ゴダールの登場
山田玲司氏(以下、山田):で、ここからまたおもしろいんだけど、ここからまた第2の革命なんだけど、これがいわゆるあれですよ。ゴダール君登場ですね。
久世孝臣氏(以下、久世):あ、ゴダール君(笑)。
山田:要するに、この流れ(映画史)をずっと見てたオタク野郎がいたんだよ。評論家なんだよ。「俺じゃやんねえよ」「俺、あんなことやんねーよ」とか言ってたおフランスのオタク野郎。
乙君氏(以下、乙君):「なにか違うな」と。
山田:そのおフランスのオタク野郎が、ジャン=リュック・ゴダールです。ジャン=リュック・ゴダール以外にも、その流れを作る人で有名な人だと、やっぱりトリュフォー。フランソワ・トリュフォーというのがいて。『大人は判ってくれない』という映画があって。これがまあ……。
乙君:それなに人なの? トリュフォーは?
山田:あ、フランス人。
乙君:やっぱフランス?
山田:おフランスなんだけど、この「大人、死ね」というね。
(一同笑)
久世:大人絶滅(笑)。
山田:『大人は判ってくれない』、これがおもしろいことに、この大作作ってる世代の大人にかかってる。「大人」は。
乙君:ああ、なるほど。
山田:映画はそんなことは言ってないんだけど、実際に皮肉にもそういうことになっていく。要するに、小規模で個人的な問題を扱う映画に、一気にここに出てくるという革命が起こるんだよ。
乙君:パンクってことですね? これは。
山田:一種のパンク。そう。
乙君:だから、ハードロックがでかくなりすぎちゃって……ということでしょ? ロック史でいうと。
山田:そうそう。音楽でいったら、もうまさにそう。パンク登場だね。T・レックス。だから、ピストルズだね。ピストルズはゴダールかもしれないね。だから、ここで……。
久世:新感覚派とかそんな感じだよ。文学だと。
山田:そうそう。まあそうだね。
久世:いやか。
乙君:いや、わかるよ。川端ね。
「ヌーヴェルヴァーグ」とはなにか?
山田:ここがいわゆる……これ、「新しい波」って意味なんだけど。ヌーヴェルヴァーグって。
乙君:出た出た。ヌーヴェルヴァーグ出ましたよ!
山田:ヌーヴェルヴァーグなの。
乙君:なんかスイーツのあれかと。「ヌーヴェルヴァーグ食べる?」みたいな(笑)。
山田:この流れは理解しててほしいんだけど、これ、要するに団塊世代の革命の失敗に一緒にかかってる。ヌーヴェルヴァーグというのは、革命をやろうと。映画で革命を。これ、日本だと「演劇で革命を」って、松竹ヌーヴェルヴァーグもあるんだよ。アメリカになってニューシネマになるわけ。『俺たちに明日はない』になるという。
要するに、この頃って戦後生まれが映画撮りだすんだよ。このへんまでは、前は戦争を知ってる世代。
乙君:ああ、なるほどね。
山田:ここはクローンウォーズなの。
乙君:クローン……(笑)。例えがもういっぱいあるからもう(笑)。
久世:おもしろい(笑)。
乙君:リテラシーが。
山田:ダース・ベイダー……ルーク登場なの。ここで。
乙君:ルーク登場なんだ!?
山田:ルーク登場するわけだよ。それがヌーヴェルヴァーグなんだよ。だから、日本だと全共闘なんですけど。大島渚になったり。
乙君:ああ、大島渚なんだ。この世代が。
山田:それで、これがニューシネマと、あと日本だとATG。アート・シアター・ギルドになるという。
これってなにかというと、ひと言で言って、「大人、ファック!」を言ってたの。その前の時代がやってたのは全部ダセーよと。
とくにゴダールがわかりやすかったのが、『勝手にしやがれ』のカメラの使い方。それまでは厳重な、三脚とか四脚とかいろんなものに乗っかってレールの上を行くとか、そうやってやってたのに、ハンディだからね。これいきなり。ハンディなかったんだよ。
だから、恋人たちがベッドでキャッキャやってるシーンで、監督もカメラ持って入っちゃうみたいなことをゴダールさんが始めるんだよ。それが一気にカジュアル化というか。そういう革命だったの。これが。
乙君:え、だからその、機材の問題ってこと?
