利上げのペースは今後どうなるのか

広瀬隆雄氏(以下、広瀬):さて、アメリカの政策金利、フェデラルファンズ・レートなんですけれども。そうすると、今、これまで話してきたように、アメリカの景気は強い、賃金も上がり始めている、原油価格も上がり始めているということで、そろそろFRB(連邦準備制度)は本腰入れて政策金利を引き上げていかなきゃいけないわけですよね。

この前、12月14日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25パーセントの利上げが発表されました。現在のFFレートは0.75パーセントになっています。

声明文の発表とともに、添付資料として経済予想サマリー、SEPというものが示されました。これは俗に言う「ドット・プロット」というやつですけれども。

それによると、2017年末、つまり今からちょうど1年後のフェデラルファンズ・レートの予想。これはFOMCに参加している15名のメンバーの平均値は1.4パーセントという数字でした。さらに2018年のコンセンサスは2.1パーセント。さらに2019年のコンセンサスは2.9パーセントでした。つまり、「1.4」「2.1」「2.9」というターゲットなわけですよね。

「それはいったいなにを意味するんだ?」ということなんですけれども、利上げの回数という言い方に直せば、今、FRBは1回利上げするたびごとに0.25パーセントずつ、0.25パーセント刻みで利上げするんだというふうに仮定すれば、来年、つまり2017年は3回。

再来年、つまり2018年も3回。さらに2019年も3回。つまり、3回・3回・3回、そういうペースでの利上げということになるわけですよね。

「このペースは早いのか遅いのか、どっちなんだ?」ということなんですけれども。ちなみに、前回、2004年から2006年にかけて利上げの局面があったんですけれども、そのときはどういうペースだったかというと、1年間に8回かな。つまり、毎回FOMCがあるごとに利上げされたと思うんですよね。

株式市場にとって一番大事なこと

それに比べれば、今回の傾きはこんな感じ(右側の黒線)で、それの半分以下の傾きになると思うんですよね。

だから、政策金利は引き上げられてくる。だけれども、引上げのペースは、少なくとも今コミュニケートされているペースが実現するのであれば、過去の引上げのペースよりもずいぶんおっとりした、半分以下のスピードのゆっくりした利上げだということですよね。

なぜこういうことをごちゃごちゃ議論するかというと、株式市場にとって一番大事なことというのは、「いったいどういうペースで利上げしてくれるんですか?」と。「早くそのロードマップ、つまり、どこに向かおうとしてるのか、その道標を早く教えてください」と。

「そしたら、それに応じて株の投資の仕方を考えます」と。それが投資家のやることなんですよね。だから、ふらふらFRBの意見が変わるようだと、株式市場にとってよくないんですよ。

実際、過去に利上げの局面があった場合、株式市場は利上げすると必ずお終いになっちゃうかというと、そうではありませんでした。

過去の利上げ局面で、FRBが「次、こういう方針でいきますから、よろしく」というふうに新しいリズムを打ち出して、その方針どおり、きちんと利上げがリズミカルにできた場合というのは、株式市場は強かった。景気も強かった。ということですよね。

でも、過去の6回ある利上げ局面のうち、2回でリセッションになりました。そのときは株式市場も弱かった。そのときは政策金利はどうだったかというと、すごくギクシャクしたんですよね。つまり、上げようと思ったけれども上げられない。逆に、維持かと思ったら、慌てて今度バタバタっと上げたとかね。

そういうふうにドタバタ、アクセルとブレーキを交互に踏むような、そういう手綱さばきだった場合というのは、景気が失速するのが早かったんですよね。なおかつ、株式市場も下落したということですよね。

2017年という年はそういう大事な年になってるので。ジャネット・イエレン議長の采配ですよね、それがしっかりしたものになるかどうかというのを見届けなければいけないと。

じゃあ、今回、3回・3回・3回というロードマップが示されたと。「これでいいじゃないですか。なにが問題なんですか?」とみんな思うかもしれないけれども、あれは「こういう方針ですよ」ということをアナウンスしただけなんですよね。でも、有言実行でちゃんと実行が伴わなきゃいけないわけですよ。

そうすると、実行が伴うかどうか、その試金石になるのが3月15日のFOMCになります。だから、なにが言いたいかというと、3月15日のFOMCでは、きっちり0.25パーセントまた利上げしてほしいと。

そのときに示されるSEP、経済予想サマリー、それも、今まで同様、2017年で1.4パーセント、2018年で2.1パーセント、2019年で2.9パーセント、そういう12月14日に示したロードマップにぶれが生じていないということが非常に重要になるということですよね。だから、そこらへんあたりをにらみながら、来年、投資していただきたいと思います。

