コニカミノルタは「デジタルトランスフォーメーションしたい」

腰塚国博氏(以下、腰塚):みなさま、おはようございます。しばらくのお時間ですけれども、ぜひ聞いてください。

コニカミノルタは今、デジタルトランスフォーメーション、いわゆるデジタルカンパニーになることを標榜(ひょうぼう)しております。そのなかの1つとして、IoTというビジネスを位置づけております。そのあたりの立てつけ、具体的なヘルスケアにおけるIoTビジネスといったものをご紹介できればと思っております。

「コニカミノルタが提案するIoT時代のヘルスケア」という、ちょっと大きな名前をつけさせていただきましたが、まず最初に、コニカミノルタという会社について、短い時間でご紹介したいと思います。

2003年にコニカという会社……昔のサクラカラーの会社ですね。こちらとミノルタというカメラの会社が合併しました。5,000億くらいの会社が一緒になって、1兆円の会社になったんですけれど、その3年後、それぞれフィルムビジネス、カメラビジネスから、撤退しております。

コニカは144年の会社ですし、ミノルタは88年の会社ですが、今、生きていれば、それぞれ創業ビジネスを一夜にして失っている。そういう意味では、デジタルディスラプションを味わっている会社なんですね。

そのへんがほかの会社さんと、あまりいい経験ではないかもしれませんけれど、大きく異なるところです。そして今、なにを考えているかというと、「デジタルトランスフォーメーションしたい」ということなんですね。

合併した当初、撤退によって3,000億円失いました。それを回復して再び1兆円強の会社に戻っているというのが今現在ですが、その中身はカメラ、フィルム一切なしで、50パーセント以上がオフィスのいわゆるMFP(複合機)でした。そのほかに、印刷ですとか、機能材料、産業光学、ヘルスケア。この10パーセント程度のヘルスケアの部分について、今日お話を聞いていただくことになります。

長い歴史を重ねていくなかで、我々が今手にしている財産、コアコンピタンスは、コア技術とグローバルなチャネルです。画像の技術や材料の技術、微細加工技術、あるいは光学の技術は、すべてカメラやフィルムからきているんですね。

これらをコア技術と定義しています。今の時代に沿うように、この技術を翻訳して使い直すといった立て付けのコア技術戦略をとっています。

もう1つの財産は、200万社にのぼる世界各国のお客さま、それからそれをサポートする直販あるいはサポートです。何百箇所にも拠点がございます。右下に書いてあるように、実は日本の商売の方が、コニカミノルタは貧弱でして、海外のほうがむしろ活躍できています。そういう会社でございます。

「デジタルトランスフォーメーション」という言葉を発しましたけれど、その中身は、今まではカメラやフィルムといった物販を売っていましたが、これからはデジタルソリューションプロバイダというんですかね、そういったソリューションを提供できるカンパニーになりたいと考えたわけです。

そう考えたとき、これまでアナログでいろいろなものを作ってきた日本の老舗が、どうやってデジタルカンパニーに転ずるのか。その型を示したのが、この絵です。我々はこれで生きていこうと決めたわけです。

見えないものの見える化

私どもは、例えば自動焦点カメラや世界初の重合トナー、世界最高感度のフィルムなど、古くからいろいろな世界初や世界一を連発してきた、ものづくりの会社です。今も「世界初」が大好きな会社で、これからも連発しています。

そして、そのソリューション・サービスを考えたとき、あとでご紹介しますが「サイバーフィジカルシステム」というIoTビジネスを含んだ立て付けでいこうと考えたわけでございます。

すなわちこの図の下半分が実社会ですね。上半分がサイバー空間。実社会にある実画像やアナログ物理量、あるいは非構造データといったものをタグ付けして、サイバー世界に、inputと称しますけれども、持ち込みます。

そして、リッチな演算機能で、新しい価値を生んで、ワークフローソリューションというかたちで社会に貢献する。概念的にはそういう考え方です。そのときに、我々が最も得意としているのがこの部分です。「見えないもののデジタル・ツイン化」と、わかりにくく書いていますけれど、要するに「見えないものの見える化」ですね。

この部分は、例えば「分子を見たい」「あるお客さまの流れを見たい」「燃費を見たい」など、世のなかのあらゆるものを、ある特殊な測り方でデジタルデータとして計測して、データをインプットする。ただ単に体温や血圧を取るなど、そういうことでは、やはりある競争のなかでユニークなソリューションを提供することはできないという判断をしています。

