ある日突然やってくる税務調査

主藤:そもそも、今お話があったように「税務調査怖い」もしくは「税務署怖い」っていうのは強いですね、私たち。

松嶋:強いですね。

主藤:私自身も税務調査に入られたことも当然あって、かれこれ15年近く経営者やってますから。税務調査のみならず、反面調査が突然やってきてですね……。

松嶋:来ますね(笑)。

主藤:あれはどうしたもんかと思ってですね。反面調査ですから別に事実を話せばいいんですけども、突然来ることが多くて。

松嶋:ですね。

主藤:突然来ますよね? ですから会社の従業員がびっくりするわけですよ。「社長、何してるんですか?」って(笑)。事前にアポを取らずに突然来るっていうのは普通なんですか? 税務調査じゃなくて反面調査では。

松嶋:あれはちょっと非常に曖昧な世界なんですよね。まぁ、税務署、国税庁なりが指示文書を出してまして、反面調査の場合も一応予告はしますと書いてありますけど、私が現場にいた時は、「反面調査は予告しない」って言われてたんですね。だから現場と上層部がすごい乖離していて、実際のところは主藤さんがおっしゃったような形で、予告をしないケースが多いと思いますね。

主藤:なるほど。反面調査っていうものは簡単にお話ししますと、ある会社に税務調査が入った時に、その中で出てきたある取引なり領収書なりが本当に正しいものかどうかっていうのを、税務調査に入った会社ではなく、その取引先に裏付けとして調査に行くっていうこと。そういう認識でよろしいですかね?

松嶋:それが反面調査ですね。

主藤:ですから逆に言うと、私のところに反面調査が来たということは、私が知っている会社に税務調査が入っているって言うことですね。その取引が正しいのかどうか。私の記憶にある限り3回来てるんですね。

松嶋:そんなに多いんですか(笑)。多いですね、それは。

主藤:反面が3回ですからね。税務調査じゃなくて。多いなと思ってたんですけど。

松嶋:多いですね。

主藤:いちばん最初は25歳ぐらいの時に、反面調査が来まして。引っ越しの領収書を税務署が持ってきて「主藤さん、これはちゃんと払われたんですか?」って(笑)。その引越会社に(税務調査が)入ってたってことになるんですよね。私はそれが初めて税務署の方とお話をした経験で、反面調査って知りませんから、それが税務調査だと思って。私は24歳で独立しましたから、開業してまだ1年目で。

松嶋:早いですね、それは。

主藤:とんでもないことが起こったと(笑)。

松嶋:(笑)。

税務署の要求を逆手に取った交渉法

主藤:そのくらいやっぱり税務署っていうのは怖い印象があります。でも、実はそんなに怖くない?

松嶋:怖くはないですね。職員の方って非常に甘い考えをする方が多いので、基本的にやっぱり強硬的なことはできないようになってますから。中には強硬な人もいますしゼロではないですけど、真摯に対応すれば非常に優しいですよね、税務署の人間も。

主藤:私の経験を踏まえてこの本のテーマに近いお話をしていこうかと思うんですけど、今度は普通に税務調査が入るわけですね。2回めかなぁ。この本にも書いてあるんですけど、「プライベートの方を見せてくれ」と。そういう話に及んじゃうわけですよね。まぁ、交渉テクニックの1つだとしても、それはもう無視してよかったもんですかね? 私は無視せずに、ちゃんと応対しちゃったんですけれども。

松嶋:私物は基本的には見れないですからね。

主藤:見れない?

松嶋:見れないです。あくまで協力のもとに見せてくださいっていう世界ですから。それは見れないので、断っても大丈夫ですね。

主藤:その時は、さすがに断れなかったですね。35、6歳だったんですけど、やっぱりまだ怖くてですね。

松嶋:怖いですよねぇ。

主藤:パソコンを見せてくれとか、個人のものを見せてくれ、それから個人の預金残高。

松嶋:見ますよね、それ。

主藤:見るんですか? しかも銀行だけじゃなく、証券会社も含め。

松嶋:やっぱりプライベートのところに事業のお金を流しているとか、不正なお金を流してる方が多いですから、税務署はそこを見てるんですよね。

主藤:なるほど。でもそれは見たいけど、そこは法人の税務調査で来ているわけですから本当はそれはやっちゃいけないこと?

松嶋:やっちゃいけないことですね。

主藤:素直に応じたんですけど、さすがにそれはいかがなものかと思いましたので、その時一緒にやっていた税理士さんとは「見せて、何もなかったらもう終わりにしますか?」っていうことを先に言質を取ってからお見せしたんですけど、それはよかったもんですかね?

