永井豪という怪物
山田玲司氏(以下、山田):で、これで片付けなきゃいけない。日本におなじみ。バトルのときに、このカードは最強なので使っちゃいけないバトルカードです。これ。乙君氏(以下、乙君):そんななの!?
山田:怪物ですから。
大井昌和氏(以下、大井):まあ、日本でエロをみんなに植え付けたという意味ではかなり……。
山田:この人ほど、無自覚にエロとバイオレンスを子供のようにしれっと描く人いないんじゃないかなっていう。
大井:しかも、この人、女性苦手だったっぽいんですよ。
乙君:えっ。
山田:そうなの。だから、ほぼ名作は童貞時代に描いてるって噂があります。
大井:『ハレンチ学園』とかたぶん童貞で描いてる。
山田:童貞で描いてます。
乙君:あ、だから、あんな、なんていうの。
大井:おっぱいを描かなかったり。
山田:見たことないんで、うまく描けないの。陽に振っているかのように見せながら、めちゃめちゃ陰もやるし。で、やっぱりなにがすごいって、同時に、エロスのなかには異物と同化するという恐怖があるわけ。エイリアンですよ。要は、だから、なにかと合体してしまうんだよ。
大井:自分が悪魔か人間なのかみたいな。
乙君:異形のものですね。エログロのグロのほう。
山田:そうそう。それを少年誌のなかでものすごく初期にがっちり掴んでぶつけてるの。それは、デビルマンが一番はっきりそこでバーンってやっちゃうっていうさ。もう恐ろしいよ。だから、生きるほうの生、セックスの性からの逆側というのを同時に描いてしまったっていうさ。魔物ですよ。この人は。
大井:生と死が直結してるということが、永井豪の漫画を読めばわかるということですよね。死と隣り合わせで生の喜びがあるみたいなことを、しかも無自覚に描くみたいな。
乙君:無自覚なんだ?
山田:いやもうたぶん、本人も言ってるけど、チャネリングだよね。
大井:この人、霊感ネームですから。
乙君:え?
大井:漫画でネームってあるじゃないですか? コマ一気に描くじゃない? 24ページあったら、最初に24ページ、ネームを普通切るじゃないですか。この人切らないんですよね。
1コマ目描くじゃないですか。ペン入れするじゃないですか。そんで「次はじゃあどうしようかな?」ってまたコマ描くじゃないですか。絵描いて、「次どうしようかな?」って描くんですよ。
乙君:全体の設計図は描かずに。
大井:しないんですよ。1コマずつ描いていくんですよ。
乙君:へ~、そうなんだ!
大井:だから下書きもたぶんしていない。
乙君:下書きもなし?
大井:だからもうガンガン。たぶん。だって週間4本やってましたもんね。
山田:うん。
大井:だから、そんな暇ないみたいな。
永井豪のネームはチャネリング
山田:5本とか挑戦していって、流石に無理だと思った。(一同笑)
山田:1回撤退しています。
大井:そうそう(笑)。
山田:「1日1本描けるじゃん」とかでやっちゃったらしい。限界まで行って、まあ行って戻ってきて。
大井:ネームの整理とかやってる暇ないですよね。
山田:そう。だから整合性よりもその場の勢いなので。だから、今、見直すと「うわっ、ひでー」という回も。
大井:マジンガーとか、今読むとヤバイんですよ。
山田:マジンガー、忙しかったね。
大井:そう、忙しかった。
(一同笑)
山田:あの頃は『デビルマン』と『マジンガーZ』同時にはねてたので。それと同時に、いろいろやってたんだよね。
大井:全部やってましたから。『オモライくん』もやってたし。
山田:そうそう。だから、手が回ってないのがすごくわかっちゃうよね。
大井:逆にいうと、そういう状態だからデビルマンがあそこまで変な方向ではじけたということもあるってことだから、否定できないんですよね。そのやり方でああいうものができるのであれば、それでよしみたいな。
山田:で、あの人はチャネリングなので、ネームはチャネリングなんだけど、鬼の漫画描くと本当に鬼が降りてきちゃうから大変なの。
大井:そうそう。
山田:それで苦しむの。本当に病気になったりとか苦しみながら。
乙君:デビルマンとか降ろしたらヤバイことに(笑)。
山田:だから、あの頃から体験してて。『手天童子』やってる時が一番苦しかったって。
乙君:へ~。
山田:だから、もう画面に現れているものが、本当に向こうの世界を描いちゃってる。だから、題材がほとんどそうなのね。ダンテとかさ。見てみると、根っこにあるものが魔界に通じてるんだよ。ほとんどのものが。やばい人なんだよ。そこからのエロティシズムだから、基本イタリアだよね。
乙君:コメントでも「ミケランジェロかよ」ってあったけど。
山田:そうそう。ミケランジェロにすごい強いじゃん。だから、あの人、イタリアですごい人気あるじゃん。
大井:あー、そうですね。
山田:イタリアとフランスで人気がある。
乙君:え、そうなんですか?
大井:そうそう。
死がたぶん一番エロい
山田:フランス人って、みんなグレンダイザー知ってるんだよね。大井:『UFOロボ グレンダイザー』。
乙君:グレンダイザーなんですか!?(笑)。
大井:一番すばらしいと言われたアニメが『UFOロボ グレンダイザー』です。
乙君:えー、すげー!(笑)。すごいね。
山田:タイだと『(超電磁ロボ)コン・バトラーV』だったりとかね。
大井:そう、『コン・バトラーV』。あれ、フィリピンかな。
山田:あ、フィリピンか。そうそう、東南アジアで。
乙君:どうなってるんですか。日本のロボット(笑)。
山田:今、東アジアでは『つるピカハゲ丸』が大ヒット。
大井:マジですか!?
山田:マジ。
乙君:インドかなんかじゃなかったっけ?
山田:そうそう。だからもうこっちの予想がつかないところで。そういえば確か、どこだっけ? イギリスだっけ? 『伊賀野カバ丸』が大ヒットしてるの。
大井:マジで? 確かにオシャレだしね、絵がなぁ。
乙君:オシャレなの?(笑)。
山田:あれは確かヨーロッパでヒットしたはず。『カバ丸』が。
乙君:へー、じゃあもうどこの誰が……。
大井:そうですよ。中国で『クレヨンしんちゃん』大ヒットだし。
山田:そうそう。だから北野武方式で。『ソナチネ』なんて映画、どっかの国の誰かが好きって言うだろうって(笑)。
大井:そうそう(笑)。日本はコンテンツは無限にありますからね。なにかが当たるみたいな(笑)。
山田:「でもね、国連だけでも200ヵ国以上あるんだから、まあどっか当たるんじゃん?」みたいな感じで作ってる(笑)。
大井:そうそう。どっかで当たる(笑)。
乙君:「ジンバブエで大ヒット!」みたいなのは……。
山田:いや、それは本当にありえる。
大井:ありえるでしょう。
山田:ギャーギャーそれで喜ぶみたいなさ。「そんなん待ってました!」みたいなことがありうるんだよね。
乙君:そうなんだ。
山田:そうそう。
乙君:なるほど、生と死をね。
大井:時間でどこまでいけるかわからないけど、たぶんエロスを語ると最終的に死の話になるんですよ。どうやったって。
山田:そうなんだよ。
大井:やっぱり「死がたぶん一番エロい」みたいな話になってくるんですよね。文学とかたぶんそういうのばっかし書いてると思うので。
乙君:そうです、そうです。
大井:これ、そこまでしゃべっていいのかというのは難しいところですよね。
山田:いいんじゃないかな、せっかくだから。