受賞の感想は「痛快(笑)」

司会者:山下さん、受賞された今のお気持ちをお願いします。

山下澄人氏(以下、山下):やっぱり、芥川賞はすごいなぁって(笑)。あの、ちょっとびっくりしてます。それと、ちょっとほっとしているのと。……以上です。

(会場笑)

司会者:では、ご質問のある方は挙手をお願いします。

記者1:読売新聞のマチダと申します。選考会見では「今までは実験的な作風の印象があったけれども、王道の青春小説としても読める」という評価もあったんですが、そうした評価についてなにか感想があれば教えてください。

山下:いや、まだ僕はちゃんと聞いていないので、「へぇー」って。

(会場笑)

記者1:青春小説と言われて照れくさい感じはありますか?

山下:いや、別に。それは僕が決めることじゃないんで。あの、ありがとうございます。

記者2:朝日新聞のイタガキです。おめでとうございます。目の前にある物事の激戦に浮き上がらない筆もお人柄もそうだと思うんですが、今の心情をおうかがいしたくて。他人事のような感じですか?

山下:はは(笑)。いや、他人事みたいな感じですよ。すごいなぁって、芥川賞。

(会場笑)

記者2:ご自分の作品を、よく「便所の落書きの過大評価だ」とか、そういうことをおっしゃりながら、こういった日本一有名な賞を取ったんですが、それをふまえてひと言感想を。

山下:痛快(笑)。

記者2:もう少し教えてください。痛快の……。

山下:いやだって、僕が芥川賞作家ですよ? 「嘘やろ!?」って話やし、友達はびっくりすると思います。

記者2:ありがとうございます。

倉本聰氏には「ありがとうございます」しかない

記者3:おめでとうございます、共同通信のモリナガです。山下さんの小説は、原点と言える富良野塾での体験を描いていながら、原点で転機だったはずなんですけど、読んでいるとどこかぼんやりしたような感じの印象を受けます。

今日この場も、おそらく人生の節目になるような非常に大きな出来事かもしれないんですが、なんとなく「他人事のようだ」というふうにおっしゃる。

今日の場というのは、これから振り返ってどんな日になると?

山下:それは、今はわからないですね。ただ、正直言うとほっとした。これでも候補にしてもらって連絡を待つ、みたいな……。質問とはちょっと違うんですけど、今日も僕以外に4人の方がそういう時間を過ごされて。それがなかなかやっぱり大変で、自分が賞をどうでもいいって思っていても、(賞を)もらえたらみんなが喜んでくれるとか、やっぱりそういう思いはあって。

だからお察ししますし、お疲れ様でしたという感じなんですよね。やっぱり僕はほっとしたのが今は一番で、これがこの後どうなっていくかはちょっとわからないですね。

記者3:ありがとうございます。もう1つ質問なんですが、今回富良野塾について描いたということで、早速、倉本聰さんが談話をご発表になってですね。

山下:え?(笑)。

記者3:「やっと取れたと思いました」と倉本さんもほっとしていらっしゃるような様子で、「落ち着いたら会ってねぎらいたい」というふうに談話を出しておられるんですが、そういう倉本さんがコメントを出されたことにはどう?

山下澄人氏(以下、山下):いや、それはもう「すいません」という感じです。

記者3:直接まだ連絡とかは?

山下:留守電には入れましたけど。

記者3:恐縮ですが、どういうことをお伝えになったんですか? あるいは、お会いになってどういうことを伝えたいと考えたりしましたか?

山下:いやまあ、でも、題字(『しんせかい』の単行本の題字)まで書いていただいて、なんていうか、「ありがとうございます」しかないですね。そこは。はい。

記者3:ありがとうございます。

記者4:ニコニコのタカハシです。受賞、おめでとうございます。まず最初の質問なんですけれども、ニコニコ動画はご覧になったことがありますでしょうか?

山下:はい。

記者4:ありがとうございます。

山下:あ、そうですか(笑)。

記者4:では、今、ユーザーから寄せられている質問を代読したいと思います。栃木県30代の男性の方の質問です。

「今回、山下さんの作品は、がらっと作風がこれまでと変化されたように感じます。それにはなにか心境の変化があったのでしょうか?」。

山下:ないです。はい。変わって……そうか。ないです。心境の変化は。というか、心境はないです。

(会場笑)

記者4:手法を変えようとしたきっかけなどはあったりするのでしょうか?

