VCとの関係性

松本真尚氏(以下、松本):例えばVCという意味で言うと、独立系の会社もあれば、金融系の会社もあればCVCもあって、という話があると思いますけど。

とくに気をつけてるというか、「こういうところはやりやすい」とか、「実は金融系、数字細かくて嫌なんだよね」という話とか(笑)。

もしVCにおける違いとか戦略みたいなのがあったとしたら教えてほしいんですけど。なかったらないでもいいですけど、「言いづらい、パス」というのもあり。3回までOKですよ(笑)。

小泉文明氏(以下、小泉):そんなに細かさは……。けっこう担当次第なので、担当者との相性がすべてかなという気はしてるんですけれども。

唯一気にしてたのは、人事異動がある組織体であると、その人が本当に異動させられちゃう可能性があるので、そこはいつも気にはしてますかね。

契約書に書かれていること以上にいろいろなやり取りをしてるので、急に異動されちゃうと投資家との継続的な関係が途切れてしまう恐れがあるので。

それ以外は正直そんなにはないですね。出していただけるなら非常にありがたいですし、そんなに意識はしてないです。

松本:担当者依存だと。どっちかというと、「ローテーションがあったりすると困るよね」みたいな話ですね。

小泉:そうなんです。

事業系VCのメリット

松本:鈴木さん、どうですか? 鈴木さんは個人の場合もあるかもしれないですけど。

鈴木健氏(以下、鈴木):まあそうですね。ファクターによる違いですが、個人はこのラウンドでも本当に即決ですよね。1億とか2億とかの単位でも即決で、今のフェーズでも出してくれる。

僕らは投資を受けるということは、お金をもらうだけではなくて、応援団になってもらうという印象があるので、そういうタイミングでもウェルカムしているんですけれども、やっぱり即決できるというのが圧倒的に大きいですよね。

事業会社の場合ですと、やはり社内決裁が生じる。最終的に取締役会というのが月に1回あって、取締役会というのが何月何日にあるから、そこから逆算していくみたいな。「そこをスキップすると1ヵ月ずれます」みたいなスタイルになるわけですよね。やっぱり社内的な説明も当然必要ですし。

ただ、やはり事業会社のいいところというのは、誰よりも「スマートニュースが本当にイケている」ということに対する圧倒的な自信を持って投資をしてくれているということなんですよね。まったく疑いの目がないというか。

本人たち自身がモノづくりをやっていて、スマートフォンでアプリを作るということがどういうことなのか、どれぐらいのユーザ数、リテンションも、詳細の説明がまったくいらないです。

僕のほうから「プレゼン資料を出して説明しましょうか?」「いや、全部わかってます」みたいな感じで。事業に対する疑いはまったくないですね。

どうしてかというと、当然ですけれども、さまざまな統計データを喋って、業界の噂も入ってきますし。自分たちがモノづくりをしているので、この数字を出すためにはどれぐらいやらなきゃいけないのか、不可能な数字なのかとか、全部わかってると。

そういうなかで「事業の説明はいらないです」というところからスタートします。もう最初から投資するところを前提にして、話をスタートできるというところがあります。

逆に言うとやっぱり、こういう言い方なんですけど、投資という視点ではなくてサービスの良し悪しとかイケてるかを見抜く目という意味においては、当然自分たちが作ってる事業会社の方々のほうがベンチャーキャピタリストの方よりもわかってるわけですよね。

そういう専門性でやってるわけですから、当然だと思うんですけれども。そういう違いがあります。

ベンチャーキャピタリストの方には、釈迦に説法ですけれども、「投資委員会があって……」というかたちなんですけれども、やっぱりファンドによって意思決定のスタイルが違うじゃないですか。

けっこう一任である担当の方が決められるパターンもあれば、全員で合意しないと決められませんみたいなパターンもあれば、いろんなパターンがあると思うんですよね。

でも、結局のところ、僕の感覚だと、小泉さんが言ったように、担当者の方が「すごくやりたい」という気持ちを持っているものは進んでいきますよね。そこまでじゃない場合は進んでいかないかなと。

結局「調達をする」というところは、一番重要なのは、リード投資家を決めるというところなので、そのとき一番重要なのは、話をしてるときの目の輝き。

担当者の「これやりたい!」とか「一緒にやりたい!」という気持ちって表情に出るじゃないですか。結果論としては、けっこうそこで決まってるんじゃないかという印象がありますね。

freeeの資金調達

東後:freeeの場合は、今までの調達で言うと、最初にDCMさんに入っていただいて、そのあとIVP(Infinity Venture Parters)さんに入っていただいて。

そのあと、さっきお話したPavilionというVCです。今年のシリーズCで初めてリクルートさんに出資していただいて、それが初めての事業会社です。

共通して重要だなと思っていることは、すでにお話にあったとおりで、まずはスピード感というのが当然すごく大事で、とくに最初のラウンドの頃は「いかに意思決定を早くできるか」というのが本当に重要なポイントでしたね。

