現場の英語は社会人になってから

干場弓子氏(以下、干場):関谷さんは、幼少時代をイギリスで過ごされたそうですが、それ以外はずっと日本で過ごされたんですか?

関谷英里子氏(以下、関谷):そうですね、それと高校の1年間もイギリスに行っています。

干場:1年間?

関谷:はい。

干場:でも、それだけ?

関谷:合計すると4年弱。3年半くらい。幼稚園の終わりから小学生の3年生の1学期まで。それと高校1年。

干場:高校1年になるまで、英語は勉強を続けていたんですか?

関谷:でもけっこう忘れてしまっていましたね。

干場:英会話とか通っていました?

関谷:今は小学校とかから英語教育あると聞きますけど、私のときは中学校からだったので、中学校1年生から英語の授業は受けていました。

干場:それで、高校1年間行って、大学卒業して就職するまでは、英語の特別な勉強をしていたんですか?

関谷:うーん。学校の勉強ですね。学校の勉強とか受験勉強とか。

干場:学校の勉強とか1技能のようなもんじゃない。ほとんど。2技能か。でも、「書く」のもほとんどやらないし。

関谷:そうですね。

干場:全部やっていたんですか? 個人的に。

関谷:いや、学校のときは、学校のテストで悪い点を取らないようにという感じです。本当に英語の、活きた英語って言ったらあれですけど、現場の英語は社会人になってからだと思います。

英語をしゃべるのと同時通訳は違う

干場:すごいですね。じゃあ、社会人になってから、英語で仕事をするようになってから、今みたいになったんですか。

関谷:とは言っても苦労続きだし、間違えながら恥をかきながら、ですよ。「我々はなになに商社です。あなたのブランドを日本で広めるためには、絶好のパートナーです」みたいなプレゼンをするときに、「I will say」と言って、あんまり聞いてもらえないとか。やっぱり人になにか伝えたいときはshareを使う、みたいのって現場に行って、実際海外のエグゼクティブが使っているのを聞いて、知りました。

そういう経験をしながら、英語を仕事で使っているエグゼクティブはこういう言葉を使うんだなというのをメモりながら、今の自分に至るんだと思います。

干場:同時通訳者になろうって思ったのは? そのくらいで商社マンとかビジネスマンで、英語をぜんぜんやっていなくも、ある程度の基礎学力があって、大企業にいって、派遣されて、実際、商社とか銀行とかで英語べらべらしゃべっている人がいるんですけれど。

そういう人はいるかと思うんですが、でも、同時通訳になるとぜんぜん違うと思うので、すごいなと。やっぱり、訓練なさったってことですか?

関谷:そうですね。もともとは独立したい、起業したいというのがあって。ただ、事業をスケールさせて、世界中何億人の人に使ってもらおうみたいなところに発想がいかなくて、残念ながら。どちらかというと、身の丈にあったというか、自分のわかる範囲のことから地道にやっていけるなにかができたらいいなと思っていて。

商社とかメーカーにいたときには、通訳の方を発注する側にいたので、どういう仕事かというのがなんとなくわかっていたのだと思います。商社時代も時々、通訳的なこともやったことはありました。

最悪、人が見つけられなくても自分が行ったらどうにかしのいでいけるみたいなものはなにかと思ったら、通訳の会社からやってみようか、みたいな。

干場:通訳の学校に通われたんですか?

関谷:通訳の学校は、通訳者さんたちがどういう訓練を受けているかというのを知るために、半年行きました。

干場:じゃあ、みなさんも決めて半年勉強すれば、できるようになるのかしら?

関谷:(笑)。

干場:後で質問していただいてけっこうです。

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干場社長は「英語ができなくても親しくなるのが得意」

関谷:現場に行っていただく通訳者さんのことを理解したいので、「この人たちはどういうつもりで、どういう訓練を受けてきたかというのを知りたい」という、けっこう切羽詰まった思いがありました。それで身についたのかもしれないですよね。いざとなったら、自分でやらないといけないし。

干場:韓国スターとかお相撲さんとかみんなべらべら日本語をしゃべれるようになる。なんだかんだいって、私も英語ができなくても、これからは知りませんけど、少なくとも今まではなにも困らない。困るのは、あのときだけです、私。

関谷:いつですか?

干場:フランクフルト・ブックフェアって毎年行っているんですけど、そこで、ディスカヴァー・トゥエンティワンは小さいんですけど、講談社、小学館と並んでブースを出して売るんですね。それはいいんですけど、英語しゃべれる人もいるし。

ところが、全員集まるようなああいう場って、ある意味、欧米を中心とした国々の編集者の同窓会なんですよ。昔からある2つのメインのホテルがあって、200人くらいが毎晩毎晩。

関谷:飲み会をしているんですか?

