FVCが本気で取り組むグローバルマーケットへの挑戦

藤永裕二氏(以下、藤永):フューチャーベンチャーキャピタルの藤永でございます。よろしくお願いいたします。

以前からフューチャーベンチャーキャピタルをご存じの方は、「最近、フューチャーベンチャーキャピタルは変わってきたな」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際に変わっております。

今までは国内を中心に事業を行っていたんですけれど、今はグローバルマーケットへの挑戦を本気で行っております。

フューチャーベンチャーキャピタル、なにが大きく変わったのかということを説明する前に、今、我々がやっていることをご紹介させてください。

基本的には「地方創生」という言葉が出てきてから、「地域の創業率を上げましょう」「地域の産業をしっかりと育成していきましょう」という目的のために、現在、地域でファンドをどんどん作っております。

スライドに「25本」と書いてあるんですけれど、こちらが今日現在の最新の数字となっております。1つは地方ファンドを作っているということが我々の取り組みです。

もう1つ、我々はCVCの組成に取り組んでいまして、先ほどのコーポレートベンチャーキャピタル、企業さまと一緒に二人組合でファンドを作り、その企業の事業シナジーを得れるためのファンドを作っております。

多様化するベンチャーキャピタル

実は最近のベンチャーキャピタル業界はけっこう変わってきています。なにが変わってきているかというと、ベンチャーキャピタルがすごく多様化してきています。

スライドには「競合他社の増加」と書いているんですが、我々にとってみれば、お客様なのか、投資家なのか、強豪なのか、なにかよくわからないような状況にけっこうなってきています。

基本的には昔からあるような、IPOを目指した投資を行うベンチャーキャピタルがいます。

最近とくに増えてきているのは、やはりCVCですね。Corporate Venture Capital、日本国内のなかでも投資額の約7パーセントがCVCに変革してきたと今、言われています。

そして、新たにテクノロジーに特化したベンチャーキャピタルだったり。こちらはヨーロッパから派生してきたものなんですけれど、Incubator(インキュベーター)、Accelerator(アクセラレータ)、企業を育てるということに一番始めにコミットして、その上で投資をしていくような、ベンチャーキャピタルというか、インキュベーターが増えてきたということですね。

あとは特徴的なのは、最近はSocial Impactに対しての投資を専門で行うようなベンチャーキャピタルも増えてきています。

これはどういうことかというと、やはりみなさまのオープンイノベーションへの関心度が非常に高まってきたということで、ベンチャーキャピタルが多様化してきているということなのかなと思っています。

ヒト・モノ・カネ・情報・技術をボーダレスに展開

そのなかで我々が今、実際に行っていることは、この2つです。「地方創生の取り組み」、そして「オープンイノベーションの促進」。

この2つがどうつながるのか、少しわかりにくいかもしれないんですけれど、我々は創業以来、実は地方にばかりファンドを作っております。大きなジェネラルファンドは、今までで一番大きいもので100億ですかね、それぐらいのファンドしか作っておりません。小さいファンドを全国に地域をサポートするために作ってきたというのが我々の取り組みです。

もう1つは、先ほどと関連しますけれど、CVCの取り組み。今回の(Rockies Venture Club)ピーター(・アダムス)たちとの協力もそうですけれど、企業のオープンイノベーションを促進するために、こういった取り組みを行っています。

実際にこれまでと違うこと、今、我々がやろうとしていることは、ヒト・モノ・カネ・情報・技術というものをボーダレスに展開をしていこうとしています。

具体的にどういったことをやるのか? 日本国内に向けては「ベンチャー・チャレンジ2020」として、内閣府が今、出されていますけれど、地方と世界を直結する取り組みを我々は行っております。

それと繰り返しになりますけれど、企業のオープンイノベーション。これは情報提供だけではなく、事業を作っていくところの推進です。先ほど申し上げたインキュベーターという役割を、今、アメリカと日本の両方で行っております。