山下:いや、その……手法みたいものっていうのは、あとからついてくるというか、読んだ人が言うことであって。ないですね。はい。

記者4:ありがとうございます。

冗談めかして「僕が芥川賞作家ですよ」

記者5:ウエダです。おめでとうございます。今日はどちらで報告をお待ちになってましたか?

山下:六本木。

記者5:それは喫茶店ですか?

山下:あれ? なんか、カフェ的な(笑)。

(会場笑)

記者5:オシャレな感じのカフェですか?

山下:オシャレな感じのカフェでしたね。

記者5:タバコを吸いながら、ずっと待ってた感じですかね。

山下:いや、まあ……そうですね。はい。

記者5:あと、富良野塾の同期の吉田さん、脚本の吉田さんとか、受賞が決まったあとに「震えるほどうれしい」とおっしゃっていたんですけれども……。

山下:(笑)。

記者5:そうした同期の方になにかお伝えしたいことってありますか? 今回、いろんな同期の方が登場するんですけれども。

山下:いやまあ、「僕が芥川賞作家ですよ」(笑)。

(会場笑)

山下:そういう感じですね。

記者6:読売新聞のウカイです。今日、日本文学振興会から「決まりました」って知らせを受けた時には、どんなお答えをされたんですか?

山下:「ありがとうございます」。

記者6:そのひと言?

山下:えっ(笑)。いや、もうちょっとしゃべりましたけど。「えっ、あ、そうですか。ありがとうございます」と。

記者6:これまで構えて書くのがあんまり好きじゃないということで、電車のなかとかでスマホで原稿を書いていることが多くて。

これまでは「オッサンがメールやっとるんかな」というふうな感じだったんですけれども、これからは芥川賞作家がスマホ使っているということで、今までの書く環境がずいぶん変わると思うんですけど、大丈夫ですかね?

山下:えっ?

記者6:電車で書いてると、「芥川賞作家が原稿書いとるぞ」っていう話になっちゃって。

山下:「そうです」って(笑)。

(会場笑)

記者6:やっぱりそのスタイルは変えられないですか?

山下:それってスタイルとか思ってないんで、変えるも変えないも、変わったら変わるんやろうしって感じです。とくになにかというわけではないです。

倉本聰氏は父親みたいなもの

記者6:それからもう1つですけれども、演劇もおやりになってますけれども、このいわゆるフラッシュに囲まれ、テレビに囲まれ、この劇的な状況というのを表現するとしたら、どのように?

山下:今をですか? ……びっくりするよ(笑)。

記者7:日本テレビのヤマザキと申します。このたびは受賞おめでとうございます。

先ほど六本木のところでご一報いただいたとお話しいただきましたが、お話しいただきましたが、心境としてはどんな心境でお待ちになっていたんでしょうか?

山下:待ってる時ですか?

記者7:はい。

山下:それはやっぱり、担当の編集者と待ってたんですけど、担当の編集者のほうが緊張してるから、それはなかなかきずつないもんがありますよね。「すいません」って言う準備はしてましたけど。

記者7:そうだったんですね(笑)。それから、先ほど「僕が芥川賞作家ですよ」と冗談めいておっしゃってましたけども、そう思う理由というのを改めておうかがいできますか?

山下:いや、だってやっぱり……僕はそんなに小説みたいなものに詳しい人間ではなかったんで、それでも芥川賞っていう名前はもちろん知ってましたし、なんか、地続きのものと思ってなかったわけで……。そういう感じですね、だから。

記者7:ありがとうございます。

司会者:それでは最後の質問にさせていただきたいと思います。

記者8:NHKのアベと申します。「すいません」という準備をして待っていて、受賞したというしらせを受けた時、その瞬間に思ったことはどんなことを思われましたか?

山下:「あ、そうですか」。あ、だから、ほっとしました。一番。「すいませんでした」っていうのはなかなか、「ほんまにすいません」ってなるから、本当にほっとしました、それは。

記者8:山下さんにとって、倉本聰さんって非常に大きな存在だと思うんですけれども、改めてどんな存在かっていうのを。

山下:なんていうか……僕、若い時に両親が死んだんで、父親みたいなもんですね。一番思うのは。だから。

……こういう記者会見をどっかで見て、怒られるんかなって(笑)。「ちゃんとしゃべれ」って。そういう存在です。

司会者:ご質問は以上とさせていただきます。山下さん、最後になにか言い残したことがありましたら。

山下:いえ、ないです。

(会場笑)

司会者:それではどうもありがとうございました。