男は定年したら急にハシゴを外される

田中俊之氏(以下、田中):定年退職者の調査もしたんですけど、彼らは「きょうよう」と「きょういく」が定年したら大事だって言って。どういう意味かというと、「今日用がある」「今日行くところがある」というのが大事だっていうのが、おじさんのなかで流行ってるんですよ。

山田ルイ53世氏(以下、ルイ53世):なるほどね、そんな追いつめられてるんですね(笑)。

田中:用もなければ行くところもないというは、これは男性からするとハメられている気がして。現役の最中は働いてないと不安がられるから一生懸命働いて、ルールにのっとってがんばるわけですけど、定年したら急にハシゴを外されて、友達もいなければ趣味もないのはあんたのせいでしょみたいな、そういうのがあるわけで。

ルイ53世:そうですね、ちょっとハメられた感じするな(笑)。

田中:今はまだ現役で働かれている方が中心だと思うんで、やっぱり考えたいですよね、友達のつくり方というのは。

ルイ53世:今のうちに備えとかんと。

田中:そうなんですよ、今つくらないと。僕ら40ですけど、40で恥ずかしいということは、50だったらもっと。

ルイ53世:50で友達になろうとは、なかなか言えないでしょ。

田中:いつなら言えたかということですよね。20代なら言えましたよね、「飲みに行こうか」って。

ルイ53世:それはぜんぜん言えますね、飲みに行こうかは言えますけどね。友達になろうみたいな感じはなんか。

田中:あとは僕も思うんですけど、仕事がかんじゃうと、仕事のメリットデメリットでお付き合いいただいているのかな、みたいな感情が入っちゃって、素直に友達と思えないというか。

ルイ53世:ただ若干、その友達のハードル上げすぎてる気もしますけどね。別にそういう仕事上の付き合いで、「この人と付き合うてたらこういう仕事くるんちゃうか」「こういう話聞けるんちゃうか」っていう若干よこしまな気持ちがあるのかなって思う相手でも、別に友達でいいじゃないのって思いますけどね。

田中:それは言われれば、気が楽ですよね。確かに、無二の親友を見つけろと言っているわけじゃないですもんね。

ルイ53世:そうですよ(笑)。『少年ジャンプ』読んでるわけじゃないですから(笑)。

(会場笑)

ルイ53世:一緒にこれから全国大会目指す相手じゃないですから。

性別によって生き方が決まりすぎている

田中:なんの大会目指すのかってなっちゃいますしね。

ルイ53世:ある程度きゃっきゃ言えてね、おいしくお酒飲んだりできたら、まあ十分友達なんじゃないかなと思いますけどね。

田中:それはすごくいい発想ですよね。学校と違って、別に毎日会えるわけでもないですもんね。男爵がいまおっしゃられたことは中年の男性にとって、いい発見なんじゃないかなと思います。

ルイ53世:ありがとうございます。

田中:友達のハードルをちょっと下げていくということですよね。男性も女性も、今は性別によって生き方が決まりすぎちゃっているんですよね。日本の場合は。だからそれにとらわれないで、LGBTの方も今はいますし、いろんな人が。あれですもんね、山梨放送の『キックス』で、ブルボンヌさんとかもね……。

ルイ53世:いや、全部普通に言いますけど……。

(会場笑)

田中:僕のなかでは普通(笑)。

ルイ53世:山梨放送でラジオ1個やらしていただいてるんですよ。僕は木曜日担当なんですけど、金曜がブルボンヌちゃんっていう、いわゆる女装家、おかまちゃん、おねえ? いろんな言い方あると思いますが、そっちのジャンルの人で。金曜日の方がそうだってことですよね。

田中:絡みはないんですか? 曜日が違うから。

ルイ53世:そんなにはないですけどね。たまに全曜日のイベントがあるときとかは、お会いしたりしますけどね。

田中:よっちゃばれ広場。

(会場笑)

ルイ53世:よっちゃばれ広場っていう広場が甲府の駅前にあるんですけど。いろんなイベントがあるんです。でも、そういう集まりじゃないですから。よっちゃばれ広場って誰もメモってないですから(笑)。

田中:メモってないんですか?