スライドには書いていないんですけれど、今インドのバンガロールというところでも調査事業を始めています。日米印は直近すぐに動いていくところで、そういったネットワークを使って、ヒト・モノ・カネ・情報・技術というものをボーダレスに共有していこうと思っています。

インナーサークルに入ることの重要性

ここで私の自己紹介でございます。私は2015年、去年の6月にフューチャーベンチャーキャピタルに入社いたしました。実はそれまではハリウッドで映画の投資を行っておりました。エンターテイメント系の投資が比較的長かったです。

今現在は、フューチャーベンチャーキャピタルの経営戦略部長と、Dennyと一緒にやっているFVC Americas、そちらのCEOを私がやらせてもらっています。

この映画への投資経験が、実は今、非常に活きています。

それがなにかと言いますと、インナーサークルに入ることの重要さを、映画業界で非常によく学びました。

映画は、ユダヤネットワークとよく言われるんですけれど、「ユダヤの人たちのお金がなければ映画が成り立たない」と言われていた時期が本当にありました。今はどちらかというと、チャイナネットワークというふうに変わってきているところもあるんですけれど、このネットワークにいかに入ることができるのかということで、投資家を集めるところで非常に苦心しておりました。

すごく有名な人のホームパーティにいかにして呼んでもらうか。自分がそこに潜り込んでいくか。「なぜかわからないけど、気づいたら白人のなかに日本人が1人いるぞ」みたいな、そういった地道な活動をして、なんとか投資家を捕まえていました。やはりそのなかに入らなければ、なかなか信用していただけないということもありました。

スタートアップマーケットのインナーサークルとは?

その映画業界で培った経験も踏まえて、今、スタートアップのマーケットに、私が入ってきました。では、「その(スタートアップの)インナーサークルってなんだろう?」ということをいろいろ考えました。

米投資家ネットワークがあります。これはあくまでも一例です。これが絶対というわけじゃないんですけれど、やはり、金融機関、証券会社、ベンチャーキャピタル、多くの資産を運用しているところにはネットワークがあります。

一方で、ベンチャーネットワークというのは、例えば、FacebookやGoogle、Twitterなど大きくなったベンチャー企業、さらにそこでExitした人たちが投資家になっていくというようなネットワーク。この2つの重なっているところが、私はインナーサークルなんじゃないかなと思っています。

ただし、残念なことに、日本企業の多くの方々、シリコンバレーに拠点をおかれているところにももちろん何度かおうかがいしたんですけれど、「インナーサークルに入ることは非常に難しいですよ」とおっしゃられる企業が非常に多いです。

「ホームパーティなんか行ったことない」。呼ばれたこともなければ、「そんなことをやってるの?」というようなことをおっしゃる方もいるんですけれど。

例えば、大学で留学された方であれば、大学時代に友達の家に遊びに行ったりされますよね。本当にそういったようなところから仲間のインナーサークルに入っていくと、今のスタートアップ業界でも同じことなのかなと思っています。

あとは日本企業の特徴として、「お金をたくさん持って行けば、なんとかなるんじゃないか」と思われる方もいらっしゃるんですけれど、実は今のアメリカのシリコンバレーやボストンでもそうなんですけれど、300億円ぐらいのファンドですと「マイクロファンド」と呼ばれていまして、非常に小さなファンドとして扱われます。

もちろんお金だけ持って行っても、それがパスポートにはなりませんので、やはりインナーサークルに入ることというのは難しい。

進出はするんですけれど、なかなか結果を出せない。事業シナジーを生み出すことができない。結果、オープンイノベーションにつなげることができない。もちろんすべての企業ではございませんが、最近、そういった事例を聞くことがとくに増えてきたなと思っております。

「地方創生 in U.S.A」のカギは地域コミュニティ

我々は日本で地方創生をしていますが、実はアメリカでやってることも地方創生をしているんです。

コロラド州で新しくなにかを作るということは一切やっておりません。今まで日本でやってきたこととまったく同じ、地域の産業を作っていく、地域のスタートアップを育成していくということを我々は行っております。

