3Dプリントプロダクトのマーケットプレイス「rinkak」を運営

藤岡清高氏(以下、藤岡):カブクの事業内容を教えてください

稲田雅彦氏(以下、稲田)「rinkak」というサービスで、3Dプリンティング技術を活用した商品のCtoCのオンラインマーケットプレイスを運営しています。クリエイターがハンドメイド商品を1品からでも出品できるプラットフォームです。

従来の工業製品のような商品ですと、クリエイターさんが工場を口説いて金型を作る作業が発生します。

そうすると、1回金型を作って100万円という作業を4〜5回繰り返して400万、500万。それを繰り返して最終的に商品を作ろうとなったときに、ミニマムの生産ロットが5千とか1万になってくる。

そうなると、初期投資が4000万、5000万になってくるので普通のクリエイターさんは手が出せない。それが、3Dプリンティング技術を活用すると、1個から製造できて売れる。

かつ在庫を持たずに、受注がくれば、その都度カブクの提携工場で製造して発送される。クリエイターさんがいて、商品データだけあれば、製造・発送・販売までできるプラットフォームを運営しています。

ビジネスモデルはGoogleplayやApple Storeと同じモデルで、売れたときにクリエイターさんが例えば1000円の原価に対して、1000円マークアップを乗せていただくと、2000円で売ります。そのときに、2000円のものが1個売れれば、粗利は1000円で、そのなかの3割を、システム手数料としてカブクがいただくという仕組みです。

出品料は基本無料なので、売れなければ、クリエイターさんは出品手数料がかからない。また、出品にあたり、カブクで用意したテンプレートがあるので、ガイドラインに沿って操作すれば簡単に出品できる。

商品そのものがなくても、データがあればイメージを自動的に生成してサイトに陳列することもできます。これは実はCG画像です。

藤岡:これ、CGなんですか? リアルな商品と見分けがつかないですね。影までしっかりついていますし。色もしっかりついている。

稲田:体積に応じて自動で原価が計算されたり、その3Dデータにエラーがあるかないかまで我々のほうで自動チェックできます。

弊社の強みは、商品のデータから自動的にCGに起こすとか、データに対して自動で修正やチェックを入れるなどソフトウェアの技術力にあります。

普通のWebサービスの会社さんではなかなかできない深いレイヤーといいますか、例えば音楽でしたら、音楽を再生すること自体は普通のWebサービスでもできますが、音楽の中の波形をいじって音を変えるとか繋ぎあわせるなどの信号処理の深い技術までコミットしていることになります。

藤岡:「rinkak」事業の市場規模や規模感を教えていただけますか?

稲田:例えばクールジャパンと言われる市場ですと、雑貨、インテリア雑貨、キッチン雑貨、文具雑貨、ファッション雑貨、ギフト、DIYにフィギュアなど、それぞれ数兆円規模になります。

東大大学院→博報堂→カブクを起業

藤岡:カブクを起業したきっかけを教えてください。

稲田:僕が博報堂にいたときに、2年くらい前に仕事を通じて足立(現・カブク取締役CTO)と知り合い、“ハードウェアにおける個人の民主化”を行おうと考えて、カブクを立ち上げました。

2人はもともと人工知能の研究をしていて、そのソフトウェアの世界ではインターネットとかオープンソースという考え方は当たり前で、その恩恵をずっと受けてきました。

足立はあるアプリをパソコン1台で全部作って世に出したところ、評判になり全世界で700万ダウンロードを超えています。

つまり、ソフトウェアの民主化はすでに起こっていて、僕らとしてはその世界を当然のように歩んできた。Facebookしかりmixiしかり。

それに対してハードウェア、モノづくりの世界になるとまだまだ村社会で、閉じている世界です。それに、そもそも個人として参入できるような世界ではないというのが現状です。

ただ、個々人がものすごい突破力で行けば、大企業も追い越せないものを作れる時代でもあるので、ハードウエア・モノづくりの世界でも、個人でもモノづくりのスター選手になれないかと考えました。

そういう経緯で立ち上げたのがカブクです。モノづくり・ハードウェアの世界で個人の民主化を起こしたい。それを解決する1つのサービスとして「rinkak」があるという流れです。

「rinkak」のサービスを見て、3Dプリンターの会社と思われるのですが、そうではなくて、3Dプリンターは手段というかツールにしか過ぎない。実は3Dプリンターそのものは、20、30年位前からありますし、僕の大学院時代にも大学にすでにありました。

藤岡:生い立ちなども教えていただけますか?

