『6才のボクが、大人になるまで。』は奇跡のような作品

山田玲司氏(以下、山田):このリンク(リチャード・リンクレイター)のやろうが!

久世孝臣氏(以下、久世):リンクの野郎でてこい!

山田:リンクってなんか『ゼルダの伝説』みたいになるね。そう、もう1つリンクの大冒険が、同時に起こっていたのが『6才のボクが、大人になるまで。』(原題:Boyhood)っていうさ、これは同じキャストで6才の少年が18才くらいになるまでの間、ずっとカメラを回して定点観測的に(撮っている)。でも実は脚本があって、演技させてる。

だけど演技している役者が年をとっていくから、そこに二重の時間がある。役者たちの人生の時間と、リンクレイターが設定した脚本の時間っていうのが有って、それが二重にかぶっていくっていう、不思議な映画。ものすごい作り方してるんだけど、それが……。奥野さん! 聞いてる?

乙君氏(以下、乙君):聞いてますよ。こんなにいるんだから、俺にピンポイントで言わなくてもよくない?

山田:おまえラーメンで寝るしさ。

(会場笑)

乙君:寝てない寝てない。

山田:おれは武蔵に勝てないのか?

(会場笑)

久世:そういう話だよ!

山田:武蔵の満足感に俺のトークは勝てないんですね。

乙君:そういうことじゃなく(笑)。まあまあ。なるほどなるほど。

山田:ていうさ、奇跡のような作品を作っているんですよ。それで、あなた見ていないでしょ『6才のボクが、大人になるまで。』。

乙君:見てないですね。

山田:あなたも。

久世:それだけ見てない。 

山田:もう死んでしまえ!

(会場笑)

乙君:今日どうしたんですか荒ぶる神々。スサノオですか(笑)。

山田:リンクの話していくからね、おさむの話とリンクの話はちょっとあるんだよ。

久世:あるんですか?

山田:そう。そのリチャード・リンクレイター『6才のボクが、大人になるまで。』を作った。で、これ見に行ったらヤバいんだよ。実際の6才の少年が、どういう話かとざっくりネタバレせずに言うと。あ、ネタバレするかな(笑)。

久世:いけいけ!

乙君:ちょっと覚悟はしておく。

山田:ようするに少年っていうのはさ、自分のできることには限界があるんだよ。常に少年って、あれやっちゃだめ、これやっちゃだめのなかで、「わあテントウムシ」みたいな感じの人生。「わあ空」とか「わあ木漏れ日」とか、そんな視点が入ってくるわけだよね。で、そこから見てる世界っていうのは大人に大体が支配されて、そしてその時仲良かった友達はもう疎遠になって会わなくなるみたいな。そうやって人生の層になって重なっていく。

大体どういうふうになっていくかというと、だんだん大人っていうものから解放されつつあるわけだよ。で、主人公の男の子のお父さんっていうのがまぁチャラ男なんだよね。それをこのイーサン・ホークがやってる。

久世:あーなるほど。

山田:合うんだよ。で、チャラくって奥さんにはダメ出しをくらって、一緒に住めなくなっていて、奥さんは別の男と一緒になったりならなかったりするっていう、まあとにかく奥さんの方はより良い男を目指して探して迷走を続けてる、それに付き合わされるんだよ少年は。結局もともとのフリーになったチャラ男のイーサン・ホークが良い味だしてフォローに入る。

乙君:へー。またイーサン・ホーク出てるの?

山田:またイーサン・ホーク。イーサン・ホーク大好きなの。たぶんこれはゴダールにとってのベルモンドみたいな感じでさ、自分の分身的な感じで役者を使うパターンあるじゃん。それだと思うんだよね。だからまたイーサン・ホーク、でもよく似てるんだよ。イーサン・ホークの雰囲気と。

で、イーサン・ホークの持ってる雰囲気ってさ、アメリカナンパ白人のなんかバカだけど憎めないっていう雰囲気あるじゃん。イーサンホークって。

で、リンクレイター自身も雰囲気がものすごくそういう感じがしていて、テキサスの大学に行ってるんだけど、ヒューストンの人なんだけど、もともと野球選手になろうと思って、で病気になって野球をあきらめて映画監督になったって変わり者なんだよね。

だからもともと体育会系でちょっと陽気で、アホで憎めない、でもちょっといろんなことを考えてるアメリカの白人男性なんだよ。それが作っている世界観なんだよね。で『6才のボク』っていうのは、そのなかで少年というのがアメリカのなかで……南部とかは銃の撃ち方とかも習うからね。で、少しづつ大人になっていく。

