18歳の高校3年生と考える、社会とお金の仕組み

瀧俊雄氏(以下、瀧):はじめまして、マネーフォワードの瀧といいます。「18歳からのマネーフォワード」というタイトルが付いていますが、今日と明日、みなさんに向けてお金に関する授業をします。

今日と明日、どういうことをお伝えしたいかというと、みなさんが社会に出たときに、優しく言えば困らないように、厳しく言えば生き残っていけるように、お金について基礎的な部分がちゃんとわかるようなことをお伝えしたいなと思っています。

今日は、社会の仕組みやお金の仕組みについてお話をします。明日は自分にとって「将来どうなるんだろう?」というところを考えてもらおうと思います。

ではさっそく、1つ目のグループワークです。いきなりですが、「お金とはなんだろう?」ということを、グループで4分ほど考えてみてください。その後、グループで1人ずつ、しゃべる人を決めておいてください。ではスタート。

(グループワーク開始)

:順番に聞いていこうと思います。お金とはなんだろう? マイクを持っている前の方、お願いいたします。

生徒1:物の価値を表すもの。

:ありがとうございます。ほかにもありそうな表情されてますけど、大丈夫ですか?

(会場笑)

生徒1:物と物の交換手段です。

:ありがとうございます。隣の班にマイクを渡していただいていいですか。どうでしょう?

生徒2:価値の代用品。

:かっこいいですね。プロみたいな答えをありがとうございます。正解を求めなくていいので、カメラを意識しておもしろいことを言ってみてください。その隣の班、お願いします。

生徒3:人類が作った最大の概念。

:かっこいい! 僕はそれ、すごく正解に近いと思います。その後ろの班の方、どうでしょう?

生徒4:お金があれば、愛以外は全部買えると思います。

:愛は買えないんですか?

生徒4:愛はお金じゃないと思います。

(会場笑)

:ありがとうございます。その後ろの班は、どうでしょう?

生徒5:物の価値とか人の努力とか、目に見えないものを形として表したものだと思います。

:ありがとうございます。

生徒6:生きていくのに必ず必要なもので、場合によっては命より価値があるものだと思いました。

:ありがとうございます。命より価値があると、なんか高校生に言わせるとゾクッときますね。

生徒7:最初に言ったやつとまったく同じでつまんないんですけど、物の価値の基準となるもの。あとは物を買ったりするときに必要なもの。

“モノの交換手段”以上のお金の価値

:ありがとうございます。みなさんにいろんな回答をいただいた中で、交換価値とか、物を買うときに使えるとか、そういうのがあるんですけど。

でも、なんかこう(お札を学生に渡す仕草をしながら)「はい、これあげようか?」と言われると、それ以上のフィーリングがあると思うんですよね。

たぶん、みなさんにとって最も収入が多い月は1月かなと思いますが、「お年玉が思っていたより少なかった」とか。

もっとゾワゾワするやつですと、友達よりもお小遣いが少なかったことがわかったとき、とかでしょうか。

あるいは、校長先生からこの学校はアルバイト禁止だと聞いているんですけど、お金がどうしても足りないときに、アルバイトを考えたりとか。

この学校も学費がかかるんですよね? みなさんにも学費がかかってます。いくらだと思いますか? そういうことを知ったときに、「先生方も生きていくために学費必要だよね」「でも、なんで学費はこの水準なんだろう?」と考えることもできますよね。

ちなみに、メルカリというサービスを使ったことがある人はいますか? メルカリを知っている人?

(会場挙手)

:これは、物を自由に売買できるサービスです。お金が必要なときなどに、手元にあるものを売ることができるんです。

お金というのは多くのケースで、手元にはなくて、今ほしいものなんですよね。

それは「ただの交換手段です」という話に比べると、格段に感情が揺さぶられるものでもあるんです。これは僕でも一緒です。

お金についてわりと研究している人間でも、「お金ほしいですか?」と言われたら、いろいろ考えることがあるんです。

高校生が持つお金の悩み

では、「世の中、けっこう同じようなことで悩んでいます」という話をします。

例えば、15歳の人がお金について調べようと思ったときに、どういうことを気にしているかというと、「メルカリで持っている物を売って、お金を手にしたい」とか、「親バレせずにお金を稼ぎたいです」みたいな。

すごくほしいものがあっても、自分はアルバイトをしていい立場でもないから、なんとかしてお金を得たいというのが15歳の悩みなんです。

16歳になると、実は人生で投資について学ぼうとしてるのは16歳だけなんですよ。みなさん、『インベスターZ』という漫画をご存知の人います? 

