ゴダールの影響力

乙君氏(以下、乙君):だから、玲司さんの文脈でいうと、この50年代・60年代以前は、麻酔コンテンツだったと。その反動で覚醒コンテンツに?

山田玲司氏(以下、山田):そうそう。ここで、もうまさに覚醒的なものが現れはじめて。これの残像を、俺、80年代に食らうわけだよ。

乙君:残像を食らう?

山田:だから、俺がゴダールを観たのが80年代だったので、もうアーカイブだよね。昔のものなんだけど、その頃は思春期真っ只中で、19歳とかだから、「やっべー、ゴダール。こんなやついたんだ!」なんつって。いまだにそういう力を持ってるのがこの頃の作品だよねっていうね。

久世孝臣氏(以下、久世):僕、90年代後半にその残像受けてます(笑)。

山田:だから、時を越えて殴ってくるのがゴダールなので、気をつけてください。

久世:そうそう。本当に(笑)。

山田:本当に油断してるとジャンは殴ってくるから(笑)。

乙君:俺、一生縁ないと思うけど。彼とは。

久世:お前はたぶん縁ない。殴られることはないかな。

山田:例えば、ピカソの絵がずっと映ってて、セリフがずっと聞こえてるの。「なにかな?」と思ったら、ゆっくりカメラが下に行くと、下に女がいてしゃべってるとか。「なんでピカソ映してんだよ」って。でも、意味があるかもしんないじゃん。

乙君:でも、ないんでしょ?

山田:そう。ないのかもしれないんだよ。あるのかもしれないし、ないのかもしれない。

乙君:「それはあなた次第です」と。

山田:量子論的な感じだよね(笑)。

乙君:腹立つわ。そういうのが一番腹立つんだよ(笑)。

久世:ええやん(笑)。

乙君:「こっち、金払っとんねん!」と。

山田:シュレーディンガー的なやつ?(笑)。でも、違うんだよ。お前の大好きなエヴァンゲリオンはまさにここから来てるんだって。

久世:そうだよ。押井も近いところあるんだよ。文学的な台詞回しとか、そういうの。

山田:押井もここなの。みんなここにやられてるの。この第3の革命にやられてる。

久世:さすがにゴダール先生のお願いを断ることができなかったのか、なぜかわからないけど、ゴダールの映画にウディ・アレンも出てたりするからね。

乙君:えっ?

久世:出てますよ。

山田:呼ばれたら、行かなきゃいけない。

久世:呼ばれたら、行かなきゃいけない(笑)。

乙君:ゴッドファーザーみたいな感じなんだ。

山田:ゴッドファーザーは別にいるんだけどね。このあたりで。

久世:(笑)。

パニック映画の革命

山田:ゴッドファーザーの流れもあります。コッポラいます。コッポラは出てくるんだけど、そのあと次の革命に出てきます。

乙君:えっ!

山田:そう。(時間を確認して)48分。

久世:いい調子じゃないですか。

山田:これけっこう普通にやれちゃうかもしれないね。そしたら、じゃあこのままの流れで、おそろしいことがこのあと77年に起こります。

久世:恐ろしいことが(笑)。

乙君:けっこう飛ばしますね。

山田:いや、実はこの間にあるのがパニック映画です。

乙君:パニック映画?

山田:うん。パニックものといって、『タワーリング・インフェルノ』とか『ポセイドン・アドベンチャー』とか。

乙君:しみちゃん好きだよね。

しみちゃん:俺の誕生日。

山田:この頃ってベトナム戦争の傷がちょっと癒えてなくて……。

乙君:誕生日?

しみちゃん:77年。

乙君:えっ、77年生まれ?

しみちゃん:はい。

山田:……聞いてた?

乙君:誕生したって。

久世:じゃあ、しみちゃん誕生が革命(笑)。

山田:革命の時にしみちゃんが生まれますか。

乙君:おお、すごい。よかったね!

しみちゃん:(笑)。

ベトナム戦争と映画史

山田:このあたりまで実は、パニック映画ってなんでこんなに流行ったかというと、世の中がめちゃめちゃ不安だったんだよね。ベトナム戦争は長引くし。要はアメリカっていうものが負けちゃったんだよ。一度も負けたことなかったのに……。

乙君:だから、冷戦体制のなかで、ベトナムで痛い目に遭い……。

山田:そう。勝てると思ったら勝てなくて。それで、しかもそれが正しい戦争じゃなかったんじゃないかということになると、「俺たち、なんのために戦ってたんだ?」ってことになって、振り返って自己否定が起こるわけだよ。そこで「俺たちに明日はない」みたいなことを言い出す。

久世:パニック映画のとこあたりに『ゾンビ』も入ってきますよね。ベトナムの反戦映画とか、そのあたり。

山田:このあたり。そうそう。このあたりはもうとにかく残酷ものが多い。『映画秘宝』的。『映画秘宝』が一番好きなのがこのへん。映画秘宝ゾーン。

(一同笑)

山田:だから、カニバリズムとか、残酷ドキュメントとか。

乙君:じゃあ、こっち(ヌーヴェルヴァーグを指して)は『ユリイカ』で……みたいなこと?

山田:だから、ここ『ユリイカ』大好きな……。

久世:ユリイカ大好きゾーン。

乙君:棲み分けできてるんだ。

山田:できてる。

久世:『ゾンビ』ってベトナムの反戦映画だから。

乙君:あ、そうなの?

久世:そうそう。あれ反戦映画なの。

山田:(映画の初期を指して)このへんはね、『デアゴスティーニ』。

乙君:そのへん『デアゴスティーニ』か(笑)。

久世:『デアゴスティーニ』、確かに(笑)。

山田:そうでしょ。

久世:毎月送られてくるよ。これ。「月刊初期映画」って毎月送られてくるやつだから。

山田:そういうやつあったね。

久世:ありました。

山田:だって、(40年代あたりを指して)このへんあれだもん、マリリン・モンローとかオードリー・ヘップバーンとかもいるからね。このへんに。

乙君:そっか。そのへんぜんぜん出てないですね。

山田:というか、キリがないんだよ。だから、2時間で終わらせるなんてまず無理なんだよ。基本的に。無理なの。だから、今日はあくまでもざっくりといってるの。それから、革命に絞ってやる。

乙君:今年1年かけて、1個ずつトピックをピックアップしてやっていくって感じでいきますかね。

山田:まあ、そうね。そうやってみんなの戦闘力を徐々に上げていこうと思って。脳モテになってもらいたい。

乙君:脳モテのね。あくまでも知識の話じゃなくて、モテるためっていうことですから。

山田:そうですよ。なに言ってるの?(笑)。

(一同笑)

乙君:ただ、スノッブになるだけじゃないよね。

山田:スノッブなんか一番なっちゃいけないやつだから。

乙君:「スノッブにはなるな」と。「モテるためにやってんだ俺たちは」と。

山田:そうそう。ここまで全部わかってると、出てくる言葉がさらっとさり気なくなるわけよ。隠し味的になるわけ。

乙君:「どっからでも来いよ」みたいなね。

山田:でも、なにも知らなかったら、もうその時の知識でいくから、必死感が出ちゃう。しゃべりすぎちゃう。

乙君:そこしか知らないもんね。パニック映画しか知らないみたいな。

山田:基本はしゃべらせることですから。彼女に8しゃべらせて……。

乙君:「じゃあ、そういう映画が好きなら、これも見たほうがいいよ」とかね。

山田:そう。1か2ぐらいの、関連でポーンみたいな。

乙君:なるほどね。

久世:関連。Amazonみたいな感じでね(笑)。

山田:そうそう。