山田:撮り方もそうだし、それから……。
乙君:手で持って、こうやって行く……。
山田:だけではないんだよ。だけど、それも手法のなかに入れてる。あとは、この人は『気狂いピエロ』っていう映画がわりと頂点とされてるんだけど、モンタージュのやり方も斬新だったんだよね。
久世:ああ、そうだよね。
山田:脈絡のないカットをあえて挟んで、意味がわからなくする、みたいな。
久世:「勝手に意味を見つけてちょうだい!」っていう。
山田:そうそう。
ヌーヴェルヴァーグからニューシネマへ
乙君:ああ、なるほどね。
久世:この人が言ってたのですごいのは、この人だから言えるんだけど……。
乙君:この人って誰?
山田:ゴダール先生。
久世:ゴダール先生は「つながらない2つのカットはない」みたいなこと言ってた。こっちから見てると、つながってないと意味がわからないんだけど、「つながらないカットはない」って言ってるよ。
乙君:久世が朝ごはん食べてるシーンの次に、なんか戦争の絵が出て……。
久世:それだとまだわかりやすいけど、そういうのをもっとぐちゃぐちゃの連続でやっていって。
山田:そこに詩が入ったり、いろんな要素が。音楽もわけのわからないのが入ったりとか。
乙君:だから、実験的な……。
山田:まあ、言ってみれば、実験を商業映画でやったとも言えるんだけど。
乙君:寺山(修司)もこの?
山田:そう。もちろん。寺山も。寺山もこの流れにつながる60年代の人だね。
乙君:なるほどねぇ。
山田:だから、ここで若者たちが革命を起こそうと思ったというのがものすごく大きくて。まあ、大人に対する怒りが溜まってたんだね。それが映画の技法というもので昇華する。それがなんと、アメリカが先じゃなくて、おフランスが先にやっちゃった。あとになって追っかけたのがニューシネマ。『イージー・ライダー』とか。
乙君:おお、来たー。やっと観たことあるやつ来た(笑)。
山田:『イージー・ライダー』とか、サム・ペキンパーとかね。
久世:あ、サム・ペキンパーね。
乙君:サモ・ハン?
久世:サモ・ハン・キンポーちゃうわ!
(一同笑)
久世:ペキンパーや!
山田:だから、暴力描写みたいなものが、「いけるとこまでいっちまえ!」というのが、60年代・70年代に始まるんだけど。
乙君:エログロ。
山田:ペキンパーはスローモーションだね。
久世:『ガルシアの首』とかでしょ?
山田:『ガルシアの首』とか
久世:『わらの犬』も違ったっけ?
山田:かな。そうだね。要は暴力の撮り方みたいなものが、ここで一気に劇的に変わっていくというのが。あと、ハッピーエンドじゃないんだよね。バッドエンドが多い。とにかく最後死ぬんだよ(笑)。
だから、ATGがすごくつらいのは、本当につらいんだよ。バッドエンドが多いんだよ。そのバッドエンドというのが、大人が虚飾をもって、その……意識高い系みたいな。
乙君:「いいことばっか言ってんじゃねえよ!」みたいな。
山田:いいこと言ってるっていうんじゃなくて、若者が来たときに「うるせーよ。人は死ぬんだよ!」って言っちゃいたい若い気持ちみたいな。大人たちは死を知ってるから、「映画までそんなの見たくないぜ」っていう。この世代。
乙君:なるほどね。「せめて漫画ぐらいは楽しませてくれよ」みたいな感じの。
山田:そうそう。だけど、「甘っちょろいこと言ってんじゃねえよ!」って、甘っちょろく育てられた若者が(笑)。
(一同笑)