トリスタンとイゾルデの物語

トリスタンとイゾルデの物語は、12世紀に中世フランスの韻文を通して有名になりました。主に2つの型があり、まず最初の2人の詩人の型はイギリスのトーマス、その後の型はトリスタンに端を発しています。この物語は典型的なケルトの恋愛物語の原点に遡ることができ、広く影響を及ぼす悲恋物語として様々な形式で語り継がれています。

今日は主にこの物語についてお話しますが、全体的な構想はほとんど同じです。これはとても長い物語です。

強力なアイルランドの騎士モルオルトは、コーンウォールのマルク王に朝貢を要求しました。コーンウォールでの夜、それに応じたトリスタンは一対一の決闘に挑みました。彼らは島を戦いの舞台に選びましたが、トリスタンのボートが壊れてしまったためにどちらか1人だけしか脱出できない状況に陥ったため、死を覚悟した戦いとなりました。

2人は激しく戦い、モルオルトは致命的な傷を負いました。しかし彼は死に際に、「おまえも負った傷により死ぬ」とトリスタンに言いました。なんと、モルオルトの剣には毒が塗ってあったのです。それを治療できるのはモルオルトの姉であるアイルランドの王妃であるイゾルデだけでした。

剣に毒を塗るとはなんと姑息なのでしょう。ですが、もし本当に毒で彼に死んでほしいのならば、なぜ治療法を教えたのでしょうか。モルオルトは死に、トリスタンは島を去りました。そして彼はモルオルトの従者たちに、彼の遺体をアイルランドへ持って帰り、王に「コーンウォールからの朝貢はモルオルトの遺体だけだ」と伝えるよう命じました。

イゾルデ王妃と、金髪のイゾルデはモルオルトの死を悲しみました。そうです、母と娘は同じ名前なのです。これからは混乱を避けるために、母親のイゾルデを「王妃」と呼びます。そうすれば混乱することはないでしょう。

王妃はモルオルトの傷から剣の破片を見つけ、金髪のイゾルデはその破片を取っておきました。本当に、トリスタンは毒を盛られておりコーンウォールには治療できる人がいませんでした。トリスタンは王妃に治療してもらえるよう頼むためアイルランドへ戻りました。しかし彼は王妃の兄弟を殺した身です。そこで、自らを音楽家のタントリスと身分を偽り、金髪のイゾルデに近づくことにしたのです。

身分を偽りイゾルデのもとへ

タントリスはとても美しくハープを奏でたため、金髪のイゾルデもハープを習いたいと言いました。彼は負傷していたため、王妃は兄弟を殺した人間とは知らずにタントリスの傷を治療しました。金髪のイゾルデにハープを教えて40日後、彼は完全に回復し、故郷に戻るときだと決断しました。

トリスタンは一度母国に帰ったものの、アイルランドに再び戻らなければならなくなりました。というのも叔父のマルク王の結婚相手として金髪のイゾルデを連れて帰るためでした。しかし彼が殺した男の姪で王の娘をどうやって連れて帰るのかという問題を解決しなければなりませんでした。

トリスタンにとって幸運なことに、その頃アイルランドには、国中が頭を悩ますドラゴンがいました。そこで王は、ドラゴンを倒した者に金髪のイゾルデを渡すことを約束しました。当然、勇敢で才能のあるトリスタンはドラゴンを倒しに出かけ、ドラゴンの舌を切り落とし、殺した証拠として服の下に入れました。

しかし舌の毒液がトリスタンの体に染み込んでいき、川の近くで気を失ってしまいました。王は死んだドラゴンを見つけ、ドラゴンを殺した英雄は戦いの間に死んでしまったと考えました。しかしある騎士が、ドラゴンを殺して頭を切り落としたのは自分だ、と主張しましたが、みながそれを聞いて驚きました。というのも、彼は臆病者と言われていたからです。イゾルデは彼がドラゴンを殺したのではないと確信し、彼のような臆病者と結婚したくなかったため母親に相談すると、母もイゾルデに賛同しました。

2人は本当のドラゴンの退治者を探すことにしました。頭部のないドラゴンは発見しましたが、退治した者は見当たりませんでした。しかし川に着くまでに、気絶しているトリスタンを見つけます。彼女たちはもちろんトリスタンのことを、音楽家のタントリスだと認識しています。しかし状況から判断し、彼が本物のドラゴンを殺した英雄だと考えました。彼女たちはこっそりと彼をお城に連れて帰り、ひそかに彼の観葉をしました。

トリスタンは意識を取り戻した後、実際に起こったことを話し、王妃は王にトリスタンの主張を伝えましたが、臆病者の騎士は彼の主張を拒絶し、翌日一対一の決闘を挑みました。王妃はトリスタン、別名タントリスの主張を支持し、彼が決闘に現れることを約束しました。もし彼が決闘に現れなかったら、王妃はタントリスとともに命を失うことになります。