(会場挙手)

:『インベスターZ』は投資の漫画なんですけど。そういうものをベースに、投資について学ぼうかと考えているすごくレアな年齢が、みなさんの半分ぐらい(の割合)ですかね。17歳の人はお金の何について悩んでいるかというと、借金なんですよ。

(会場笑)

:みなさんが平均的に「買いたい物があるけど、お金ないな」と思ったときに、働いてアルバイトをするのではなく、「17歳でなんとかしてお金を借りたい」みたいなことを思い始めるわけですね。

これは18歳になっても一緒です。(考えるのは)借金することばっかりです。驚くことに、19歳になっても一緒です。19歳になっても、みんな「お金を借りたい」と思っても借りられないから(インターネットで)検索しているんですね。

みなさん、「買いたい物があるけど、今はお金ないから借りられないかな?」と悩むのは来年ぐらいまでです。2年後、3年後……みなさん20歳になりました。そうすると、いきなり悩むことが変わるんですよ。

貯金ができない20代〜30代

20歳になると、健康保険料とか年金とか、いきなりそういう支出が始まるんですね。本当に1歳の差だけで、それまでずっとお金を手にする手段がなくて悩んでいたのが、20歳になると保険料が発生するので、それについて調べる。

「そんなの聞いてないよ、親が払ってくれるんじゃないの?」と慌てる人がいっぱいいます。今日はあんまり細かく触れられないですけど、そういうことだけ覚えておいてください。

その後がけっこうおもしろくて、20歳から5年後の25歳にどう思っているかというと、貯金がなくて悩んでいます。

借金をする方法がないというより、今使いたいお金があったとしても、貯金がなくてすごく困っているというのが25歳です。

ちなみに僕は35歳なんですけど、35歳もほとんど一緒です。なんとか貯金をしたい。貯金ができないことに悩むんですね。25歳、35歳と貯金ができないことに悩むと。

じゃあ、みなさんの親ぐらいの年、50歳はどうかというと、やっぱり貯金ができていないんですよね。「貯金できないよ」と、ずっと言い続けるんです。さらにすごいのが、65歳になってもやっぱり「貯金が足りない」と言っているんです。

人生を通じて、「お金を借りたいな」とか「貯金が足りないな」とずっと思いながら生きているのが、Googleで検索している平均的な人の姿なんです。

それで、80歳になった人が何を調べるかというと、再び17歳ぐらいに戻ってきて、またお金を借りることを考えるんですね。

(会場笑)

お金が多いと幸せになれる?

:お金について調べなきゃいけない人は、それなりに困っていたり、課題感があったりする人たちなので、「どうしても足りない」という方向に寄るところはあるんですけど。

でも、「こういう問いにずっと苛まれて生きていくのは嫌だな」というところで、今日みなさんにはいくつか考え事をしてもらおうと思っています。

次のトピックですが、もう一度班に戻っていただいて、先ほど「愛は買えない、愛以外はだいたい買える」と言っていたと思うんですけど、愛を買えると幸せかもしれないですね。お金が多いと幸せでしょうか? 4分で考えてください。

(グループワーク開始)

:はい、終了です。では端っこの彼からお願いします。

生徒8:最低限度のお金は幸せと比例すると思うんですけど、それ以上稼いでも、お金をいくら得ても幸せとは比例しないと思います。

:すごい条件付きの数式でありがとうございます。

生徒9:少しずつお金を貯めるのが幸せだと思っています。いきなり宝くじで大金をポンと渡されても困るだけで、それが幸せかなと考えたときに、ちがうんじゃないかなと思っているので。

:ありがとうございます。

生徒10:お金持ち全員が幸せだとは限らないんですけど、お金はある程度あったほうがいいかなと思います。

生徒11:お金をたくさん持ってると、もっとお金がほしいという欲望が働くから幸せにはならないと思います。

:ありがとうございます。

生徒12:お金を持っているほうが比較的、基本的な欲求はかなえられるから、幸せにはなると思います。かといって、お金がない人が幸せではないとは言えないので、結論から言うとわかりません。

(会場笑)

:ありがとうございます。

生徒13:私もほとんど同じなんですけど、努力してコツコツ貯めたお金は自分ががんばってきたという証拠にもなるから、幸せなことだと思うんですけど、いきなりの大金は自分でもどう使っていいのかわからなくなるんじゃないかと思います。

