ARM社買収を決断した経緯

孫正義氏:「なぜ今、ARMを買うことを決めたんですか?」「ニケシュが辞めたからですか?」とかいうことを時々聞かれますけれども、そうではなくて。やっとSprintのV字回復の自信ができた、メドが立ったと。

手元に2.5兆円の現金があったのに加えて、新たに2兆円の現金が手に入るメドが立ったと。それはアリババの一部株の現金化と、Supercellの売却、ガンホーの売却。これで約2兆円の現金が入る。

2.5+2兆円で4.5兆円現金があれば、3.3兆円の買い物は十分行けますねと。こういうことになったわけであります。

ということで、国内の通信、5,000億円のフリーキャッシュフロー、そしてSprint。両方がうまくいくようになって、しかも現金が手元に貯まった。だからARMの意思決定ができる環境が整った。

しかも、目の前にIoTという大きなパラダイムシフトがやってくると。このタイミングで我々が狙わなくてどうすんだということです。

Brexitは計算外でたまたま重なったということで、いろんな幸運が重なった結果、僕がトルコの港町でプロポーズして、2週間で買収の発表、買収の合意まで漕ぎつけたと。

これだけの金額というのは、おそらく今までの日本の経済史上で最大のM&Aの金額規模だと思いますけれども、その最大の金額規模のものが、相手へのプロポーズから合意まで2週間というのは、世界的にもなかなか例のないことだと思うんですね。

M&Aというと、よく日本では半年ぐらい交渉にすったもんだということがありますけれども、我々は2週間で決着がついたということであります。

ヤフー・ジャパンのハイライト

もう1つはヤフーですね。連続して営業利益が伸びております。

ヤフーと言えば広告収入ですけれども、広告収入も検索連動型は少し減ってきておりますけれども、ディスプレイ広告側が非常に伸びている。

22パーセント伸びている。ということで、合計で順調に広告が伸びている。さらにショッピング。今ヤフー・ジャパンが一番力を入れているところですね。ショッピングのところが38パーセント伸びていると。

これはおそらく日本のeコマースを提供している主要な会社のなかでは、圧倒的に伸びているのがヤフー・ショッピングだというところまできました。ということで、ヤフー・ジャパンも順調にきていると。

我々の主だった自らの本業については、それぞれ順調にいっているということであります。

海外企業への投資と資産の再分配

次に投資事業ですね。

投資事業については、eコマースだとか、Uberのようなライドシェア、フィンテック、いろいろあります。それぞれに投資を行っています。

国別で金額的に言いますと、アメリカが約6割でその他が4割。分野別で言いますと、Uberのようなライドシェア、そしてeコマース、フィンテックというふうにそれぞれ分かれております。例えば、ライドシェアの滴滴(ディディ)ですけれども、これはアリババグループと、Tencentグループがそれぞれ子会社でバンバン戦っていたのが、合併しました。

それで中国で圧倒的ナンバー1になって、乗客数ではついに中国1ヶ国で全世界のUberの乗客数を超えた。世界最大のライドシェアの会社になったというのが、滴滴です。

我々ソフトバンクは滴滴の株主として、さらに持ち株比率を今、増やしているということであります。そのほかにインドでは続々と我々の投資が行われていますが、非常に順調に業績を伸ばしているということであります。

さらに投資回収のところですが、Supercell。世界最大のスマホのゲームカンパニーになりましたけども、そのSupercellが我々にとっては無事にTencentへの売却ができたと。

約1兆円規模の価値で、我々が75パーセントくらいもっていましたので、投資リターンとしては93パーセントくらい。この規模で93パーセントのIRR(内部利益率)というのは、なかなかないことだと思いますけれど、なかなかないリターンで得ることができたと。

また、アリババの株式の一部売却を行いました。ということで、我々は資産の再配分を行いました。

7,400億円の累積投資額で10兆円のリターン

ソフトバンクというと、投資会社か? あるいは事業会社か? いろんな質問を受けますけれども、「両方だ」というのが私の答えでございます。

両方でなにをしているのかというと、「いや、情報革命をしているんだ」と。情報革命をするのに、自らの事業会社だけではなくて、グループでシナジーを出しながら情報革命をするんだというのが、私の思いであります。

