本業以外の自己投資と他己投資

上野美香氏(以下、上野):お話は尽きませんが、残り時間が少なくなってきたので、会場のみなさんから質問を受けたいと思います。

横石崇氏(以下、横石):そうですね。藤野さんや上野さんとお話ししたいことがあればお願いします。

質問者1:藤野さんにお聞きしたいんですけど、「他己投資と自己投資」というお話がありました。もしお好きな自己投資がありましたら教えてください。

藤野英人氏(以下、藤野):先ほどの(スライドの)絵の中でも出てたけれども、ピアノが好きなんですよね。4歳くらいからやっていて、今もしています。

かつ、日本最大のピアノサークルで「ついぴの会(ツイッターピアノの会)」というのがありまして、北海道から沖縄まで全国18支部くらいあるんですけど、それの創始者なんですよ。だからアマチュアピアノ界では少し知られていて、そこでは僕が投資家であるっていうことを知らない人が多いですね。

ピアノ好きなおじさんっていうキャラで。そこには若い女子からおじいさんまで集まって、ピアノ談義をしています。もちろんピアノを弾いたり、語ったり、仲間を増やしたりということをしていて、そこに行くと(日常とは)別の癒やしや別の気づきがありますね。

そういうのが自己投資。でもこれは社会貢献でもあるし、他己投資でもありますね。自分もそこでピアノを習って勉強して議論する。一方でインフラでもあるから、そこで人が出会うと。

男子でも女子でもいいんです。なんと、この中で20組くらい結婚してます。20組だから40人ですよ。すごくありません? だからめちゃくちゃ後悔してる。規約に、「結婚したら創始者にお金を払うこと」って書けばよかった(笑)。

(会場笑)

藤野:出会い系で作ったという気はまったくゼロなんだけど、ピアノが好きだという男性と女性が集まってコミュニケーションして仲良くなると、そのまま趣味で、コンサートに行くとかピアノの練習するということになって、すごく自然なかたちでつながっていくみたいなので、やっぱり趣味のつながりというのはいいなと。

(一説によると)3人のカップルを作って結婚させると天国に行けるそうなんですね。だから、12回くらい天国にいけると思います。

一緒に仕事をする社員の資質

質問者2:「前社の上司が『好き』と即答される方を採用する」とおっしゃっていたんですけれども、藤野さんの会社で働かれている方に共通する素質があればおうかがいしたいです。

藤野:ええっと……(例えば)通勤している最中に倒れているおばあさんを発見しましたといったときに、僕らの会社のメンバーだと100パーセント救出すると思いますね。どんなに大事な仕事があっても。僕らにとっては、仕事があっても命を優先するというのが大切なことなので、そのことに対する確信はすごく強いんですね。

あそこにおばあちゃんが倒れてたと言ったら、ほかに雑踏があっても、自分が走っていって救助すると。大事な仕事があったら、うちの会社の誰かが代わるから。

おばあちゃんが倒れてても「お前は仕事だからほっとけ」と言う上司はいらないので。それは誰かが代わる。代われなくて全員ダメだったら、お客さんにそう言って謝ります。

それで、「おばあさんよりもうちの仕事が大事だろ」と言うクライアントはいないと思うけど、もしいたとしたら顧客にならなくてもけっこうです。それは、僕らのお客様としてもふさわしくない。

だから僕らが大事なのは「人として素敵か」どうか。仕事よりも自分のプライベートや家族、仲間を優先するかどうかが大事です。そういう人のほうがいい仕事をしています。顧客と自分と社員を大切にして、会社という組織は二の次であるということを望んでいます。

100年時代の人生設計

質問者3:おそらくこれから寿命が長くなって、僕は2058年に80歳になるんですけど、もし100歳まで生きるとしたら、80歳までのお金の人生設計を組まないといけないと思っています。

寿命が長くなっていくと、退職金制度もこれからどんどんなくなっていって、「自分で頑張って暮らしていってね」というふうに、会社は守ってくれないと思います。

そういったときに、どういったところで学べる場が増えていくのか、どういうふうに知識を深めていくのがいいのか、それともお金じゃなくて……社員の虎じゃないですけど、評価を高めるとか、人脈を増やすとか、専門的な知識を得るとか。すぐに買うことができないものに投資をしていったほうがいいのか。アドバイスをいただければと思います。

藤野:3つあります。1つは、できるだけ会社以外で稼げる力をつけるということですよね。一番重要なことは、キャッシュ・フローが続くことですよね。キャッシュ・フローが続くということは稼げるということです。

老後も別に今と同じくらい稼げなくてもいいから、年間100万でも200万でも稼げる力があると、その分だけ貯蓄しなくて済むわけですよね。100万でも200万でも稼げる力があるというのとゼロとはすごく違うので。大きくないかもしれないけど、細々と稼げる力をつけるというのが1つ。

