ソフトバンクグループ 2017年3月期 第1四半期決算説明会

孫正義氏:孫でございます。よろしくお願いいたします。人生というのは本当におもしろいものだなとつくづく思います。

つい最近、ARMの買収について発表させていただいたわけですけれども、ARMの会長に今回の買収案件について初めてプロポーズしたのが、トルコのテロがあった直後でありました。

しかもその話をして、トルコで会った直後にまたトルコでクーデターがあって、空爆された場所が、今回私がARMの会長と初会談をした港町だったんですね。

ですから少し早くても危険だったし、少し後でも危険だった。また、ARMの会長が家族とバケーションで地中海をヨットで航海しているところに電話をして、近くの港町に立ち寄ってそこで会談をしようと持ち掛けた場所がそこだったわけですね。

ですから本当に……「もし」というのを言い出せばキリがありませんけれども。さらにその少し前に、イギリスがEUから脱退すると。Brexitというものがあったと。もしそれがなければ、これほどいろんないいタイミングにならなかったかもしれない。

いろんな偶然があって、少なくともソフトバンクの会社における歴史が大きく動いたということになったわけであります。

そんななかで今日は、ARMの買収発表直後の決算発表ですから、少しソフトバンク全体の今の経営状況についてもご報告するのがタイミング的にもよろしいんじゃないかなと思っております。

今日のこの決算発表が、もともとの予定よりも1週間ぐらい早まったのも、実はARMの決算発表が昨日で、ARMの決算発表よりも後になると、ARM社がインサイダーを抱えた状況で決算発表を迎えるというようなこともあってですね。

我々の決算発表をこういう日にしたのも、またいろんなことの組み合わせでそうなったということでもあります。そういう意味では、非常におもしろい歴史的な偶然が重なったということであります。

2016年第1四半期のハイライト

それでは早速、発表したいと思います。こちらにありますのが、我々ソフトバンクの現在の決算の内容をまとめたかたちで表しています。

ソフトバンクの国内の通信事業、こちらが我々のキャッシュフローの一番の稼ぎ頭になっております。非常に順調に業績が推移しておりまして、営業利益でも前年対比11パーセント増ということで推移しております。

また、先日Sprintの決算発表がありましたけれども、調整後のEBITDA、償却前の営業利益ですね。こちらで18パーセント増ということで、非常に順調に業績が推移できたと。

そしてヤフー・ジャパンも、従来のビジネスモデルだけではなくて、eコマースの部分を今一番強化しているわけですけれども、こちらの部分が38パーセントという高い伸びを継続することができたということであります。

また、最後に我々の投資資産に対する事業ですけれども、現金回収が今回非常に順調に推移したと。これはもうすでにアリババだとかSupercell、ガンホーについて公表している通りですけれども、順調に進んだということであります。

連結業績

こちらがその売上高ですけれども、売上高が3パーセント増、8パーセントの調整後のEBITDA、営業利益が0.2パーセント増、当期純利益が19パーセント増ということであります。

一つひとつ分解してご報告したいと思うんですけれども、売上高3パーセント増ですが、スプリントの部分は日本円に換算すると、1,000億円くらい減っているように見えます。しかし、これは円高の影響もありますので、スプリントはアメリカの会社ですから、ドルで見ますと、去年と今年と売上は減っていないと見ることもできると思います。そういう意味ではスプリントも順調に推移しましたし、スプリント以外も順調に推移していると認識しております。

次に調整後のEBITDAですけれども、こちらも13期連続で最高益を継続できております。

その内訳ですけれども、スプリントも、ドルで見ると2.1ビリオンから2.5ビリオンということで、20パーセントくらい伸びております。

ですから全体で見ると、円に直して8パーセント増ですが、本当は2桁増くらいにいけていると言えるかもしれません。

また、営業利益ですけれども、営業利益はほんの少ししか伸びてないように見えるかもしれませんが。

こちらもスプリントの円高部分と、またもう1つスプリントはネットワークを卸売りしております。

地方のモバイルカンパニーに対して、ローカルの会社に卸売りをしておりますけれども、その卸売りの契約を巻き取って、その契約を終了させて、そして将来の契約を組み替えております。

