「問題がない会社」はない

小池温男氏(以下、小池):ちなみにそこは「もう辞めてくれ」という話をするのか、 それともポジションを落としたりするのですか?

森川亮氏(以下、森川):組織ぐるみとして、なるべくポジションが変わるという文化を事前に作るというのが大事ですね。なので、当時から上下関係を入れ替えるのをしょっちゅうやってたんですよ。

例えば、部長がいてマネージャーがいた時。マネージャーが部長になって、部長がマネージャーになったりを繰り返して、「なぜそうなるか」を社員に伝えることによって、「変わることは当たり前なんだな」をちゃんと植えつけてたんですよね。そうすることによって、単純に入れ替わってから辞めるとか、働く気がなくなるということが起こらなくなりましたね。

小池:そうなんですね。ありがとうございます。では次に、社員さんからの文句や不満など多くあったかと思いますが、その際の対応はどうされていたかうかがわせてください。

森川:私も社長になりたてのころは、会社を改善したいなと。

会社はいつも問題があるんですよね。やっぱり自分がリーダーになると、その問題を解決したいなと思うわけです。全社員にインタビューをしたりとかリサーチしたりして問題が上がってくると、その問題を解決しようとやってたんですけど。だんだんやってるうちに、「これ、いつまで経っても終わんないな」と思ったんですよ。

なぜかというと、「問題がない会社」はない。問題解決も大事なんですけど、もっと大事なのはいいところを伸ばすことなんですよね。(問題といいところは)けっこう裏表だったりして。

例えば、営業目標が仮にあったとして。目標がキツすぎるという課題があったとして、もちろん目標を下げたほうが社員は幸せなんですけど、そうなると会社は成長しないとか。問題の裏側にどうしてもやらなきゃいけないことがあったりする。

もちろん改善しなきゃいけない問題はあると思うんですけど、問題を解決することに時間をとられると、けっこう無駄なことが多いし。問題好きな人は必ずいるんですよね、社員に。年がら年中問題だけ言ってる人がいて。

その人ばっかり毎日問題を提案し続けて、それに振り回されちゃったりするとみんな疲れちゃったりすると思うので、ある程度は割り切ることが必要かなと思いましたね。

会社にはハングリーな状態が必要

小池:ありがとうございます。では次に、なにかに掲載されていた森川さんのインタビューで、福利厚生を充実させたという話を読んだ記憶があります。

福利厚生を充実させる理由としては、社員の方のモチベーションを上げたり、いい会社だと思って頑張ってもらうためにされていたと思うのですが、結果、充実させるほどに成長は鈍化したという内容でした。それについて教えていただいてもよろしいですか?

森川:これは程度問題だと思うんですけどね。人間はやっぱり幸せになればなるほど仕事をしなくなるというところが、やっぱりあるのかなと思ってまして。

例えば、おいしいものばっかり食べると太っちゃうように、ある程度ハングリーな状態がすごく会社には重要なのかなと思うんですよね。一時期、僕も勘違いしてまして。いろんな福利厚生をやったりとか、社員向けにおやつをいっぱい出したりとか。

そういうのをしてたら、みなさんすごく幸せになったんですね。みんな結婚して子供を作って、あまり仕事をしなくなったということがありました(笑)。まあもちろん、それでも実績が出ればいいんですけど、そんなに甘くなくて。

ITの領域というのは昼ランチも早く食べて仕事するみたいな、そういうスピードが命ですから。ある程度は緊張感を保つために足りない状態を作るということは、けっこう会社には重要かなと思いますね。

それはたぶん、いろんなかたちで足りなさを作るということだと思うんですけど。とにかくすべて満ち足りた環境にいると、人はやっぱり堕落してしまうので。いかに目指すものが常にあって、そこにみんなで向かえるかみたいな環境がすごく大事だなと思いますね。

小池:ちなみに僕は、この記事を見た時に、まさに福利厚生を充実させようとやってる最中でしたので、すごく考えさせられるものがありました。

過去の実績は変化にブレーキをかける

では、次の質問に移ります。こちらもとある記事で見たお話ですが、全社員の給料をリセットされたという内容でした。給料リセットの意図と、どのようにされたのかをうかがわせてください。