2つ目は、狭い意味での投資ですけど、今のうちから株式であったり、債券であったり、長い目でお金に働かせるということをやって、年をとってリタイアしてからも延々と続けていくと。80歳とか90歳まで続けて、必要なところだけ現金をおろしていくと。

60歳で終わりというのではなくて、死ぬまで続けていくことが大事。死ぬまで働く。死ぬまで稼ぐと。

3つ目は、居場所を作るということで、自分を仲間だと思ってくれる居場所を会社以外で作るということ。

この3つがあったら、着地点まで行けるんじゃないかなと思います。

お金を良くするのも悪くするのも自分次第

横石:ありがとうございます。リンダ・グラットンが、「100年生きる人生をどう生きるか」というお話をしていますけれども、そのヒントがあるのかなと思いました。

僕からも1つ、「そもそもお金とはなんなのかな」というお話を改めて藤野さんにお聞きしたいなと思っています。

今、ビットコインとかブロックチェーンとか、インターネットにまつわるお金の動きがあって、「そもそもお金って何だっけ?」と語られることが多くなったのかなと思います。

アメリカも大統領選があって、「経済がどうなるんだろうか」とか、不透明な時代の中で、お金をどのように見て、どのように付き合っていけばいいのかなと。藤野さんなりの考えがありましたら、教えていただけるとうれしいです。

藤野:お金というのはエネルギーで、エネルギーを良くするのも悪くするもの本人次第だと思います。

それはすごく強い生命エネルギーになることもあるし、負のエネルギーになることもあると思います。お金とは何かというと、自分の心の鏡になってるエネルギーだと思います。

自分が非常に立派な人だったり、心がハッピーな状態だったら、お金もハッピーなエネルギーになります。これが非常にネガティブな状態だったら、ネガティブなエネルギーになるのではないかなと思います。

私が一番最初に就職をしたときの先輩が、すごく下らないことを言いました。それは何かというと、「藤野さん、お金の本質を教えてやるよ」「お金とは、おっかねえんだ」って。何だこいつはと思って……(笑)。

(会場笑)

上野:ダジャレですね。

藤野:でも、そうだなと思うことがあってね。結局戦争するのも社会の格差を生んで、大統領をつくったり、おろしたりするのも、背景には金融と経済の問題があるので。

みんな戦争するのもお金のためだったりしますよね。だからお金というのは、そういう面で見ればおっかねえなと。取扱危険物だなと思います。

横石:ありがとうございます。

「確定拠出年金」を勧める理由

質問者4:本日はありがとうございました。ネコリーマンの○○です。

藤野:猫っぽいですね(笑)。爪を隠してる。

質問者4:僕はお金を使うのがすごく下手で、給料をほとんどギリギリまで使い切ってしまいます。ちょっといろんな人に心配されるので、若いときにどうやってお金を使っていたのかということ、節約や貯金に関することををうかがいたいと思います。

横石:じゃあ、美香さんからうかがいましょうか。

上野:私もけっこう似ているところがあって、使っちゃうんですよね(笑)。物を買うというのもそうなんですけど、私の場合は舞台芸術が好きなこともあって、体験を買うといったところにバンバン使っています。自己投資になるんだったらけっこう使うタイプでした。最近ようやく投資というか、貯蓄をやらなきゃなと思っています。

自分の収入になるものも増やさなきゃということで、仕事のやり方を変えたり、自分のアピールの仕方を変えたりしました。出るのも多ければ入ってくるのも増やさなきゃということで。

藤野:ものすごく現実的なアドバイスをすると、来年の1月から加入対象範囲が拡大する「確定拠出年金」というものがあります。これはめちゃくちゃいい制度で、ここにいるみなさん全員が該当すると思うので、それは絶対に入ってください。得しかありません。

今までは、ほとんどの会社員と主婦は入れなかったんです。でも(2017年)1月から日本人のほぼすべてに開放されたので、みなさん全員該当者になります。

何がすばらしいかというと、60歳未満のサラリーマンの多くは上限が月額2万3,000円なんだけど、これは全額所得控除なんです。月2万3,000円だとすると、年間トータル27万6,000円分所得から差し引かれます。

保険と一緒の扱いになるので、年末調整の書類にチェックをするだけなので、めちゃめちゃ楽です。それで税率分だけ返ります。もし30パーセントの税率だったら、30パーセントだけ戻ってくるわけです。こんなものはないですよ。

それは消費しないで投資なので、かつNISAと違って有利なのは、60歳まで儲かった分だけ全部非課税です。税率上のメリットがバリバリあるので、まずこの2万3,000円を毎月積み立てで引き落とすということにするといいです。

