芝居をするためのアルバイトからお化け屋敷へ

古川央士氏(以下、古川):よろしくお願いします。最初は自己紹介していただこうと思います。スライドにいくつか写真があるんですけれども、まず五味さん自身のご経歴を簡単にご紹介いただけたら。

五味弘文氏(以下、五味):僕は「お化け屋敷プロデューサー」と名乗ってます。1992年に後楽園ゆうえんち、今は東京ドームシティ アトラクションズっていってますけど。こちらで夏のイベントとして「ルナパーク」というイベントがあってですね。その中の1つ、お化け屋敷の特別興行っていうかたちで、やらせていただいた。これが最初のお化け屋敷です。

それから毎年、東京ドームシティ アトラクションズさんで、夏限定のお化け屋敷をずっと……もう25年間やらせていただいてまして。その後、地方の展開とか、遊園地でないところのお化け屋敷もやらせていただきました。

古川:ちなみに、お化け屋敷プロデューサーの方って、五味さん以外にいらっしゃるんですか?(笑)。

五味:肩書としては、そういう名前はたぶん僕だけだと思うんですけど。そういう仕事は、他にもやってらっしゃる方がいらっしゃいます。

古川:今、会社でやられてるんですよね?

五味:会社です。

古川:その中に、一緒にプロデュースするスタッフの方、何人もいらっしゃるんですか?

五味:スタッフは2名です。

古川:いろいろ拝見させていただいたら、現場にもすごく張り付いてやってるんですよね。お化け屋敷のプロデュースを始める前は、なにをされてたんですか?

五味:それまではお芝居やってました。

古川:お芝居をやっていて、それからお化け屋敷をプロデュースするようになったんですよね。

五味:芝居やってたからこうなった、っていうわけじゃないですけどね。お芝居だと食べられないんで、アルバイトするじゃないですか。そのアルバイトが、イベントの企画制作の仕事でした。そのイベントの企画制作の中で、たまたま後楽園ゆうえんちの「ルナパーク」の仕事に誘われて、そのプロジェクトチームに参加するようになったんです。

そこでいろんな企画を出す中で、お化け屋敷の企画を出したところ、非常に評判が良かった。そういう流れですね。

遊び半分のようなノリで起業

古川:受講者の方からも質問があったんですけど、その時はいきなり独立起業されたんですか? それとも会社としてどこかに属してて、やったのが最初なんですか?

五味:僕は1回も就職したことがないので(笑)。ないです。

古川:そうなんですか(笑)。

五味:卒業してそのままお芝居をやって、就職しなかったんですね。そのイベント会社もアルバイトで働いてましたから。その中で「ルナパーク」っていうイベントの……。

古川:写真がありますね。

五味:このイベントですよね。

古川:最初のやつ。

五味:みなさんご存じないかもしれないですけど、後楽園ゆうえんちで、夏の夜に「夜の遊園地を大人向けに開放しよう」というイベントで。いろんなごった煮……ビジュアルもそうなんですけど、ごった煮でした。ですから、いろんなところからいろんな人間が集まってきてプロジェクトチームが作られる。そういう中で、僕もやらないかと言われて。演劇関係とか、その他もろもろ企画を出していった。そういう経緯なんです。

なので、そもそも会社というかたちでは固まってなかった。後楽園ゆうえんちさんで何年か仕事させていただく中で、お化け屋敷自体を……。さっき夏のイベントの話をしましたけれども、その後「お化け屋敷自体を改修工事しないといけない」という話になりまして。それを機に、会社を作ろうか、ということになったんです。

古川:なるほど。じゃあ先に仕事があって、続けていて……という流れといいますか。起業したのは自然な流れだったんですか。

五味:たぶん今の「起業」という概念と、当時の「起業」という概念がぜんぜん違っていて。まさに学生の身分からスタートしました。学生起業も当時、いきなり出始めた。まさに江副さん(リクルート創業者の江副浩正氏)も、学生起業のトップランナーですよね。

古川:そうですか(笑)。

五味:その江副さんに追いつこう、追随しようって。いろんな大学から、そういう志をもった学生起業家たちが。「ITがどうのこうの」なんてないですから、いろんなスタイルで登場してくる。僕の場合は、半分遊び、会社ごっこみたいなノリだったですよね。リクルートさんはわからないですけど(笑)。

古川:当時のこと、知らないので(笑)。

五味:でも本当に、会社ごっこみたいな。「会社ってこうやるんだ、おもしろいね」っていうノリで。だから会社を作るのも、そういう「起業しよう」っていう心構えとか……。

古川:意気込んでいったわけじゃない。

五味:ノリで、遊び半分みたいな。そんなことを会社にしてくれと言われているから「いい機会だから、じゃあ作っちゃおうか」みたいな。そういうようなノリでしたね。

麿赤兒さんにオファー、まさかのOK

古川:他にも写真があるんですかね。

五味:これはルナパークのときの。

古川:そのときの写真ですかね。

五味:お化け屋敷じゃなくて、ルナパークのときの園内の写真ですね。

五味:これが僕が最初にやった、1992年の「パノラマ怪奇館」のお化け屋敷のビジュアルですね。これが麿赤兒さん(俳優・舞踏家)という人です。怖い感じですよね。

古川:眼光鋭い感じですね。

五味:役者としても活躍されているので、みなさんお顔を見ていただくと「知ってる」っていう声があがるかもしれないですけど。大駱駝艦という舞踏の集団をやっていて、こういう白塗りをして、眉毛を落として、髪の毛も剃髪にして、ダンスをする。当時も新しかったんですけど、海外でも展開していて、今でもずっと人気を博している。大変尊敬できる方です。

