ARMとの戦略的提携について

孫正義氏:今回のARMの買収の件というのは、私がこの10年来、ずっと考えてきた案件でありまして、いいよその日がやってきたと。

ソフトバンクの創業以来、ある意味今日が僕にとってはもっともエキサイティングな日であると思っております。

今までソフトバンクは、いろんな事業をやってきましたけども、日本で3位とか、アメリカで4位とかですね、そういうようなものが多くありました。

もちろん中国では1位のアリババとか我々のグループにありますが、我々ソフトバンクが直接オペレーションをしている事業、私自身が直接かかわる事業として、世界一というものをあまり持っておりませんでした。

今回初めて我々が、その分野で世界一、しかもその分野がこれからの人類の歴史のなかでもっともエキサイティングなもっとも重要な産業になるであろうと思われるところに、我々が戦略的な手を打てた。

このことが、私にとってはもっともエキサイティングなことであるということの理由であります。それでは早速ちょっとプレゼンしたいと思います。

買収資金は約3.3兆円、取引はすべて現金で

今回の取引は、ARMの株式、上場しておりますけれども、この株式を100パーセント取得して、ARMを上場から取り下げて、ソフトバンクの100パーセントの会社になる。そういうものであります。

買収の資金は総額で、日本円で約3.3兆円ということであります。資金調達ですけども、約70パーセントに相当するところ、これは手元の持っている現金で行われます。

約30パーセントは借入によって行われますけれども、この借入はブリッジローンです。なぜブリッジローンかと言いますと、すでに我々は手元に十分な現金がありますが、それは最近行いましたアリババの株式による資金調達、それからもともと手元に持っていた現金ですね。

それに加えて、来月から2回に分けて、Supercellを売却した資金が入ります。それからガンホー株式の売却資金も手に入ります。

これらは今はまだ手元にないけども、入ることがわかっているということで、それであれば、ブリッジローンでいいじゃないかということで、我々はブリッジローンで調達するということであります。

基本的には全額現金による買収で、ソフトバンクは新株を発行するとか、そういうソフトバンクの株式を使ったような調達は今回一切行わないということであります。すべて現金による取引だということでございます。

主な取引条件としましては、1株あたり1,700ペンス。これは敵対的買収のようなものでは一切なくて、ARMの経営陣・取締役会の全会一致の支持による、彼らが株主に対してこれを推奨する、レコメンドするというような取引であります。ですから、非常にフレンドリーなディールであるということです。

ソフトバンクはそのために必要な資金をすべて調達済みということで、新たにこれから調達しなければならないというものはないということであります。

したがって、株主総会の承認さえ下りれば、基本的にはこのディールはなんの疑念もなしに、完全に実施されるというかたちになります。

株主総会と、イギリスの裁判所による承認ということです。これは方式としては、スキーム・オブ・アレンジメントという方式で行われます。

今後のスケジュールと取引の狙い

これはスケジュールですけれども、スキームに関わる書面の公表が数週間以内に行われる。そこから、さらに数週間で裁判所の認可と株主総会による決議が行われると。

そして、スキームに関わるあらゆる認可・承認の申請ということで、スキームの効力発生はさらにそこから何日間かということであります。

この全体のプロセスは数ヶ月ということでありまして、半年から1年という期間がかかるものではないと認識しております。

取引の狙いですけれども、ARMは独自の基盤技術・プラットフォームを持っておりまして、この分野では世界NO.1だと。市場のポテンシャルが非常に大きくて、これからますます成長する分野であります。

すでにモバイルだとか、自動車だとか、家電、いろんなところに入っておりますが、これが大きく伸びるということであります。それで、我々の長期的なビジョンに完全に合致する投資であるということであります。

ソフトバンクのステークホルダーのみなさんに対しては、資金調達のために新株の発行など、エクイティ・ファイナンスは一切行わないということであります。

それから配当の方針には変更なし。純有利子負債の削減、とくに純有利子負債のEBITDAに対するマルチプル、これは着実に改善させていくということであります。

40年前の“チップ”との運命的な出会い

これは運命的な決断だと思っております。なぜかといいますと、遡ること40年前、ソフトバンクを創業する前です。私が19歳のときに、ある1枚の写真と出会いました。これが実際の写真です。

その当時の光景を今でも覚えておりますけれども、私は当時まだ学生でした。それで、車から降りて歩道の落ち葉を踏みしめながら歩いているときに、ちょうどサイエンスマガジンを読んでおりました。

そのペラペラめくっている雑誌の1枚にこの写真があったわけです。なんなんだろうかと。初めて見る写真だと。

なにか未来都市の設計図のような写真に思えたわけですけれども、不思議だと思って次のページをめくったら、それが指先にのっかるコンピューターだということを、生まれて初めて知ったんですね。チップの拡大写真であったと。