問題は1つだけ、60歳まで下ろせないということですが、それは今のあなた(質問者)の条件にかなっていると。引き落とせないですからね(笑)。だから2万7,000円を毎月そこで引き落としをすると、年末になったら税率分だけボーナスが来るということですから。これはみなさんぜひ入られたほうがいいです。

どういうところで入れるかというと、「確定拠出年金」でネットで調べると、いくつか口座が作れる会社があります。手数料を考えたときに、SBI証券やりそな銀行あたりがお得なので、そのどこかで口座を開くと。

年金資産の投資対象はいわゆる投資信託なので、自分でどういうものを買うのかを決めないといけないんですが、それが一番お得だと。かなり具体的なアドバイスです。その後、毎月使い切ったとしても、(積立金が)2万3,000円ずつあるから、60歳まであれば一財産ですよね。

お金とうまく付き合う3つの秘訣

横石:ちなみに何にそんなにお金を使ってるんですか? 自己投資ですか? お見受けするとだいたい20代30代の方が多そうなので、そういう質問が出てくると思うんですけど。

何に使ってるのかな。今日の話を聞いていたら「節約するだけじゃダメだ」とみんなわかったと思いますけど、そこの使い方をもう少し知りたいです。

質問者4:消費はもちろんそうなんですけど、食べ物と服、あとはこういうイベントにもけっこうお金を使ってたり、本にも使っているともうなくなっちゃうという感じです。

横石:じゃあ、自己投資をしているわけですよね。お話を聞いていて思ったのは、わりと日本の場合は、お金に関して手段と目的が逆転しちゃうというか、本当は何かをやるためのお金なのに、貯めること自体が目的になってしまっていると。

本当は自分がやりたいことをやるための働きなのに、働くことだけが目的になってしまっているみたいなことがいろんな(TWDWの)テーマでも出てきましたよね。

藤野さん、これはどうすればいいんですかね? もう1人で黙々とトラリーマンになればもちろんそれはそれでいいし、そうやってうまくやっている方も知っているんですけど。

自分自身は編集者なので、「節約〜」みたいな記事が出たら、すごいウケるわけですよ。その数字も見ているので、大きく変えていくような方策はないかもしれないですけど、ヒントみたいなものはありますか?

藤野:やっぱり「好き嫌い」を鋭敏にするということが重要かなと思いますね。

横石:やりたいことがわからないという方、多いですよね。

藤野:多いですね。だから、やりたいことがある人というのはそんなに迷わない。やりたいことがない人って、けっこういるんですよ。

探したいという人に対するアドバイスは、好き嫌いを鋭敏にすること。そうすると、何が欲しくて何が欲しくないのかということがわかる。そのなかで消費する、投資するというところが自ずと明確になってくるということですね。質問者の彼なんかは、いいと思うんですよ。

金融資産がまったくゼロはダメだから、2万3,000円くらいは(毎月積み立てを)やっておいて、後はこういうこと(自己投資)をするとリターンが高いですよね。自分への教育投資もリターンが高いので。

お金儲けで重要なことは3つなんです。

1つ目は、稼ぐ力。

2つ目は、上手に消費する。稼ぐ以上に使わない。

3つ目は、残ったお金を上手に運用する。

この3つ全部が得意な人はあんまりいないです。稼ぐのが得意な人は使うのが上手、稼ぐのが下手な人はだいたい節約が上手。

でも稼ぐのも上手で節約も上手な人というのは、投資が下手なんですよね(笑)。どこかでお金が減るようになってるんですけど、この3つをバランスよく力をつけていくことを意識するといいと思います。

横石:大変素敵なアドバイスをいただいたところで、上野さんはどうですか? お金の付き合い方ということで。

上野:今日のお金の話では、トピック的に一番ド素人だと思いました。節約も苦手だし、上手に使うかというとそれも違うし、稼ぐのも苦手だし。全部ない人なんじゃないかと思っていたんですけれども(笑)。

節約と投資というところで、投資の原資はお金だけじゃない、ほかのものも社会に還元してそれが返ってくるということが投資なんだ、というのは今日聞いていて目から鱗でしたね。

横石:本当になかなか聞けないお話で、いい会だったと思います。ひと言でまとめると、お金はおもしろく使うといいのかもしれません。「もっとおもしろくお金を使っていいんだよ」というメッセージとして受け止めましたが、それで大丈夫でしょうか?

藤野:はい、もっとおもしろく使わせていただきます(笑)。

横石:というわけで、このあたりでセッションを終わらせていただこうと思います。登壇者のみなさん、ありがとうございました。

(会場拍手)