人類を“多惑星種”に

イーロン・マスク氏:お招きいただきましてありがとうございます。「The SpaceX」の火星計画についてお話できるのを楽しみにしています。

私たちが目指していることは、火星を可能性に満ちたものにすることです。私たちが生きている間に、あなたも、もし行きたいと思うのであればだれもが行ける、そのような場所にするということです。私はそうすることが非常に重要なことであると考えています。

ですから、まずはじめにお聞きします。どうしてほかの場所へ行くのでしょう?

私はそれには基本的な2つのことが関係していると思います。歴史は2つに分岐していくのです。1つは、「我々が地球にずっととどまるが、絶滅の危機に直面するであろう」というものです。私は最後の日の予言ができるわけではありませんが、歴史によれば、いつかは破滅の日が訪れるでしょう。

そしてもう1つの道は、我々がこの宇宙に耐え得る文明、すなわち“多惑星種”となるということです。

みなさんにもそれが正しい選択肢であると同意していただけると思っています。そうでしょう?

(会場拍手)

そうすべきなのです。

ではみなさんをどのように火星にお連れするかという問題です。そして、自分で維持する街を作り出すのです。しかもその街は基地のようなものではなく、そのものが惑星となるような街です。それにより我々が多惑星種となることができるのです。

時々みなさんが不思議に思うのが「太陽系にあるほかの惑星はどうなのだろう? なぜ火星なのだろう?」という点です。そこで、それを視野に入れて考えられるようにしたいと思います。

こちらは、太陽系を実際のスケールで表したものです。

我々が住んでいるのは、左から3つ目の小さな石ころです。これが地球です。そうです、その通りです。そして我々の目標は、左から4つ目の石ころに行くということです。それが火星です。

しかしこれを見れば太陽系のスケールの大きさを実感していただけると思います。太陽がどれだけ大きいか、木星、土星、海王星、天王星、そして右手に見えます小さいのが冥王星です。

このように見てみると、ちょっと正確なスケールではありませんが、どこにどの惑星があるのかを感覚的に理解できると思います。ですから、多惑星種となり太陽系のなかのどこかに行くとなると、選択肢は限られてしまうのです。

近くに行くというのであれば金星もありますが、金星は非常に高圧で高熱な酸でいっぱいですから難しいでしょう。金星(Venus)は実際のところ女神のようなわけではないのです。女神とはだいぶかけ離れているといえるでしょう。ですから金星では実際に生活するのは難しいでしょうし、水星は太陽に近すぎます。

いつかは木星や土星の惑星に行くことができるかもしれませんが、それらの惑星はちょっと遠いですし、太陽からさらに離れていますから、現状では難しいでしょう。そのため、我々が多惑星種になるのであれば、火星に行くという選択肢しかないのです。

ひょっとしたら月に行くこともできるかもしれません。私は月に行きたいですが、我々が月に住むというのは難しいかもしれません。なぜなら月は惑星より小さく、大気がなく、火星のように資源があるわけではなく、1日が28日です。火星はというと、1日24.5時間です。ですから、総合的に言って火星のほうが持続可能な自給自足の文明を形成するには圧倒的に条件がいいのです。

火星と地球はよく似ている

では、地球と火星、2つの惑星を比べてみましょう。この2つの惑星はさまざまな点で非常に似ているのです。

実際、初期の火星は地球のようであったと我々は信じています。そして火星を温めることができれば、再び厚い大気と液状の海を得ることができるのです。

今、我々がどこまで来ているかというと、火星は地球より半分ほど太陽から遠いため、必要なだけの太陽光を得ることができません。つまり、少し寒すぎるのですが、我々が温めることはできるでしょう。

そこには非常に助けとなる大気があり、主にCO2、窒素そして空気の成分の形跡がある、つまり、大気を圧縮するだけで、火星で植物を育てることができるのです。それには植物を育てるのに非常に重要な窒素も含まれています。

それに、火星にいることは楽しいはずです。なぜなら火星の重力は地球の37パーセントしかありませんから、重いものを持ち上げたり、飛び跳ねたりすると楽しいでしょう。

日中は地球と非常に似ています。ですから、(スクリーン上、地球と火星の人口数比較の欄を指して)ここにある一番下の列だけ変える必要があるのです。現在地球上には70億人いるのに対して、火星に住んでいるのは0人です。

今までNASAやほかの組織によりたくさんの立派な仕事や、火星の初期の調査と火星がどんなところかを理解し、我々が火星のどこに着陸することができるか、大気の構成はどうか、水はどこにあるのか、いや、氷がどこにあるかと言った方がふさわしいでしょう、そういったことを研究してきました。

しかし我々は初期の調査から、実際に街を建設するということに移行しなければなりません。

現在我々が直面している問題ですが、こちらのダイアグラムを見ていただければおわかりいただけると思いますが、火星に行きたいと思う人と実際に行ける人との間に交差地点がありません。