森川:「給料とはなんだろう?」と考えたんですよね。給料というのはある意味、労働に対する対価だと思うんですよ。

「じゃあ、労働とはなにか?」と考えた時に、単純に我々みたいなITの産業にいる人というのは1時間、2時間、3時間働くことが大事なんじゃなくて、やっぱりイノベーションを起こし続けなきゃいけないんですよね。

そうすると、いわゆる時給換算できるような労働に満足してる人だと、付加価値は生み出せないですよね。そういう仕事はむしろ日本でやるべきじゃなくて……ITの領域で、ですよ。本当にやらなきゃいけないのは、ひらめきとかクリエイティブなアイデアなんですよね。そういうものを生み出す人により配分をしたいなと思ったんですよ。

やっぱり変化が早い時代ほど過去の成功事例とか、これまでやってきたことが生かされない場合が多くて。

多くの会社というのは、過去に実績を出した人に給料をあげてるじゃないですか。その結果なにが起こるかというと、変化が早い時代というのは、そういう人はむしろ変化にブレーキをかける存在になるんですよね。変化にブレーキをかけて給料が高い、そんな会社に優秀な人はいたいわけないじゃないですか。

なので、それを入れ替えていったんリセットして、過去の実績は過去の実績として置いといて、現在価値と未来価値に注目して、そこが高まる人に給料配分を変えたということですね。

これ、投資の概念と一緒ですよね。投資も、過去の実績よりは未来価値に投資をするじゃないですか。なので、当然人材もそうあるべきだろうと考えて、未来価値を算定して給料を増やしたり減らしたりしたという感じですね。

小池:具体的に給料を減らすとは、高い人が安くなるということですか?

森川:そうですね、単純に考えると。トータルの財源は決まってますから、それの配分の仕方を変えたということですね。

小池:労働基準法的には大丈夫なんですか?

森川:そういう問題があったんで、一気に下げずに段階的に下げたんですけど。ただ「下げますよ」ということは、まず言うんですよね、「いつまでに」と。ただ「そこまでにその人の価値が高まれば、そうしたら下げません」という話でやってましたね。

小池:「このままだと下げますよ」と伝えるのですか?

森川:そうです。明確に数値化して表して、コミュニケーションをとってましたね。

C Channelには定期昇給がない

小池:そうなんですね。ありがとうございます。次ですが、トークノートも同様に取締役会で月に1回お話させていただいてる時に、C Channelは昇給がないとうかがったのですが、今現状いかがですか?

森川:定期昇給というのはないですね。よければ上がるし、よくなければ下がるというところですね。

小池:その意図はなんでしょうか? 100人近く社員の方がいると、誰をどう上げるのかというルールがないと「いつ僕の給料が上がるんですか?」という話になったりしますよね。

また、上げると決めたとしても「いくら、どういう基準で上げるのか?」など、一人ひとり考えなければいけないのですごく大変だと思います。なぜあえて今、ルールを作らずにやられてるのですか?

森川:あくまで僕の考えなんですけど、業界によって違うと思うんですね。僕が考えるIT業界というのは、まさにルールがない業界だと思っておりまして。ルールがあると思うような人がいると、むしろ仕事はうまくいかないのかなと思ってるんですよね。

ルールがなくても働ける人じゃないとこの業界で勝てないと思っているので、あまりルールに縛られる人とかルールが好きな人が入らないように、あえてルールを作ってないというところがありますね。

小池:ちなみに何人くらいまで、この仕組みがない状態でいかれるのですか?

森川:できるだけがんばっていきたいなと思っております。

小池:そうなんですね。ちなみに、社員から「いつ僕の給料が上がるんですか?」「上げてください」等のお話はこないのですか?

森川:そう言われたら、「実績が出たら上げます」と答えるんですね。実際に出た人は上げてますね。実績が出てない人は上げてませんし、実績が下がったという人は下げたりとかしてますね。

小池:上げるも下げるもその都度、見つけ次第対応している形式ですか? 