ルイ53世:いや、メモらなくていいでしょ(笑)。

田中:山梨では、主要なイベントは全部あそこでやる。

ルイ53世:イベントはね、あそこでやるというように決まってますけどね。

男性のうつ病が孕む皮肉

田中:僕らが子供のときと比べると、外国人の方も普通に目にするようになりましたし。

ルイ53世:いるいる。

田中:僕らのころって、珍しかったじゃないですか。「あ、外人だ」みたいな。

ルイ53世:江戸時代とそんなには変わらない感覚でしたよね。急に、近所の中学校で、英語の先生、外国の人が来るみたいになったら、「ええっ!?」っていう。

田中:ペリーが来たぞという。

ルイ53世:それくらいの感じ、ペリーに毛が生えたくらいの感じでしたけど、今は普通ですもんね。

田中:だから、社会の方向性としては、普通にいろんな方がいるわけですし。それに違和感を持つほうが変で、お互いのさっきの居心地という話でいえば、お互いに居心地よくできるようなものを作っていくということを、僕の場合は目標としているわけなんですね。

次の話なんですけど、男らしいというと、前の『Business Journal』の対談のときにも話したんですけど。やっぱりなんだかんだお笑い芸人さんの世界でも会社員の世界でも、競争心とかちょっと男らしいという部分があったほうがいいという話があって。僕も本当に、どの分野でも競争社会なんで、そうだと思うんですけれども。一方でテレンス・リアルっていうですね、臨床心理士……。

ルイ53世:限りなくテレンス・リー。

(会場笑)

田中:その、体重後ろにかけていたほうがいいという話は、後でちょっとしようと思うんですけど。

男性のうつ病の皮肉なところは、うつ病をもたらす原因と同じ要素が、病を正視させないようにしちゃってるんだと。

つまり男は脆弱であっちゃだめだとか、苦痛を乗り越えなきゃいけない、それができないことは恥ずかしいって、さっき男爵は自然とそういうこと思っちゃうという話をしたじゃないですか。だから、責任感の強い男性ほどそういうことを内面化しているはずなんですけど、この人は妻から見れば頼りになる夫だし、会社でも頼りになる社員だと思うんです。

ただ、それがプレッシャーになって、内面的な問題を生んでいると。テレンス・リアルさんがおっしゃっているように皮肉で、はたからはそれは見えないわけですよ。はたからは立派にがんばっている、でも内面は悪くなっている。

まわりは「あいつ頼りになるな」「うちの夫は頼りになるな、馬車馬のように働いてくれて」と思っていると、どんどん悪くなっていって。例えばベッドから起きてこられないとかそういうレベルになるまで、男性の場合だとうつ病が発覚しない人があると。

ルイ53世:一般的にかっこいいこととされてますもんね、バリバリ働いてることっていうのがね。

田中:そうなんですよ。だから、物事の両面を見たほうがいいなという話でして。競争しないと勝てないし、男らしいとか責任感とか忍耐力とかいいじゃないかと言うんですけど、それが一方で男性を傷つけている側面もあるということは、ちゃんと見ていかないといけないなと思っているんですね。

六本木ヒルズで働く人の“勝っている感”

ルイ53世:確実にしんどくはなってますよね。ある日、ほんまに好きで言ったりしてもってことなんですけど。ある日ちょっと、田舎に引っ込んで、農業でもしますって言うたら「農業なめとるんか」みたいな違う面もありますけど、そういう田舎暮らしをしたいねんって誰かが言うたら、ちょっと負けてる感じありますもんね。今の世の中でいうとね。そういう認識になるんでしょ?

田中:今日、会場に来る前も六本木ヒルズのなかを歩いていたら、六本木ヒルズで働いている方は、やっぱりちょっと勝っている感あるんですよ。

(会場笑)

ルイ53世:(笑)。そらそうですよ。

田中:俺はヒルズだよ、っていう。

ルイ53世:だって勝ってないと、あんなガラス張りの図書館みたいなのないでしょ、あれ。

田中:さっきあれ、ちょっと見ましたもんね(笑)。

ルイ53世:僕びっくりしましたよ。あんなところでなんの調べ物ができるかと思いましたよ。ソワソワして落ち着かへんわ思て。

(会場笑)

田中:でも、あれじゃないですか。男爵もコラムいっぱい書いてるから、ここ借りて……。

ルイ53世:安い安い。原稿料安い。

田中:ライブラリーとかも充実して。

ルイ53世:でも、すごいですよね。ここになんの緊張もなく来れる自分でありたいと思う自分もいます。

田中:すーっと、ここを自由に動けたら。

ルイ53世:ぜんぜん普通やで、って感じで。そういう感じで来れる自分であればええなと思うてるんですけどね。

田中:下にフィットネスとかもあるんですけど。

ルイ53世:フィットネス……。

(会場笑)

“こっち”の空気になじんでいきたい

田中:すごく意識の高いトータル・ワークアウトというところがやっているショップだったら、白いオムレツというのがあって。

ルイ53世:白いオムレツ?