実際、現状では莫大な金額を持っても火星に行くのは難しいのです。古典的な方法、ホリスティックな形態を用いたとしても、1人当たり約100億ドルはかかると言われているのです。

例えば、アポロ計画でのコストは現在のドルで大体1,000~2,000億ドルであるといわれており、12人の人間を月へ送るということは非常にすばらしいことで、私は人類が達成した偉大な業績の1つであると思っているのですが、チケット代金としては非常に高額すぎます。

ですから、このことは「表面を触るに過ぎない」と言われているのです。1人当たり100億ドルもするのであれば自足の文明を構築するのは不可能です。ですからこれらの円を近づける方法が必要なのです。

もし火星へ引っ越す金額が大体アメリカの中流の家の値段、つまり大体20万ドルくらいであるならば、自足の文明を構築できる可能性は非常に高くなり、確実に起こると言ってもいい状態になると思うのです。

実際にすべての人が行きたいと思うわけではありません。私は比較的少数の人たちが地球から移住してもよいというと思うのですが、もし行きたいと思う人と金銭的に行ける人が十分にそろうなら、これは可能なのです。

いかに火星への旅費を下げるか

スポンサーシップを得て、貯金をして火星に行くことを目標とするなら、誰でも行けるようになると思います。それに向かってチケット購入のための貯蓄をし、火星に移住をすれば、火星では長期の間、労働力不足になるので、仕事がなくなるということはまずないでしょう。

ですから火星への旅費を5万分の1に減らさなければならないのです。これは難しい課題です。不可能のような気がするかもしれませんが、私は方法があると思うのです。これはおよそ4.5桁減らすことにより解決できるのです。そのためのカギとなる要素があります。

減少のほとんどは、再利用性により可能となります。2から2.5桁の範囲でしょう。そして残りの2は軌道の補充、推進する火星の産出物と、正確な推進燃料を選択することです。

これらの詳細について説明していきます。完全な再利用性は非常に難しい課題です。軌道システムのなかでも再利用性を満たすのは非常に困難です。それがほかの惑星上で行われるというのであれば飛躍的に難しいチャレンジとなるでしょう。しかし、航空機に見られる、再利用性と消費量の差を例とします。

これは車、自転車、馬など、ほかのどんな交通手段においても言えることですが、一度しか使わないのであれば、非常に高価になります。しかし、何度もフライトすることで変わります。航空券であれば、飛行機は9,000万ドルしますから、一度しか飛ばないのであれば一度のフライトで50万ドル支払わなければならないところが、今ならばサウスウェストのロサンゼルスからラスベガスまでの券が税込み43ドルで買えるのです。これは非常に大きな進歩です。

ここにあるのは4つの改善方法です。しかし火星に関しては再利用性を同じように当てはめることはできません。なぜなら宇宙船のシステムを再利用する回数は少ないからです。地球と火星のランデブーは26ヵ月ごとにしか起こらないのです。宇宙船の部品は大体毎2年しか使えません。

ブースターやタンカーは何度も使うことができます。それゆえ、スペースシフトを軌道に乗せる時、基本的にタンクをドライの状態、しかもそのタンクは大きいタンクでなければならず、軌道にいる間にブースターを用いてタンカーを補充するのです。宇宙船の搭載量を最大にしなければなりません。火星に行く際には非常に大きな積載量が必要なのです。

ですから、軌道で燃料を再補充することは非常に重要な点の1つです。もし軌道で補充しないとすれば、コストの面だけでも、0.5桁のインパクトしか効果がありません。

聴衆のみなさんはご存知だと思いますが、1桁は10倍です。ですから、軌道で補充がされないということは、大まかに見てチケット1枚当たりのコストを500パーセント上昇させてしまうのです。そうするならば小さな乗り物でもよいので、開発のコストを抑えることもできますが、それでもその乗り物は大きいですし、5~10倍大きい乗り物を作るのは難しいことです。

それにパフォーマンスの繊細さ、ブースター、ロケット、タンカーのキャラクター性が少なくなります。これらのエレメントの機能のいずれかに不足があるなら、宇宙船までの1、2回の余分な補充の旅をすることにより、実際に補うことができるのです。ですから、システムパフォーマンスの不足を減らすのは非常に重要なことなのです。

燃料はメタンにするのが最善の方法

そして火星で推進燃料を生産することも明らかに重要なことです。再び言いますが、もしそうしないならば、少なくとも旅費の上昇の面で0.5桁の影響を与えるでしょう。つまり、旅費が500パーセント上昇してしまうのです。

しかも火星に町を建設しても、もし我々の宇宙船がただ火星に滞在して、地球に戻ることなければ、それはちょっと不合理でしょう。そうすれば大量の宇宙船のお墓ができてしまい、どうにかしなければならないという気持ちになるでしょう。火星に宇宙船を置いていくのは理にかなっていません。