金融相場から業績相場に移っていく

次、企業業績。1月下旬になると、決算発表シーズンになってきますけれども。

去年まではずっと四半期ごとのEPS(1株あたり純利益)の成長率がずるずる下がっていた。このかなりの部分は、実は原油価格の下落によるオイルメジャーの業績の悪化、それが足を引っ張ってるわけですけれども、そのトレンドが今ようやく立ち直って、それで今、EPS成長率は加速局面になっているんですね。

この前の第3四半期の決算発表からようやく、前年比で+3.9パーセントだったわけですけれども、プラスに戻ってきたと。だから、企業業績でいうと、今後もそういったかたちでEPS成長が加速するようなシナリオ、それが実現しなきゃいけないということですよね。

要するになんなんだというと、金利低下局面では、金利がどんどん下がっている局面、つまり去年とか一昨年とかね、そういう状況では相場張るのは簡単なんですよ。金融相場だからね。銀行との競争がどんどん楽になるからね。

だけど、来年以降は、金利が逆になってきて上昇してくるわけですから、真綿で締められるみたいにだんだん厳しくなるわけですよ。でも、それ自体は株式の終わりを意味しないわけですよね。それ以上に景気がよくて、それ以上に企業業績が伸びさえすれば、株価はぶっこわれないということですよね。

だから、今後は業績がちゃんと上がっていくのかというのをしっかり見届けなければいけない。もっと別の言い方をすれば、金融相場から業績相場にマーケットが移っていくということですよね。

これに関しては、僕は楽観視していません。楽観視していない最大の理由はドル高ですよね。東京マーケットのこと考えていただければすぐわかると思いますけれども、円安になると日経平均は上昇しますよね。それはどうしてかというと、円安になると輸出企業が楽になるからですよね。

それと同様、ドル安になると、アメリカの輸出企業は楽になって、EPSは伸びやすくなります。だから、ドナルド・トランプが当選した以降に起こったドル高というのは、このEPS成長の視点から考えると、ものすごくよくないことが今起こっているわけですよね。

だから、来年のアメリカ株のアウトルックに関して、私が悲観的な見方をしている最大の理由は、ドル高によるEPS成長の喪失ですよね。それを心配しているからです。

欧州経済はユーロ安を懸念

次、過去に毎年S&P500がどのくらい上昇もしくは下落したのか、それをグラフにしたのが、この「S&P500指数の年間リターン」というグラフですけれども。

そうすると、アメリカのマーケットの年間リターンの話をしてたんですけれども、要するに、なにが言いたいかというと、だいたい均(なら)してみると4年に1回のぐらいのペースでダウンイヤー、つまりマイナスになる年が生じるということなんですよね。

ここのところ数年間ずっとプラスだったので、そろそろダウンイヤーを意識しなければいけない局面に来ているんじゃないかと、私は言いたいということです。

ヨーロッパ経済もかなり復活してきてます。GDP成長率は前期比で0.3パーセントぐらいでもたもたしてるわけですけれども、これは今後だんだん加速していくと思います。

消費者物価指数もいい感じで上昇し始めています。その理由は主にエネルギーですね。青色ですけれども。その原油価格が戻ってきているからということですよね。

製造業購買担当者指数も強くなってきています。

もう1つ指摘したいのは、ユーロ安ですよね。さっき、アメリカのところでなにを懸念してるかという説明のなかで、「ドル高を心配しています」ということを申し上げました。その裏返しで、今、ヨーロッパ株の懸念点を考えた場合、ユーロ安なんですよね。今は。

ということは、ちょうど今、日本株が円安で元気になってのると同じように、欧州株もこれからユーロ安で元気にならなければおかしいよね、ということを私としては言いたい。

なぜユーロが安いのかということなんですけれども。1つの理由は、来年、つまり2017年のヨーロッパのカレンダー。フランスで大統領選挙があります。それからドイツの連邦議会の選挙があります。

そういったかたちでいろいろイベントがあるので、今年はブレグジット(イギリスのEU離脱問題)、つまり、イギリスにおけるユーロ圏離脱の国民投票が番狂わせで離脱派が勝利しちゃったわけですけれども、それにみんな懲りてるんでね。

だから、みんながすごくヨーロッパのことに関してcautious、つまり用心深く見てると思うんですけれども、僕はそれぞれの来年のカレンダー、選挙の中身を見てみると、それほど心配する必要はないんじゃないかなと考えています。

「相場というものは不安の壁を駆け上がる」という格言がありますけれども、その意味では、来年の欧州市場というのは不安要素はあるわけですよね。だけど、むしろそういうふうに「明らかにこれが不安要素だよね」というものが最初から明白に投資家に認識されている。そういうマーケットのほうがむしろ組みやすいんじゃなかと僕は考えています。