企業とメディアの間にミスマッチがある

菅原弘暁氏:こんばんは。PR Tableの菅原と申します。本日はありがとうございます。

PR Tableでは今、企業・団体さま向けのストーリーテリングサービスを行っています。見た目はWebメディアのようなプロダクトですが、企業自らストーリーを作って投稿できる「企業版アメブロ」のようなサービスになっております。コンテンツを作れないという方に関しては、我々が作成代行……いわばゴーストライターをやらせていただいております。

PR Tableのビジョンは、「ミスマッチのない社会を実現する」を掲げています。いわゆる左脳的な情報……人で例えるなら、顔や学歴、身長といったものでは個人の価値をちゃんと測れません。

「ここで働きたい」「ここに投資したい」を調べるためにネットで検索すると、いろんなメディアが出てくると思います。しかし、第三者であるメディアが言いたいことと、企業が言いたいことは、必ずしも一致していません。そこでミスマッチが生まれているんじゃないかと考えています。

左脳的ではなく、第三者評価でもなく、企業が「自分たちの思い」を語る。右脳的なものを語ることが必要だと思っています。なので、PR Tableのミッションとして、「より多くの会社・団体のストーリーを生み出して、より多くのステークホルダーに伝える仕組みを作る」ということをやらせていただいております。

僕のプロフィールを簡単に紹介します。もともとは、オズマピーアールという老舗PR会社にいました。最後の1年間は、博報堂のPR戦略局に出向し、地方自治体や外資系スポーツメーカーのPRをしていました。みなさんに馴染みがないところだと、謝罪会見といった、リスクマネジメントのようなこともやっておりました。

その後、事業会社の広報でブランディングなどを行いながら、2015年9月にPR Tableのサービスを始めました。そして今、250本以上のストーリーを編集・作成しております。

「銅の社員」を放っておいてはいけない

今回は「採用広報」がテーマだと思うんですが、PR Tableでは「採用広報≒コーポレートブランディング」だと考えています。今日はこれを大前提にしてお話しします。「社員からの共感なくして、社外からの共感なし」。また後でもご説明しますが、このフレーズを覚えておいてください。

ほとんどの企業が、会社の理念を社員へ浸透させることが必要だと感じていながら、3分の1は(なにも)やっていません。3分の2は対策を講じているにも関わらず、そのうちの80パーセントは「ぜんぜん理念が浸透してないんじゃないか」と自覚をしています。

中には「経営層が把握していない」「ちゃんと制度になっていない」「理念に掲げていることと、やっていることが違う」と感じているところもあります。

日本は、従業員満足度が世界で最下位。けっこう衝撃的な数字が出ています。それでいて転職が少なく、会社への定着率は高いです。GDPが下がっているのは、「受け身の定着」が原因じゃないかと思っています。

会社員は、4つに分けられると言われています。

1つ目が「金の社員」、戦略の理解に基づいて情熱的にコミットしています。この会社の優等生、金メダルな社員です。2つ目の「銀の社員」は、戦略は理解していないけど、がんばっている。会社としては「銀の社員」とコミュニケーションをとることを諦めつつあるが、がんばってくれているからいいだろうと思っています。

3つ目は、戦略は理解しているけど、ぜんぜんコミットしていない。シラケてしまっている「シラケ社員」です。そして4つ目は、どちらもできていない「ダメ社員」です。

2014年の内部調査によると、この「ダメ社員」が(会社に)54パーセントいるという衝撃的な数字が出ています。「金の社員」は、わずか4分の1と言われています。

これだけみると「日本の会社はやばいんじゃないか」と思うのですが、意外と救いがあるのが「銅の社員」(シラケ社員)ですね。もうちょっとで「銀の社員」にいける人が、実はたくさんいます。会社がすべきことは、この人を放っておくのではなく、引き上げることだと言われています。

会社にとって、社員は「社会との接点」

採用の話に戻します。会社は人を増やして、どんどん成長しなければいけません。でも、大きくなればなるほど、ステークホルダーはコミュニケーションをとらなければいけない相手が増えます。その分、課題も大きくなっていきます。

創業したてのころは「とにかくサービスを知ってもらえればいい」「顧客を増やせればいい」と考えればいいと思います。しかし当然、人を増やしたい・成長させていきたい。そのためには信頼性を高める必要があります。採用候補者や、その奥さん、親御さんに信用されなければいけない。

人を増やすとともに、会社に定着してもらわないといけない、フォーマンスを上げてもらわなきゃいけないとき、ステークホルダーは「社員」になります。会社の規模がもっと大きくなれば、株主や投資家、業界外の人たち、市場からの評価も大きくなっていきます。

そして、今日はおもに採用の面で、社員にそのまま定着してもらうためにも重要になると思っています。

1つの例として、矢沢永吉さんが「“やっちゃえ”NISSAN」と言っている、日産のCMがあるんですね。実はこれ、インターナルコミュニケーションの手法だともいわれています。単なる消費者向けのメッセージじゃないということですね。

全国各地にいる日産(自動車)の社員の方に、日産が「会社として、社訓として、チャレンジするぞ」「だからみなさん、“やっちゃってください”」というメッセージを伝えるために流していたとも言われています。

これをなぜやっているか。さっきお話した「社員からの評価」ですね。例えば、採用担当の方が採用候補者に会ったとき、「うちの会社どうなんだろう」「いい会社じゃないな」と思っていると、魅力が伝えられません。それは広報担当がメディアの方に会うときであろうと、営業担当の方が顧客に会うときであろうと、カスタマーサポートの方がクレーマーに対応するときであろうと、同じです。