そのなかでやはり重要になってくるのは、地域コミュニティのインナーサークルです。

これは従来のシリコンバレーでの、いわゆる先ほどのこちらのスライドのインナーサークルではなくて、地域コミュニティのインナーサークルにいかに入ることができるのかが非常に重要になってきます。

今日も実はコロラド州、メトロデンバーのRepをやっていただいている方にも来ていただいています。

もちろんのことながら、こういった町ぐるみ、州ぐるみで「オープンイノベーションに取り組んでいきましょう」ということに対しては非常に盛んなところが多いです。

そのなかでも、州・自治体・団体、これが一緒になって「とにかく町を盛り上げましょう」と思っているところが、まず1つ重要です。

もう1つは、地域の大学。これは日本と少し違うかもしれないんですけれど、大学というものは地域コミュニティのど真ん中にいますので、大学があって周りのコミュニティが作られていく、まちづくりが行われていくような町も非常にたくさんあります。この大学というものも非常に重要なポジションです。

それと個人投資家。「なぜ機関投資家ではなく、個人投資家なのか?」というところなんですが、個人投資家というのは基本的にはリタイアされた方が多い。それと、なにかでExitされた方が非常に多いんですけれど、その方が地元に戻ってきたり、自分が住みやすい街に引っ越しをして、その地域でスタートアップを支援してあげるという、個人投資家のネットワークも非常に重要になってきます。

さらに、そこに集まるスタートアップですね。この4つが揃っているのが地域コミュニティのインナーサークルだと我々は定義付けをしております。

地域へのコミットメントが事業の力になる

ここに入るためにはなにかが重要か? 地域のコミットメントです。これが出資やインキュベーターとしての役割。「地域でどれだけ自分たちがコミットして、スタートアップをサポートするのか」「自分たちがどれだけ時間をかけて、その人たちと一緒に事業を作っていくのか」というような役割が非常に重要になってきます。

これができれば、わざわざシリコンバレーで(インナーサークルに入るという)こんなたいへんなハードルを超えなくても、いろんな地域に行って、その地域のコミュニティ・インナーサークルに入ることをまず目指されてみてはいかがかなと思っています。

我々は、Dennyがもともとずっとコロラドだったのでうまくいったんですけれど、ど真ん中に入りました。

実は、ここ(スライド)に書いてあるんですけれど、中央都市と地方都市、私がよく言ってるのは民主主義であり資本主義の国であれば、必ず中央都市と地方都市にギャップがあります。

このギャップのところに、実は、人口減少だったり、「新たな産業を新創出しなきゃいけない」と言われる自治体さんが世界中どこに行ってもあるんですね。これは調査した結果わかりました。

そういったところのお悩みというものはなんなのか? 「スタートアップを育成支援していこう」とおっしゃるところも非常に多いです。

我々、日本では「なんてベンチャーキャピタルだ」と言われながら、ずっとやってきていたんですけれど(笑)、実はそれが世界で通用するということがわかりました。

私たちは、スタートアップの育成支援を地域でやっていく、ということをまさしく今、世界中で展開していく取り組みなんですけれど、ここにオープンイノベーションだったり、企業が新しく事業を創出していくというところも非常に密接な関係になってくるところでございます。コミュニティのインナーサークルがこれをしっかりと支援してくれます。

ですので、「しっかりと地域コミュニティのインナーサークルに入っていきましょうね」ということが、我々FVCからみなさまへのメッセージかなと思っております。

なぜ「コロラド」を選んだのか?