「マッチョになれ!」って言いながら一方ですごく繊細なんだよ。で、そのどうしようもならない大人のさまざまなしがらみみたいなものから徐々に解放されていって、最後に高校から大学に入る。大学に受かる。お母さん「あんた行っちゃうのね」。お母さんからようやく離れる。そして寮に入る。

寮に入ったらちょっとかわいい女の子がいる。その2人とちょっと散歩でも行こうかみたいな感じで、アメリカのすごい大自然の岩場みたいな所に2人で行って、ただ話して座って。で「いよいよ始まるね」って言って、ようするに大学生活が始まるねって言って、これイコール「人生が始まるね」っていう瞬間を描くわけ。6才の親っていう世界から大人世代のしがらみから苦しめられているのが徐々に徐々に解放されていって最後パーっと開いて、さあ始まるよっていって『6才のボク』は終わるんだよ。

そこで物語終わるんだよ。もうたまんないんだよ、やべーなって。だから何回見ても解放感あるわけ、で取り残される大人たちの格好悪さ。でもしょうがないんだよ。彼らは彼らなりにがんばってるんだけど、ダメなんだよ。だけど彼らの中にいて、しがらみで縛られてる人間は解放されてその先に行くっていう。

で、問題の『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』なんですけど。

リンクレイターの新作『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』

久世:来ましたね。

乙君:ようやくきました!

山田:なぜその話をしたかというと、その時解放された彼の、その後の話なんです。まだ続けてた。リンクレイターは『火の鳥』やってるんです。だからリンクレイターの歴史っていうのを、何編・何編・何編・何編って『6才のボク 』やって、それでこれ(『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』)やった後の人生がこれ(『ビフォア・サンライズ』)に繋がるの。

久世:すごいな。

山田:そう。この手前に……。

乙君:スター・ウォーズ エピソード0みたいな。

山田:そうそう。この前に一番最初に撮った『バッド・チューニング』っていう高校時代のやつが入ってくんだけど。どんどんあいた隙間を埋めていくわけ、この人。

で、名前も設定もちょっとだけ変わるんだけどね、そのまんまではないんだけど、どういうふうにしてこれが続いているかというと、1980年なんだよ。車に乗ってる若い男、これから野球選手の特待生みたいな感じで大学に入れる。地元じゃスター選手、これから大学いくぜで男子寮、野球やってるやつの男だらけの、寮にむかっていく、その瞬間から始まるんだけど、『マイ・シャローナ』だからね、かかってる曲。ダダダッダッダッダッ。

乙君:あの腹立つPVのやつでしょ?

久世:(歌いながら)マ、マ、マ、マ、マ、マ、マイ・シャローナ!

乙君:似てる!

山田:もうね、1発目でアゲアゲですよ。80年っていうのは70年代の終わりなんだよ。いわゆるPVが始まるっていうか、要するにマイケル・ジャクソンの時代ってあるじゃん。80年代ってジョン・ヒューズの時代ってあるじゃん。あれは84年くらいから始まるから、この80年っていうのは70年代後期っていう感じで、要するになにが言いたいかって、超ダサいんだ。

(会場笑)

ホットパンツにTシャツっていうか、あれですよあれ、クワトロ。クワトロみたいな恰好してる。ノースリーブ。

乙君:あれね、まくるやつ。

山田:まくるやつですよ。あの盗んだバイクで走りだすやつ。

乙君:(袖をまくりながら)これね。

山田:これですよ。あとサザンオールスターズのデビューの時の映像とか見たことある? ホットパンツみたいなの着て、それでランニングシャツみたいなの。

久世:ラララーラララ(勝手にシンドバッド)。

山田:ってやってんじゃん、あの時の髪形、それとなぜかやたらと髭はやす。

乙君:あー。

「クソくだらない」は最高の褒め言葉

山田:だから、70年代終わってないんだよ。ヒッピームーブメントが終わってないから、これからディスコ始まるよとか、パンク始まっちゃうよみたいな。これがさ、その入学して、たった授業が始まるまでのわずか数週間だけを描いてる。淡々と見せてるの。

なにがおもしろいかって、こいつら全員体育会系で、優秀だったやつらでワイルドピープルなんだよ、だからジョッグスなんだよ全員。全員ジャイアンですから。だから大学入って寮にいったら全員ジャイアンがいる。

(会場笑)

ハウメニーカインドオブジャイアンなんだよ、何種類のジャイアンがいるんですか? 

