オープンデータで街の魅力向上 横浜市の取り組み

関口昌幸氏:みなさん、こんにちは。「住みたい街ランキング」3位の横浜から来た関口です。

池本さんは横浜っておっしゃってましたが、確かにほかの地域は全部、駅勢圏だと思うんですね。でも、横浜を選んだ人たちはもしかしたら横浜駅ではなくて、元町・中華街とか、石川町とか、みなとみらいとか、きっと全部入ってますよね。だからたぶん横浜だけ違うと思うんです。

場合によっては、金沢八景とかも入っているかもしれない。だから横浜って、そういう意味では、すごく獏とした街なんですね。だから、武蔵小杉と競い合うのは、若干遺憾な気がするんですけれど……。

(会場笑)

ということで、3位ですが、獏とした膨大な370万人の市民がいる横浜からやってきました。

これから私は、オープンデータの話をしていきたいと思っています。総務省様からもオープンデータのお話がありましたので、基本的な定義についてはあまりお話しないで、横浜市がどんなかたちで民間企業の方々、市民の方々とオープンデータを活用した街づくりをしてきたのか、街の魅力向上に活用してきたのかというお話をしようと思います。

会場に合わせて関口氏も変装!?

私の上司に総務省から来ていた長谷川(孝)という者がいまして、4年間一緒にオープンデータの取り組みをしてきたんですけれど、長谷川は7月で総務省に戻ってしまったんですね。

こういった場では、長谷川か私が話をさせていただいていたんですけれど、実は長谷川は変装が大好きなんですね。変装が好きで、私が「やめな」って言うんですけれど、いつも、例えば主婦の格好をしたり、袴を穿いたり。「どうしたんだろう、この総務省のキャリア官僚は……」と思ってしまうような変装をし始めるんです。

今日は私も、なき長谷川の思いを語るということで、若干変装をしようかなと思います。こんなことを言ってるうちにもう5分ぐらい経ってしまうんですけれど、まあ、ゆっくり聞いてください(笑)。

ここの空間について考えてみたんですね。「ニコファーレ」でしたっけ。ここに昔、別の建物が建ってましたよね、90年代。なんて建物が建っていたか、知ってる方いらっしゃいますか?

(会場挙手)

あれ、知らないですか。まさか……。みなさんやはり若いんですね。確か、ここには「ヴェルファーレ」って建物が1990年代に建ってましたよね。いわゆるディスコの殿堂です。六本木。

僕、実はバブル世代なんですね。バブル世代バリバリで、六本木、ジュリアナ東京とか、ここらへんにガンガン来てたんです。

そうすると、ボディコン、ワンレグのお姉ちゃんたちが、こんなセンスを振り回しながら踊り狂っていたということで。私も今日は「ニコファーレ」を記念して、センスを振り回しながら、オープンデータ活用の話をしようと思っています。もう少し笑ってほしいんですけれど(笑)。

(会場笑)

オープンデータとは?

ありがとうございます(笑)。ということで、まじめな話に入っていきたいと思います。

先ほど総務省の方がおっしゃられたように、オープンデータが始まったのは今から4年前です。公共データを民間開放していこうじゃないかと。

とくに安倍内閣になってから、世界最先端のIT国家を創造していくためには、ビッグデータやオープンデータ活用は必須だということで、これまで情報公開という名の下に、申請されれば、行政としてデータを出していました。行政として、積極的に民間のみなさんに活用していただこうじゃないか。営利目的でもなんでもいいですから活用してもらいましょう。

一切制限なしに、使いやすいようにPDFなんか使わずに、エクセル、CSV、RFといったかたちで、なるべくマシンリーダブルに開放してきましょう。データを積極的に開放していこうということがオープンデータです。

それに騙されて、とはいいませんけれど、とりあえずデータポータルを作ったり、今までPDFで出してたものをCSVで出したりしながら、いろんな公共データを出していこうという自治体がたくさんあります。もちろん横浜市もその1つだったんですけれど。

ただ、いいですか? みなさん、自治体の方が多いと思うんですけれど、ただデータを出すだけでは、民間企業やNPO、市民のみなさんがそれを活用してくれないですよね。活用するわけがないし、どのように活用していいのかイメージもわからない。

アウトプットもどんなアウトプットが出るのかわからない。これが、なかなかオープンデータが進まない1つの理由なんです。

イベントだけに終わらせない必要性

ただ、横浜の場合は、たいへん運がいいことに立ち上げ当初から行政がデータを出せばこういうかたちで活用してくれますって民間団体があったんですね。これが「オープンデータソリューション発展委員会」です。

我々が横浜市としてオープンデータに取り組み始めた最初の段階で、地元の情報系のNPOの方々とか、シビックテックをやってるようなエンジニアの方々、街づくり系のNPOの方々とか、本当にいろんな方々が集って、アイデアソンやハッカソンを開催しました。

データを活用しながら、リレーマラソンのように半日から1日、場合によっては泊まりこんでアイデアを出して、それをアプリにしようじゃないかというハッカソンのイベントをやって。