私はこれを見て、両手両足の指がジーンとしびれまして、感動しすぎて涙が止まらなくなったんです。車を降りてただ歩いている途中ですから、ほんの一瞬の出来事です。

ほんの数秒間の間に、私の頭はグルグル回転して、涙があふれて止まらなくなった。まるで感動するような映画や音楽を観たり聴いたりしたような……感動しすぎて、しびれて涙が止まらないっていうことありますよね? そのような感覚がそのとき僕にやってきたんです。

なぜかというと、これはついに人類が産み出した、初めて人類の頭脳を超える、将来人類の頭脳を超えるであろうものを、人類が自らの手で発明して産み出したと。

これが将来もっともっと進化したときに、人類の未来に与える影響がいかばかりのものであるかと。

いずれ人類の脳細胞の働きをはるかに越えていくだろう、ということをそのときに思って、その怖さとその感激とその興奮が、一瞬の間に私を涙が止まらないという状況にしてしまったわけですね。

そのチップの写真がついに今回、今日この日に、我々が自ら、私自身が自ら、その人類の未来の姿に大きく関わっていくことができると。そのような決断ができたということであります。

IoT時代におけるARMの優位性

今、世界中のコンピューターのチップ、多く出荷されておりますけれども。パソコンの、PCのなかに入っているCPUはほとんどがIntelです。でも、パソコン以外のものに入っているCPUはほとんどがARMであると。

つまり、PCの外、これからインターネットにあらゆるものがつながっていく、Internet of Thingsの時代がやってくる。その中心の会社はARMであると。

そのARMに関わるということを、僕がはじめて19歳の時に見たマイクロコンピュータのチップの拡大写真と、40年ぶりに私はそこに直接関わることができると。

この興奮が私を……。なんていうんですかね? 今日はそういう意味では、私の事業家としての人生、私自身の人生のなかで最もハイライトをあてるべき日が今日のこの日だと思っておるわけです。

そんな日に一緒の部屋にいれたみなさんは幸せだと、僕は思いますよ(笑)。私が幸せなんだから、きっとみなさんも、そんな幸せな男と同じ部屋にいるというだけで、幸せなを共有してると思うわけですが。まあ、それは言い過ぎですかね(笑)。でも、それぐらい本当に幸せなんですよ。

過去40年間のパラダイム・シフトにおける投資

それで、ソフトバンクは、実は投資に対するリターン、益が44パーセント。18年間、毎年毎年の複利で44パーセントの、投資に対する見返りの果実を得たということなんですけども。

「その秘訣を1つだけ言え」ということを尋ねられるとすれば、私は常にそのIT業界の情報革命のパラダイム・シフト、5年か10年に一度パラダイム・シフトが起きてるんですけれども、そのパラダイム・シフトの「入り口」で常に大きな賭けをしてきたと。そこが唯一、我々の、この44パーセントの成功の理由だと思うんですね。

44パーセントのリターンというと、みなさんちょっと思い描いてみてください。世界中のプライベートエクイティの投資会社、世界中のベンチャーキャピタルありますけれども。

この何兆円という規模で、しかも44パーセントの投資に対する回収の実績を持ってるという会社は、僕の知るかぎりでは、ほかに世界中に1社もないと思います。

その唯一のコツを聞かれるとすれば、今言いましたように、パラダイム・シフトのときに私は投資してきたと。40年間のなかで4回大きなパラダイム・シフトがあったとすれば、その10年に1回のパラダイム・シフトで、私は入り口で投資してきたということであります。

IoTは人類史上最大のパラダイム・シフトになる

じゃあ、なぜARMかというと、これからやってくる人類史上最も大きなパラダイム・シフトが、モバイルインターネットは次にInternet of Thingsになると。

PCがPCインターネットになったんだと。次はモバイルインターネットになったと。モバイルインターネットの次はInter of Thingsだと。インターネットでつながるものが、パソコンからモバイルになって、モバイルの次はすべてのものがインターネットにつながると。

これはこれから、人類史上、やってくる、最も大きなパラダイム・シフトになると、私は信じております。だからその入り口で投資をするんだということであります。

おそらく多くの人々は、インターネットが始まってすぐのときに、まだ「インターネットってなんだ?」ということで懐疑的に見ていました。でもソフトバンクはそこに果敢に投資した。

モバイルインターネットがやってくるときに、私がボーダフォン・ジャパンを買収したときに、「なんでいまさらもう成熟した携帯電話の事業に投資するんですか?」と聞かれて、「いや私は成熟した携帯電話の、電話の世界に投資するつもりはまったくない」と。

「これからやってくる、携帯がモバイルインターネットになる、その入り口に投資をするんだ」とコメントをしました。でもその当時は、多くの人は意味がわからなかったということですね。

ですから、ソフトバンクの株は、当時その噂が出てから、2週間で6割ぐらい株価が下がったんですけれども、ほとんどの人が懐疑的であったと、ついにソフトバンクが倒産すると。