田中:黄身を抜いて作っているんですよ。

ルイ53世:なんでそんな。……カロリー?(笑)。

(会場笑)

田中:タンパク質だけ摂取するっていう。

ルイ53世:ちょっと待ってください、そんな言い方するんだったら、なんでここでやろうと思ったんですか(笑)。目黒区民会館でよかったでしょ。

(会場笑)

田中:自分もなじんでいきたいなっていう。

ルイ53世:(笑)。憧れはあるという。

田中:こっちだぞっていう感じを、今後は打ち出して。

ルイ53世:どんな気持ですか(笑)。

田中:人間、難しいところで。

ルイ53世:難しいですね、いろんな自分がいて。

田中:すごく真剣な話ではあるんですけど、今日僕が男爵にお願いしたいと思ったのは、「笑い」というところで。人間いろいろと深刻な悩み抱えているんですけど、「笑い」で切っていこうと。これはですね、ピーター・バーガーという社会学者が『癒やしとしての笑い』という本を書いているんですけど。

ルイ53世:なんでまたこれ、バーガーの前に「L」ってあるんでしょうね。先生、ややこしい人選んできてるん、さっきから(笑)。

(会場笑)

田中:いやいや、かっこいいじゃないですか(笑)。

ルイ53世:テレンス・リアルとか。

「みんなが主人公の社会」に覚える違和感

田中:リーっぽかったですね(笑)。この人が、さっきの正論ばっかりの世の中ということにやっぱり一矢報いたいんですけれど、ユーモアがわかんないといういうことは、それはもう知的なハンデキャップだと言っているんですね。

ある種の洞察の可能性を遮断するばかりか、つまり現実ってこういうものだよという一面しか見てないから、それって不謹慎だとある見方を封じるということは、現実にトータルで近づけなくしているよってことなんですね。つまり、ユーモアに欠けた人間を憐れまなきゃいけないと。

今の日本の風潮を考えると、これはすごく気の利いた言葉だなと思うんですね。つまり、なんか正論ばっかり、ちょっとルールを犯した人間がいると、それはもう叩いていいんだということがあるわけじゃないですか。

だから、今日、今からする話で耳障りのよくない話もあるかと思うんですけど、現実にはそういう面もあるということを見たほうが、バーガーが言うとおりに、トータルとしての社会の現実に近づくんだということで。

ぜひ、男爵と議論したいのが、「主人公」ということなんですけど。みんなが主人公じゃなきゃいけない社会って違和感があるという話は、『Business Journal』の対談でもしたわけですね。

ルイ53世:そうですね。誰しもキラキラしとかなあかん、素敵な人生を送らなあかん、ヒーロー、主人公じゃないとだめや。だめやというか、それがすごくいいことなんだよってちょっと言い過ぎてる気はするんですよね。

嘘ですからね、これはね。言うたら、ほとんどがみんな、脇役というかエキストラですよ。僕も含めてね。そんなにみんながゴールデンタイムにMC何年もやってますみたいなことには、ならないわけですから。

田中:本当にひとつまみですもんね。

ルイ53世:ひとつまみです。ひと爪の垢、なんか入ってんなくらいのことですよこれは。だからあまりにも言い過ぎてる、みんな主人公たれと言い過ぎてる感じは、僕はちょっとしますね。

田中:一億総活躍って言葉も、おかしい言葉なんじゃないかって。

ルイ53世:おかしな言葉ですよ。活躍してるしてへんっていうのは相対的な話ですから、一億総活躍やったら、誰も活躍してへんのと同じことですからね。

(会場笑)

田中:みんなが活躍しちゃって。

ルイ53世:そこがもうおかしいんやというね。だから「2活躍、ほかダメ」みたいなことやったらわかるんですよ。

田中:それはわかりますね。

ルイ53世:1万活躍ほかダメやったらわかるんですけど、一億総活躍っていうのはこれ嘘ですから。ちょっと違和感がありますよね。

「なれた自分でやっていく」

田中:こういうのをしっかり言えない、そういうのを言うと、そんな皮肉を言ってとか言われるんです。僕、本当に思うんですけど、みんな何者かになれるよって言うんですけど、なれない。

ルイ53世:なれない。そうなんですよ。気ぃついたらシルクハットかぶってたりするんですよ。

(会場笑)

