国内通信事業のハイライト

孫正義氏:それでは、実際の業績をセグメントごとにもう少し詳しく述べたいと思います。まず、国内の通信事業です。こちらは先ほど言いましたように、順調に推移しています。

営業利益、約11パーセントぐらい伸びたと。

顧客の累積回線数、こちらもコンスタントに推移してると。

また、解約率は史上最低レベルぐらいまで下がってると。これは、お客さんが我々のネットワークを非常に満足してお使いいただいてるという状況だと認識してます。

また、顧客1人あたりの収入も安定してると。

これらがモバイルのほうですけれども。固定のブロードバンド、Yahoo! BBを開始してからもう15年経つわけですけれども。Yahoo! BBを開始して15年で、今までソフトバンクは……。

最近の10年間は、ソフトバンクはモバイルの会社だと思われてる人がかなりいると思いますけれども。その直前には、実はソフトバンクはブロードバンドの会社でした。その直前には、インターネットにいろいろ投資する会社という状況だったわけです。

このブロードバンドの部分、こちらも実は、グレーのところ、これがYahoo! BBを中心としたところです。それに対して、光ファイバーをソフトバンク光ということでやり始めて、これが急激に伸びております。

固定のブロードバンドサービスが、合計を足し算して、ご覧のように、このブルーのところがグーッと伸びてますので、我々の累計の固定回線のブロードバンド、パソコンのほうのインターネットの回線数が急激に伸びてると。モバイルのほうのインターネットも安定してるということであります。

それで、設備投資が一巡しました。なぜ一巡できたかというと、ネットワークの接続率。ついこの間までは、ソフトバンクの携帯と言えば「つながらない携帯」と多くの人にご批判を浴びましたけれども、ここ数年のソフトバンクのネットワークは一番つながると。つなぎたいときに一番つながるというのが結果としてできました。

したがって、設備投資をここから慌てて急激に増やさなきゃいけないという状況ではもうなくなったと。一番設備投資のなかで大きいのは鉄塔の建設なんですね。鉄塔の建設がひと通り終わったということであります。

年間のフリーキャッシュフローは約5,000億円

その結果、フリーキャッシュフローが潤沢に出るようになったと。去年の第1四半期まではマイナスですよ。つまり、設備投資などによって、まだお金が外に出て行くという状況だったわけですけれども。

今年の3ヶ月間で、約700億円のフリーキャッシュフローが手元に残ると。これは設備投資だとか税金だとか、いろんなものを払ったあとに手元に残る現金です。

この約700億円ですが、今回初めて、これが年間通じていくらになるかを公表いたします。その数字は約5,000億円です。

今回の決算で初めて、我々の国内の通信事業から、設備投資・税金のあとの現金が会社にいくら残るか、貢献できるかというと、約5,000億円のフリーキャッシュフローを得られるレベルにきたということであります。

これが先ほどの負債に対して、十分に自信をもってバランスよく返していけるということの背景にあります。

次に、ソフトバンクの取り巻かれた全体の収益機会、なぜソフトバンクの国内の通信事業が安定的に顧客を増やし、安定的に現金収益を残していけるかというと、こういういろんな手を打ってると。それらが非常に順調に推移しているということがまとめられます。

そういうことで、我々は安定的な国内のフリーキャッシュフローを稼げる、5,000億円規模で稼げる事業があるから、少し海外に冒険することができるようになったということであります。

課題のSprintが黒字に反転

次にSprintです。

なぜ今回3兆円の投資で(ARM社を)買収するという決断ができたかというと、国内で5,000億のフリーキャッシュフロー。

もう1つ、今まで足を引っ張っていたSprintの業績が著しく改善してきて、今までのように足を引っ張る存在ではなくて、これから我々の利益に貢献する側の存在に転換できると。

将棋の駒で言えば、「歩」というやつがありますけれども、裏返ししたら金に化けると、「と金」と。つまりSprintを裏返すと、これからキャッシュフローを稼ぐ、稼ぎ頭の1つになっていくというふうに転換できるメドがついた。

調整後のEBITDA、先ほどの営業キャッシュフローですね。これで18パーセント前年対比で伸びたということで、またフリーキャッシュフローでも今までは何千億も赤字だったんですけれども、これが黒転すると。

設備投資・税金を全部勘案した後のフリーキャッシュフローですらSprintが今年中か来年早々に黒転できると。まず四半期レベルで見れば、実はもう黒転したということで、反転のメドが見えてきたということであります。

