子供を産んでわかったこと

アン・ハサウェイ氏:お言葉ありがとうございます。国際連合事務総長、国際連合副事務総長、国連ウィメン事務局長、そしてすばらしい紳士・淑女のみなさま。

私は、まだ若いときに女優としてのキャリアを歩み始めました。マンハッタンで行われるオーディションに母が車で送っていくことができない時、ニュージャージー州の郊外から電車に乗り、父に会いに行きました。父は職場である法律事務所のデスクを離れ、私たちはペンシルベニア駅のプラットフォームの発着サインの下で待ち合わせしました。そこから一緒に地下鉄に乗り、向かい合って座った時、父がこう尋ねました。

「どっちが北だと思う?」。

私は、最初、北がどちらかうまく見つけることができず、かなりの時間を費やしました。しかし、父は「どっちが北だと思う?」と聞き続けました。そのうちに、北がどちらかわかるようになってきました。

昨日この場を訪れるために飛行機に乗っている間、この思い出が頭に浮かびました。あの時には想像もつかない人生を歩んでいます。それだけではなく、この小さなレッスンがとても意味のあることだったと理解したからです。

まだ幼い時から、父は私の方向感覚を養う訓練をしてくれました。そして、大人になった今では、正しい方向に導く能力には自信があります。父は、私がこの世界において自分で自分の方向性を決めることができるよう自信を与えてくれたのです。

昨年2016年の3月後半、私は人生で初めて子供を授かりました。それは、言葉にすることができない、でも誰もが体験するすばらしい経験でした。生まれたばかりの息子を腕に抱き、そして、私の人生における優先順位が細胞レベルから変わったことをはっきりと認識しました。

そして、意識も大きく変わりました。私の愛するキャリアを維持しつつ、誰かを深い深い愛情をもって育てることができるという確信。子供を持つほかの親と同様に、仕事と親としての新しい役割の間で、どのようにバランスを取ればいいのか悩んでいました。その時、頭にあったのは、アメリカにおける産休取得の制度とその統計でした。アメリカ人女性は、12週間の無給産休取得が権利として与えられています。アメリカ人男性は、どのような権利も与えられていません。

息子が生まれて約1週間経った時、この情報はまったく違って聞こえました。産後1週間、私は歩くのがやっとでした。この情報はまったく違って聞こえるのです。完全に夫と私に依存しなければ生きていけない人間というのがどういうことか理解し、そして、私自身多くのことを夫に頼らなければいけませんでした。それは、家族や夫婦の関係性について、すでに知っていると思っていたことをすべて初めから学び直す経験でした。こうした経験を通すと、この情報はまったく違って聞こえてくるのです。

私たちを含めてアメリカ人の親は、どうにかして3ヶ月以内に日常生活に戻るよう望まれています。でも、収入もなく? 

自分でこう問いかけました。「妊娠における実際の現実は、家庭で養うべき人数が増えるということ。そして、アメリカという国は多くの人がギリギリの給料でその日暮らしをしています。無給休暇が経済的にどうすれば成り立つのでしょうか?」。そして、真実は、多くの人にとって、成り立たないということです。

女性を真に解放するためには、男性を解放しなければいけない

4人に1人のアメリカ人女性が産後2週間で職場に復帰します。なぜならそれ以上休む経済的余裕がないからです。25パーセントのアメリカ人女性です。

12週間の無給休暇をとる余裕がある女性であっても、多くの場合そうはしません。なぜなら、マザーフッド・ペナルティ(妊娠出産に伴って制度上不利になること)を招くことになるからです。マザーフッド・ペナルティとは、妊娠出産を経験した女性が、仕事に割く時間が減るとみなされ、出世やさまざまなキャリアアップの機会を逃すことを意味します。

私の家庭を例にとると、母は仕事か3人の子供の子育てかの選択に迫られました。その選択によって、母は給料も支払われず、感謝もされない主婦にならざるを得ませんでした。ただ、両方を選び取るというのは不可能だったのです。父と一緒に都会に行った時の思い出というのは、私にとってとても思い出深いものでした。父は家庭における唯一の稼ぎ頭でしたので、仕事が優先され、私たち兄弟と父との時間というのはとても限られていました。

とても恵まれた家庭環境でした! 私たちが経験した苦労は、ほかの家族の夢を叶えるためにあったからです。

有給の育児休暇に関して考えれば考えるほど、女性の平等やエンパワーメントに対する障害が存在し続けることと、男性が子守をすることを恥ずかしいと考える風潮の間には、関係性があることがわかってきました。

(会場拍手)

ありがとうございます。つまり、女性を真に解放するためには、男性を解放しなければいけないのです。

女性や女の子が家事や家族の世話をする思い込みや習慣は、大変に根強い固定観念です。これは女性に対する差別であるだけではなく、男性が家族や地域社会と関わり、繋がりを持つことを制限します。このような制限は、非常に広範囲に渡り、男性や子供たちに多大な影響を及ぼします。私たちは誰もがこれを知っているはずです。

それにも関わらず、なぜ私たちは父親の役割を軽視し、母親に過剰に負担を掛けようとするのでしょうか?

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