「共通の知人が多い人」と知り合うのは良くない

石川善樹氏(以下、石川):だから、人と知り合った時に「いやー、世の中狭いね」「君もあなたも誰々さんの知り合いだったんですか?」みたいな、共通の友達が多い人と知り合っているようでは良くないんですね。「世間は狭いね」というんですけど、違うんですよ。自ら狭い世間に飛び込んでいるんですよ。

仲山:「Facebookで流れてくるフィードだけ見ていたら、世の中の意見はこっち側だけど、テレビで見ると逆だ」みたいなことありますもんね。

石川:そうですね。だから、共通の知人が1人もいないような、そういう人とどんどん知り合っていくと、新しいアイデアが入ってくるんです。「あー、世間せまいねー」みたいな人とこうブワーッとやっていても、楽しいですけど、新しいアイデアは入ってきにくいですよね。

あと、最近聞いた話でおもしろかったのが、僕には役者の友達がいるんですが。彼は小さいころに能や狂言の子役をやっていたんですよ。能や狂言はどうやって教育を受けるのか、興味があって聞いたら、日本の伝統芸能は師匠が2人つくんですよ、最初から。

仲山:2人?

石川:最初から師匠が2人ついて、1人は父親、もう1人はおじいちゃん。それも、父親とおじいちゃんで言うことがぜんぜん違うらしいんですよ。その矛盾を自分の中で解消していくのが、子役の時期。

仲山:別におじいちゃんの役割とお父さんの役割みたいなことではなく、普通にそれぞれプロの役者として自分の思っていることに違いがある?

石川:結局は同じこと言ってるんですけど、表面上は違うように聞こえたり。後はムチとアメですね。お父さんはムチでビシビシビシッと。でも、おじいちゃんはかわいがるというのがあって。重要だなと思ったのは、人の脳は混乱した時に一番働くんです。例えば、直属の上司からも社長からも同じ命令が下りてくると、脳は停止状態になってくる。

仲山:考えなくてもやれますもんね。

石川:そうそう。でも「上司からこう言われたんだけど、もっと上からはぜんぜん違うこと振ってきたぞ」みたいな。そっちのほうが、脳としてはけっこういいんだろうなと思って(笑)。

仲山:僕、最初に入った会社で係長から言われて書類を作って持っていくと「ここはたぶんこう直されるから、こう直して」と言われて、直すじゃないですか。それを係長と一緒に課長のところへ持っていくと、「これじゃダメだろ、こう直せ」と言われて、最初に戻るんですよ。それをもう1個上の部長のところへ持っていくと、係長が直せと言われたように直されるという体験をして(笑)。

新人研修の時に「2階層上から考えましょう」と習ったんです。それがけっこう忠実に実行されていて「わけわかんないな」と思って。

石川:(笑)。

仲山:そこから「会社って、変なの」と思った記憶があります。逆にいうと、人によってこんなに言うことが違うのは、両方間違っていないという考え方をせざるを得なくなります。「こういう視点を見てるとこうなって、こういう視点を入れるとこっち側になるのか」みたいな。

カオスを取り入れた最新トレーニング

石川:スポーツの世界では、まさに今の話で。この本を監修された中竹(竜二)さんが言ってたんですけど、ラグビーのジョーンズさんという監督は、あえて理不尽に振り回すんですよ。例えば、みんなが「よーし、今日はすごい練習したなー」と満足している時に「今日の練習はぜんぜんダメだった」とか。なんか、カオスを放り込んでくるんですよね。

なぜかというと、そもそもラグビーはものすごいカオスな競技らしいんですね。審判のさじ加減でファールになる・ならないがあったりする。日本という国はそういう意味では、非常にカオスが少ない国に映るんですね。電車は時間通りにやってくるし、暑かったらエアコンのリモコンをピッとやれば涼しくなるじゃないですか。

非常にカオスが少ない……、人生や世の中はコントロール可能であるという価値観が、無意識で染み付いているのが日本人。でも、それは逆にいうと、突然、変化球や予期しないことが起こると、対応しにくいことでもあるらしいんですね。ラグビーはそういう意味でいうと、本当にカオスのゲームです。日本人が活躍する競技は、だいたい練習と本番で同じ動きをする競技が多いんですよ。フィギュアスケートとか鉄棒、体操とか。

仲山:僕、それを対戦型と演技型と呼んでいるんです。演技型は自分で練習したやつを本番でする。体操、後はフィギュアスケートとかですね。対戦型は野球、サッカー、バレーボールなど。

石川:対戦型はカオスが多いじゃないですか。

仲山:相撲や将棋とか、力をこう打ち消し合うみたいな。

石川:だから、そういう意味でいうと、野球はまだカオスが少ないですよね。でも、ラグビーやサッカーみたいにワーッとなるのはカオスが多い。日本人が本当に苦手なものは、逆にブラジルとか、電車が来ないことが前提の国は慣れているんですよ。

仲山:わかる。あるサッカーの映画で、10人のフットボーラーを追った映画があって。そこに出てくるシーンで、シュートを打とうとしているところにイレギュラーをした。そのまま足を振るととんでもないところに飛んでいきそうなんだけど、その人は自然な感じでフワッという蹴り方に変えて、空振りもすることなく蹴ったんです。要は、イレギュラーをしても体がそれは想定内という動きを自然にしてシュートを決めてたシーンがあって。まさに電車が遅れるの当たり前、イレギュラーするのは当たり前みたいな。そういうことですよね、今の。

石川:たぶんこういうセッションとかでも、構想化された、統率されたものになりすぎるとカオスが少ない。でも、今日みたいにかなりイレギュラーなセッションだと。

仲山:だいぶカオスな感じですよね。

石川:「ん?」と思う人もだいぶいると思うんですよ、脳が慣れてないと(笑)。先ほど学長がおっしゃった、「その上司とそのさらに上の上司によって言うことが違う」は、ある意味、カオスの状況です。

仲山:カオスでしたね。

石川:そういう状況を経験すればするほど、人は慣れるんですよね。

まとめると、スポーツの世界では昔は「こういう状況ならこうしなさい」という練習をたくさんやったんですよ。最近はそうじゃなくて、「こういう状況でこういうカオスが入ると、さてどうなるでしょう?」と、トレーニングは進化してきていると言ってましたね。

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