この麿赤兒さんに、「こんなすごい方にお化け屋敷なんて頼んでいいんだろうか」と思いながら。こんな顔をされてますから、ちょっと怖いですよ(笑)。

(会場笑)

五味:怒鳴られるんじゃないかと思いながら、恐る恐る話をしたら、「おもしろいじゃないか」と。それで協力していただいたのが、最初のパノラマ怪奇館ですね。

古川:ちなみに、先ほどお化け屋敷プロデューサーという肩書でやっているとお話をされてたんですけど、今回「PRODUCERS CAMP」っていう名目で講座をやっていまして。今日ここで、どんなお話をしていただけるのか、全体をうかがっておきたいです。

五味:そうですね。とは言いながら、他のラインナップのみなさんを拝見すると、そうそうたるメンバーでした。僕はそういう中で、「プロデューサー」って自分で言ってますけれども、本当にそのカテゴリーにハマるかと言われると、自分でも首を傾げるところがあります。どちらかというと、もっとクリエイティブのほうに偏っている人間じゃないかなと思うんです。

でも、そういう人間がこういう機会を与えられて、なにかをお話しするなら、「“お化け屋敷”という特殊なエンターテインメントがどういうふうに成立しているのか」「それを作っていく上でどういう工夫をしてるか」を、みなさんにお話しさせていただく。こういう特殊なイベントをプロデュースすることは、どういうことかと。

それを他のことに当てはめたときに、どういう汎用性を持つかを、汲み取っていただければいいかな。僕自身はそのあたりのことに自覚的ではないんですけれども、みなさんにそこらあたりの話をして、汲み取っていただければ。そういうことでお話しをさせていただこうと思ってます。

なぜお金を払って「怖い」を体験したがるのか

古川:先ほども話してたんですけれども、専門性がすごく高い分野であるというか、こだわってずっとやられてきているので、その中の話がめちゃくちゃおもしろくて。これまでも何人かの方をお招きしてお話を聞いてましたけど、確実にいろんなプロデュースに通じる部分があると思うんです。そういうのを意識して汲み取りながら、聞いていただけたらなと思います。

お化け屋敷の話から始めたいと思うんですけど、お化け屋敷って「怖い場所」っていう認識でいいんですかね?

五味:僕も最初の頃は「お化け屋敷って怖い場所だな」って思っていて。「いかにして怖い場所を作るのか」が僕の仕事だと思っていたんです。けれども、途中から「そうじゃない」と思い始めたんですよ。ずっと現場に張り付いて見ていると、お化け屋敷の中で笑い声が上がったり、出てきたお客さんが笑い転げていたりする様相を目撃するんですよね。

最初のうちは「これは失敗してるんじゃないかな」と思ったんですよ。本当に目指すべきところはそんなところじゃなくて、誰もが震え上がって口もきけない、家に帰ってもトイレにも行けないみたいなことが、お化け屋敷のあるべきスタイルかなと思ったんです。けれども、現場でそういうのを見てると、だんだん「そうではないな」と思うようになって。

単に怖いだけのものを作るなら、僕が作ってるお化け屋敷よりも遥かに怖い所はたくさんあって。夜中に誰もいない山の中の廃屋に行って「〇〇しろよ」みたいなことを言ったほうが、よっぽど怖いんですよね。

でも、そういったところに何万人ものお客さんが集まるかといえば、そうではなくて。つまりお客さんがそこに求めているのは、単に「怖い」だけではない。最終的には「怖い」と同時に「楽しい」ことを求めてるんじゃないかなと思い至りました。

だから、単に怖い場所を作るんじゃなくって。お化け屋敷は「怖い」を使いながら、最終的には「楽しい」感情にお客様が惹かれる。そういう場所ではないかなって思うんですよね。お化け屋敷の基本的なエンターテインメントのあり方はそこにあると思います。

古川:普通なら「怖い」ところは、お金を払って行きたい場所ではないというか、避けたい場所ですよね。それをエンターテインメントとして提供するのが、お化け屋敷の特殊性、エンターテインメントとしてのめずらしい部分ですよね。

五味:まさにおっしゃる通りで。「怖い」という情動は、基本的には体験したくない、というか一番体験したくないですよね。人生の中で、日常生活の中で。その「怖い」「不安だ」の情動を免れるために、保険があったり貯蓄があったり、いろんなことが工夫されていたりします。「自分がいかにして人生の中でそういう状態に陥らずに済むか」を常に考えてるわけですよね、人間は。

にも関わらず、お化け屋敷という「怖い」ものを体験したがる。そういう奇妙なことが起こるんです。結局、その「怖い」ことで「楽しい」を感じるメカニズムが、人間の中にあるんですよね。