将来の契約を組み替えたそちらは、より利益が増えるかたちの契約ですけれども、その契約をいったん終了するので、いったん一時損を計上するかたちになっております。

しかし、それは一時的なことで、かつ本質的にはより増益になる契約なので、良いことだと判断して行っております。

ですからその部分まで含めて見ると、実は営業利益ももう少し順調に伸びていたと言えることができるんではないかなと思います。

ARM買収による財務状況への懸念

次に、今回ARMの買収で、「ソフトバンクは負債の全体額が非常に大きくなるのでないか」ということで、ご心配をいただいている意見もいくつか寄せられております。

それについての私の見解を申し上げさせていただきたいと思います。まず言えることは、ソフトバンクは今まで4回ほどあった我々の業界のパラダイムシフト、実は毎回、持っているものを全部売る、借りられるお金は全部借りるというくらいの、ある意味一か八かのような勝負を仕掛けておりました。

ですから、例えばボーダフォンジャパンを買収するときは、インターネットがパソコンからモバイルに移り変わるということで、借りられるお金は全部借りたと。売れるものは全部売ったという状況でありました。

その手前のブロードバンド、Yahoo!BB、ということでNTTさんに挑戦する時、あの時もですね、ネットバブルのはじけた後で、売れるものは全部売りました。借りられるものは全部借りたというかたちで、かなり無理をした勝負を仕掛けました。

しかし今回は、ARMの買収の手前のところで3.8倍。3.8倍がなにかと言いますと、我々の純有利子負債がEBITDAに対して何倍かと。

EBITDAというのは日本ではあまり使われませんけど、欧米では一番中心に使われる業績の数字がEBITDAです。なぜEBITDAかというと、ディプリシエイション(減価償却)、アモーチゼーション(償却)、これは現金の支出をともなわない会計上の支出ということになりますので、現金の営業収益を見るときにはEBITDAを使うと。

その現金収益のEBITDAの何倍まで借り入れを起こすか。何倍くらいまでだったら健全かというときのものさしが、M&Aするときの基本的なものさしになっています。

だいたい4.5倍くらいであれば、ケーブルカンパニーとかM&Aが非常に多いんですけれど、4.5倍くらいは普通に行われると。我々ボーダフォンジャパンを買うときは、6.2倍という少し無理をした倍率の借り入れを行いました。

それに対して、今回3.8倍だったものがARMの買収で4.4倍に増えると。少し増えるけれども、十分健全な範囲だと思っています。中長期的には、これを3.5倍くらいまで下げていくのがよりよいのかなと思っていますけれども、これは時間の問題で、3.5倍くらいにはいけると思っています。

だいたい数年以内に、3.5倍くらいのところまでいくというかたちを1つの目安として借り入れを起こしていると、ソフトバンクの中長期的なポジションは3.5倍に向かうとご理解いただければ、それがソフトバンクの心地よいバランスと言えると思います。

そこからはやや高めですけれども、4.5倍以内なので、十分健全な範囲と。ですから、絶対額ではなくて倍率で見るということが、よりバランスの取れた見方ではないかと思います。

ARMの買収、フルスイングしたつもりはない

次にもう1つの見方があります。それは、純有利子負債に対して、いざとなれば売れる資産をいくら持っているかということであります。

工場のようなものですと、よく会社の純資産に対して、何倍借り入れを起こしているかというような見方をしますが、純資産というのは非常にやっかいなもので、純資産のなかには自分の本業の工場の土地だとか、工場の建物とか、工場の設備投資をよく純資産で普通は計算でほとんど入れます。

でも、それを売っちゃったら本業が突然止まってしまうわけですね。ですからそれを売るわけにはいかないと。

我々ソフトバンクは、バランスシート上は簿価上げをしていないので、投資したときの金額のままですから、バランスシート上は純資産が大きく見えることはないけれど、売れる資産、売ったとしても本業に差し障りのないものとして約9兆円持っていると。

ですから、借り入れの総額を見るのではなくて、そこから現金が手元にあるわけですから。現金を差し引いた純負債に対して、売れる資産をいくら持っているかというと、実は2兆円余っているじゃないか。

私に言わせると、実質無借金じゃないかと。2兆円余っているじゃないかと。さらに、年間5,000億の潤沢なフリーキャッシュフローが毎年入ってくるという状態なので、少なくとも私自身はまったく心配していないと。

今までの大きなパラダイムシフトのときの賭けに比べて、今回はまったくフルスイングしたつもりがないと。コントロールショットの範囲だと思っているというのが、実は正直な気持ちであります。