したがって、見えないものにこそ、すごく力を入れています。あとは、エッジコンピューティングでの認識・分析、いわゆるAIですね。認識・解析・予測という三種の神器をやって、新しい価値を提供していこうと考えたのです。その話を今日はこの医療で。もちろんアウトプットとしてはMtoPだったりMtoMだったりという様々に適切な出し方になるわけですけれど、ここでは実例でご紹介したいと思います。

デジタル・ツインのところ、要はミラーリングです。世のなかで起こっているアナログな事象をすべてデジタルの数値に置き換える。だから、ミラーリングですね。

デジタル・ツインとは、双子という意味です。要するにサイバーとフィジカルの双子ですね。たぶんGE(ゼネラル・エレクトリック)さんの造語だと思いますが。ミラーリングのほうがわかりやすいかもしれないですね。そして、この図にあるようなサイクルを回すという意味です。

コニカミノルタのサイバーフィジカルシステムは、そこで差別化要素を生み、お客さまのペインポイントに刺さりたいと考えています。そのため、アーキテクチャとしてこのようなことを考えています。

すなわち情報を取るところ、見えないものを見える化する。このインプットの技術と、取ってきたデータをインテリジェント化する……AIしたり、ディープラーニングしたり、データサイエンスしたりといった、サイバー空間でコンピューティングするところのいわゆるICT技術。そして、それからのアウトプット。ソリューションとして、人間に便利なかたちで出すという、この3つの機能に分類して、ここにコア技術を並べるんですね。

ここのコア技術を、例えば「1番目と2番目と3番目を使って、病院に提供しましょう」、あるいは「2番目と3番目と1番目を使って、介護に提供しましょう」など、こういう技術のプラットフォームを立てつけとしています。

1対1でやるととても開発費がおぼつかないので、「こういう考え方でいこう」とR&Dのアーキテクチャとして定義してございます。医療の場合には、私どもはQOLの向上と医療負担、国庫の負担の軽減、これを両立させることを目的にしています。

通常の健康診断で見つからなければ意味がない

今日ご紹介するのは3つです。高度なX線の診断支援とケアサポートサービス、バイオの診断支援という3つの例について、IoTもしくはデジタルトランスフォーメーションの様子を、最新のものに限ってご紹介したいと思っています。

X線の高度診断支援システムをご説明する前に、これが我々がアナログからデジタルにデバイスとして転じた歴史です。

ご存じない方も多いかもしれませんけど、いわゆるレントゲンフィルムです。レントゲンフィルムとは、はっきりいうと銀の塊で、今だから言えるけれど、非常に儲かる商売でした(笑)。

でも、消耗財ビジネスというのは長続きしませんで。今どきはCR(computed radiography)、これは富士フイルムさんの発明ですね。我々ももちろん持っていますけれども。CRからDR(digital radiography)となっています。

DRになるときに、ウェットフィルムからドライフィルムに変わっています。ここではまだ消耗材があったんですね。すなわち、アナログの診断機器に対して、フィルム診断、モニター診断と。このモニター診断になった時点で、消耗材ビジネスが消えていますので、企業のプロフィットとしては激減しているんですね。

そのときに、どういう付加価値を提供し、企業として貢献できるか。その答えがソリューションだったわけです。

これは10年前に作ったOpen/Close Architectureの絵柄です。ですが、ちょっと時間を稼ぐためにスキップします。

そして、X線システムです。レントゲンフィルムはすばらしい商品で、技術的にはデジタルなんかよりずっと上だと私は思っています(笑)。あのフィルム1枚で、アーカイブ、それから診断、ガンのディテクションなど、1枚でこれ全部やっているんですね。

デジタルになると、これがすべて分業になるわけです。その代わり、デジタルは芸ができるんですね。それもデジタルならではのソリューションというかたちで。

ただ今から、レントゲンフィルムではできなかったけれど、デジタルX線ならできるソリューションをご紹介します。ここがデジタルカンパニーの部分ですが、デジタルにすることで生まれる付加価値について、3つの例を挙げます。

それは「肺の機能解析」「軟骨の描画」「肋骨の除去」。ここはくわしくやるとキリがないので、簡単に飛ばしますけれど。デジタルX線プレートを使って、複数枚の画像をパルスで撮ります。出てきた画像にローパスフィルター、ハイパスフィルターをかまします。