松嶋:そうですね、そこも戦略の1つだと思うんですけど、早く終わったほうがこっちにとっても都合がいいので。そういうような感じで言質を取ったうえでやるっていうのは、交渉のテクニックとしてはありでしょうね。

主藤:交渉のテクニックとして1つあるにしても、そもそもその時の私の対応としては、「いや、それは対象外ですよね?」とはなから突っぱねてもよかったと?

松嶋:それもいいですね。ただ、そうしてしまうとリスクもありましてですね。見せられないことをやってるんじゃないのかとか、ちょっと怪しいぞということで、遠回りに攻めてくるようなやり方もありますよね。

主藤:じゃあそこはもう、作戦をしっかり考えたほうがいいと。

松嶋:考えたほうがいいですね。

主藤:むしろ「プライベートのものを見せてください」と言われたら、それを1つの駆け引き材料の1つとして、落とし所を「見せたら終わりにしましょう」と言いやすいということも言える?

松嶋:言えますね。法律的に見れないものを見せてくださいってお願いされている話であって、じゃあこっちもお願いするっていうのはOKでしょうね。

主藤:じゃあ、本当にやましいことが何にもない人は、それをきっかけとしてもうこれを終わりにしようという作戦で……。

松嶋:行くのはありでしょうね。

主藤:なるほど。そう考えるといろんなテクニックがあるわけですよね。

税務調査官が100人いれば100通りの調査がある

松嶋:そうですね。税務調査って正しい世界がないんですよ、対策については。私が言う見解もありますし、別の方が言う見解もありますし、全然違っていて。OBなんて3万人ぐらいいる中で、でも未だにまだ私なんかも重宝されるわけですから、確たるものがやっぱりないんですよね。

主藤:確たるものがないようになってしまっている原因って何かあるんでしょうかね?

松嶋:やっぱり税務調査って、基本的には調査官の裁量によるところがある。逸脱するとかっていうのは調査官の裁量なので、基本的にはタッチしないよっていうのが法律のスタンスなんですね。でも行き過ぎた場合は、裁判所なんかはダメですって言いますけれども。基本的には調査官の裁量になってしまうので、調査官が100人いれば100通りの調査があるっていうことになりますので、なかなか法則化しづらいですよね。

主藤:逆に言えば、それだけ現場に権限が与えられている、と。税務調査官には。

松嶋:権限というよりは、管理をあんまりしていないんですよね。現場としても、会社によって調査を変えていかないと税金が取れないので、業種によって、現金業種は現金の売上を見なきゃいけないし、他に、コンビニなんかでは売上を見ないんですね。というのは、セブンイレブンだったらセブンイレブンの本社で全部システム管理されていますので、まず本部を騙さないと売上って抜けないですから、それは不可能なので。基本的にはコンビニは売上見ないとか、そういう形で調査手法も変えていかないといけないので。

主藤:そうすると、多種多様な業種があり、企業規模も個人経営から上場している大企業まであるわけですから、なかなか現場の方針までルールが画一化されないというのは致し方ないことではあるわけですよね。

松嶋:致し方ないですよね。一応は当局もいろんな業種ごとにマニュアルを作ったりはしてるんですけど、マニュアルがあってもそれは1つのやり方にすぎませんから。別の社長にそれが使えるかっていうと使えないので、結局は調査官によってアレンジが加わっていく形になりますね。

更正処分は税務署も避けたい

主藤:なるほど。この本に書いてあって、私も「そうか、それは堂々と言っちゃっていいんだ」と思ったのが、「更正処分をしてください」というところ。更正処分というのはされたくないですよね、当然。だけども、もう堂々と「更正処分してください」ってこちら側から言ってしまう。これは交渉テクニックの1つとしても非常に有効ということですが、なんでこれが有効なんですか?

松嶋:基本的には、さっきも言いましたけど、納税者が自主的な反省をする、修正申告書というのを提出して税務調査が終わるんですけども。更正処分って言うのはどういうことかって言うと、反省してませんと。ただし税務署としてはこうだ、こういう金額になるのでっていう意見があれば、その通り行政処分はしてくださいっていう話なんですね。反省してるから修正申告を出すわけであって。

更正処分っていうは強硬的な処分なので、結局はそれをやってくださいっていうのは見方が違うだけで、効果は変わらないんですね。ですから、更正処分をやるにあたっては、税務署って非常に強硬的と見られがちですけども、あんまり強硬的なことをやっていると行政が回らないですから、なるべくそういうことは差し控えたいっていう意向もあるんですよね。

あと、なんで更正を打つんだ? ということで、強硬的な手段に打って出ても問題ないだろうということをいろんな所に説明したり、資料を作らないといけないので……。

主藤:税務署内部で?

