SaaS系スタートアップの将来性

松本真尚氏(以下、松本):鈴木さんと小泉さんの場合は、まさにtoCのサービスがメインで、日米じゃないかもしれないですけど、東後さんはたぶんtoBというか、SaaSのサービスをやっていらっしゃると思うんですけど。

この場合は、例えばVCが異常に数字に厳しいとか。なにかtoBだからとかSaaSだからよくされる質問とかあったりしますか?

東後澄人氏(以下、東後):まさにSaaSで、しかもfreeeの場合は月額980円とか、1980円というかたちでかなり低価格な代わりに、会計ソフトのように、すごく長期的に使っていただくサービスなんですね。

ですので、ビジネスとしては先行投資をして、マーケティングだったりセールスにどんどんお金を投資していって、そのあと長期間かけて売上げとして回収していくビジネスモデルなんです。

そうすると、短期的な利益を見ていこうとすると、なかなか数字が合わなくなってくるというところがあります。

うちもシリコンバレーのDCMさんとか、あとシンガポールのPavilionさんからも出資をいただいているんですが、そういったお話をするときの視点、例えば実際に事業計画のモデルを共有して数字を見ていったときに、「まさにそこがうちのビジネスの肝なんだよな」というポイントをけっこうツッコまれるんですよね。

そこについて最初から議論をしていくことができるので、やっぱりそこの理解、SaaSのビジネスとスモールビジネス、BtoB向けのサービスについての「どこが押さえどころなのか」みたいなところの理解が非常にあって。

このビジネスの将来性だったり、どこまで伸びていくのか、マーケットのポテンシャルみたいなところも、そこのベースを持ったうえで議論できるというところはすごくスムーズなのかなと思いますね。

投資ラウンドごとの資金調達

松本:みなさんにおうかがいしたいんですけど、先ほど鈴木さんから「今のフェーズでもエンジェルが入ってくる」みたいな話がありましたけど。例えば、みなさん、シリーズABCぐらいやってると思いますけど。

シリーズごとに投資家の方々からツッコまれる内容が違ったり、先ほどもKPIの話がありましたけど、たぶん前になればなるほど「KPIはまだなにも出てません」という話があると思うんですね。でも、そのときも当然VCの方なり投資家の方を口説かなきゃいけないと。

そこはさっきおっしゃったように、「熱意と情熱だ」という話かもしれませんけど。みなさんは、今たぶん日本で有数の調達金額だと思いますけど、もうすぐ52億円になるんだと思いますけど(笑)、50億円超の調達されてらっしゃるなかで、シリーズごとに気をつけられたこととか。

たぶん今からシリーズABCを経験されてる方がたくさん出てくると思うんですけど、シリーズAのときは、ぶっちゃけこういうふうに話してたらうまく話せるとか。シリーズBのときは、こういうことをツッコまれやすかったとか。

みなさんの成長とシリーズが一緒じゃないにしても、なにかそのへん参考になるようなお話がもしあれば。

東後:まず最初に変化の話をすると、シリーズAとかもしくはシードのときというのは、freeeは本当に会計ソフト単独だったんですね。

そこでどれだけマーケットを取っていくかみたいな話がやっぱりすごく重要で。日本におけるスモールビジネスのマーケット、会計ソフトのマーケットはどのぐらいのポテンシャルがあるのかという。どちらかというと、マーケットのボリューム感の話がけっこう多かったのかなと思いますね。

ただ、BCと進むにしたがって、ある程度そこのマーケットの広がりが見えているなかで、逆に縦軸のほうですよね。これまでに獲得したユーザーベースに対して、どういう付加価値の上限があるのか。