実際にオープンデータが始まった時には、こういうふうにARを使って、大学の先生と学生さんたちとエンジニアがまさに共創で作ったものなんですけれど、「Pokémon GO」で使われているようなARの技術を使って、横浜市のみなとみらいに行くと、昔の横浜の風景が映るアプリを作って、みんなで街歩きイベントをやりながら。

こういうふうにデータを行政が公開すれば、今までアプリとかは行政に委託していたんだけれど、みんなの知恵と力、技術を合わせれば、アプリを無償で作って、しかも市民を巻き込んでイベントまでやってくれて、街のプロモーションに使えるんですよ、ということを1年ぐらいずっとやってくれてたんです。

これをいろんなかたちでメディアに取り上げていただいて、「オープンデータっておもしろい!」となったんですけれど。ただ、総務省の方もおっしゃっていましたけれど、これだけだとやっぱりイベントに終わってしまうんですね。

「いや、アプリ開発したからってなんぼのもんじゃい」ってなるわけですよ。アプリ開発して、経済波及効果がどれくらいありますか。開発したアプリをダウンロードして、果たして経済政策になるんですか、と。

Pokémon GOが出てきてだいぶ変わったと思いますけど、どれだけ多くの人たちがスマホやタブレットを持って街歩きするんですかって話が出てくるわけです。

そうなった時に、恒常的な仕組みとして、データを活用しながら地域課題を解決していったり、地域の経済を活性化したりするプラットフォームが必要なわけです。

「LOCALGOOD YOKOHAMA」が担う役割

そこで横浜市は、その2年後に「LOCALGOOD YOKOHAMA」というICTを活用したプラットフォームを作りました。オープンデータを活用して地域の課題やニーズを把握して見える化して、それをクラウドファンディングで広くインターネットを使って民間で資金調達をして、プロジェクトを立ち上げて課題を解決していくというICTプラットフォームです。行政は一銭もお金を出さずに、民間企業、アクセンチュアさんと、コミニティデザインラボというNPOさんが、システム構築から運営まで全部やってくれたんです。オープンデータです。データを行政が出すだけです。

どんなことを思ってるかというと、例えば、今日はあまり時間がないので簡単にお話しますけれど、このように市民の方々がスマホやタブレットのアプリで「うちの地域にゴミが多い」「高齢者がたくさん住んでて……」「ニートや引きこもりの方がいらっしゃる」みたいなかたちでふだん考えてる課題を投稿すると、3Dマップ上に課題が全部反映されます。

課題と解決者をつなぐ

その上で、これが大事なんですけど、どんな地域にどんなプレイヤーがいるのか。こうした課題を解決しようとしている人たちも一緒に反映するんですね。だから、課題だけが投げ出されるんじゃなくて、それを解決したい人も一緒に3Dマップ上で反映されて合わさる。

そして、そうした課題が個人的な思いとか意見だけじゃなくて、構造的な、つまり公共性を持っているか。多くの人たちがこの課題を感じているかどうかを検証するために、データ分析機能を持ってるんですね。

データにもとづいて、課題ごとにアップしているんですが、主要な課題については、それを市民の方々にわかりやすく見える化して、イラスト化して示す。こうしたデータをイラスト化する、ビジュアライズするイベントも一緒にやりながら、その作品を一緒にアップしていく。

そして、なによりも、そうした課題をみんなで共有化して、それに基づくデータを入力して、「その課題を解決しよう」というプロジェクトの方々から手が挙がったら、その方々と一緒に、これが大事なんですけど、インターネット上だけじゃなくて地域の場のなかで、さまざまなかたちで対話の場を作りながらプロジェクトを立ち上げる。

そのプロジェクトに補助金や委託といった税金を投入するんじゃなくて、先ほどもお話しましたけれど、その課題、プロジェクトに共感する市民から広くお金を集めてプロジェクトを成立させるというクラウドファンディングの手法や、より課題に共鳴する人たちを集める、人材をマッチングさせる手法を持った、一連の総合的なICTプラットフォームになっています。

クラウドファンディングの実績

その結果、LOCALGOODが立ち上がってから2年間経っているんですが、2年間で15のクラウドファンディングのプロジェクトが成立して、トータルで1,000万円を超えるお金が集まりました。

例えば、障がい者を雇用するレストランの魅力向上とはどういうものかというと、障がい者を雇用するレストランが、コミュニティガーデンを作りたいといった時に、それをクラウドファンディングで達成しようと。

そのコミュニティガーデンを使って、障がい者の方々と一般の方々の交流の場を作りながら、イタリア料理のレストランなんですけれど、そこは小麦から育てて、ピザを焼いていて、小麦を育てるところから全部、障がい者の人たちがやってるんですね。

そこで一緒に農作業をしたり、ピザ焼いたり、ピザを食べたりする市民の人たちの交流の場を作ろうという障がい者雇用のレストランの例とか。

いわゆる課題集中校で卒業してもなかなか就労できない、もしくは中退者が非常に多い高校のなかで、地域の企業とマッチングして「バイターン」と言っているんですけれど、バイトをしながら、インターンをしながら就労を支援していく仕組みを作ろう、と。そのための居場所を学校のなかに作ろうというプロジェクトとか。