松嶋:税務署内部で。手間作業が修正申告の場合の3倍ぐらいなんですよね。

主藤:いわゆる一般企業で言う「社内調整」が大変だと。

松嶋:そうですね、はい。

主藤:逆に言えば、「悪いことしてるわけじゃない。こういう正当な理由があって取引をしてる」と社長が自分で自信を持って説明をしても、税務署のほうが「いや、それはそうじゃない」と意見が対立した場合は、堂々と「じゃあもう更正お願いします」みたいな感じでいいんですか?

松嶋:いいですね、全然。

主藤:そうなんですね。

松嶋:はい、1点ちょっと注意点で、本にはちょっと書かなかったんですけれども、結局(税務署は)更正を打ちたくないので「反面調査をするぞ」とかそういう脅しをかけるケースもあって。そこは落とし所を見ながら、ですね。

主藤:とは言っても、今のその「ぜひ更正いいですよ」ぐらいのことを言うと落とし所が見えてくるようなステージになるので、税務調査という一連のやりとりが1歩も2歩も進むわけですよね。

松嶋:あくまでそれは戦略の1つということですよね。

主藤:そうですね。ちなみに「反面調査をさせてもらいますよ」って言われた時にですね、私の経験でもありますけど、取引先に対していい思いはしないわけですよね。

松嶋:そうですね。

主藤:入られたくないけど、でも向こうがやりますよと言ってきたら、それはやめてくれと堂々と言えるものですか?

松嶋:反面調査にもいろいろ要件がありまして、本人を調査してもわからないものがあるので取引先に聞きます、と。要は、わからない状況があります、ということをきちんと示さなきゃいけないんですね。だから、こちらが「調査をちゃんとやって資料もあるんだからわかるでしょ?」というのであれば、断ることは可能ですね。

主藤:なるほど、なるほど。

松嶋:どうしてもわからない場合に限って取引先に行っていい、ということになっているので。

主藤:そうしますと、私のところに来た反面調査の方も、取引が全部明確で、根拠がある取引ばかりでしたね。普通の領収書ですし。もう1つ、それから数年してから来た全く違う反面調査も、領収書はもちろん契約書もあって、金額もその頃はもうメールでやりとりする時代になってましたからメールでも履歴があって。なんで来たのかわからないぐらいでした。

そういうのも、調査を受けた側が反面調査に行くと言われた時には、ちゃんと「明確に取引の履歴ありますよね」って示しながら……?

松嶋:言えばいいですね。そこら辺も調査官がわからないケースが多くて、非常に適当にやってるところもあるんですよね。

税務調査は交渉だ

主藤:それこそ、税務調査を行う側も反面調査を本当の規定通りにするということでもなく、交渉テクニックの1つとして口にしたり持ち出したりすることが多かったりするわけですか?

松嶋:多いですね。やっぱり「税務調査は交渉だ」って言われますけどそのとおりで、いろんな情報を出してきて、なんとか情報を取っていく。そういった話になっていきますね。

主藤:この本の中に、今いろいろお話をいただいたような税務調査にまつわるそもそもの前提の話だとか、納税者側から見た交渉のテクニックというものが非常にたくさん書かれています。節税の本っていうのはいろいろあったと思うんですけど、税務調査を活かそうという本はなかなかなかったんじゃないかと思うんですけれど……。

松嶋:そうですね。これは税務署の職員はみんな使ってるスキルでもあります。

主藤:国税局、税務署のOBの税理士の方。

松嶋:はい、使ってますね。

主藤:今お話ししているようなテクニック、あるいはこの本の中に書かれているテクニック。これはもう税務署OBの税理士の方にとってはごくごく当たり前?

松嶋:当たり前ですね。それをやっぱり広めたいというのが1つあって。税務課税って公平であるべきですから、それはやっぱり広めないとおかしいですからね。

主藤:う~ん、なるほど。ぜひこれは日々税金に関わる方々、まぁ国民全員だと思うんですけれども、今はサラリーマンの方にとっても税の意識が高まってきていますし、あとサラリーマンから独立起業する方も増えてますので、何らかの形で源泉徴収という一方的に取られる税金ではなく、自ら申告する、副業をやってある程度収入がある方はちゃんと確定申告をね、そういった方々みなさんに知っておいていただきたい知識ですね。

松嶋:ですね。「調査は怖いけれども、チャンスでもある」というのがいちばん言いたいところなので、ぜひご一読いただければと思います。

主藤:はい。今日ご紹介した書籍は、『社長、その領収書は経費で落とせます!』。中経出版から出版されております。著者の松嶋洋さんにお話をお伺いしました。ありがとうございました。

松嶋:ありがとうございました。

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