先ほどの投資事業については、どれくらいのリターンを得ているのかというと、先ほどのSupercell、ガンホー、アリババなどいろいろ含めて、44パーセントのIRR。約10兆円のリターンを得ることができたということであります。

7,400億円の累積の投資額で10兆円と。インターネット関連の我々の投資事業の成果はこれです。この規模で、このパーセントのリターンを得ているというのは、世界中のベンチャーキャピタル、世界中のプライベートエクイティのなかで、私自身は1社も聞いたことがない。

先日、バークシャー・ハサウェイの(ウォーレン・E・)バフェットさんと直接プライベートでミーティングをする場がありました。

「マサ、久しぶりだね。どうだ?」と聞かれましたので。彼とはビル・ゲイツさんと僕とでゴルフをやった仲ですので、久しぶりにお会いして、我々の業績を報告したわけですが、「44パーセントのリターンだ」と言ったら、「えー」っと驚いて、「それはすごいね」と彼が驚いていたくらいですから、非常にうれしく思った状況でございます。

少なくとも、この規模でこのレベルのリターンを得ている状況は世界中で私は1社も聞いたことがないというくらいの実績なので、非常にいいのではないかなと思います。

ということで、今まで我々が本業としてやってきました、事業会社としての部門。もう1つの本業としてやってきました、グループの投資戦略。

実は両方とも非常によいという状況があって、次の大きな勝負ということで、さらなる成長のために、私はソフトバンク創業以来、一番大きな、一番中核になる事業がこれだと心のなかで確信してます。

先ほど、国内の通信事業やSprintを足せば、近い将来にAT&T、ベライゾンに追いつく追い越すぐらいの利益の絶対額になるかもしれないと、イメージを申し上げましたけれども。

それよりもなによりも、圧倒的にソフトバンクの中心になる事業会社、ソフトバンクの本業。今から5年後、10年後、20年後、「ソフトバンクってなんの会社ですか?」と言われたときに、「ソフトバンクの本業はARMです」と多くの人が思うぐらいの存在感になるというのが、このARMの買収だと思っています。

まあ(買収額は)3.3兆円でありました。でも、そのうちの約70パーセントは手持ちの現金で払えたと。資金調達・借り入れは30パーセントぐらいで済んだと。

これは今までソフトバンクが行ってきた、いわゆるM&Aとしては初めてです。必要金額の70パーセントを手持ちの現金で払ったというのは、初めてであります。そのぐらい余裕をもって、今回は資金調達ができたということであります。

ARM社との戦略的提携を発表

だから、いろんな会社に相談しなくて済んだので、短期間で、しかも情報が外に漏れずに実行できたということであります。スケジュール的には、発表が7月18日でしたけれども。少なくとも9月中ぐらいまでには、全体の手続きが終わるのではないかなと想定しております。今、順調に手続きが粛々と進んでおります。

ということで、ARMですけれども。もうすでに18日から発表しておりますので、十分ご存知だと思いますけれども。売上、順調に伸びております。

昨日の彼らの決算発表でも、増収増益、順調に続いてるという発表がありました。売上高、営業利益、そして営業利益率も50パーセントを超えてるという、たいへんな高収益の会社であります。これから、その絶対額が二次曲線でうなぎのぼりにのぼっていくと思っております。

ARM社のビジネスの伸びしろ

ただ、私が今回、買収で彼らに語りかけているのは、どっちみちこういうふうに伸びていくんだから、場合によってはこの2〜3年あるいは4〜5年間は、目先の利益を少し減らしても、売上の拡大、マーケットシェアの拡大、技術者を増やしましょう、研究開発費を増やしましょうと。

これからやってくるIoTのパラダイムシフトに向けて先行投資をしようよと、彼らに語りかけております。

彼らはそのことに対して非常に強い共感をもって、ぜひそうしたいと、ぜひそうありたいということで、今、意見が一致しておるということであります。

彼らは研究開発の会社です。設計したものを、ほかのチップメーカーに設計図を販売するというかたちの会社であります。

どんな会社に売っているかというと、日本でいうとルネサス、世界的に見るとAppleだとかSamsung、Qualcomm、HUAWEI、いろんな会社に提供しております。彼らの最終製品であるスマホ、自動車、家電などいろんなものに出荷している。

