提言その1.「自分自身の人生の投資家になれ」

上野美香氏(以下、上野):今日は藤野さんから3つの大事な提言をいただいているので、そちらに進みましょう。

藤野英人氏(以下、藤野):そうですね。まず提言その1、「自分自身の人生の投資家になれ」ということです。投資とはお金だけの話ではないということです。

多くの人は、投資というと「お金でお金を稼ぐこと」だと思っているんですけど。そうではなくて、投資でお金を使う部分というのはごくわずかなんです。

例えば私は、日本で最も多くの起業家と会っていると思うんですけど、その人たちに共通しているのは何かというと、元からお金持ちだったという人はほとんど見ないんですね。貧乏だったということがけっこう多いです。あと、イケメンは少ないですよ(笑)。

(会場笑)

藤野:多くの人は、美人だったり、イケメンだったり、お金を持っていれば幸せになれると思っていますよね。

「自分が今幸せな状態でないのは、容姿が悪い、もしくはカネがないことに端を発している」と思う人がいると思いますがそうではなくて、(自分が)何をしたいか、(他人に)何をしてあげたいかという気持ちがとても大切です。

なぜかというと、今はとくにお金に価値がないんです。みんな価値がないものを集めているんです。なぜかというと、マイナス金利というのは、「お金に価値がない」「お金がどこにでもある」ということを示すものなんです。

今は何が足りないのかというと、夢と希望が足りないんです。「お金があれば夢と希望は出てくるものなんですか?」というと、関係ないですね。何をどうやりたいかというのは、お金に関係がないことだと思います。

なんとなく「お金があれば幸せになれるんじゃないか、うまくいくんじゃないか」と思っている人が多いんだけれども。

実際によりよいチームだったり、よりよい友達だったり、高い志・夢というのは、お金には関係ないんですよね。

実は投資というのは、まずそれらが最初にあって、そこに投資をすると。志関係なくマネーゲームをするのは、その人自身がマネーゲームの信奉者なんですね。

投資を悪にしてるのは自分自身なんです。志に投資することが詭弁だと思っている人がいるとしたら、その人自身が投資を汚くしているんじゃないかなと思います。

投資して儲かる会社の見極め方

上野:(藤野さんは)年間数百人から数千人に会われるんですよね? 大企業の経営者も、中小企業の経営者も。

藤野:これから会社を作るという人にもたくさん会っています。だいたい貧乏人です。

(会場笑)

藤野:本当にそうなんです(笑)。会社を作ると社長になるわけですよね。社長というとすごいことに見えるけれども、会社を作るとわかります。ただの貧乏人です。売上もないし。

でもそこからスタートしていくということがすごく大切だし、そういう人の夢にかけられるかどうかというのは、投資家の醍醐味なんじゃないかなと思いますね。

上野:お会いになってお話しになって、会社のビジョンもあれば、会社の雰囲気とか、いろんなところがあると思うんですけど、藤野さんが一番見られるところはどういうところですか?

藤野:ビジョンやミッションはとても大切なんですけど、まずは本人が信じてるかどうかですよね。あと、社員が信じてるかどうかもとても大切です。

やっぱり会社の中に入ったときの雰囲気が良い会社と悪い会社とでは、明らかに業績に差があります。

例えば、自分の会社が好きだという人が30パーセントしかいない会社に投資して、成功しますかっていう話ですね。成功しないですよね。

「この会社はみんな自分の会社が好きそうだな」と思う会社に投資をしたほうが確率が上がるじゃないですか。

多くの人は、「どのテーマが有望ですか?」とか「どのビジネスモデルに注目してますか?」とか言われるんですけど、そんなことは関係ないんです。社長や社員が「自分の会社大好き」という会社に投資をすれば、ほぼ絶対に儲かるんですよね。

上野:「信じる」というのはそうかもしれませんね。自分はアメリカ西海岸のベンチャーの日本支社で働いていまけど、社内で定期的に「自分の会社に誇りを持っているか」とか、「役割ややっている仕事には満足しているか」という調査があって、英語なのですごくダイレクトに聞いてくるんです。

その調査を半年に1回くらいやるんですけど、経営者もかなりその結果を重要視しています。

最初は日本人として見て、「こんなダイレクトな聞き方をして効果あるのか?」と思うんですけど、何回も繰り返し聞かれていると、「自分の働いている意味はこうだ」とか、「チームとしてやりやすいか」ということを考えるようになってくるので、慣れというのはあるのかなと思いました。

すべては投資で成り立っている

藤野:だから本当に志が大切なんですよね。では、次にいきますか。

「すべては投資で成り立っている」ということです。

投資で成り立っていないものはないんですね。みなさんが着ている服だって、誰かが投資した会社が作った服ですよね。みなさんの眼鏡や靴、パンツ、ブラジャーもそうかもしれないし、床の板とか机とか、投資で成り立っていないものはないんです。

見ているもの聞いているもの、ここにあるものはすべて、誰かがリスクをとって、多くの社員を動かして作っているということですから。投資は悪どころか、僕らは投資の上にいるということをみなさんと共有したいと思います。

自己投資と他己投資

投資には大きく分けて、自己投資と他己投資の2つがあります。自己投資は、自分をより高めることで自分を通して世界をより高める投資ということです。

他己投資は、直接世界を変える。教育投資、設備投資、株式投資、社会投資というものがあります。とくに僕たちが一番大切にしているのは教育投資です。社員もそうだし、社会に対してもそうだし。これが一番破壊的なリターンがあるんですね。