ただ、事業会社からも出資をしていただくようになったうえで、あらためてプラスαで重要だなと思うのは、当然事業の親和性は大事なんですが、それ以上に大事だなと思うのはビジョンの共有だと思うんですね。

リクルートさんと一緒にやらせていただいているのも、当然事業上のシナジーがあるというところももちろんあるんですが、それ以上に「目指している世界」とか、「このビジネスでなにを達成したいのか?」みたいなところで非常に共感度合いが高い。

さっき鈴木さんがおっしゃったみたいに、話をしていてやっぱり輝きが違うというか(笑)、お互いの視点がぜんぜん違ってくると思うんですね。

そういう意味で言うと、とくに、事業会社さんと資本提携させていただく場合というのは、「そこの共感度合いがどれだけ高いのか」みたいなのはものすごく重要なポイントなんじゃないかと思います。

あともう1つ重要だなと思っているのは、ビジネスのやり方。例えば、情報共有とか、日常のいろんなアップデートのやり方について共感があるかどうかもすごく大事です。

例えばfreeeの場合、当然自社の経理ってfreeeでやってるんですよ。そうすると投資家の方々には自分たちのfreeeのアカウントを共有しているだけなんですね。そうすると常にリアルタイムで数字が全部見えますし、当然すべてオープンなのでまったく嘘もないですし。

その代わりに、細かなレポートを作るのではなくて、「必要があればいつでもfreeeのアカウントを見て、必要な数字を取っていってください」というやり方をしています。

そういうやり方を「すごくいいな」と思っていただいける方もいれば、「やっぱりちゃんとしたレポートがいいよ」というケースももちろんあるので、そこらへんの「オペレーション上のやり方」でしっくりくるかどうかもすごく大事かと思いますね。

2016年の資金調達市場

松本:各社の状況もいろいろお話聞かせていただいたので、そもそもの「資金調達の今後」という話に触れていきたいなと思うんですが、あまりにもテーマがざっくりしているので(笑)。

さっき小泉さんが裏でおっしゃられてましたけど。なんか「『厳しくなるよ』って言われて、1、2年経ってんじゃん」みたいな話もあったりしますし。かたやSquareのように特殊な、ラチャットなんて日本でやっちゃうとたぶん問題だと思いますけど。

アメリカのいわゆるユニコーンベンチャーの最後のファイナンスなんて、ある意味「貸金じゃん?」みたいなやつも含めて、やっているのも実際あるじゃないですか。

そういう意味で言うと、ワールドワイドでも構わないと思いますし、よくご存知の日本の市場でも構わないと思うんですけど。

このあと、みなさんの読みとしては、とりあえず日本のベンチャーの資金調達の市場って、まず「晴れのち曇り」なのか「雨」なのか。それとも「こういうふうになっていくんじゃないか」みたいな。

せっかく12月なので、2016年度の予想をしていただこうと思うんですが。「来年以降、小泉氏はどう思うか?」と、これたぶんタイトルで出るはずなので。小泉氏の予想というのをぜひ聞かせていただけないですか。

小泉:ぜんぜんわからないですね(笑)。アメリカは、僕が先ほどお話したPre-IPOの人たちは上場株を見ている人たちですね。彼らがIPOのときに入れる資金を、どちらかというとPre-IPOで入れて来たという感じです。

その2つのタイミングを合計すると、その前の時代のIPOのときのファイナンスサイズとけっこう一緒なんですよね。ちょっと出すタイミングが早まっただけという。

まさしくラチェットついてたりとか、けっこう調整条項がついてるので。IPOのときにもあんまり損をしないですし、ちょっとデットに近いという設計になってるんですよね。

日本は結局これができないんですよね。今は「目論見書作って云々」という日本のIPOプロセスでいうと、これができないので。

アメリカはそういう意味では、投資家はそんなに損をしないという、けっこうプロテクトがしっかりされてるなかで、マーケットがどうなるかわからないというところへ歩もうとしていると。

日本はそういうものがないなかで、マーケットがずっとやばいって話が毎回出てます。1年前のIVSのファイナンスのセッションでも「来年はやばいかもしれない」みたいな話をみんなとしてて(笑)。

1年経ったけどあんまり変わらなかった。多少はいろいろありましたけども、良い方にも悪い方にもそんな変わらないかなというところがあります。

そういう状況なにで、投資家は堅実にセレクティブに投資先を選ぶというスタンスは変わらないと思います。

マーケットがどうなるかわからないんですけれども、別にお金がなくなるわけではないので。選ばれる会社になるために、自分たちで頑張らないといけないかな、とずっと思ってるところでもあるので、なんとなく「いつ雨になってもいいように準備をしている」というのは当然あるかなと思いますね。

来年、全体がどうなるのかはわからないなというのは正直ありますね。

日本のIPOのプロセスは非効率?