どのくらいのマーケットシェアを持っているかというと、スマホは97パーセント前後あるんではないかと。

95パーセント以上と書いてありますけれども、実際97パーセントぐらいじゃないかと言われています。もう圧倒的ナンバーワンですね。

そして、タブレットだとかウェアラブルだとかストレージ、自動車の頭脳部分。こちらも頭脳のところ、ワイパーとか窓とかそういうコントローラのところは必ずしもARMではありませんけれども、自動車の頭脳のところについては、95パーセントぐらいはもうARMだということであります。

ということで、非常に高いマーケットシェアをいろんな分野で持っている。

出荷の数ですけれども、今までみなさんが「CPU」という言葉ですぐ連想するのはIntelさんだと思うんですね。「Intel、入ってる」ということで有名ですけれども、このIntelさんが1年間で出荷しているCPUの数に対して、ARMの出荷数はいったい、何対何なのかということですけども、約40倍です。

IntelのCPUの出荷の数の約40倍が、去年1年間でARMの設計によるCPUですね。マイクロコントローラユニットなども含めたCPUの部分が、なんと40倍提供されているということであります。このマイクロプロセッサの部分が、合計で約40倍です。

ですから、世界中の出荷されてるCPUの圧倒的ナンバーワンがARMだということになります。

製品ラインナップと性能の進化

じゃあどんな製品かと言いますと、ARMはもともと実質1種類だったわけですね。このClassicというやつです。

それに対して、ちょうどこの5~6年前から3種類、新製品が出てきました。それがCortexのA、それからR、そしてM。この3種類が出てきたわけですね。AというのがアプリケーションプロセッサのA。RというのがリアルタイムのプロセッサのR。MがマイクロコントローラのMということであります。

それぞれ用途が違います。それぞれの異なった分野の異なった用途向けにARMがそれぞれ特化したCPUを枝分かれさせて進化させたということであります。

それが大変高い伸びで、多くのお客さんに受け入れられたということであります。じゃあ来年、どんな新製品が出てくるかということです。

来年出てくる製品は、なんと今日現在の製品よりも30パーセント性能が高くて、30パーセント消費電力が少なく済んで、チップの面積のサイズが0.65ミリ角ということで、一番小さいものが出てくると。

それがパフォーマンスで言いますと、今売られているスマホというのは、去年出荷されたチップが現在のスマホに乗っかってます。

つまり2015年のものが、今日現在スマホとして売られているということですね。GalaxyのS6だとか、Nexusの6P。これが今現在売られているやつですけれども、それに比べて来年出てくるやつは、パフォーマンスが倍というかたちですね。

今日現在のスマホの倍のパフォーマンスがチップとしては来年出荷される。面積は今日現在売られているものに対して70パーセント小さい。

70パーセント小さい面積のチップができてくる。今日現在のスマホに入っているやつに比べて、つまり去年の出荷のやつに対して、70パーセント小さい。チップの値段、チップの製造コストというのは、面積に比例するんですね。

製造コストが面積に比例するということは、それだけチップが安く作れるということを意味しているわけであります。

年々こういう勢いでARMの設計がどんどん高まっていると。20ナノメートルから、16ナノメートルになって、10ナノメートル。ARMは、将来的にこれが2.5ナノメートルに達する技術の開発にすでに入っていると。

ARMがつくる世界一のエコシステム

そういう話も一部にはあるわけですから、まだまだこの開発は続いていく。そういうことを考えると、この設計というのがいかに大切かと。いかにARMの設計力が優れているかと。だから世界の97パーセントの会社が、「スマホにはARM」となっているわけですね。どのくらい性能が上がったかというと、6年間くらいで300倍になっていると。すごいですね。

このように、ARMは次から次に開発する能力があって、次から次に特許を取って、著作権を取って、どんどん開発していっていると。その処理速度だとか、革新性、信頼性、汎用性、リアルタイム性ということで、先ほどAとRとMがあると言いましたけれども、Rも世界ナンバー1のアーキテクチャとして進んでいる。

これがどういうところに使われているかというと、例えば自動車。自動車はリアルタイム性を要求されるわけですね。

ブレーキを踏んだといって、ブレーキが効いてもらわないと困るということで、リアルタイム性が要求されるところにRが大活躍するということです。

ストレージとか、自動車とか、早い速度でいろんな処置をしなければいけないと。コンピューティングパワーというよりも、速度ということでRが使われるということになります。

