『君の名は。』は自己愛の物語

乙君氏(以下、乙君):(『君の名は。』について)あれは青春ではなくない?

久世孝臣氏(以下、久世):青春じゃない?

乙君:あれは青春とは呼ばんよ。 

久世:なんでよ。

山田玲司氏(以下、山田):だめだ。

乙君:だってさ、あれは恋愛映画だなってことでむりやり結論つけたんだけど、恋愛映画ではないんだよね。厳密に言うとあれは倒錯した自己愛の物語なのよ。自分探しなんだよね。

久世:青春じゃん。

乙君:青春ではないの。めちゃめちゃ最初の……なんていうんだろうな、「思春期入りましたー」みたいな。で、あれってなんで2人は好き合ってるのかというのが1つの大きな謎なんだけど、あれは入れ替わることによってお互いの生活をやっていくじゃない。1日おきか忘れたけど。で、やっていくなかで、その生活の自分の人生と相手の入れ替わる人生とコミュニティが違うことで、お互いしか知らない秘密の共有が起こるわけ。

ということは、ここでのほかの人には絶対に起きない絆が生まれるわけよ。ここで1つの強いものが渡されるでしょ。プラス、それがお互いもしかしたら入れ替わったまま、女のまま生きていかなきゃいけないのかもしれないわけ。三葉のまま。

そうなった時に、どっちが自分かわからなくなってくるわけよ。で、いきなり自分でなくなったことによって、あのときの自分も自分だったし、だから三葉も会いに来るし、自分も会いに行くわけよ。だけど時空が違うから会えなかったんだけどね。知ってます?

久世:見たよ(笑)。

乙君:だけど結局あれは自分を探してるの。自分のかけらを探してお互いに行ってるから、一番最後に出会うじゃない。あそこからようやく1つになって恋が始まるの。だから(それまでは)恋が始まってないの。自分を探してるの。倒錯した自己愛のオナニーなわけ。SEXしてないの。

久世:青春ってそんなもんじゃないの?

乙君:青春じゃない! 青春はSEXだよ。

久世:わかった! 俺とお前の青春感の違いかもしれない。

(会場笑)

結局、青春が終わっちゃって、青春を無上の喜びとしてないから、そんなに楽しくなかったなっていう感じだったなあ。

キャラクターの置き方がおかしい

乙君:……と俺は思うんだけどね。うん、そうだね。もう俺はそこで終わりにしたい、この話は(笑)。ねえしみちゃん、しみちゃんもあんまりだったんでしょ?

しみちゃん氏(以下、しみちゃん):そうですね。いやまあうん、そうですよ。っていう……えっ!

(会場笑)

乙君:あそこに奥寺さんですよ。奥寺さんが誘惑してこないから。

久世:そうね。それはそう思う。

乙君:だからおかしいんですよあれ。

久世:おかしいよ。おかしいと思う。キャラクターの置き方がおかしいもん。

乙君:あの2人の進む道に阻害するものが隕石くらいしかないわけ。そんな超常現象しかないの。超常現象というか、天災しかないわけよ。そうじゃなくてもっと人間同士のいろんな絆があるじゃない。そこをもうちょっとやってくれないと。

久世:そう。だから人間は描けてなかったと思った。だけどそんなの関係ないじゃん。つながってなくても感動できるんだなと思った。絵が流れて綺麗な音楽流れました。はい泣きます! それで「心地いい最高!」ってことでしょ。それを学ばせていただきましたね。

(会場笑)

それは『バケモノの子』とかから感じていたんですよ。僕はその前だと『残響のテロル』から感じていたんですけど、僕は『バケモノの子』よりぜんぜん『君の名が。』のほうが好きで。

乙君:僕もそっちだな。

久世:『バケモノの子』は、ポスト宮崎とかそういうプレッシャーが大きくて、みんなの意見を入れすぎて、わけわからなくなっちゃったけど、『君の名は。』は新海先生の作品の臭みを抜きつつも新海性を失わないようなかたちでチューニングがバッチリいったから、すごい勉強になったなって思いました。

山田:応援コメントすごいですよ。

久世:まじっすか。

山田:(コメントにて)「久世もっとやれ」。

朝起きて男の子になってたらもっと驚く

久世:(コメントにて)「その臭みがいいんだよ」。そうね、そういう人もいるかもね。僕はキャラクターは立ってなきゃいけないと思ってるんですね。もちろん物語を作るうえでは、主人公の2人が立ってたと言えなくもなかったです。まあ主人公だから。

乙君:いやいや、立ってないよ。

久世:なにもなかった人たちが……。

乙君:まず、三葉が起きるじゃない。入れ替わって、瀧君になるでしょ。なった時に……たってるじゃん。

久世:おてぃんてぃんの話?

乙君:おてぃんてぃんはたってる、そりゃ。

久世:シンボルくんがね。

乙君:17才18才でしょ。その男の子が朝起きて、たってて、「えー!」ってなるじゃん。もっと驚くよね。もっと驚くし、逆に三葉になった瀧君も、そんな胸もむだとか。みんな言ってるけど、あえて言うけど、やっぱりそこらへんの人間の欲望とかグロテスクさみたいなものを、もうちょっとチューニングをヘビーなほうに持っていってくれないと。

久世:だからそれがいらなかったからウケたんだって。

乙君:ディストーションがないんだよね。

久世:ディストーションがない、それは俺にはわからないな。妹ちゃんがすごいよかったよね。

乙君:妹ちゃんいらん。

久世:ええ!

乙君:俺、あの妹ちゃん意味わからんかったんよ。だから口噛み酒のシーンで間違って妹ちゃんのほう飲むんやろなって思った。あの瞬間にここでもう1回倒錯するのかと思ったわけ。妹ちゃんになって妹ちゃんになった自分と妹に入れ替わって四葉になった瀧くんと三葉がもしかしてっていう。

久世:ややこし。

乙君:あと瀧君が滝廉太郎だったらって話も考えた。

久世:うん、それ考えんで大丈夫。

乙君:「僕には音楽があるんで」って言って。

(会場笑)

はい。玲司さんすいません。