会計だけじゃなくて、いろんなサービスの展開をすることによって、当然付加価値は上がりますし、同じ会計サービスの中でも付加価値を上げることができるので。

自分たちが行っているビジネスにおける付加価値の上限値について議論をすることがだんだん増えていく気がしますね。

シリーズAの段階でのアドバイスは、やっぱり思いというか、もう「これやる!」って決めて、それをぶらさずにやる、言い続けるというのがすごく大事なのかなとは思います。

松本:健さん、お願いします。

資金調達時に伝える2つのストーリー

鈴木健氏(以下、鈴木):昔、投資してる側にいたので、資金調達が得意そうに見えると思うのですが、僕はぜんぜんそんなことなくて。どちらかというとあんまり得意ではないです。

最初にスマートニュースがシードでエンジェルの方々、川田(尚吾)さんとか、山田進太郎さんとか、本田(謙)さんとかから投資を受けたときというのは、いわゆるリリース前のデモのアプリを見せて、その場で一発で決まったんです。

まあ川田さんは「3秒で決めた」と言ってくれましたけれども、本当に直感で。ほかのみんなとは一緒にエンジェル投資側で共同投資した経緯もあって、ちょっとお友達感覚で「一緒に入らない?」みたいな感じでささっと決まっていったんですよね。

シリーズAのときは、スマートニュースが大ヒットしていたので、本格的な調達になったんですけれども、シードのときは僕と浜本の2人しかいませんでした。

基本的に調達というのはたぶん2つ方向性があって、過去にどれだけきちんと結果を残してきたのか、どういう仕事をしてきたのかというところと、未来に向けて何を目指していくのか、もうその2つしかないんですよね。話すことというか、伝えることというのは。

だから基本的に、いかに良い調達をするのかというのは、日々の一つひとつの事業であるとか、プロダクトをどれだけしっかりやってきたかということの結果でしかないと思っています。

スマートニュースが当時、その時点においては比較的大きな調達、4.2億円の調達というのは今ではもう普通になりつつありますけれども、その当時にしては高いバリュエーションでできたというのは、やっぱりしっかり結果を出したというところが大きいシリーズだと思うんですね。

投資家・VCとの信頼関係

あともう1つは、やっぱり投資家との相性とか信頼関係がすごく大事です。バリュエーションが高ければ必ずしもいいわけではないので。

そういうなかでは、実は、浜本、それから弊社の藤村含め、Globis Capital Partnersの今野(穣)さんとはもう5、6年前から知り合いで、そういう関係性がもともとできていたというところもある種大事なのかなと思いますね。

でも、ここは別に全員が全員真似できるところでもないし、やっぱり人それぞれだと思うんですよね。ただ、今野さんには、お金だけではなくて、そのあとボードにも入っていただいて、いろいろ支援していただいています。

ある種結婚するのに近いような関係性になると思うので、やっぱり信頼のおけるパートナーを選ぶという考え方がとくにシリーズAの段階では大事なのかなと思います。僕らはそういう意味ではすごく恵まれてるなと思いました。

シリーズAのときは、人も少ないので、当然フルタイムのCFOが入れば別だと思うんですけれども、なるべく簡潔にと思っていました。基本的にはたくさんのシンジケーション的な感じにすると、すごく調整が大変になるので。

だから僕は、Globisさん1社にお願いしました。フォローを入れたいというところもあったんですけど、契約の事務作業が大変なことになってしまいますので、信頼関係を構築できていたGlobisさんだけに入っていただいたと。

Bのときは、それなりに高いバリュエーションで36億円を調達したのですが、まだ売上げ0円での調達がなぜできたのかというと、話としては基本的に同じで、結果を出し続けてきたというところが根底にあって、それをちゃんと認めてくれる人がいたということだと思います。

ただ、このラウンドのレベルになると、既存の日本のベンチャーキャピタルで「1口10億円を1ショットで出せます」とか「5億円以上を出せます」というのはたいへん数が少ないんですね。WiLさんは出せると思うんですけれども、たいへん少ないわけですよね。

そういうなかで、どういうふうに調達するかというのは、若干の試行錯誤みたいなものがありました。そういうなかで、ロンドンのAtomicoさんと、それから事業会社であるところのGREEさんとミクシィさんにも入っていただくというスキームになりました。僕としては「こういうやり方もありうるんだな」という発見でもありました。