会社にとって、社員は「社会との接点」なんですね。その社員一人ひとりがしっかりしていなければ、社外から評価されません。社員がしっかりしていれば、社外から「いい会社だね」と評価され、それが記事になったり、事業や成長のフィードバックが得られるようになります。そうなると、社員が、自分たちの会社に誇りが持てると言われています。

このスパイラルを生むことがコーポレートブランディングであり、採用広報にもつながってくると考えられます。

自社アセットをストーリーにする

ここまでお話したとおり、ブランディングは超重要です。「ブランディングとはなんなんだ?」と言われると思うんですが、本には「企業と顧客の信頼関係が作られる」とあります。コーポレートブランディングに置き換えて考えてみると、採用候補者であったり、社員も含むステークホルダーとの信頼関係を作る感じです。

ブランディングは、信頼に応え続けていればどんどん強くなり、さまざまな分野で企業価値を高めていくことだと言われています。それに採用も含まれています。よく「ブランドを高めたい」「ブランドを良くしたい」と簡単に言われますが、イメージや外部の問題ではないです。会社として重要な経営資源であり、経営戦略の一部であると位置づけられます。

では、「強いブランディングとは、どうすればいいのか」という話です。先ほどお話したとおり、社会との接点である社員一人ひとりがブランドです。社員の満足度、会社に誇りを持つことが非常に重要です。

最後の3番目の赤字の部分を見てください。ブランドを高めるため・構築するための取り組み、その企業風土を実際に作っている文化が、そのまま自社アセットになると考えられています。この自社アセットとは、その企業の独自性であったり強みになるものです。

みなさん、「採用広報に限らず、コミュニケーションで独自性を伝えたい」「強みを伝えたい」とおっしゃるんですが、伝える手法はいくらでもあります。パブリックスピーキング(スピーチやプレゼンなどで話すこと)や、メディアのインタビューを受けるのもそうです。あとはオウンドメディア、社外報、プレスリリースもです。

数多ある中で大事なのは、ちゃんと伝えたいこと、強み・独自性をちゃんと言語化して伝えることです。言語化とは、自社アセットを見える化することです。自社アセットは、自分たちが感じているだけなので、言語化しないと外部からは見えないんですね。

では、言語化したものをただ伝えればいいのか。見ている人がちゃんと腹落ちするストーリーにしていく。

自社アセットをストーリーにするとは、どういうことなのか。それは、会社としての目指す姿・理念みたいなものを、本当にわかりやすくすることです。例えば、創業エピソードだったり、ミッションだったりを、ストーリーを通して伝えていく。

会社の信頼性は、トップにいる1人だけではないです。ちゃんと「こういう模範である優秀な社員がいるんですよ」「会社を支え続けるナンバー2がいるんですよ」をストーリーとして伝えていきます。

「なかなか伝わらない」を解決するためのストーリー

とくに採用ですが、ちゃんと会社として人を受け入れる準備ができているかという説明責任を果たす必要があります。福利厚生であり、社内制度であり、オフィスであり、働く環境をちゃんと伝えていく。

このストーリーを伝える手法は「ストーリーテリング」と言われています。アメリカではけっこう進んでいる手法で、トップや社員が思いを語って人の心を動かす手法です。スタンフォード大学でも研究されていて、企業のコミュニケーション活動に非常に有効だとされています。

日本のメディアでは、とくに開発者や従業員など、右脳的な採用が手薄になってきたところで、このストーリーテリングが採用されています。

最近、ストーリーという言葉を至るところで聞くと思います。例えば、スナチャ(Snapchat)でストーリーができる、Instagramがストーリーを立ち上げたとか。PR Tableでは「プレスリリースで発表するほどじゃないけど、ちょっといい話」と定義しています。それなら、企業にたくさん眠ってるんじゃないかなと思っています。

創業のエピソードや、メインのサービス・プロダクトを作る苦労話、オフィスや社内制度も、実はそうです。できれば社長を出してほしいと思うところですが、会社を支えるナンバー2だったり、辛い時期を乗り越えてきたメンバーの話だったり(でもいい)。

あと、顧客の事例ですね。「こういう困ったお客さんがいて」「こういう困りごとをがんばって解決しましたよ」というのも、社員からするといいですね。

PRバックボーンらしく、ストーリーとプレスリリースを比較してみます。プレスリリースとは「こういう商品が出ます」「こういうことをやります」という事実ををメディアに対して速報的に伝えるものです。ストーリーは、事実にある背景だったり、その思いをすべてのステークホルダーに対して影響を伝えていくものです。

大きな話になると、松下幸之助さんや本田宗一郎さんの企業理念、創業秘話は1年に1回ぐらいどこかの媒体で書かれてるんですよね。そして、毎回すごくバズるんですよ。なにも新しい話は出ないのに。それくらい愛されてるストーリーなんだということですね。いい話はずっといい話だと思います。

ストーリーは、「なかなか伝わらない」という課題を解決するものだと思っています。「社員に会社のビジョン・ミッションが伝わらなくて、モチベーションが低下している」「会社の文化や雰囲気が伝わらなくて、採用のミスマッチが発生している」などです。

株主もそうですね。もちろん市場価値とかも大事なんですが、競馬で例えると「この馬に賭けたい」「応援したい」と言われるようになることです。だから、その会社が大きくなると「社会がどう変わるか」「それをどうやろうとしているのか」をちゃんと伝えきる。

あと、「メディアに取材されて思うように取り上げられなかった」「言いたいことと違った」が多々あると思うんですが、それはよくある当たり前の話です。メディアは、企業の言いたいことを伝える義務は一切ないです。そうであれば、もう自分たちで伝える必要があります。