながらその年の12月5日、35歳10ヶ月の若さで死去し、作曲の道が閉ざされることになりました。当時の時代にしても、あまりにも早い死でした。いったいなにが、死因となったのでしょうか。

この問題は200年以上専門家たちを悩ませ、死の原因は殺人計画からポークカツの生焼きによる感染症、そして単にビタミンD不足などと言われ、100以上の説が生まれました。

なかでも一番よく知られているのは彼の友人や家族によって死がもたらされたとする説ですが、場合によってはそのような説が10年後には矛盾していたということもあります。

モーツァルトは15日間病床に伏しており、さまざまな病状に苦しんでいました。高熱、発疹、多量の発汗、重度の腫れ、手足や背中の痛み、吐き気、嘔吐、下痢が原因で衰弱死したというのが一般説となっています。

義姉でさえ彼が「口の中で死を味わった」と言っていたことを訴えていましたが、誰も検死したわけではないので真実かどうかはわかりません。

彼の死の原因について、主治医は粟粒熱だと話していましたが、粟粒熱は単に通常の熱や発疹から来る感染症を広く指す言葉にすぎません。

また、この早すぎるモーツァルトの死について、ベルリンの新聞は毒殺されたという噂を流しています。

さらに噂はモーツァルトの対立者であるアントニオ・サリエリによる毒殺にまで広がり、事実、彼はモーツァルトを毒殺したと告白しています。

しかしながら、18世紀には、水銀とヒ素は毒殺に使われたものとしては挙げられなかったようです。もしヒ素が使われていたのであれば、モーツァルトは吐き気、嘔吐、下痢にかかり衰弱死したことが考えられるからです。

しかし彼は喉焼けや呼吸困難などの他の症状を患っていたであろうことが考えられ、記録にはないことからヒ素説は否定されています。

そして水銀となると、当時は梅毒治療に使われていたこともあり、症状としては記憶喪失や震え、短期、そして重度の流涎症が発症しますが、殺人毒として使われることは考えにくく、またヒ素同様に記録には残っていないことから水銀説も否定されています。

以上のことから、陰謀説派の理論家には申し訳ないですが、毒殺という舞台劇であるような殺人説はモーツァルトの死因からは除外されます。

むくみに苦しんだモーツァルト

モーツァルトの謎の死に関するもっとも衝撃的な兆候の1つに、むくみがあげられます。ほとんど動けなくなるほど全身が膨れ上がっていたと言われており、それは腎臓に問題があったことを指摘しています。

腎臓は血液を濾過し老廃物を尿として体外へ追い出すよう機能しますが、そこになにかしらの問題があった場合は毒素が体に蓄積しむくみにつながります。そのむくみはまた浮腫としても知られています。さらに腎臓に排泄物が溜まると嘔吐や下痢、そして金属のような味という症状につながります。金属のような味はモーツァルトにとって「死の味」だったことでしょう。

しかしながら、しばし腎臓はその機能が停止するまでには時間がかかり、モーツァルトの死はそれに反して急だったわけです。

ほかの説ではリウマチ熱といった感染症が原因とされています。リウマチ熱とは悪化した連鎖球菌による感染が原因とされており、咽頭炎に続けて発症します。結果的に体の免疫系統が誤作動し、関節と心臓に炎症症状がおこるとされています。そして、こういった症状はモーツァルトが発症したむくみ、発疹、そして高熱の説明につながります。

しかし、リウマチ熱は心臓に疾患のある人々を苦しめますが、モーツァルトは心臓に疾患がなかったものと考えられています。なので、こういった確かな理論があったとしても、いまだにモーツァルトの死は謎とされているのです。

2009年に研究チームはモーツァルトの謎の死のさらなる手がかりを求めて、ウィーンの公式記録を調べあげました。

すると「モーツァルトが死没した年、浮腫のように彼と同じ症状のある人々が急増しており、モーツァルト同様に死を遂げた」とあり、平凡な死因と言われていました。

これらすべてのデータから、研究チームはモーツァルトの死は連鎖球菌による感染と発表しました。リウマチ熱による死の代わりに、感染症の場合は腎臓に深刻な問題を引き起こし、それがむくみの原因となったと考えられます。

もちろんこれらの説が正しいかは分かりませんが、確かな研究チームの入念な調査であるため信憑性は高いと思われます。

いずれにしてももっと医学が進歩すれば、さらなる説が浮かび上がって来るかもしれません。みなさん謎を追求するのは大好きでしょう。