印象派の起源と

カリン・ユエン氏:印象派といえば、鮮やかな色の景色や現代社会の情景を描いたことで知られていますよね。でも少し離れた視点から見てみると、印象派には他にもいろいろな側面があるんです。

印象派の手法と科学技術の関係性から、見てみることにしましょう。

印象派がこの時期(注:19世紀)に台頭できたのには、理由があります。長い間、人々の間では、アカデミック様式の絵画こそ最高の芸術だと考えられていました。

フランスでは、最高の芸術とはすなわち、アカデミー・デ・ボザール(Académie des Beaux-Arts)という芸術アカデミーの基準に従うものだということを意味していました。

ところが、モネ、ルノワール、ピサロ、ドガなどの急進的な画家たちは、その定義を受け入れることを拒否したのです。

彼らは、歴史や神話のワンシーンをただ再現することよりも、現代のモチーフに関心を持っていました。こうした画家たちは型破りで、アカデミーに受け入れられず、アカデミーやサロンの外で独自の展覧会を開くことで、現状を打破しようとしました。

急進派の画家たちは、フランスにおける工業化や都市化といった流れのなかで、目の前に広がる新たな世界から発想やインスピレーションを得たのです。

伝統的に、油絵具はアトリエで少量ずつ作られていましたが、その頃にはあらかじめ作られチューブに入れられるようになりました。また、コンパクトで持ち運びのできる画架が作られたことから、芸術家が屋外で仕事をする戸外制作(注:オンプレネール“En plein air”)が可能となったのです。

こうして、戸外制作された小さめサイズの油絵が多く現れ始めます。常に変化のある環境を記録するために短時間で描かれており、素早い筆運びだったことが見て取れます。また、キャンバスという枠の向こう側にある世界をそのまま伝えるような、より自由な構図で描かれたものが多くなります。

印象派の画家たちは、自分たちの身の回りの物事を題材にしました。そのためよく題材となったのは、都市景観や田園風景、知り合いの有名人などの人物像でした。自分たちの生活のなかにある、実在の場所、人物、物事を取り上げたのです。

また、カドミウムやクロムといった物質の発見により、以前には見られなかった非常に明るい色が手軽に手に入るようになりました。

現代化学によって、非常に多くの色を作り出すことができるようになり、印象派の絵画にとって色彩理論は欠かせないものとなります。線や輪郭を引いて形を作るのではなく、印象派の画家たちは、色彩理論の知識を用いて遠近の物を描き、空間や奥行きなどのスケール感を表現しました。

おそらく印象派が最も重要視し、強く願ったことは、人の目に見えているように物事を描くことでした。カメラの到来で視覚や視覚の働きに対する人々の認識が大きく変化しました。今日では当たり前のように思われていることですが、一時停止状態の物事の見え方が初めてわかるようになったのです。

先ほども触れたように、画家たちは素早く作業を行いました。アトリエでの管理された環境に比べて、屋外状況は刻一刻と変わってしまうからです。同時に、カメラがある一時を捉えて離さないように、そうしてその場の情景の「印象」を表現しようと試みていたのかもしれません。

しかしながら、単なる瞬間の描写ではなく、印象派の絵画には動きがあります。印象派の画家たちにとって、動きというのは、人間の知覚に欠かせない重要な要素でした。

科学技術に魅了されてそこから着想を得ながらも、彼らが絵画でしか表現し得ないものを作ろうとしていたという点も重要です。キャンバスに絵具が塗られている事実を隠そうとせず、むしろ一目見てわかる形にしているのです。