ルイ53世:ほんまはスーツびしっと着て「はいどーも」ってやりたかったのに、こういうことになっとる。なれ果てとるという。ただ、それでも、なれた自分でやっていくんだという。そういう考えも大事やと思うんですけどね、僕はね。

田中:今のいい言葉ですね。「なれた自分でやっていこう」という。

ルイ53世:専門学校とかのCMが宣伝しすぎやと思うんですよね。なんかちょっと、みんなキラキラ主人公って言うて。こんなにも今の若者はパティシエになりたいのかみたいな。

(会場笑)

ルイ53世:ちょっと社会が破綻するぐらいパティシエ人口増えすぎてんちゃうかなって思うくらい。あおりすぎた部分はありますよね。

田中:パティシエで有名な人って、本当にひとつまみどころじゃないですもんね。

ルイ53世:そうなんですよ、そこはそこでほんまに競争もあるし。なんかちょっと、あおりすぎてる気はしますね。

田中:何者にもなれないということに後ろ体重をかけといたほうがいいよって話を、男爵が前されていて。危機管理ですよね。

ルイ53世:まずなにかになれるんじゃないかなとか、こんな自分になりたいとか、それも素敵なことですよ、もちろん。いいことなんですけど、そのすべてになれなかった場合どうしようって気持ちも常に持っておいたほうがいいと思いますよ。

田中:僕らは中年なんで、ある意味、答えは出ているっていうか。

ルイ53世:残念ながら出とるわけです。今からパイロットにはなれへんでしょうねえ。いろんな選択肢はないわけなんですけれどもね。

田中:プロ野球選手とかもね。

ルイ53世:なれない。

田中:少年の主要な夢は、今はもう無理ですよね。

ルイ53世:もうないです、これはね。もうずっと、おでこかぶれても、これかぶってね。しょうがないです、これは(笑)。

(会場笑)

子供に「プロになれる」と言うのは残酷

田中:今日は空調大丈夫ですか?

ルイ53世:空調は大丈夫です。涼しいです、ありがたいです。

田中:だから、それとかもちゃんと子供にも言ってあげたほうがいいかなと思って。小島慶子さんと対談したときにもその話が出てきたんですけど。

オーストラリアに今住まれているんですね、小島慶子さん。そうしたら、プロサッカー選手が息子さんの入っているチームに教えに来てくれたんですけど。「君らはプロにはなれない」っておっしゃったんですって、プロサッカー選手が。「じゃあ、サッカーやらないの?」って聞いたというんですね。

ルイ53世:なるほど。

田中:「なれないけど、好きだからやるんじゃないの?」と言ったらしいんですけど、日本だと違うじゃないですか。「君も、プロサッカー選手に!」とか言って。「なれるよ!」って。

ルイ53世:ようそんな嘘つくなと思いますよね。

(会場笑)

田中:そうですよね。

ルイ53世:「みんなもみんなもみんなも、がんばれば!」って、そらがんばればなれるんかもしれへんけど、ここにいる全員がなれるはずないから。結局、裏を返せば、誰もなれないって言ってるに等しいんですよね。

田中:だから、さっきの趣味の話じゃないですけど、子供のときから、自分はプロになるとかが目標じゃなくて、自分はこれが好きとかあれが好きとかがわかれば。自分がサッカーが好きだったら、プロにならないんだったら別に40で50でやっていてもいいじゃないですか、別に。うまくなりたいわけじゃないですから。

だから、男爵の「別に主人公じゃないよ」というのは、そういうのって正論を言いたい方からすると「そんなひどいことを」と言うんですけど。逆になんか「なれるよ」と言っているほうが、結果は残酷だし、子供のためにはならないのかなというのを思いますよね。

ルイ53世:さっきにちょっと先走って言うてしまいましたけど、みんなヒーローだ主人公だ、キラキラ輝いていかないとだめだっていうのは、そういうふうになった人間の意見の平均値ですから。だから若干やっぱりその圧力はありますよね。そうじゃなくても、勝ちのパターンありますからね。勝ち負けで言うのも変ですけど。

例えば、ぜんぜんなりたかった自分じゃないけど、変な話、儲かってますねんっていう人もいっぱいおるし。その結果、自分が思ってたことじゃなかったけれども、日に2回くらいはテンション上がって楽しい気持ちになれますわっていう人もいるわけじゃないですか。

だから、なりたい自分になるんやっていう、そういうことじゃないっていう。そうすると一面だけでしょ、それは。それじゃなかったら自分はかっこ悪い人間やなって思わされてしまうのが、やっぱりちょっと怖いですよね。