ですから火星に推進燃料のプラントを建設し、宇宙船を地球に返す必要があるのです。そして火星はそれにふさわしい場所と言えるでしょう。なぜならば、CO2の大気がありますし、水と氷が土壌に含まれていて、H2OとCO2があればメタンと酸素O2を作ることができるのです。ですから正しい推進燃料を選ぶことも重要です。これらは3つの主要な選択であると言えるかもしれません。

メリットもそれぞれありますが、ケロシンやロケット推進燃料グレード、ケロシンもジェット機が使うもので、ロケットはジェット機燃料の高価な形状のものを用い、それはほとんどケロシンの形状です。これは、機体のサイズを小さくする助けとなりますが、ジェット燃料でも非常に特殊な形状ゆえ、高価です。すると再利用性の可能性は低くなります。

これを火星で産出するのは非常に難しいことです。なぜなら火星にはオイルがないからです。ですから火星で推進燃料を産出するのは実際非常に難しいことなのです。

それで、推進燃料を移行するのはいいことですが、とてもいいわけではありません。水素には高い独特な推進力がありますが、非常に高価で、沸騰しないように保つのは非常に困難です。なぜなら液状水素は絶対零度に非常に近く、設置するには非常なエネルギーコストがかかるのです。

火星のエネルギーコストと強力な水素のコストは非常に高くなります。ですから全体的システムを最適化することを考えたときに、明らかに有効なのはメタンです。

大体、火星の50~60パーセントのエネルギーから推進燃料の補充をするのに推進燃料庫を用いる方が技術的にはずっと簡単なのです。このようにみると全体的にメタンがよい選択であることがわかります。

はじめ、我々は水素のほうがよいと思っていたのですが、最終的に、火星を往復する単位を最適化するのに最良の方法はすべてメタンシステムを利用することです。

これらが、到達するべき4つの分野です。誰がこのシステムをデザインしたとしても、例えそれがSpaceXであれ、ほかの誰かであったとしても、このシステム上で費用を抑えるためには、この4つの点は避けられません。火星に行くための1トン当たりのサービスの費用です。

火星への移民は大群になる

そしてこれが全体のシステムのシミュレーション映像です。

(映像が流れる)

(会場拍手)

今ご覧いただいたのは、我々が実際に建設する実物にほぼ近いものです。これはアーティストの真似事ではありません。このシミュレーションはSpaceXのエンジニアリングUキャドモデルにより制作されました。ですからこれはただの想像などではなく、本当にこれが建設されるかもしれないということなのです。

我々が建設しようとしているのはこのような形状になるわけです。ですからこのビデオのなかでどのような構造になるのかを理解いただけたかと思います。

ロケットブースターの様子、宇宙船の出発する様子、宇宙船が軌道に乗る様子、ロケットブースターが帰還する様子。実際かなり早く帰還してくるのです。約20分以内に戻ります。

ここではタンカー版のスペースクラフトが打ち上げられましたが、それはほとんど宇宙船と同じですが、負荷圧のカーゴ部位を推進燃料タンクで埋められています。ですからこの2つはほとんど同じ形状をしています。こうすることで開発費用も抑えることができ、それは実際かなり重要です。

そして推進燃料タンカーは実際何度も行き来します。軌道にある宇宙船のタンクを満たすために3~5回は往復するでしょう。宇宙船のタンクが満タンになると、カーゴは移動し、火星がランデブーするタイミングで我々は火星に到達することができます。

その期間は先ほども言いましたが、約26ヵ月ごとになり、その都度宇宙船が出発することになるでしょう。時間が経過するにつれ、軌道に乗って待機する宇宙船は増えて、1,000機かそれ以上になるでしょう。ですから火星の移民は大群になります。ちょうど「宇宙空母ギャラクティカ」のようになるでしょう。あの番組は面白いですよ。見たことがあるでしょう。ちょうどあのようになります。

宇宙船を軌道に乗せるのも道理にかなっています。なぜなら、2年もかかりますし、ブースターとタンカーを何度も再使用しなければなりません。それに比べて宇宙船の再使用率は低くなります。宇宙船は何年利用できるでしょうか。約30年くらいでしょうか。それでしたら12から、多くても15回の飛行が限度になります。

ですから宇宙船の積み荷は最大にし、ブースターやタンカーの再使用も最大にするべきです。そして宇宙船は火星に行き、補充され、地球に戻ります。

火星の人口が100万人に到達するには40~100年かかる

ではここで、車両のデザインと機能の詳細についてお話いたします。簡単にお話しします。実際のプレゼンテーションの技術面での詳細については少しだけお話しするにとどめます。そして技術面での詳細については、この後の質疑応答の場でお話いたします。こちらをご覧いただくと、大きさがおわかりいただけるでしょう。かなり大きいです。