4つの反転戦略の成果

我々が経営指標として掲げておりました。純増の改善。OPEXの改善。そして、資金調達。そしてネットワークの改善。この4つの部門がありますけれども、私が戦略的にマネージしなきゃいけない、マルセロ(・クラウレ氏)とともにやらなきゃいけないと思っていた点がありますが、4つともに順調に推移できたと。

まず純増ですけれども、顧客が17万。

これはポストペイドのなかでも、タブレットはiPadとかAndroidパッド、これは実は各社ともほとんど利益が出ない。おまけで提供している製品になります。また、プリペイドもほとんど利益が出ない。まあ数合わせで出してるにすぎない程度の利益貢献。

実は利益の90パーセント以上の貢献は、ポストペイドのスマホということになりますけれども、こちらのポストペイドの携帯で、17万の純増と。これは過去5年間で初めての純増になりました。

次に解約率ですね。

「Sprintのネットワークがつながらない」ということで、解約率が非常に高かったんですけれども、この解約率がSprint史上で最小限のレベルまで改善できたと。

ネットワークも改善して、Sprintの総合的なサービスも改善して、解約率が2パーセントを超えてたんですね。これが1.39まで減った、非常に改善できたということであります。

先ほど純増と言いましたけれども、1顧客あたり毎月お客さんに請求する金額。これが実は順調に推移しているということであります。

結果、今までどんどん顧客が純減純減して、売上がどんどん下がっていたのが、やっと底打ちをできたと。ここからは売上も反転していけるというメドが見えたと。

EBITDA、フリーキャッシュフローの利益率で世界一

先ほど日本円に換算すると売上が減っているように見えるということを申しましたけれども、Sprintはアメリカの会社ですから、ドル対ドルでSprintのアメリカの業績ということで言えば、純減純減が減って、ついに底打ちをして、ここから反転できるところまできたと。 売上、あるいはユーザー数が反転できて、そのうえで今まで固定費がかかりすぎていたと。

このかかりすぎていた固定費のバランスを一気に改善するということで、固定費の削減の努力を続けております。

みなさんよく考えてみてください。ソフトバンクは、EBITDAの利益率で世界の携帯事業者のなかで一番なんですね。世界で一番利益率が高いんです。

フリーキャッシュフローも世界で一番利益率が高いんです。チャイナ・モバイルよりもベライゾン、AT&Tよりも利益率が高い。

そのソフトバンク、いろんな努力をしているわけですが、そのソフトバンクよりも、Sprintのほうがユーザー数も売上も大きいんですね。

アメリカで4位とか、いろんなご心配をいただいたりしておりますが、よく考えてみますと、世界一利益率の高いソフトバンクの国内のモバイルよりも、絶対額ではSprintのほうがユーザー数も売上も多いんです。

ですから、経費の率のバランスさえ改善すれば、ソフトバンクで培ったノウハウ、経営力を今Sprintに一生懸命移植しておりますが、これが完了して、Sprintとソフトバンクを足し算すると、その2社から得られる現金収益というのは、AT&T、ベライゾンに匹敵する規模になれると。

世界でもトップレベルの収益を絶対額でも稼げるようになるという可能性があるということですね。

潤沢な資金でアメリカ最強のネットワークを設計

T-mobileとの合併は、アメリカ政府の許認可が取れそうにないということでいったん断念しておりますけれども、Sprint単体でも、ソフトバンクと足せば世界でも有数の規模の利益になれるということで、私は今非常にSprintを、「買ってよかったな。売りたくない」と思っているということであります。

人間は、マラソンでも後ろのほうについていると相当疲れますよね。ゴルフなんかでもスコアの悪いときというのは、相当疲れます。でもスコアがいいとき、マラソンでもトップグループを走っているときというのは、実はあんまり疲れないと。

今Sprintは、見てください。点線のところがソフトバンクが買収する前ですね。それまでは利益が真っ逆さまに落ちていたんです。ユーザー数が真っ逆さまに落ちていると。

ソフトバンクのグループ入りしてから、4年連続でEBITADA償却前の営業利益が増えているんです。改善しているんです。

Sprintはもはや足を引っ張る存在ではなくて、もうすぐ目の前に入賞ラインが見えてきてるということで、疲れないと。

昨日も夜中12時過ぎまでSprintの連中とネットワークの設計について詳細な議論をやっておりました。僕は昨日ロンドンから帰ってきたんです。昨日帰ってきて、いくつもいくつもミーティングをして、夜中の12時、1時過ぎまで電話をあっちこっちかけまくってSprintをやっていたんですけれど、疲れない! ぜんぜん疲れない! 楽しくて楽しくてしょうがないと。