乙君:ジャイアンにも種類あるんだ。

山田:そうそう。

乙君:映画版ジャイアンとか。優しいジャイアンとか。

山田:いろんなジャイアン。かっこいいジャイアンとか、美しいジャイアンもいるわけ。その中に俺だけがジャイアンだと思って入ったら「マジかよジャイアンばっかりだよ」。

乙君:大海は広かったってことでしょ。

山田:そう。そいつらがまあとにかく野球やらないんだよ。

乙君:野球やらないんだ。

山田:1人だけ。で、遊んでんの。「ドンぎまりだし」つって、遊びに行くかって。女のことしか考えてないから。1人超バカな野球やるやつがいて、斧振ってるんだよいつも。それでボールを真っ二つにする。70年代の野球漫画みたいなことやってんだよ。

乙君:コメディーなんですか?

山田:基本的に、ノリとしては非常にコメディー。コメディーっていうよりは、この時期ってわくわくしたいよねっていう雰囲気を出してるの。『6才の僕』で圧がかかった状態で解放されたから、解放されたその瞬間ってこんなにハッピーなんだよね。80年って時代は、とにかく時代的にもこうなんだよ。

だから、今みんなこうなっている時にこういうのを見て、1発アゲげておこうぜっていう映画なんだよ。だからとにかくクソくだらないんだけど……。

乙君:クソくだらないの(笑)。プロモーションしてくれって言われてるのに。

久世:最高の誉め言葉だよ。

乱痴気パーティーで寮をめちゃめちゃに

山田:そう、クソくだらない。寮のなかで「これは禁止だ!」「あれは禁止だ! わかったか」とか言われて、「ういっす!」みたいな感じになって、寮長いなくなったら全部やぶるからね。

乙君:まじかよ!

山田:それで、「女入れるな」って言ってるのに女入れて乱痴気パーティー乱交パーティーみたいなことするから、ガンガンきめながら、ドンぎまりになりながら、ありがたーくLPを聞いたりなんかして、みんなで「うーん」なんて言って「ここ聞いてここ聞いて!」とかやってんだよ。

で、1人ヒッピー崩れみたいなのがいて「すべてはつながっている」みたいなこと言って、「いやーもうこの感じ最高!」みたいな。乱痴気パーティーやって、寮をめちゃめちゃにするんだよ。そしたら普通、警官がやってきてつかまってさ、「なんでこんなことしたの」とか言って「君の処分は学校が考えても良い」っていうくだりあるじゃん。一切ないです。

久世:ないんかい!

山田:なにもないの。そういうつまんないツッコミまったくないから、だから例のごとく屋上でゴルフとかやるわけよ。スコーンって。「いったな」みたいな。たまんないよ。

で、冒頭で荒くれものチームに「おまえも来いよ」って言われて車の後部座席乗せられる。で、これでデカい偉そうなこと言ったらまた締められるから、「とりあえずおとなしくしてよう」って思ってる主人公がいるわけじゃん。それでなにするかっていうと、女子寮チェック。

乙君:えっ?

山田:「入学前にするっていったらこれしかないだろう」みたいな女子寮のチェック行く。で、かわいい子探してるわけよ。それでかわいい子2人組探してナンパするの。いきなり先輩ナンパするんだよ。もうアメリカ女性は断らないっすよ、そこで。ついていくことはないんだよ。だけど、「あなたじゃないわね、後ろの黙ってるおとなしい彼がいい」とかって彼女が言っちゃうの、それで黙っててラッキーみたいな。

それどうするかっていうと、彼女が寮のどの部屋にいるか確認するの。「おっとあの部屋か」みたいな。やることはやるんだよ。だから、おとなしいとかじゃなくて入ったら全員野獣なんだよ、全員ビーストなんだよ。

だから先輩がうるさくなくなったら「ちょっと行くか」みたいな。それでコンコンって行って「あのときの覚えてる?」みたいなの始まっちゃうわけですよ。もう最高でしょ! 

久世:それたまんないなーやりてー。

山田:たまんないでしょ。そしたら彼女がつらい過去があった、とかそういうのぜんぜんないから。

久世:ないでしょ。

山田:ないでーす。ないです。いえーい。見たくなってきたでしょ。 

久世:見たくなってきたか……もう見なくてよくなってきたか。