ヨッピー氏のウケるコンテンツの方程式

徳谷柿次郎氏(以下、柿次郎):(「ウケるコンテンツとは」について)ヨッピーさんはどうですか?

ヨッピー氏(以下、ヨッピー):僕は逆に、数字を狙って書くんですよね。「ウケたらなんでもいいや」くらいに思ってまして。僕は「ウケる方程式」という理論を提唱してるんですけど……。

柿次郎:みんなに言っていいんですか?

ヨッピー:いいですよ。今日は特別なんで(笑)。

柿次郎:今日は特別!(笑)。

ヨッピー:僕、数字を当てるのがけっこううまいんですよ。まだ世に出てない記事が下書き状態であって、「これはウケる」「これはウケない」という判断をするのがけっこう得意です。

こないだも友達のセブ山というライターが「ヒモックマというスタンプを出しました」みたいな記事を書いたんですけど。

(会場笑)

ヨッピー:そのヒモックマの下書きを見たときに、「これはおもしろい」ってコメントを付けてたら、案の定ほっといても上がるんですよ。この僕の選球眼の正しさ。

柿次郎:ヨッピーさんがひと声言ったから上がったんですか?

ヨッピー:いや、僕はTwitterでもなんもしてないよ。

柿次郎:ほっといたら?

ヨッピー:ほっといたら。で、どうやってそれを測るかというと、まず「広さ」を見るんですよね。あ、今下を向いた人がペンを持ってるからメモりつつあるのかな。

柿次郎:そうですよ。

記事の「広さ×深さ×距離感」を考える

ヨッピー:わかりやすい例で言うと、僕は「山梨県に遊びにいく」という記事を書いたんですけど……。

徳谷:一緒にやりましたね。

ヨッピー:「山梨県ってこんなにいいところだ!」ってすると、読んで楽しいのは山梨の人たちなんですよね。「取り上げてくれてありがとう」という気持ちになるんですよ。

でも、山梨の人だけを対象にすると狭いんで、「東京から1時間で行ける山梨」にすると東京の人たちも入ってくるんですよ。対象に含まれる。

鳥取で一番おいしいラーメン屋さんよりも、東京で一番おいしいラーメン屋さんのほうが、当然パイはでかいじゃないですか。まず広さを見るんですよね。「この記事を読む人たちはどれくらいの大きさがあるのかな?」と。

柿次郎:対象がってことですね。

ヨッピー:広いか狭いかを測って、次に深さを見るんですよね。どれくらいその広さに入ってる人たちに深く刺さるかという部分を考えるんですけども。最近、「量子力学ってなんなの」という記事を書いたんですけど、あれもけっこうウケたんです。

柿次郎:書いてましたね。

ヨッピー:これは、モロに理系の人たちを狙い撃ちにしてるんですね。量子力学ってすごく難しいジャンルなんです。

理系で勉強してる人たちもやっぱりみんな難しいと思ってて、たぶん人に説明するときに困るんですよ。「量子力学って何?」って聞かれても、なかなかうまく説明できない。

それをうまく説明する記事があれば、理系の人たちにはズバズバ刺さるだろうと思ったんですよね。案の定けっこうウケたんですけど、こうやって「どれくらい思い入れが深いものか」というのを考えるんですよ。「子供」とかも、深さで言うとめっちゃ取れるコンテンツなんですよね。

柿次郎:(子育てしてる)自分のことでもあるし、いつか(親になって)自分に関係するであろうとか。

ヨッピー:そうそう。子育てしてる人たちだったら、子育ての記事をみんな見ますから。どれくらい深く刺さるのかなとか、思い入れはどれくらいあるのかなというのを考えて。そうすると、なんとなく面積が出るんですよ。

柿次郎:広さ×深さ。

ヨッピー:そう。最後は距離感というのがあるんですけども。YouTubeでヒカキンさんとかが商品紹介動画やってますけど、あれは別に広さも深さもないんですよね。売ってるものを紹介してるだけなので。

ただ、距離感がめっちゃ近いんですね。映像が、画面上でヒカキンさんが1人でやってるわけですね。そうすると「ヒカキン 対 僕」になるわけですよ。

うまいなと思うのが、ヒカキンさんと誰かがずっとしゃべってるところを流したりとか、あんまりしないんですよ。基本的にはカメラの前でみなさんに向かってしゃべるから、距離感がめっちゃ近くて。ニコ生とかもそうなんですけど。

柿次郎:ラジオとかもそうですかね? ちょっと違うかな。

ヨッピー:ラジオはちょっと違うかな。広さがあって深さもあってかつ距離感が近いというものが、ウケる方程式だと思ってるんですね。あんまりピンときてないかもしれないですけど(笑)。

柿次郎:ピンときたって人いますか? 手を挙げてもらっていいですか? おっ、ほぼピンときてないですね(笑)。

『シムシティ』の対決企画がウケた理由

ヨッピー:例えばの話なんですけど、僕が『シムシティ』というゲームを市長と一緒にやるって企画があったんですけど、これを3つの方程式で考えると、まず広さがあるんですよ。「シムシティ」というワードって、けっこうみんな知ってるんですよ。当時ゲームをやってた人では。