実はこれは一方通行ではなくて、その地域だけをやろうというふうにはもちろん思っていません。

今の例ですと、日本とアメリカ……コロラドですね。それと日本の場合は今25拠点と、自治体と市町村、そういったところとつながりをしっかり持っていきましょう。こういったネットワークを作っていくということを今、現在行っております。

そのなかでコロラドに注目したのは、先ほどお伝えした、この地域コミュニティのインナーサークルに入るための要素が、実はコロラドってすべて揃っているんです。

ほかの州、アメリカの真ん中でいうと「テキサスがいいんじゃないか?」とおっしゃる方もけっこういらっしゃいます。テキサスはすごくいいです。シリコンバレーはもちろんいいです。

けれども、実はテキサスは、地域の大学の協力が「ちょっと薄いな」というところがあります。「だいたい平均的に全部揃っているな」というのが、このコロラド州だったということで、我々はここに進出したということです。

「Denver Startup Week」というStartup Week Seriesのイベントがあるんですけれど、これは全米で最大規模のプログラムです。

たくさんスタートアップも集まっています。先ほどのピーターの話にもありましたけれど、本当に技術力の高い、すごくポテンシャルのあるスタートアップが揃っています。

大学から出てくる基礎研究も、ものすごく技術力が高い「本当にできれば、これはノーベル賞になるんじゃないの?」というようなものも非常に揃っています。

インナーサークルの中に入ると、非常に質が高いということがよくわかりました。これはコロラドだけではなく、ほかのエリアでも質の高いスタートアップはたくさんいます。

コロラドでは地域別に産業が分散

我々は地域別で見ても、コロラドはおもしろいなと思っています。フォートコリンズにはIntelがあり、HPがあり、R&Dの施設と製造施設があります。

ボルダーには、今Googleが進出してきていたり、IBMは以前からいますけれど、ここでソフトウェアが非常に熱心に研究されている。新しいスタートアップがたくさん創出されています。

中心都市のデンバーのちょっと外れにオーロラという街があります。実は今回の我々のイベントでも講演いただいております、コロラド大学の医学部のキャンパスがこのオーロラにあります。このキャンパス、東京ドームの約13個分の広さです。

町ごとに地域によってしっかり産業がわかれている、非常にわかりやすい州がコロラド州です。

年間情報収集量、だいたい1,500社です。実は我々が日本で集められる数は、だいたい年間500件ぐらいなんですけれど、コロラドだけで今その3倍を集めることができます。そのリソースは、先ほどお伝えした、インナーサークルの中からすべて出てきています。

コロラドに優良ベンチャーが集まる理由

米国のスタートアップ、日本との大きな違いはもう1つあります。なぜコロラドにベンチャー企業が集まるのか? スタートアップが集まるのか?

これは日本の場合は、ベンチャーキャピタルの投資、CVCも含めてなんですけれど、だいたい1,100〜1,800億円ぐらいと言われていますが、アメリカの場合はエンジェル投資だけで3兆976億円のマーケットがあります。

先ほど少し説明がありましたけれど、RVC(Rockies Venture Club)は非常にすばらしい団体でして、運営歴ももちろん一番長いということと、他種のエンジェルネットワークからも「どういったかたちで組織づくりができるのか」「どういった投資をすることが一番いいのか」とRVCによく相談に来られる、本当にモデルケースになっているエンジェルネットワークです。

彼らのもとに、信頼のあるところにスタートアップが集まってきて、「なんとか資金調達をしたい」という熱い思いを持っている若者たちが、このRVCに集まってくるようなかたちになっております。

ですので、日本と違うのは、ベンチャーキャピタルから投資を受ける、もしくは金融機関からお金を借りるということだけではなくて、個人投資家からも出資を受けることができる流れがしっかりできているということが、もう1つアメリカの強みだろうと思っています。

この部分は日本では、税制優遇とかがないのでなかなかむずかしいんですけれど、これを企業側のCVCとか、そういったところがこの役割を担うということが一番かたちとしてはいいのではないかなと思っております。

ほかにもご説明したかったことはあるんですけれど、資料を見ていただいて、もしわからないことがあればご質問いただければと思います。

以上となります。どうもありがとうございました。

(会場拍手)