また、さらにMはマイクロコントローラとして、これからさまざまなIoT機器に続々入っていくということであります。これがARMが世界一のエコシステムを作ったということにつながったんですね。

AとRとM、それぞれをファミリーとして持っていて、またそれを開発環境を使ってアプリケーションソフトを作る会社が世界中にたくさんあって、それらをもとにチップメーカーはシステムオンチップということで、世界中のチップメーカーがARMのコアをエンジンとして使うということであります。

2020年の予測として、非常に大きな市場の伸びを自動車でもスマホでもその他の家電でも全部持っているということであります。

総合インターネット企業としてのソフトバンクの成長

だから、ソフトバンクの創業以来初めて、世界のパラダイムシフトの中心のところ。「ソフトバンクってなんの会社か?」というと、総合インターネット企業だとご理解いただければ、よりわかりやすいんじゃないかと思います。

出世魚のように姿かたちを変えてまいりました。ソフトバンクという名前は、どういう由来でついたのかというと、それは「ソフトのバンク」。創業した第1日目から、私の頭の中のイメージでは、パソコンは生まれたばかりでしたけれど、1台、1台個別単体で機能していましたけれども、いずれこれが全部お互いに横につながると。

ハードがインターネットワーキングされて、ソフト、それはアルゴリズムを持ったソフトウェア、それからデータ、これが広い意味でのソフトですけれども。これが1つにバンクされると。

我々が提供するバンクに、ソフトとデータが蓄積されて、それを世界中の人々が分かち合う。今流の言葉でいうとクラウドです。当時はクラウドという言葉はありませんでした。でも、今でいうクラウドというコンセプトを、ソフトバンクの創業の第1日目から私は実は想定してたわけですね。

私はアメリカに渡ってすぐ、16〜17歳のときからコンピュータを使って、プログラミングをしてました。

16〜17歳に趣味でプログラミングしていたのは、すでにカリフォルニア大学のバークレー校のメインのコンピュータとネットワークでつながっていて、Eメールやソフトウェアを分かち合うということを、僕は最初からバークレー版UNIXで体験してたわけですね。

だから、最初に触れたコンピュータの体験がもうすでにネットワークになってたと。すでにソフトやデータは分かち合うということを、最初に触れたときから体験してたので。最初にパソコンに取り組んだときは、パソコン同士はつながってませんでしたけれども。でも、いずれ必ずつながると私は読んでたわけですね。

だから僕は、ソフトのアプリケーションメーカーではなくて、OSメーカーでもなくて、クラウドを提供する会社になりたいということを、第1日目のときから思っていたわけです。

そのクラウドにさまざまなデータを提供するのは、世界中にばらまかれたチップと。チップがないとデータを集められないんです。チップのあるところにデータありと。

そのデータは、ネットワークを通じてクラウドに集まると。そのネットワークを日本、アメリカでは、我々グループ自ら持ってると。

その我々が持っているネットワークと、我々がグループに今回傘下に入れていくチップのARMと。このARMのチップが、私の推定では、今から約20年前後で、地球上に約1兆個のチップがばらまかれると。

地球上にばらまかれた1兆個のチップが、全部通信でつながって、全部クラウドになんらかのかたちで収納されるようになると。

それらを含めて、ソフトバンクは総合インターネットカンパニーとして、総合的なエコシステムを持ち、プラットフォームを持つというかたちになると。ソフトバンクの創業以来の最初の社名のところに、ついに近づいていくということであります。

そのソフトバンクの創業前、私が19歳のときに巡りあった1枚のチップの写真のところから、その旅路はすでに始まっていたということであります。その想いで、今回ARMを発表いたしました。

今回の資金調達等についての財務的な方針ですけれども。新株を発行するような、エクイティ・ファイナンスは一切行いません。なぜならば、もう金は調達できたと。だから新株を発行する必要がないと。配当の方針、これも変更なしと。

純有利子負債、これは先ほど言いましたように、いずれ3.5倍前後のところまで改善していくと。遅かれ早かれ、そういうことで我々の目線としてるということであります。

以上が、今日用意してきた決算発表の内容です。このあとは質問にお答えしますが、我々はあくまでも成長していくと。そのために、私は誠心誠意、命をかけて、自分の情熱、夢をかけて、人々に貢献したいと思っています。よろしくお願いいたします。