シリーズCは、今年の3月に既存投資家から受けたのですが、それはもう既存投資家とのコミュニケーションになるわけですね。こういうときに、やはり既存投資家の方に支えていただくというのは、基本的にはそれまでの間にしっかりと結果を出してコミュニケーションをしていくという信頼関係に基づくものですよね。

調達をするということは、いかに信頼関係を新たに作るか、そして、その信頼関係を維持し続けていくのかというところが出発点であり、そして最も大事なんじゃないかなというのが共通して言えるところではないかと思います。

「即決」で出資を受けたメルカリのシードステージ

小泉文明氏(以下、小泉):メルカリの場合は、けっこう健さんの話と被るところがあるんですけれども、僕らのエンジェルというかシードは(松山)大河さん(East Ventures)のところですね。大河さんはもともと(山田)進太郎さんのウノウ時代にも入れていたので。

さっきの3秒の話で言うと、大河さんは確か六本木の交差点の横断歩道を渡ってる間に、進太郎さんが「入れてください」そしたら「いいよ」みたいな話だったと聞いたことがあります(笑)。

それぐらいの速さで決まったというのがシードですね。だから本当に、まずは信頼できるパートナーの大河さんに出資いただいたと。

そのあとにユナイテッドさんからAラウンドで3億円出資いただくんですけれども。これは聞いた話では、ユナイテッドの取締役の手嶋(浩己)さんが当時CtoCというか、フリマアプリっぽいのを社内事業としてやりたいんだけども、リソースとかいろんな問題でできないと。

そこのタイミングでメルカリがあったから、じゃあ、そこはどちらかというと社内事業じゃなくて、メルカリに出資して一緒にやっていければいい、というところでけっこうリスクを取っていただいて。ローンチ1ヵ月後ですけれども、3億円を出資いただくと。

そのあとユナイテッドさんは広告のソリューションを持っているので、その3億円を使っていろいろなオンライン・マーケティングをしていきました。

僕らとしてはマーケティング面のメリットも大きいなと思ってまして、どんどんオンラインの出稿をしながら、ユーザーを獲得していって、リテンションデータなんかを見て改善していきました。

オンライン広告である程度、効率性とか獲得の効果が見えてきて、ここからテレビCMだと。まあそうは言っても、当時僕らはまだ競合他社と競っていたような状況だったので、テレビCMに賭けて、そのあとの成長角度がどうなるのかで松竹梅みたいな事業計画を作りました。

その事業計画をもって「どれいくかわからないけれど、このリスクを取ってください」みたいなところで、たぶんほぼすべてのベンチャーキャピタルに声かけしましたね。

そこはもうまとまったマネーが欲しかったので、かなり回りましたね。それで高いバリュエーションも許容していただいて、14.5億円の調達ができました。

そのあとテレビCMを5月にやるんですけど、それがきっかけで急速に成長していって、その年の秋に23.5億の資金調達をしました。その秋のタイミングは、マネタイズのスタートに合わせてですね。

それまでは手数料の10パーセントを取ってなかったんですけれども、取る直前のところで、どうなるかわからないというところもあったので、1回そこでファイナンスしていこうというところで、既存+WiLさんに入っていただいたという感じですね。

そのあとずっとファイナンスせずに事業をやってきていて、おそらく次そういう機会があれば、たぶんアメリカであるとか、そういう新しいチャレンジに対してまた投資家さんに僕らの可能性を伝えていくというところになるのかなと思ってるんですけれども。

基本的には健さんが言ってるように、過去の自分たちがやってきたことと未来という、この2つの軸しかないので。そこを徹底的に魅力づけできるか、というところだと思ってます。

あと、僕らメルカリで言うと、プラットフォームっぽいところがあるので、比較的事業会社は入れないようにしてきたというところがあるかなと。色がつかないように、VC中心のところでいつも組成してきてるという感じですね。