1年前はぜんぜん違ったんですよ。2年前は地獄のような苦しみだった。疲れて疲れて、へとへとで、「Sprintを早く売りたい」という状況だったのが、今やSprintの電話会議、Sprintの会議、Sprintのネットワーク設計、楽しくてしょうがない。いよいよこの改善が見えてきたと。

ついにフリーキャッシュフローでも四半期でこれだけの黒字。フリーキャッシュフローで500億円レベルの黒字というところまで実績が出てきた。

年間通期で見ても、だいたい12月の四半期というのは売上がドーンと伸びますので、そこで1回フリーキャッシュフローは赤字になりますけど。今年初めて、年間通期で見ても黒字になりそうだと。

仮に今年フリーキャッシュフローで若干赤字だったとしても、来年にはもう確実にフリーキャッシュフローで、年間通じても黒字になれそうだと。今年または来年でフリーキャッシュフローで黒字。

フリーキャッシュフローで黒字というのは、借金が減っていくことですね。営業利益はどんどん伸びてるんですよ。それで借金が減るということは、「これはよかったね」という話になるわけです。

フリーキャッシュフローが増えると、「設備投資をしないからじゃないか」「設備投資が足りないんじゃないか」と(言われるけれども)。そうでもないと。

我々はネットワークの設備投資を、アメリカ最強のネットワークにしようと思って設計をしております。すでにその兆しが出ておりまして、nielsenの調査でネットワークの通信速度では、他社を抜いて一番と出ております。コンスタントに一番と。

ネットワーク、解約率の改善

また別の調査会社、RootMetricsによる調査でも、去年の下期に比べて今年の上期、もう75パーセントぐらい表彰、表彰、表彰が増えているということで、ネットワークは急激に改善している。

だから、Sprint史上最大に小さい解約率まで改善できた、解約率が一番低くなったというのは、ネットワークが改善したからだということであります。

また、Sprintの資金繰りが一時心配をおかけしましたけれども。今やSprintも潤沢に資金繰りが回るようになったということで、こちらでもSprintの安心感が一気に増えました。

つい先日、Sprintの決算発表が行われましたけれども、決算発表をした翌日には株価がボーンと反転して、今日現在で見ても、発表前から比べて25パーセント株価が上がってると。

今回の決算発表で、前までに比べて株価が25パーセント一気に上がった。これはなかなかないですよ。短期間で25パーセント上がるというのは。

「マイナスのSprint」の汚名を返上

ということで、Sprintの経営について、アメリカの投資家のみなさんもやっと「もしかしたら、改善してるんじゃないか」と安心感が一気に出たんじゃないかということです。

今までソフトバンクと言えば、「マイナスのSprint」と。いろんな記事で必ず、「ソフトバンク、マイナスSprint」と1行で表すという評価でしたけれども。ついに……なんとこれを見てください。ソフトバンクがSprintの買収に使ったお金は1.95兆円です。それで、今日現在のSprintの時価総額は2.01兆円。

ほんの数ヶ月前は、Sprintに対する投資、あのお金の半分ぐらいはもう減損しなきゃいけないんじゃないかと。もしかしたら8割ぐらい減損しなきゃいけないんじゃないかと、我々の社内ですら議論してたぐらいです。

ですから外のみなさんが心配されるのはごもっともということで、もう心配されて当たり前という状況にあったわけですけれども、ついに今回の決算発表で、Sprintのアメリカ投資家のみなさんが、このように評価をいただいたということでございます。

これ「日本円で」という前置きがあるのは、実はドル換算にするともうちょっとへこんでるんです。ですから、日本円でグラフにしたというのはズルいといえばズルい。でも、事実は事実と(笑)。Sprintを買ったのは、1ドルが83円とかそのぐらいのときでした。でも事実は事実と(笑)。

ですから我々は、当時の円高でタイミングよく買ったと。意図したと言えば意図したと。賢いと言えば賢いと。ラッキーだと言えばもうそれまでということですけれども。まあラッキーも実力の内だという人もいますから。

結果、我々が使ったお金は日本円ですから。日本円で借入を起こして、日本円でSprintの株を買ったと。それに対して、今日現在ついに、減損どころかSprintが含み益に化けたということで、Sprintもおおいに改善したということであります。

ここのところが、私の腹のなかで、「Sprintもういけるぞ」と自信ができたと。だから今回のARMの買収の意思決定ができたんです。