「ダブルケア」これも横浜から発信した新しい政策概念なんですけれど、介護と子育てが同時進行してる人たち。そんななかで働きながら介護・子育てをしてる人たちをサポートするような支援機関の研修を実施したり、ハンドブックを作ろうじゃないか、というものに対してプロジェクトが達成したり。

これまで行政単独ではできなかった、行政単独ではお金がなかなか出せなかったところで、民間の方々が、とくにここで大事なのは、プロジェクトのオーナーだけじゃなく、企業やNPOやさまざまな市民団体・自治体が連携しながら、プロジェクトを回しながら、お金を集めて、プロジェクトを達成していく。それを行政はオープンデータというかたちでやってる。こういう仕組みを作ったんですね。

これを僕たちは、オープンデータ活用の1つのあり方だと考えているということです。

若者のアイデアを活用

もう1つ、オープンデータ、データを活用しながら都市の魅力を向上させていくためには、人材、人をどう育てていくかということが、ものすごく大事なポイントなんですね。

横浜って若い都市だと思われているかもしれませんけど、実は今、東京に若い人口がどんどん吸い取られている。すごいですよ、10年経つと30代・40代が25万人減ってしまうと言われてるんです。高齢化がものすごく進みます。

だから、若者をちゃんと惹きつけなきゃいけない。若者を育てていかないと、横浜みたいな大都市は急速に高齢化が進んでしまう。

なので、僕らは若者に注目して、高校生や専門学校生、大学生と一緒になって、先ほど言ったアイデアソン・ハッカソンを通じて、地域課題解決や街の魅力向上につながるようなアプリコンテストを3年前からずっとやってきました。

その結果、例えば高校生1年生のグループが「A-SENKYO」といったかたちで、若い人たちが投票率をアップしようってアプリを開発したり。

大学生がデータビジュアライズということで、横浜市内の区のどの地域にどんな災害が多いのかを、市民の人たちにわかってもらうビジュアライズ作品を作ろうとしたり。

いろんなかたちで若い人たちのアイデアで、アプリやビジュアライズの作品が出てきて、それがLOCALGOODに載せられてきている。ものすごくいろんなかたちでやっています。

残念ながら写真が鮮明でないんですけれど、去年、一昨年とすごい回数でアイデアソン・ハッカソンをしました。こういう若い人たちが一緒になって、プレゼンをしたり、議論をしたり、対話をしたり、アプリを開発したり、シンポジウムやフォーラムのなかで話せる場を作ってきました。

小学校でロボティクス教育が実現できた理由

その結果、昨年後半から、リクルートさんや総務省さん、今回の「都市の魅力向上プロジェクト」とタイアップしながら、とくに若い人たちのアイデアソン・ハッカソンを一緒になって作ってきたということがあります。

そうした結果、まさに都市の魅力向上プロジェクトで取り上げていただいたんですけれど、「横浜市のデータで街の魅力を見てみよう!」と。

横浜市の街の魅力といった時に、それこそ獏とした街ですから、たまプラ的な地域もあれば、みなとみらいみたいなところもあるし、中華街もあるし。金沢八景もあるということで、非常に多様な街なんです。

今回は、まさにオープンデータとオープンイノベーション、共創をテーマにどんなことを僕たちが今までやってきたかということを数値化してもらいました。例えば、今、お話したみたいにオープンデータイベントに参加してる人は、この2年間で延べ2,100人です。

私は最後のところがすごく重要だと思ってるんですが、昨年の12月、公立小学校でロボティクスの授業を全国で初めて行いました。

これがなぜできたか? 1つは、今までのオープンデータの取り組みのなかで、学校教育のなかでもデジタル教育やICTを公立学校でやっていかなければいけないという動きが出てきたということと。

もう1つは、企業さんが積極的にそれを支援しよう、と。オープンデータの取り組みのなかで一緒にやってきた企業さんが積極的に支援して、「ロボット教育を公立小学校でやろうよ」と。そして、それを学校側が受け入れてくれた。

さらに、これがすごく大事なんですが、その支援を「Youth Ups!」で育ててきた専門学校生や大学生たちが手伝ってくれているんです。だから、こうしたことができる。180人の授業を無償でやれたのは全国で初めてです。学校教育でもやれるんです。

こうしたサポートがあったからこそ、飯島小学校の奇跡と言われていましたけれど、ロボティクスの授業をやって、子供たちがみんな目を輝かせながら、実際にロボットを作るなんていうことを実現できる。

本気でデータを活用して、街の魅力を向上しよう、人を育てようと思えば、そんなに時間がかからず、お金もかけずにできるんです。知恵と工夫です。横浜市はそれにチャレンジしてきたということですね。

思わず熱くなってしまいました、ということで終わります。どうもありがとうございました。

(会場拍手)