松本:ないですか? 逆に「そんなことないよ」とか含めて。今の小泉さんの話はオールアグリーですか?(笑)。

東後:正直、私はそこまで資金市場に詳しいわけではないので(笑)、もうおっしゃるとおりだなと思うところもけっこうあるんですけれども。

よく「資金調達の市場がバブルで、そのうち崩壊するんじゃないか?」みたいな話があるんですけれども、やっぱり中身を伴ってない場合というのは十分ありえるとは思うんですよね。

ただ、1個1個の事例を見ていくと、中身を伴っているケースとそうでないケースがけっこう見えてくるなと思っていて。

さっき少しお話させていただいた「マーケットの広がり」と、それに対する「付加価値の高さ」みたいな。このかけ算の面積というところが「バリュエーションと比較してどうなの?」というところだと思うんですね。そのかけ算の面積の最大値というところは、たぶんバリュエーションのマックスの値だと思っています。

それを見ていったときに、やっぱりそれを超えてしまっているようなバリュエーションがある場合には、やっぱりそれは危険なケースとかもあると思うんですよね。だから、けっこうケースによって違うんじゃないかなとは思います。

今後日本がどうなるかというのは、私もそこはわからないんですけれども、小泉さんたちと同じで、ある程度自分たちのビジネスを地に足つけてやっていきながら、市場変化があったとしても対応していけるようにやっていきたいなという考えでやっていますね。

小泉:VC業界で、さっき言った「IPOのプロセスをアメリカっぽく変えましょう」みたいな話って、なにか話されたりします? 

アメリカ式はあとから、IPOの直前に調整できるじゃないですか? あれ、日本できないじゃないですか? あの日本のIPOのプロセスってずっと変わってないんですよね。

アメリカはちょいちょい、Googleが上場するときもそうですし、オークションの仕方も変えましたよね。もうちょとIPOのプロセスを変えてもいいんじゃないかなって。ちょっとあまりにも、今のやり方だと調整しづらいんじゃないかなと。

松本:仮屋薗(聡一)さんに頑張ってもらうしかない(笑)。

小泉:そう、仮屋薗さんに頑張ってもらって。大和証券さんもいるので、なんとかそれでうまくタッグ組んでもらえれば(笑)。なんか、プロセス自体が古くなってるんじゃないかなという気はしてますね。

鈴木:専門家じゃないですか、もともとね。大和時代にミクシィさんとかをやられいたということで。その時代、10年ぐらい前から比べて変わってない? イノベーションが起きてない?

小泉:ぜんぜんプロセスは変わってないですね。結局IPO前に7日間ぐらい取ってロードショー行って。それで、プレヒアリングしてみたいな。それで、ブック積んでうんぬんかんぬんってぜんぜん変わってないので。

すごい非効率だなというか、一部の声、機関投資家の声って感じなんですけど、機関投資家さんでも分析・運用の仕方が変わって分析してない人もそれなりにいますしね。

投資家さんもどんどん多様化するなかで、そういう既存の機関投資家にすべてを依存する今のモデルというのを変えてもいいじゃないかなという気はしてますね。

アメリカの資金調達のイノベーション

鈴木:まさにアメリカでは、ここ10年ぐらいで資本調達そのものにイノベーションが5つぐらい起きてるんですよね。1つはY Combinatorみたいなやり方。これは日本でも似たようなスタイルがもうすでにたくさん行われていると思うんですよね。

2つ目は、ユリ・ミルナーが始めた、グロースなんだけども物言わぬ株主。ほかのベンチャーキャピタルが手を出せないバリュエーションでドーンと投資して。ただ、目利き力があるから、「そのバリュエーションでもまだまだ成長するんだ」みたいなスタンス、うるさく言わない、そういうパターン。

こちらに関しては、日本ではそれに相当するようなプレイヤーというのはいないというか皆無。つまりここにたぶん参入するべき誰かや場所があるはずなんですよね。

それから3つ目は、いわゆるアンドリーセン・ホロウィッツに代表されるようなフルスタック型のベンチャーキャピタル。

すべてのラウンドで投資するというだけではなくて、HRとか、マーケティングであるとか、スタートアップが成長するのに必要なファンクションをVC自体が提供していくというところ。

最近、Globisさんとかもそういうプレーヤーサイドにおられるのかなと。事業のことがわかる方を次々と採用されていて、そういうところを強化されているなという印象があります。

僕もシリーズAで調達したあとに、やっぱり一番困ったところって、お金があっても、「人を採用する」ところだったのですよね。

ベンチャーキャピタルの方がシーズンAのタイミングでHRのファンクションを強化してやっていってほしいなと本当に思いますね。WiLさんもやられてますよね。

それから4つ目は、クラウドファンディングですよね。「ハードウェアスタートアップに関してはクラウドファンディングで」というところが1つ、Kickstarterで流れができていると。

これについては日本でも類似の事例というのが出ています。日本でクラウドファンディングをやっても、どうしても数百万円しか集まらないけれども、アメリカだと数億円とか平気で集まってしまうという意味においては、日本のスタートアップに関してもアメリカでKickstarterで集まるという方向になりつつあるのかなという感じがします。

もう1つは忘れました。思い出したらあとで話します(笑)。

松本:今のおっしゃってる話はどうですか? 僕はすごく納得なんですけどね。

小泉:納得ですね。