稲田:出身は大阪の東の地域で、そこには町工場がたくさんあって、エンジニアとか工場のおっちゃんたちがいっぱいいて、みんなモノづくりをしていたようなところでした。そういう町で育ったので、モノに対する好奇心は自然とあるのだと思います。モノづくりに対する好奇心があって当たり前というところでした。

もともと起業したいという思いもありました。祖父が黒門市場という大阪の築地市場みたいなところで商売をしていましたので、商人精神はあるのかなと思っています。親は公務員ですが、そこは影響を受けなかったようです(笑)。

大学院を卒業してから、博報堂に入りました。それはむしろエンジニアの知識だけではではうまくいかないだろうと思っていて、博報堂に入ってしっかりマーケティングに取り組みたいと。実際にクリエーター、マーケッター、戦略コンサルタントとして働いていました。そして、足立と知り合って今に至るという経緯です。

大学院時代の人工知能研究

藤岡:稲田さんが研究されていた「人工知能」とはどのようなものか教えていただけますか?

稲田:専門的な話が多くなるのですが、僕らの研究していた人工知能はある種のボトムアップの精神があります。

普通コンピュータはトップダウンで動きます。例えば条件がA or Bのときか、次はそれがC or Dのときかと分岐していくのが普通のプログラムです。

トップダウンのやり方で、条件分岐があるというのが基本的なプログラムなんですけど、人工知能のボトムアップ型の僕らがやってきた手法は、ある程度の枠組みだけを作って、その環境に対して小さいプログラムを投げ込むんですね。そこからいいプログラムが生まれて子供ができて生き残っていく。

勝手にアルゴリズムが動いて、勝手にその中でプログラムが生成されていくということです。その中で競争が起き、淘汰されて生き残ったのが一番強いプログラム、というような。この手法は機械学習の1つで、近年注目されている人工知能の分野でもあります。

すべてをプログラムしないんですね。ある種の神のように生き物みたいなプログラムをある環境の中に放り込む。放り込む作業まではこちら側がやって、後は任せます。ある種の神的視点で眺めて最後に強いモノが生まれる、そういう感じなんです。

最終的にその環境で強い生き物が生まれるかというのは、やってみないとわかりません。環境に強い集団って、同一の人ばかりではなく、変わった人もいたほうが最終的には大きな山に登れるとかそういうことがあるんです。

そういうノウハウは人工知能をやってないと共有できないみたいなことがあり、エコシステムの考え方とか、生物多様性みたいな話とまったく一緒です。

その真髄というのは、多様性であったりとか、次の環境に生き残るには、1つのところにあまり適応しすぎないほうがよくて、少しずぼらでルーズなほうが、その環境に適応するというのがあります。

藤岡:人工知能で得るノウハウはダーウィンの進化論みたいですね。強いモノが生き残るのではなくて、環境に適応するモノが強い。

稲田:その哲学を持っていると、自分だけですべてやるのではなくて、適切にほかの人たちも巻き込んで、「みんなでいい山に登る」という話をするのですが、みんなで大きい山に登るにはどうしたら良いのかというのが、僕たちにはおもしろく感じます。

それが「rinkak」を立ち上げることに繋がるのですが、いろんな裾野を広げて多様性を増やして、今いるプレーヤー以外にもいろんな血が入ってくることで、競争環境が生まれて、最終的に今よりも遥かに大きな山に登れる。

藤岡:そういう話を聞くと、日本のような単一民族よりも、アメリカのような多様性に富んだ民族の方が環境変化にたくましく対応していけそうに思います。

稲田:そう、まさに多様性なんです。アメリカのシリコンバレーは生物多様性の考え方をもう30年前から敷いていて、そういうやり方を実践しています。

哲学として東洋のスピリチュアルな思想は、ヒッピーの思想に通じるのですけれども、それって何なんだろうということを科学的に解きほぐしている理論が生物多様性とかオートポイエーシス(autopoiesis=生命システムを特徴づける概念。自己生産を意味し、システムの構成要素を再生産するメカニズム)なんです。

ダーウィンの進化論とも繋がってます。日本のほうはスピリチュアルで、精神国家の感じがするんですけど、実はアメリカ西海岸の方が多様性があって八百万の感じがあって、根底にその考えがインストールされている感じがあると思います。

カブクを立ち上げたのもそもそも大きな山を登れるようなことをしていきたいという考えが根底にあります。

デジタル製造業の可能性

藤岡:会社はまだ立ち上げて1年目ですが、立上げ時の資金工面や人材集めはどうされたのですか?