日本人の年収と幸福度の関係性

:ありがとうございます。すごく正確な、いろんなお答えをいただいたなかで、この問いは本当に正解があるかというとむずかしいところなんです。

おっしゃるとおりで、宝くじで急にお金をもらったりとか。あと実は、めったにしない買い物をするときというのは、人間そのものが変わるんですね。

「人間は給料が高いと幸せなのか?」という研究があります。

ある程度言えるのは、だいたい基本的な生活をするぐらい、日本でいうと(年収)300〜400万円ぐらいまでの間は、幸福度とお金は一緒に伸びるんですね。

その後は人によります。もっとほしい人はもっともらえるとうれしいパターンもあるんですが、学術的にはだいたいこのへんで線が止まります。300〜400万円ぐらいを超えてくると、人間の幸福度指数は変わったりします。

国の間で比べても、日本人がすごく苦しみながら年収400〜500万で貯めたお金を年収40万円の国に寄付した、(その寄付)先の人たちのほうがすごく楽しそうに生きてたりするみたいなこともあるので、一概には答えられない話なんですが。

ただ、ある程度までは必要ですよと。どちらかというと、幸せになるというよりかは不幸せにならないために300万〜400万円ぐらいの収入が必要だというのが、よく言われています。

宝くじの高額当選者の不幸な末路

もう1つ考えていただきたいのが、宝くじの話です。日本だと1等前後賞で7億円というのが宝くじの一番いい当たり方になっていますが、海外では100億や200億が当たるような宝くじも存在します。

今年の初めに、私がしゃべった内容が記事になりましたが、(注:『日経ビジネスオンライン』2016年1月7日付「宝くじで1億円以上当たった人の末路」)基本的に、いきなりお金がいっぱい手に入ったときというのは、気を付けたほうがいいです。みなさんが1,000万円くらい宝くじで当てると、それは必ず、みずほ銀行で受け取ることになります。

(スライドを指して)宝くじに当たると、こういう『“その日”から読む本』というのを、銀行の人が渡してくれます。この内容はすごく勉強になるので、当たっていない人にも配ればいいのにと思います。

どういう本かというと、1,000万円以上の高額当選者がもらえる小冊子なんです。だいたいのケースで、みずほ銀行の支店でこれをもらうことになります。

なぜかというと、宝くじに当たったら絶対にやってはいけないことが1つあるんです。おそらくそのとき、みなさんは働いていると思いますが、その仕事を辞めることだけはやっちゃダメなんですね。

我々も「働いていてつらい、宝くじ当たらないかな」「なぜなら仕事を辞めたいから」というケースが多いんですが、仕事を辞めると多くの人がどうなるかというと……すごく暇になるんです。

暇になっても、友達はみんな働いているので、なかなか遊んでくれないですよ。平日の昼間でも一緒に遊んでくれるような人に、「俺がお金を出すから」という感じで使うようになってしまうんですね。

そうやって仲間になる友達は、平均的に、自分がずっとお金を出すことを当たり前にして付き合っているような人が揃ってしまうところがあるんですよね。

なので、宝くじで当選しても、気が付くと本当にお金がなくなってる人というのが、仕事をいきなり辞めちゃうパターンだったり。みなさんも万が一、不幸にも宝くじが当たってしまったら、絶対に仕事は1〜2年間辞めないようにしてください。

人間が幸せを感じるお金の使い方

同時に、例えばの話で、7億円がダーンと当たりましたと。そのうちの3億円だけを使って、昔から応援してみたかったNPOを支えてみるとか。

途上国じゃなくてもいいと思うんですけど、「あしながおじさん」とか、いろんな人の教育機関にお金を当ててみるとか。そういうことをやれていると、平均的に人間というのは幸せを感じることができるんですね。

なぜかというと、幸せは自分のためなんですけど、人間はうまくできていて、ある程度を超えてくると、他人を幸せにすることで自分が幸せになるというのがけっこう効いてくるんですよ。

心理学でけっこう有名な研究家が、「人間がもっとも幸せを感じるときはどういうときなのか」というのをいろんなパターンで調査したときの答えがあります。

それはクリスマスプレゼントや誕生日プレゼント、「他人に何を買おうかな?」と考えている瞬間が、人間は一番幸せらしいんですよ。

これはけっこういい話だと思っているので、自分のためのお金の使い方じゃなくて、他人のためのお金の使い方も含めて、幸せに響いてくるということを頭の片隅で覚えておいてください。万が一、宝くじが当たったときのために。