柿次郎:世代でいうとそうですね。

ヨッピー:だから広さはまずあると。で、深さという点でもシムシティというゲームは思い入れがけっこう強いんですよね。懐かしいというのがあって、深さも取れると。あと距離感なんですけど、千葉市長というすごく偉い人が、僕の位置まで下りてきてくれてるんですよね。

柿次郎:偉い人が。

ヨッピー:そう。これがもし、僕がNHKの報道カメラマンとかで、偉いもん同士でしゃべってたらアレなんですけど、そもそもがインターネットのいちライターでしかない僕に対して、市長という偉い人が下りて近づいてきてくれてるっていう。この3つの方程式で、バーンとハネるみたいな。わかります?

柿次郎:これをぼんやりでも意識しながら、企画を立てたりとか構成を考えることが必要ってことですね?

ヨッピー:そうなんですよ。山梨の記事なんて、それこそ変えたのって文言だけですからね。タイトルに「東京からすぐ来れる」って入れたりするだけでフックになって、それで東京の人が見に来てくれるようになるんですよね、たぶん。そういうところはすごく考えて作りますけど。

柿次郎:なるほど。

ヨッピー:2つ考えるとわかるんですよね。『シムシティ』というゲームと……『クラッシュバンディクー』としましょう。どっちが広くて深いかというと、これは『シムシティ』のほうなんですね。

柿次郎:日本ではそうですね。

ヨッピー:それって過去にどれくらい売れたかとかを調べればわかるし、そんなところで「こっちにしよう」という選び方をするんですけど。

柿次郎:そもそもの題材をどうするかということですね。

ヨッピー:「どっちがいいのかな」って悩んだときに、それに当てはめて考えると「なんとなく答えはこっちかな」ってわかって。そうやって作りますね。

柿次郎:それができてるのは、世の中でまだそんなに多くないってことですね。

ヨッピー:多くないですね。

柿次郎:なるほど。みんながこれを真似したら、ヨッピーさんの食いぶちが減るかもしれない。

ヨッピー:減るかもしれないですね(笑)。

読者の怒りを数字に換える

柿次郎:まだ引き出しとか方程式があるんじゃないですか? 言ってないのが。

ヨッピー:言ってないやつ……なんだろう、ズルいのだと「怒りを数字に換える」というメソッドもありますね。

柿次郎:ほう。それはヨッピーさんの怒りですか?

ヨッピー:僕の怒りと、あとインターネットの怒りとかですね。

柿次郎:みんなが持ってる怒りを代わりに解決するとか。

ヨッピー:そういう数字に置き換える。「大阪を観光してきた」って記事を書いたんですね。まあまあウケたんですけど、それは冒頭に「ほかにある大阪観光の記事のクオリティが低すぎてムカつくから書きます」みたいなことを宣言してから書いたんですよ。

そうすると、みんなやっぱどっかちょっと思ってるんですよ。まとめ記事を見たら、「ソースを当たってるのかどうかもわからなくてただまとめただけです」みたいな感じで「なんだこれ!」ってみんな思ってるんですね。

そう思った人が僕の記事を見たら、僕はちゃんとあちこち取材して行ってますから、たぶん「おっ、応援したろ」ってなるんですよ。

柿次郎:「代わりにやってくれてるよ」っていう。

ヨッピー:そうですね。

柿次郎:PVも何十万とあったんですか?

ヨッピー:PVは聞いてないからわからないけどうん十万くらいじゃないですか。

柿次郎:ただ、僕はジモコロというメディアをやってるので、あれを見て「なんでほかのメディアでやんねん!」って。

(会場笑)

柿次郎:しかも(タイトルに)「永久保存版」って。ジモコロでやってよってめちゃくちゃ思いましたけどね。

ヨッピー:まあ、お金がね(笑)。

柿次郎:またお金! 金に汚く作り方もズルいと。長くなっちゃいましたね。佐藤さん、聞いてみてどうですか。

佐藤ビンゴ氏(以下、佐藤):そうですね。ゲームの『シムシティ』と『クラッシュバンディクー』って基本どっちも好きなんですか?

ヨッピー:僕は『シムシティ』はやってましたよ。『クラッシュバンディクー』はあんまりやってませんけど。『シムシティ』が出た当時って、ソフトがあんまりなかったんですよね。けっこう高いんですよ。『クラッシュバンディクー』が出た頃はソフトがバンバン出てるから、そんなに……。

柿次郎:プレイステーションの初期なんで、94~95年とかそれくらいじゃないですかね。

ヨッピー:『シムシティ』はもっと古いですね。

柿次郎:90年とか88年とかそのあたりですね。そういう世代差もつかみつつ。なるほど。皆さん、参考にできたらという感じですけど。