森川:その時々の状況によって変化するということですね。たぶんビジネスもそうかなと思ってまして、常に変化をしているので。もちろん計画的にやってうまくいく場合もありますけど、ほとんど計画通りいかないですよね。

そうなると、計画にこだわる人が多い組織ほど変化に弱くなっちゃうんですよね。変化が早い業界ほど、なるべく計画とかルールを立てずに、状況に合わせて変化できる組織を作ったほうがうまくいくんじゃないかなと思いますね。

ダメなところを正確に言うことが一番の愛情

小池:ちなみに、森川さんの側近の、直接マネジメントしている方については「どのくらい売ったのか?」など、仕事の成果を見やすいと思うんですね。

しかし、直接マネジメントしていない方は、仕事の成果が見えづらいと思うのですが。そういった方の昇給とか減給というのは、部長などそういった方が決められるのですか?

森川:一緒に決めますね。ある程度チームなりプロジェクトがあって、その結果は数字で出ますよね。そうすると、そのなかで誰がどういう役割をしているのかによって、評価というものは必然的にされるのかなと思うんで。それに合わせてというところかなと思うんですけど。

ただ、前職の場合は一応評価制度というのがありまして。その評価制度は360度評価で、プロジェクトごとにその人がいなきゃいけない人なのか・いなくてもいい人なのか、2択なんですよね。みんなが「いなくてもいい」となると、評価は厳しい評価になるということですね。

小池:自分の評価もわかるのですか? 何人中何人が「いなくてもいい」と言っていますと。

森川:そうですね。

小池:すごいシビアですね!

森川:世の中というのは厳しいものですからね。誰からも「いなくてもいい」と言われる仕事の仕方をしてたら、それは率直に言ってあげないと、その人は遠い将来仕事を失うと思いますよ。僕は、ダメなところを正確に言うことが一番の愛情じゃないかなと思いますね。

小池:では、LINEでその評価を受けられていた方々は、何人中何人に「いらない」と言われてるか、ということがわかるのですね。

森川:そうですね。今は変わったりしてるかもしれないですけど。当時はそういうかたちでしたね。それをマネージャーが率直に伝えると。

小池:「何人中何人、『お前いらない』と言ってるよ」と。すごいシビアですね。

森川:いらないというか、「いなくてもいい」ね(笑)。「いらない」と言うと本当に問題なんですけど(笑)。「いらない」と言うと、今度は困るんですけど(笑)。いなくても大丈夫ということですね。

裏方はいなくちゃダメ、スターはいなくてもいい

小池:逆に、1人にも「いなくても大丈夫」と思われてない人は、おそらく少ないのではないですか?

森川:けっこう、これはいいところもあるんです。例えば、営業だと数字わかりやすいんですけど、そういう前線の人を支援する人は数字に出にくいじゃないですか。チームがあって、スタープレイヤーがいて、裏方がいて。実は裏方はいなくちゃダメで、スターはいなくてもいいという場合もけっこうあったりするんですよ。

小池:そうなのですか?

森川:はい。手柄をその人が……。例えば、さっき話した偉そうな役員とかで、一見その人がやってるように見せつつ、実は裏側ががんばってるからその人が実績出てるみたいな場合には、はっきり評価が出るんですよね、それで。

そうすると、そのスターがいなくなってもよかったりする。そういうのを見極める意味でも、そういう厳しさというのは非常に有効ですね。

小池:役員の方もされますか?

森川:そうですね。全員、私も。

小池:そうなんですね。ちなみに、何人に評価されるのでしょうか?

森川:だいたい自分で5人くらい選ぶんですよね。自分で選んだ5人から「いなくても大丈夫」と言われたら、それはもう行き場所がないですよね(笑)。それはまさに正確な判断だと思いますね。

ただ気をつけなきゃいけないのが、全員がそういう組織の場合は足の引っ張り合いがありますから(笑)。ある程度は、仕事ができる人の集まりであるという前提に立ってるということですね。