人間と牛の決定的な違い

マイケル・アランダ氏:牛は本当によくできています。どこを見回しても、食べることができる草があるのですから!

私たち人間はそうはいきません。草を食べてみることもできますが、お腹いっぱいにはならないでしょう。

牛と人間、なにが違うのでしょうか。つまり、牛は草を消化することができるのに、なぜ人間はできないのでしょうか?

実は、牛には草のセルロースを消化する道具があるのですが、人間にはないのです。人間の消化器官には備わっていないものなんですね。

セルロースはグルコース単位の長い鎖からなる複合糖質です。

セルロースは植物の細胞壁を作るので、ホウレンソウやケール、牧草などのすべての植物に見られます。人間が食べる野菜の多くにも、消化することのできる栄養素が含まれています。しかし草はほぼセルロースでできている上、セルロースは分解するのがとても難しいのです。牛のような動物でないかぎりはね。

牛が牧草をもぐもぐ食べると、牧草は食道を通り、4つの部屋がある胃へと入ります。牧草を食べるたびに、これは何度も繰り返されます。

牧草は少し消化されると、蜂の巣胃という胃の部屋の1つへと進み、食い戻しと呼ばれる塊を形成します。それから、その塊が逆流します。塊は牛の口へと戻され、もう少し咀嚼されて、食物をさらに分解するのです。

やがて、牛は再び食物を飲み込み、食物はまた胃へと戻っていきます。なんともおいしそうな話ですね。

こういったことをするのは牛だけではありません。ヒツジやヤギなどほかの動物も食物を吐き戻します。こういった動物は反芻動物と呼ばれています。

胃のなかで草はどう消化される?

反芻動物の胃の中心となる部分は、4つの部屋の中で一番大きいこぶ胃です。ここで草を消化する魔法が起こるのです。

草に含まれているセルロースを消化しているのは、実は牛ではなく、牛のこぶ胃に住んでいる小さな微生物なんです。この微生物は、酸素がない状態で働きます。セルロースの嫌気性消化という方法ですね。その過程には、酵素の生産と発酵という2つの主要な段階が関係しています。

酵素の生産では、こぶ胃の中の微生物が、セルラーゼのような特定の酵素を分泌します。それがセルロースの分解を促進するのです。その主な方法はセルロースの加水分解で、水を伴った化学反応がセルロースを分解し、グルコースのようなより小さな炭水化物にします。

しかし、酵素こそがこのショーの目玉なんですよ。反応を促進する触媒の働きをしますからね。残ったより小さな炭水化物は発酵され、代謝され、酢の酸である酢酸、牛乳に含まれる酪酸、そしてよく食品保存料として使われるプロピオン酸のような脂肪酸へと変えられるのです。これらは後に栄養素として吸収されます。

そしてその後、一部が消化された牧草は、最終的に皺胃へと達します。皺胃は牛の胃の酸性の部分で、人間の胃と似ています。ここで食物はさらに消化され、やがて小腸、そして大腸へと入ります。

ですから、草の消化の主役は微生物なのです。人間が草を消化できないのは、セルロースを分解するのに必要な酵素を生産する微生物がいないからです。人間は、デンプンや単糖など、ほかの炭水化物を消化する酵素は持っています。ただセルロースを消化するための酵素がないんですね。

では、牛のこぶ胃にいる微生物と同じものを人間の胃に入れて、働いてもらったらどうなるでしょうか。おそらくうまくいかないでしょう。人間の胃はセルロースを消化する過程が起こるにはあまりにも酸性が強いのです。

人の胃のpHは通常1から3の間で、極めて強い酸性です。草を消化する微生物が住んでいる牛のこぶ胃のpHは、より中性に近い6や7です。この微生物は、pHが5.5以下の時はセルロースの分解をやめるので、微生物を人の胃に入れても、草を消化する能力を与えることはないのです。

しかし、これらの微生物が住める可能性のある場所がほかに2つありますね。人の小腸と大腸です。でもどちらもいい選択ではありません。人の小腸のpHはかなり中性ではありますが、微生物は消化された食物の栄養素をめぐってあなたと張り合うかもしれません。そして、人の大腸は草の栄養素を吸収することができないので、セルロースを分解するために大腸に微生物を入れることは大して効果がないのです。

ほかの選択肢としては、セルロースを飲み込むことが考えられます。乳糖不耐症の人たちが乳糖分解酵素の錠剤を飲んで、乳製品を食べれるようにするのと同様にですね。しかし、研究者たちは、人が草を消化できるようにするための酵素を抜き出す実用的な方法をまだ開発していません。しかも、もしそれを開発したとしても、そのような酵素が人の健康に及ぼす影響については不明です。

ですから、晩御飯に家の芝生を食べられたら便利でしょうが、草は牛のために取っておくほうがよさそうですよ。