稲田:最初は自己資金とシードマネーとして、エンジェル(個人投資家)さん複数人に投資していただきました。

藤岡:今後のビジョンや、「rinkak」以外の事業立ち上げのイメージは?

稲田:うちのメンバーはハードウェアもソフトウェアもできるので、まずはアプリサービスみたいなことになるかもしれない。ハードソフトを問わず、ものを作っていくというのはやっていこうと思います。

デジタル製造業は、次の製造業を作ると思っていまして、サービスに近いものになってくると考えています。サービスが基本的にあって、たまたまそれをハードとして使えると便利だからハード作るぐらいの感じかなと思っています。

どういうことかと言うと、例えばiTunesでいえば、音楽を無限に持ち歩くというコンセプトが先にあって、iTunesを使って音楽を聴くからiPodがある。iPodを作りたいという発想からではなく、音楽を持ち歩くという発想から始まったサービス。

スマートフォンさえあればアプリを作ればいいよねというかたちになれば、今後はスマートフォンを作る必要がなくて、アプリだけ作ればいいかもしれない。

例えば、FITBITという歩数計があって、全部アプリとWebに自動で連携する。これもサービスがあるから、そのサービスを取るために、今はこの手段しかないのでFITBITをつけている。そのようにモノを作るというよりも今後はサービスを作ってゆくというかたちになると思っています。

カブクの経営課題と求める人材

藤岡:カブクの経営課題について教えていただけますか?

稲田:「rinkak」を使って商品を創造し提供していくことをムーブメントにしていく、文化にしていくことだと思います。

ソフトウェアだとみんなでいいもの作るというのが当たり前だと思うのですが、それがハードウェアの世界でもこういう形で文化になっていくというのが、とても大事だと思っています。

藤岡:クリエイターの裾野を拡げるということに対し、カブクができることはどんなことでしょうか?

稲田:スター選手が生まれるか、スター選手をいかに育てるかみたいなのは大事だと思っていまして、それはプロ野球やJリーグとまったく一緒で、やっぱり裾野が拡がらないと上も伸びないし、上も伸びないと裾野も伸びない。裾野を広げていくための活動を粛々とやっていくつもりです。

藤岡:カブクが今後仲間になる社員に求める人材像についても教えていただけますでしょうか?

稲田:抽象的になってしまうのですが、今のステージに関してはゼロイチができる人ですね。僕らとして大事なのは、エンジニアとサイエンスの知見があって、アートとデザインの感性も持ち合わせている人。

エンジニアだけだと職人気質になってしまい、サイエンスだけだと理論寄りになってしまう。アートだけだと過度に理想主義になり、デザインだけだと過度に現場主義になってしまう。

単純にエンジニアリングだけできると言うよりも、そこにプラス、ギターやってるとかピアノやってますでもいい。エンジニアとサイエンスとアートとデザイン、プラス、ビジネスと言う、そのバランス感を持っている方を求めています。難しいのはわかっているのですが(笑)。

ゼロイチと言うと、ある種包含していて、アートであれデザインであれエンジニアであれサイエンスであれビジネスというのはどの世界でも基本的にはクリエイティビティを求められていると思っています。

どこかに軸足があって、ありとあらゆることをまったく躊躇なくやれるというか、「0から1を生み出してやろう」という思いがある人がいいなぁと。

藤岡:そういう意味で言うと、起業家の人ってゼロからすべてを創っていくので、起業家タイプの人は求めるイメージに近いですね。

稲田:まさにそうです。起業家の方はなんでもやるのでそういう人は合っていると思います。

藤岡:最後に稲田さんの夢について教えてください。

稲田:自分としてもエンジェルさんになれるよう成長して、エンジェルになるだけではなく、エンジェルを生み育てるような仕組みを作っていけたらと思っています。自分がボンと出て終わりということではなくて、ポンポンつながっていくようにしていきたいと思います。

前職時に西海岸へちょくちょく行っていたのですが向こうはタテのつながりがすごくあって、脈々とエンジェルさんが若い芽を育てて、それがぐるぐる回ってまた新しい芽が生まれて、成功した人がまたエンジェルになってというサイクルができていました。日本は徐々にそのサイクルが生まれはじめているかなぐらいの感じです。

僕らもエンジェルさんに投資していただいていますけれども、日本には初期にリスクを取る投資家がなかなかいないので今のエンジェルさんは本当に神みたいな存在です。

トヨタとかソニーは偉大なベンチャーですが、アメリカというのはそもそも、ベンチャーで作られている、ベンチャーが国を背負っていますよね。日本もベンチャーで活気づく一助になれたらと思います。

藤岡:稲田さん、ありがとうございました!