なぜかというと、僕らが今ここにいるのも、誰かが投資してくれたからですよね。お父さんお母さん、学校の先生がみなさんに莫大な時間を投入してくれたおかげで、今の僕らが成り立ってるわけですから、未来に向けてそれと同じことをする必要があるということです。

設備投資は工場を作ったり、株式投資は会社に投資をするということ。社会投資は寄付やボランティア。あとは自己投資と、まあいろいろあります。

今こうやって(会場で)話を聞いているのも、みなさんがデートしたり、おいしいものを食べたり、家で寝ていたりということを捨てて、僕らの話を聞いてくれるというわけですから、投資をしている瞬間じゃないかなと思います。

提言その2.「損得よりも好き嫌いを選べ」

上野:提言その2、「損得よりも好き嫌いを選べ」。

藤野:そうですね、仕事はお金だけのためじゃないと。これはけっこう大切で、僕らは「好き嫌い」よりも「損得」で考えがちなんですね。

例えば、電通さんの件でも、おそらくこういうことがあったと思うんです。

電通さんの女の子が「辛い、辞めたい」ということを誰かに漏らしたとしたら、たぶん「せっかく東大入って電通みたいないい会社入ったんだから、もうちょっと我慢しろよ」「今辞めると損だぞ」というようなアドバイスが多かったんじゃないかなと。

実は日本人は、「好き嫌いを大切にしない」という教育を受けてるんですね。「あいつが嫌いだから作業しない」とか、「僕はあの大学が好きだから入学したい」とかいうことには、お父さんとかお母さんとか学校の先生が、「お前、好き嫌いで選ぶなよ」ということをよく言ったと思います。

じゃあ何かというと、「損得」が好きだということです。正義・不正義というのももちろんあります。美しいか美しくないかとかいろんな軸があるけれども、実は僕らは無意識に損得で考えるように教育されているんですね。

でもすごく重要なのは、好きとか嫌いとかいう感覚は、損得を含んでそれを超えている僕らの本音だということなんです。

「もうこの会社嫌いだ、この上司嫌いだ」という感覚とか、子供が「この食べ物好きだ、嫌いだ」という感覚はすごく大切にする必要があるんじゃないかなと。

だから僕らは、投資は損得じゃなくて好き嫌いで選んでいます。この会社好き・この会社嫌い。「お前、好き嫌いで選んでんのかよ?」と言われるかもしれないけど、「いや、選んでます」と。それは損得を越えていい結果が出ると信じているんですね。

だから僕は、投資家として大事なのは、自分の好き嫌いの気持ちをもっと揺り動かすことが大切なんじゃないかなと。僕は何が好きで、何が嫌いなのかというのは、自分の人生観に基づいているわけですよね。

だから好き嫌いをもっといい意味で、自分の中でむきだしにすることがいい投資家になるために大事なんじゃないかなと。

投資家って損得で選ぶ人だと思われるけど、損得で選ぶ人というのは、けっこう儲けも薄いし、実は損をすることが多いんです。

いい会社といい人を見抜くキラークエスチョン

上野:そうなんですね。一方で会社を運営されていくときには、藤野さんの好き嫌いもあるし、ほかのファンドマネージャーの好き嫌いもあるし、そこのぶつかり合いみたいな、好き嫌いのバランスはどうされているんですか?

藤野:例えばある会社を、「藤野さん、この会社に投資してください」とアナリストが推奨したとしますね。議論が割れますと。最後どうするかというと、アナリストに「ぶっちゃけその会社好き?」って言うんです。そのときにパッと「好き」って出なかった会社には投資しません。悩むんだったら「その程度なんだな」と。

実は私、自分の会社に中途の人が就職するときに、必ずすることがあります。許可をとって、前の会社に電話するんですね。「この人はどんな人ですか?」とかいろんな話をしますけど、聞きたい質問はたった1つです。「彼、好きですか?」と。

これがキラーな質問なんです。そうすると、「うーん……いい人です」。これって「でも仕事はできない」ということなんですね。それで「彼好き?」って聞いて、「仕事はできます」と言われたら「けど嫌なやつです」ということだったりします。

(会場笑)

藤野:みなさんもそうだと思いますよ。同じ電話がかかってきたとします。それで「あの人好きですか?」って言われたときに、仕事ができてチームワークがよくなかったら、「好き」って言えないんですよね。だから「好き」という気持ちはものすごく大きなセンサーなんですよね。

だから「好き?」って言った瞬間に、「うーん……いい人です」って言ったら、仕事がダメ(笑)。ほぼ間違いない。

「あの人好き?」って聞いているのに、「仕事ができます」って言ったら、仕事を独り占めにしたり、情報を隠したり、何か問題があると。だって「仕事はできます」というのは、「人としてはあまり好きではない」というのが言外にあるんですね。

僕は、だいたい3人くらいに聞いて、2人「好き」って即答しない人は採用しないです。今までの経験で、「前いた会社の人とどういう関係なのか?」というのは、ものすごく大事だと思っています。

上野:私も仕事の好き嫌いというところが、心の中で「いいのかな?」って思っていたところもありますが、何年か仕事をしてみて、けっこう大事なところだと思います。