簡単にいうと、呼吸に同期した低周波数成分で画像を作ると、換気情報が得られるわけです。それから、鼓動に同期した高周波数成分だけを画像にしてやれば、血流成分が見れます。従来のアナログだと、スパイロメトリーやCT・MRIといった、非常に高価な装置を使わないとわからなかったような、肺の疾患あるいは血流の疾患、そういうものが、デジタルだとX線1個あればできてしまう。

非常に簡単な装置で見られるのは、医療の場合はものすごく重要です。早期発見は、安い装置でできないといけないんですね。「ちょっと心配だからMRIを撮りましょう」という人は、まずいないわけです。ウン万円払って撮らないわけです。

「通常の健康診断で見つからなければ意味がない」というふうに、我々、プライマリ・ケアとしては思っていまして。そういう意味ではデジタルの恩恵を創れると考えています。

リアルタイムの画像処理で、高速演算処理が可能に

次の例に移りましょう。これは、レントゲンフィルムです。X線は、もともと骨が写ってましたよね。そして、造影剤を使って胃袋を写したりしていました。

この場合、デジタルを使ってX線の屈折や散乱を利用します。レントゲン博士がもし生きていたらびっくりすると思いますけれど、X線で屈折や散乱を見るんですね。そして、軟骨を可視化した画期的な技術です。

要は、高アスペクト比の格子でモアレを形成して、画像の位相情報の高速演算処理をし、早期リウマチの軟骨の病変を検出可能にしたんです。

例えばリウマチは、早期に発見すれば、薬で治っちゃうんですね。ところが、それが遅れると不治の病につながってしまう。非常に痛い。女性が非常に多い。今、80万人くらいいますね。早期発見ができれば、薬があるんです。

MRIではなくX線装置で見れるので、健康診断で早期発見できます。

デジタルを用いて、このモアレの画像処理をリアルタイムにやることは、高速演算処理が可能にするわけです。しかも、軟骨と骨、両方を一度に写すことができる。そうすると、この軟骨が見えることで、早期にリウマチが発見できるということです。

ちなみに、言い忘れましたけど、先ほどの肺の解析技術は、先週のRSNA(北米放射線学会)で最優秀賞をいただきました。ハーバードさん、慶應さんと組んで報告した学会論文です。「こういう価値は、デジタルで生めるんだな」という例です。

これはもうちょっとわかりやすくて。みなさんも見覚えがあると思いますけど、デジタルでリアルタイムに肋骨を抜いちゃうんですね。そうすると、肋骨の裏にあるガンが見つけられるんです。

肋骨に隠れていた背中側のガンというのは、だいたい見つけられなくて、手遅れになるパターンがあります。ただ、X線を当てていますので、実は画像処理で肋骨を抜いてもガンは写ってるんですよ。これ、デジタルじゃなきゃできないんです。また、リアルタイムでできることが大事なんです。

もう少しくわしく説明しますと、被ばく線量の増加や特殊な撮影装置抜きで、大量のデータベースから学習したアルゴリズムで骨モデルを作り、解剖学的特徴に基づいた、骨信号推定によるロバストな抽出によって、肋骨を除去します。こっちは肋骨ありですね。この肋骨を抜いて、その裏も含めてガンを見つけるという診断が可能になるという例です。

「介護者の仕事を減らす」に価値がある

次にご紹介しますのは、ご老人の見守りシステムです。これは、介護の経営支援、褥瘡(じょくそう)……床ずれですね、それから在宅支援といったあたりでIoTを使って何ができるかをコニカミノルタで考えました。その内容をご紹介します。

今現在、日本は世界一の老人大国です。世の中にサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)は、住まわれないかたちでいっぱいあります。そして、サ高住に入りたい老人は列を成して待っています。待っている間に亡くなってしまうケースもあります。

部屋は空いてるんです。老人は待ってるんです。入れないんです。なぜか? 介護の人が足りないんです。ですから、少子高齢化のうちの日本の問題点は、高齢化じゃないんです。少子のほうなんです。老人の介護をする人がいないことが問題なんです。老人の安全を見守ると同時に、介護者の仕事を減らすことが価値であり、それをIoTでやろうというシステムを考えました。

