企業の適正価格の算出方法

益嶋裕氏(以下、益嶋):ではここで、きっとみなさまの疑問として浮かんでいるのではないかと思うのが「適正な価格ってなに?」ということになるかと思いますので、適正な価格についてのバフェットの考え方を紹介していきます。

ここでバフェットが適正だと考える価格の算出方法をご紹介してまいります。バフェットが重要視しているのが、事業価値ということです。

企業そのものでもいいんですけれども、その企業が行っている事業、本来もっている価値を算出して、その価値を一定の割引率を用いて現在の価値に直すインカムアプローチというものを行っています。

その現在の価値を株価、もしくは時価総額といったところと比較をして、今、安いのかそうではないのかということを比較するわけなんですけれども。

バフェットが用いている方法としては、この(スライドの)下半分なんですけれども、「オーナー利益÷リスクフリーの金融資産の利回り」。具体的には、バフェットは米国の長期債・10年債の利回りを好んで使うと言われているんですけれども、この方法で事業価値、現在価値を算出していくと。

このオーナー利益とは何かということなんですけれども、これはバフェットが独自に考えているということなんですが、似たような考え方では証券分析ですとか、そういったところでよく使われる概念なんですけれども、「純利益+減価償却費−設備投資」ということです。

これはどういうことをやろうとしているかというと、その企業が将来も稼いでこれるであろう利益を計算しているんですね。

ある年の純利益に減価償却費、なにか設備を買ったときのコストを年間1年1年で割り算してコストとして計上する減価償却費(を足して)、その年の設備投資の費用を引き算すると。

それをオーナー利益と呼んでいるんですけれども、将来生んでくるであろう利益を今の価値に割り戻すとどうなんですかというのが、バフェットの計算なわけでございます。

ただこれなかなかわかりづらいといいますか理解しにくい概念かなと思いますので、少し具体例を使って数字で考えていきたいと思います。

投資の指標となる「安全のマージン」

例をとしてあげたのが、XYZ社ですけれども。現在の株価を500ドルとします。そしてさっきのバフェットの定義でオーナー利益、これが300万ドル出てるとします。

現在、長期国債の利回り、アメリカの国債の利回りが3パーセントであると。そして、そのXYZ社は10万株の株を発行しているという条件で考えていきたいと思います。

これはあくまでも簡単にしたものですので、細かい計算になるとまた違うということもあると思いますけれども、ここでは簡単な計算としてお考えいただければと思います。

まず先ほどの方法ですと、オーナー利益をリスクフリー金融資産の利回りで割り戻すというわけなので、今回のオーナー利益300万ドルを3パーセントで割り戻す。長期国債の利回りですね。

3パーセントと300万ドルと。これを割り戻します。そうしますと、割り引いた現在の価値、その企業の現在の価値は1億ドルというのが出てくるわけですね。

その1億ドル価値がある会社なんですけれども、10万株発行してますので、1株あたりのその会社の価値に直しますと、1,000ドルという数字が出てまいります。その1株あたり本来は1,000ドルあるはずであるということが計算として出てくるわけですね。

じゃあ、その会社の現在の株価がいくらだったかというと、500ドルでしたので、本来は1株あたり1,000ドルあるはずなのに、市場の株価の評価は500ドルでしたと。この場合だと、半分しかないというわけですね。

ですので、「これってもしかして割安なんじゃないの?」というのが、バフェットの基本的な割安の尺度を測る考え方であると言われています。

この例ですと、バフェットは1,000ドルと500ドルの差の部分を「安全のマージン」と呼んでおりまして、この差が大きければ大きいほど安全度が高い、投資魅力が高いと考えて積極的に投資を行うと言われております。

今、具体例も使って割引現在価値のところをご紹介したんですけれども、なかなか理解しにくいというお客さまも多いと思います。

その考え方について非常にわかりやすい説明をしてくれている参考書籍がありましたので、今日持って来ました。『知ってそうで知らなかった ほんとうの株のしくみ』。山口揚平さんという方が書かれている本でございまして、PHP文庫から出ています。

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これは現在価値の考え方、なんでPERという指標は使われるのか。PBRという指標が使われるのかといったところから非常にわかりやすく書いてくれていますので、本屋さんで立ち読みでも構いませんので、ぜひご参考にしていただければと思います。

ちなみに私、この山口さんとはまったく面識がなくて、これを買っていただいたからといって私のところには何も入ってきませんので、その点ご説明させていただいて、ぜひご参考にしていただきたいと思います。

「我々の好む保有期間は“永遠”です」

次の点ですね。今度は、割安な計算、企業が本来もっている価値よりも現在の株価が割安であれば買いましょうということ。3点目、長期的集中的に投資を行う。そのあたりについてご紹介してまいります。

それについてバフェットはこんなことを言っています。「我々の好む保有期間は“永遠”です」と。「Our favorite holding period is forever.」ということで、まさに「永遠です」と言っているわけですね。

なんで永遠なのかということなんですけれども。さっき最初のところで今後長期にわたって5年・10年・20年と利益が目下どんどん増えていく企業に投資しましょうとバフェットは言っているわけですね。

ということは、長期的に見れば見るほど、その企業の利益は増えていくでしょうということになるわけですね。実際どうなるかはわかりませんけれども、自分はそういう企業に投資しているんだと。

ですので、その期間が長ければ長いほど、投資の保有期間が長ければ長いほど利益が増えていくでしょうと。そして利益に株価がついてきて、株価が上がっていくでしょうという考え方になるので、長ければ長いほどいいと言っているいうところでございます。

さらに「集中的な投資」というところなんですけれども、「長いことやっていると投資すべきこれらの基準を満たしている企業はほんの少ししかないことに気づくだろう。だから、そのときには大きな金額を購入するのだ」とバフェットは言ってるんですけれども。

長期的に成長が有望な企業を見つけたと。さらにその企業がなぜか株価が市場から評価が低いと。本来もっている価値よりも割安な状態で放置されていると。

そういう1番と2番が合致したようなとき、チャンスというのはそんなにはないよと。なので、もしそういうチャンスがあったならば、一気に大きな金額で投資しようというのがバフェットが言っていることだと思います。

ただこれは、私も含めて個人投資家のみなさまにはなかなか実践が難しい。大きな金額で1回で買うというのは難しいところだとは思いますので、投資に活かすのは難しいポイントかもしれませんけれども。ただ、バフェットの考え方としてはこのように実践しているとご理解いただければと思います。

長期的・集中的な投資のメリット

今、申し上げましたことの繰り返しになりますけれども、これまで見てきた条件を満たすような優良企業で、株価が本来の価値よりも下がる可能性がある、割安に放置されている可能性がある。そういう企業というのは、それで買えば長期的にその後株価が成長していく、利益が増えていくことが期待できる。なので、長期的に投資していきましょうと。

さっきもリーマンショック、金融危機の例でご説明しましたけれども、優良な企業というのも市場全体に、もしくは経済がクラッシュしてしまうことに引きづられて、一時的に利益が減って株価が下がることというのはあるんだと。

ただ、長期的に見ればもっともっと稼いでいく企業に投資しているわけなので、長期で見ればそんな短期の変動というのは問題にはならないんだ、というのがバフェットの考え方ですね。

それで、2つの集中的な投資。こちらもさっき申し上げたとおりですけれども、そういうチャンスというのは多くは転がっていないと。なので、「見つけた」「これだ!」という確信を抱いたならば集中的に投資をするんだというのがバフェットの考え方でございます。