DMM亀山会長×夏野剛のトランプ論

夏野剛氏(以下、夏野):みなさん、こんにちは。亀山さんはなかなか公衆の面前に出てこられない方ですが、これが実物です。

亀山敬司氏(以下、亀山):こんにちは。実物で~す。

夏野:最近、いろいろな人から「トランプはなんなんだ」って聞かれるんですけど。

亀山:えっ、トランプ問題?(笑)。

夏野:でも、聞いてくる人たちの意見は、だいたい同じでつまらないトランプ評が多いんです。そこでお伺いしたいのですが、亀山流トランプ論というのはありますか?

亀山:亀山流トランプ論ねぇ(笑)。いや~、あれだけ責任ある立場で、あれだけ発言できたら本人は幸せかなって。

だって俺ごときでも、最近は下手なこと言えないというか、広報に「これは言っちゃいけません」とかけっこう怒られるわけよ(笑)。

夏野:DMMの広報は、1回トランプ陣営のところで研修したほうがいいんじゃないですか(笑)。

亀山:そうそう。トランプに比べれば、「いいじゃんこれくらい」って俺も思うんだけどね(笑)。だけど、あれだけ責任ある立場で言いたいこと言って、それでも大統領やれている世の中ってヤバいなと思って。

夏野:僕はトランプさんの話を聞いてると、100年前の大統領がタイムスリップしてきて、1980年代の状況についてコメントしている感じがするんですよ。

なにしろトランプさんって経済理論のすべてを無視して、自分の勘で話をしている感じなんですよね。データも無視なので、メディアが「就任式にオバマさんの半分も人が来ていない」と言ったら「いや、史上最高」だと言う。

それで、あの人(トランプ)が「史上最高だ」と言ったら「史上最高だ!」となる。それって100年前の政治なんですよね。

自分の勘とか自分の見識に基づいて「たぶんこうだろう」ということを政策でやっている。そして言っていることも、80年代に日本の自動車メーカーに押されて、アメリカのビッグ3がぼろぼろになっている時の認識なんですよ。「jobを取り戻せ。jobが盗まれている」という。

ただ、過去20年間のデータを見ると、アメリカの経済成長って名目値で137パーセント成長しているんですよ。日本はマイナス5パーセントなのに。

実質値でもアメリカは60パーセント成長していて、日本は18パーセントって言われている。つまり、「そもそもお前らうまくいってんじゃん!」みたいな。

亀山:いや~、アメリカはぜんぜんうまくいってるよ。

国民の支持を集めた雇用対策

夏野:「jobを取り戻す」とか言ってますけど、失業率も4.3パーセントで、ほとんど完全雇用の状態。

「これから2400万人、10年間で雇用を増やす」とも言ってますけど、これ以上増やすということは失業率がマイナスになります(笑)。でも、彼に言わせると「いや、それは違う」ということらしい。

亀山:ちょっとさぁ、アメリカって大き過ぎてわかりにくいから、「自分の会社だったらどうかな?」って考えたんだけど。

例えば、俺が死んじゃって、次の人を選挙で決めようとなったとする。そこにトランプみたいなリーダーが出てきて、「みんな! 俺が当選したら新卒入れるの止める。俺がお前らの仕事を増やして、給料上げるよ~!」って言ったら、なんか当選しちゃうんじゃないかって。

夏野:喜ぶ。絶対投票するだろうな。

亀山:どこでもそうだと思うんだけど、儲かってる会社の中に民主主義を持ちこんで、今の社員に対して、今いる人たちだけで利益を分けましょうと。

夏野:「外注もしません、内製にします」と。

亀山:そうそう。そう言ったら、みんな賛成すると思わない?

夏野:自分たちの仕事が増えて、みんな給料が上がると思いますからね。

亀山:役員とかエリートは、「そんなことやってたら未来がなくなるよ」って言うんだけど、平社員はその言葉を信用しない。

夏野:すごく、わかります。

亀山:新卒とか外国人とか、採用された若い人が安い給料でよく働くから重宝がられて、自分たちはおいてきぼり。

夏野:しかも後から入ってきた一部の優秀な社員の給料が、すごく上がっていったら、「あいつらばっかり」みたいな。

亀山:これ以上、外から人が入ってほしくないのは、すごい自然なこと。

夏野:自然なことです。ただ、その代わりその会社は将来ヤバいかもしれないと思わないと。

亀山:そうだね。でも「将来ヤバいかも」って考えられるのは、ゆとりのある人。未来に希望を持っている人はそう思うんだ。

でも、自分の給料がずっと伸びなかった人は、そもそも今がヤバいから、今を変えてくれそうな人が良いかなって……。

米国の成長と個人の成長は一致しない

夏野:そうなったんですね、アメリカが。データ的に言うと、給料は額面が2倍くらいになってるんですけど、物価も上がっているから、あんまりメリットを感じていないんでしょうね。

亀山:ほぼ変わっていない、横ばいに感じるよね。

夏野:多くの人たちは横ばいに感じてますね。アメリカ全体では上がってるのに。

亀山:良くなってるのは一部のエリートだけ。極端な金持ちがいっぱいいるからね。

夏野:これは、ものすごくわかりやすい。イギリスのブレグジットも同じですね。

亀山:そうだね。構図的には同じ感じかな。

夏野:新入りが入ってきて、自分が今までやっていたことを代わりにやっちゃうから、「俺の仕事なくなってヤバい」みたいな。

亀山:だから、いくら国が栄えても、会社が成長しても、個人の成長とは必ずしも一致しない。

夏野:確かに一致しない。

亀山:あきらめていた人たちが「トランプは俺たちの気持ちをわかってくれる」って、投票に行くと多数決で勝つからね。そもそもエリートよりそっちのほうが圧倒的に多いんだから。

夏野:いやぁ、めちゃくちゃわかりやすい例えですね。これなら誰でも納得できるし理解もできる!

亀山:ただ、経済は、短期的にだけど、良くなる可能性があるよね。

夏野:そうですね。長期的には悪くなるかもしれないけど、短期的には。GMもフォードも、経営者はみんな、そっちの動きになったほうが良いって考えになっていますよね。

亀山:国境を高くするっていうのは、仕事は増えるから、一時的には良くなる。

夏野:でも、そのぶん、他国からの報復もある。

亀山:そうそう。それは、あとあと跳ね返ってくるんだけど。むしろそれで政府に対する不満が増えてきたら、自分が先に手を上げたくせに「いや、あの国が関税を上げてきたせいだ!」って、トランプが吠えれば、また盛り上がる。

入国拒否に反発してテロが増えたとしても、「締め付けなかったらもっと増えていた」と言えば、もう1つの事実になる。

夏野:まさに仮想敵国理論ですね。

亀山:そう。仮想敵国ができて、国境がどんどんどんどん高くなっていくと、最後は戦争ってかたちで爆発するかもしれないけど、爆発するまでは国民から支持されたりするわけよ。

夏野:そうですね。第二次世界大戦のプロセスなんかもみんなそうですよ。

亀山:うん。だから意外とトランプ人気は下がらない可能性がある。

夏野:ですね。僕もそれは感じています。