では、介護者の方はなにで忙しいのか。これは、1つは無駄な駆けつけなんです。なにかあれば、すぐ呼ばれちゃうんですね。

例えば70床を1〜2人の介護者が見ています。夜中、Aさんのところへ駆けつけている間に、Bさんが倒れて亡くなってしまう。そして訴訟になり、ほぼ施設側が負ける。これが今の日本です。それでは困ってしまいます。それからもう1つは、介護の記録です。これには手間がかかります。

そして、夜と昼の係の伝達。「薬を飲んだよ」といったことを伝えるのが、けっこう時間がかかることがわかりました。

この3つを解決すべくinput、processing、output。天井にセンサーボックスを用意しました。ここは赤外光とマイクロ波のドップラーで見ています。それで呼吸と行動を見ています。そのほかに血中酸素と血圧などのバイタルサインを非接触で見ることを考えています。

病気を除いて、老人が亡くなる一番の理由は「倒れて亡くなる」です。朝起きたら、冷たくなっていたと。

駆けつけについては、看護師さんが持っているスマホに連絡する。ここが outputの妙です。これをナースセンターに送ったのでは、意味がないんです。仕事が増えてしまいます。そうすると、無駄な駆けつけが減りません。

看護婦さん、あるいは看護師さんが駆けつけず、その瞬間の画像をスマホで見られる。だから、駆けつけずに様子を確認するツールを用意したわけです。

そのへんのCVP(Customer Value Proposition)の立てつけが、IoT時代といえども、大事なんです。そこに我々、すごく時間をかけました。うまくいった例です。

床ずれについて。「えー、なんだ。床ずれ?」っておっしゃるかもしれませんが、非常に深刻です。

これをお医者さんが診断しようとすると、しょっちゅう在宅訪問しなきゃいけない。そのため、素人でもお医者さまに症状を数値で連絡できるものを開発しました。これはベンチャーで作ったんです。

こういうものをタブレットの後ろにつけて、3次元でキャプチャーして、形状、サイズ、深さ、容量を自動計測する。そして、前回取ったときのサブトラクション、差分を一緒に数値化するシステムですね。

蛍光ナノ粒子で「この薬が効く」を解明

最後ですけれども。もうちょっとバイオ的な、創薬的なお話をさせてもらいます。

この場合には、見たいもの・見えなかったものは分子です。体のなかにあるタンパク質・遺伝子・miRNA、こういうものをliquid biopsyもしくは通常の細胞バイオプシーで取る。病理ですね。

それのデータをプロセッシングして、細胞のAI画像、「ガンか、ガンでないか」などということをCAD(Computer-Aided Diagnosis)して、そして診断、あるいは創薬の助けにするというシステムを最後にご紹介します。

こちらは蛍光ナノ粒子。こういう技術は写真フィルム分野で培ったんですね。そういったコア技術を活かしながら、コニカミノルタでも価値を認めていただけるようなIoTを、あるいはサイバーフィジカルシステムを作ろうという立てつけでビジネスをデザインしています。

蛍光ナノ粒子を作って、今までHE法やDAB法でやっていた非定量的な検査を、分子1つひとつを数えて「この人にはこの薬が効く」と。

例えば、あるガンになったとします。「じゃあ制ガン剤飲みなさい」と。でも、高いですよね。「オプジーボ」にいたっては1,500万円かかります。そういったものは、やっぱり効く人だけが飲めるようにしなくてはなりません。

じゃあ効くかどうかは、その薬がアタックする分子がその方に存在しているかどうかが見える化されなければ、解決されないんですね。そういったことに焦点を当てています。それの血液バージョンがこちらです。こういった、細胞などを画像で認識する。そのときにディープラーニングを使う。ビフォー・アフターです。83と90。正答率ですね。そんなことをやっていますというご紹介です。

これが最後です。血液でトロポニンという、非常に検出しにくいタンパク質を高感度に検出する。これもデジタルです。心筋梗塞を早めに見られるシステムを開発したんですね。そのデータを蓄積することによって学習していくシステムの開発をしています。

事程左様に、コンピューティング機能をビジネスの仲間として取り入れて、フィルム時代にはなかった価値を提供する。これは、コニカミノルタのヘルスケアにおけるIoT時代、デジタルトランスフォーメーションという位置づけで検討しています。今日はそういうご紹介をさせていただきました。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:大変貴重なお話、ありがとうございます。