おかしな話に聞こえるかもしれませんが、時間が経つにつれ、宇宙船はこれよりも大きくなっていくでしょう。これは未来に火星に行く惑星間の宇宙船と比べれば比較的小さいものになるはずです。しかし大体これくらいの大きさでなければなりません。

なぜなら、圧を上げたセクションで約100人かそれ以上の人たちを乗せ、その上荷物も運ばなければならず、それに推進燃料プラントを作るための負荷圧のカーゴもありますし、考えられるものがたくさんあると思いますが、大量の荷物を運ぶ必要があります。

ですから大まかに考えてもこのような規模になるわけです。自足の自給な街、文明を火星に構築するために100万人くらい必要になるわけですが、2年に一度、宇宙船1台につき100人しか乗れないとなれば、10,000回飛ばなければなりません。

少なくとも1回につき100人は飛ぶという計算がふさわしいと思いますし、結果的には人が乗るセクションを広げることになり、200人かそれ以上を毎回載せることにより、1人当たりの費用を抑えることになるかもしれません。

しかしそれでも10,000回のフライトは膨大です。宇宙船を1,000台発注するとなれば、1,000台の宇宙船を作るのにはしばらく時間がかかってしまいます。そこでみなさんは「100万人に到達するのはいつになるのだ」と疑問に思われるかもしれません。

はじめの宇宙船が火星に行ってから、十分に自足維持できる文明がそこに構築されるまでは、大体火星とのランデブーが20から50回なければなりませんから、40から100年ほどかかるでしょう。そんなに複雑ことではありません。

こちらは宇宙船の断面図です。そんなに複雑ではありません。

主に最先端のカーボンファイバーでできています。カーボンファイバーの部位は、低温になるとき、そして液状とガスの浸透性を到達する際に困難が生じ得ます。それに亀裂や加圧によるギャップが生じないようにしなければなりません。そこから漏れが生じえないからです。

ですからカーボンファイバーで超低温のタンクを作ることは非常に技術的に難しい挑戦となります。カーボンファイバーの技術にこれができるようになったのは非常に最近のことです。

これまではタンクの内側に金属などでできたライナーを引かなければならないと思っていましたが、そうすることにより、比重が課され、複雑化されてしまうのです。とくに難しいのは気体酸素の増圧です。つまり、圧が上がる、つまり、エンジンの熱交換により燃料と酸素を気体化し、それを用いてタンクに圧をかけます。メタンを気体化し、燃料タンクに圧をかけるのに用い、酸素を気体化し、酸素タンクに圧を送るのにそれを用います。

我々が「ファルコン9」のプロジェクトを行っていた時よりもはるかに単純です。そのときは圧をかけるのにヘリウムを用いました。ガスエンジンには窒素を用いました。このケースでは圧をかけ、気体化させたメタンと酸素をコントロールエンジンに用います。ですからたったの2つの材料だけで十分なのです。

「ファルコン9」の時は4つ、いや、点火液も含めれば5つ必要だったのです。エンジンに点火するのに使う液体は複雑ですが、このケースでは火花点火が用いられます。

(スクリーンを指して)こちらの表により車両の性能についておわかりいただけると思います。現在と過去のデータです。

そちらから読めるかどうかわかりませんが、拡張モードの車両では550トン、再利用モードであれば300トンが可能で、それは最大能力の135トンと比べられます。こちらを見ていただければもっとよくおわかりいただけると思います。この白い棒は車両のパフォーマンスを表しています。

積載器具から、軌道、車両となります。基本的に表しているのは車両のサイズ効率です。我々のものも含めた、現在飛行しているほとんどのロケットについてですが、性能のバーは実際のロケットのサイズのパーセンテージしかありません。しかし、惑星間システム、火星で使われる当初のシステムにより、デザインパフォーマンスは飛躍的に伸びることでしょう。それゆえ、ロケットの性能のバーが実際のロケットのサイズよりも伸びる初めての例となるのです。

こちらをご覧いただければもっと直接的比較ができるでしょう。これは推進力、かなり巨大な発射のための推進力です。13,000トンもあります。それはNASAが親切にも我々に使わせてくれる「39A」のパッドにフィットします。「Satan5」ではなぜかパッドが大きすぎたため、結果としてその同じパッドでもっと大きな車両を使うことができました。

そして将来的には発射場所をさらに増やすことができると考えています。テキサスの南に1つ増えると思います。こちらの表記を読むことができるなら性能を比較できると思います。しかしこれらの車両はまったく異なる目的を持っています。こちらは非常に多くの人々、そして火星へ何百トンもの荷物を運ぶために設計されています。ですからそのためにはかなり大きな車体が必要となります。