その夜トリスタンが入浴していると、イゾルデが彼の剣を洗いに入ってきて、彼の剣の刻み目に気づきました。彼女はその刻み目が彼女が持っている破片と同じだと気付き、トリスタンが叔父を殺した犯人だと気付きました。

そして下した、苦渋の決断

イゾルデはトリスタンを殺そうと剣を彼の背後に近づきますが、もしトリスタンが死んだら、彼女が軽蔑するあの臆病者と結婚しなければならないと気付き、すんでのところで踏みとどまりました。同時にトリスタンが死んで決闘に現れなければ、彼女の母の命も失われます。彼女はトリスタンを許すほかありませんでした。

イゾルデは母にトリスタンの正体を伝えると、不本意ながらトリスタンを助けることに同意しました。トリスタンはマルク王のためイゾルデを連れて帰るために、「もし子供が出来たら、コーンウォールとアイルランド双方の支配者になる」と伝えました。その提案は、彼女たちにとってそれは魅力的な申し出でした。

翌日、トリスタンがドラゴンの舌を持っていたため、本物のドラゴン退治の英雄であることが判明し、イゾルデはマルク王と結婚することになりました。

トリスタンとイゾルデがアイルランドを出発するとき、王妃はほれ薬を準備しました。彼女は娘がかなり年上のマルク王と結婚し不幸になることを恐れ、ほれ薬をマルク王とイゾルデのために作ったのです。

彼女はそれを従者に託しました。航海のさなか、トリスタンとイゾルデは喉が渇いたため、ボトルに入ったワインを飲みます。ですが実はそれにはほれ薬がはいっており、飲んだ瞬間に彼らは恋に落ちました。彼らはコーンウォールに着く前に船の上で愛し合い、ほれ薬のせいだと分かっていましたがお互いへの情熱をコントロールすることができませんでした。

イゾルデはそれでもマルク王と結婚しなければなりませんでしたが、処女をトリスタンに捧げていたので、初夜に彼女は処女を失っていることを隠すために侍女と入れ替わりました。侍女は暗闇の中で王と一夜を共にしましたが、王はイゾルデと初夜を共にしたと思っていました。その後もイゾルデはトリスタンの腕の中で眠り、日が昇る前に夫であるマルク王のもとへ戻るという二重生活を送ることになります。

しかし時間が経つにつれ人々は王の妻と彼の甥の関係を疑い始めました。王の相談役は何度もトリスタンとイゾルデの貫通と反逆を暴くよう王を説得しようとしましたが、2人は無実のふりを突き通せていました。トリスタンとイゾルデは明らかにほれ薬のせいで恋に落ちていましたが、トリスタンはマルク王を父の理想像として、また良き指導者として尊敬しており、イゾルデもまたマルク王に良くしてもらっていたので感謝していました。マルク王もトリスタンのことを息子として愛し、イゾルデも妻として愛していました。

疑い始める王、そして

しかしながら王も2人の姦通の証拠らしきものを発見すると、2人への疑いを強め、2人を火刑に処すことを決断しました。トリスタンは教会の窓から飛び降りてなんとか逃げることができ、イゾルデを助けに向かいました。2人は森の中に逃げ込みました。

マルク王が2人を森の中で発見したとき、服を着たまま剣を2人の間に置いて寝ているのを見て彼らは無実だと思い、疑ったことに罪悪感を感じました。マルク王は彼らが寝ている間に殺そうと思っていましたが、妻のイゾルデのことは見逃し、トリスタンは国外追放にすることが正しいことだと考えました。

叔父のマルク王の宮廷から追放されると、トリスタンはたくさんの国を旅しました。ブルターニュ地方を訪れたとき、彼はイゾルデという名を持つ、白い手をした別の女性と結婚しました。もちろん彼女は金髪のイゾルデより美しくはありませんでした。

その後トリスタンの死については諸説あります。彼は毒を盛られ、唯一それを治療できるのが彼が愛していたが結婚できなかった金髪のイゾルデだけであったため、彼女を取り戻すため友人を送ったと言われています。もし彼女を取り戻すことに成功したら、白い帆の船で戻ってくるように、失敗したら黒い帆の船で戻ってくるように伝えました。

金髪のイゾルデはすぐに愛する人を救うため出発しましたが、不運にも白い手のイゾルデが最初に船を発見し、悔しさに打ちひしがれた彼女は、トリスタンに戻ってきた船は黒い帆の船だったと伝えました。トリスタンは金髪のイゾルデが彼を捨てたのだと思い、生きていく気力を失くし死んでしまいました。金髪のイゾルデが到着すると、トリスタンが死んでいるのを発見し、悲しみに暮れ彼のもとに駆け寄り彼を抱きしめたまま死にました。

マルク王は2人の遺体をコーンウォールに連れ戻し、隣同士に埋葬しました。たった一晩の間に2本の木が2人の墓から奇跡的に枝を絡ませながら育っていき、それは決して離れることのない愛の象徴となりました。