干場:飲み会。バーで、「Hi!」とか言う感じで。日本からも各社から私なんかと違って英語が一番堪能な社員たちが版権担当者として行っているわけです。日本人は誰もいないんですね。

関谷:うーん。

干場:私なんかは、英語できないのに、親しくなるの得意なんです。

(会場笑)

関谷:さすが! 社長も実践されているように、実はビジネスの英語って、そんなに難しくないはずなんですよ。

干場:なんだけど、やっぱりそういうところでたまたま親しくなった人がいれば、「Hi!」とか言って、それでほかの人を紹介してもらうようになるんですけど。でも、誰もいないと、日本語ならいいけど、ろくにしゃべれないのに「Hello!」なんて言うと、ちょっと困るので(笑)。

関谷:いや、ぜんぜん大丈夫じゃないですか。

干場:そういうとき、「あの人としゃべればよかった。あの人素敵なのに。ああ、まずいわ」とか。そういうのがすごく……。

関谷:(笑)。話が違う方向に行っている気がする……。

(会場笑)

日本人は“話題”と“笑い”が少ない

干場:同じようなことでやっぱり、この間のパネルで、TOEICの学校をやっている社長さんが、話題と笑いということをおっしゃっていて。要するに、例えば、普通のプレーンなビジネス英語ができても、なんて言うのかな、スモールトークっていうの? ちょっとしたところで、話題と笑いがとれる人が日本人には少ないと。

それは同じで、そういういわゆるビジネス以外のところで実際に親しくなったりというところでは、もう、英語以前の問題だと思って。日本語でも話題と笑いがない人が、なんでできるんだって思うんですけど。

関谷:(笑)。ねえ。話題も笑いもある干場社長がそういう場に行って、笑いをとれないというのがむずがゆいわけですね。

干場:いや、大丈夫。

(会場笑)

関谷:どっちなんですか(笑)。

干場:笑いはとれますけれど、その後、もっと親密にはなれない。恋愛とか。

関谷:親密になりたいのね(笑)。

干場:話題についてはどうですか?

関谷:今のお話からわかることが、実は1点あって。4技能を学びましょうということを、私の本にも書いています。4技能をバランスよく学ぶことが大切なんですね。

ロンドンの書店には「ユーモア」の棚がある

ですけど、ビジネスで切羽詰まったときは、実はリスニングとかできなくていいってことかもですよね。「私は言いたいことがある。この版権がほしいのだ」とか、「あなたと親密になりたい」とか。相手が言っていることはわからなくても、最悪、自分が言いたいことさえ言えれば、目標達成に近づくわけですよね。

なので、ある意味、ビジネス英語で切羽詰まったら、リスニングは捨てていい。というのが、今の干場社長からの学びですね。

まずは目的ありきで。その目的を達成するために必要なことがあるので、それさえ押さえればいいんだということが、わかるんだと思います。その点でいうと、先ほどの話に戻りますけど、スモールトークなんてそんなに大切じゃない、ってことも言えますよね。

干場:なるほど。

関谷:ビジネス英語で自分の目標を達成する。商売を決めるとか、そういうのをまずやる。その次のステップとして、ステキだなって思う人がユーモアを重視する感じの人だったら、相手のジョークを理解するような……。

干場:ジョークを理解するって、けっこう大変なんじゃないですか?

関谷:大変なんです。それね、アメリカ人でも大変で、これコミュニケーションのクラスでも言われることなんです。アメリカってやっぱり広いから、南部のジョークとかね、馬周りのジョークとか。東と西を比べたときのジョークとか。アメリカ人同士でも理解するのが難しいこともあるみたいですよ。

ヨーロッパでもありますよね。イギリス圏だと、イギリスの人とスコットランドの人とウェールズの人がお互いに罵倒し合うジョークみたいなのがあるんですよ。それは、知っていないと対応できないです。

干場:ロンドンの、彼らが世界一って言っているすごく大きな書店に行くと、日本にはないんですけど、ユーモアってジャンルがちゃんとあって、棚4本か5本バーッと並んでるんです。あれみんな読んで勉強しているんですか?

関谷:あれを読んで勉強しているんですよ、きっと! 楽しいから読むというのもあると思いますけど。

干場:奥が深いですね。

関谷:(笑)。はい。なので、どこかで知識を得ないといけないというのはあるんだと思います。これは上級の方向けに。ビジネス英語はだいたいわかったという方は、次のステップで、ユーモアに行ったらいいと思います。