今回は、ソフトバンクが倒産するほどのお金は必要とされていないという意味で、ソフトバンク創業以来最大の投資ですが、まあ、たかが3兆円だと言ったら怒られるかもしれませんが、それ以上の現金と資産を持ってるから、今回はほとんど手元の現金でやれたということであります。どちらにしろ言いたいのは、パラダイムシフトの入り口。

ARMのビジネスモデル

じゃあARMというのはどういう会社なのか。すでにご存知の人もいると思いますが、知らない人もたくさんいると思いますので、少し触れたいと思います。

ARMは、現在148億個、去年1年間で約150億個のチップが、ARMの設計によるARMベースのチップが世界中のあらゆるチップメーカーから出荷されているということであります。

ARMは自らチップを製造はしていません。Intelは設計と製造両方行っています。ARMのビジネスモデルは、両方自分自身でやるのではなくて、設計に特化して、チップのメーカーにその設計図を渡している。

彼らはその設計図を得て、そこにシステム・オン・チップということで、メモリを追加したり、モデムの部分を追加したり、あるいはグラフィックスをエンハンスしてそこに、システム・オン・チップと。

この拡大写真を見ると、まるで20年前、30年前のパソコンのマザーボード、これが目の前にあるような感じであります。

つまり、当時のマザーボードが今はワンチップに縮小されて入るようになった。これをARMはさまざまなチップメーカーに提供し、このARMベースのチップが150億個、去年1年間で出荷された。

しかもこれが二次曲線で伸びている。Intenet of Thingsになると、将来これのさらに何十倍、何百倍になると思っています。

ARMはスマホの完全なる成功者

売上高。まだ去年で2,000億円弱です。でもこれも二次曲線で今伸び始めている。

さらに、純利益、税引後の利益で600億円弱。でもこれも、二次曲線で急激に最近伸び始めたと。

でもこれは私に言わせれば、これからARMが爆発的に伸びる入り口だと私は思っています。

ARMはさまざまなスマートフォンに入っておりますけれども、全世界で今現在出荷されているスマートフォンの約97パーセントぐらいがARMだと言われております。

そういう意味では、スマートフォンの完全なる成功者は実はARMであるということも言えるかもしれません。

スマートフォンの出荷は、ある程度数は成熟し始めたんじゃないかと言う人もいますが、ARMの成長余力というのは、1台のスマートフォンのなかに、複数のARMベースのチップが入っている。

しかもその一番重要なアプリケーションプロセッサのなかに、ワンコアではなくマルチコアになっている。

ARMが最初はシングルコアで、CPUに1個ARMのコア入っていたのが、最近は4コアとか8コアとかいうふうに1個のなかにたくさん入り始めてる。

さらに、グラフィクスだとか、そのほかいろんなエンハンスされたARMのチップがどんどん複数増えてきているということであります。

セキュリティ面におけるテクノロジー技術

さらに自動車のなかには、これからARMベースのチップがたくさん入っていくということになって、自動車が自動運転とか、そういうふうにこれからなっていくと思いますけれども。

そうすると、ますます自動車は「走るスーパーコンピューター」と言われるようになるでしょうし。あるいは「走るロボット」とも言えるかもしれません。そういうことになれば、ますますARMの潜在市場価値は大きくなっていくと。

さらに、家庭のなかオフィスのなか、ありとあらゆるものがインターネットにつながるという時代が来ると思いますが。そうすると大事なのはセキュリティであります。

もし、ハッカーがInternet of Thingのなかからハッキングしていこう、というふうになると、例えば先ほどの自動運転の自動車が、ある日ハッカーにハッキングされてウイルスばらまかれた場合に、ある日突然、世界中の自動車が同じ日の同じ時間に世界中で同時に自動車のブレーキが利かなくなるということが、悪い人のハッカーの手によれば、そんなことすら可能になりうるわけですね。

もしそうなった場合には、今、世界中で頻繁に起こり始めているテロ、これが人身テロではなくて、自分の自爆テロではなくて、単にハッキングをするだけで世界中をパニックに陥れるということすら起きかねないということですね。

空を飛ぶ飛行機が落ちる。同時に飛んでる飛行機が世界で同時に落ちると。あるいは、同時に動いている自動車が同時にブレーキが全部止まるということになると、どれほど危険な時代がやってくるか。

そうすると、セキュリティというのは最も重要な機能になりますけれども。ARMはそこにTrustZoneというテクノロジーを持ってます。

これがありとあらゆるInternet of Thingsに入っていくということで、ますますARMの役割は重要になると。

またARMは最近ロイヤリティ収入が2次曲線で伸びてきておりますけれども。それはARMのテクノロジーの高度化、マルチコア化、また設計の領域が広がっているということで起きております。

このページにARMのいろんなファクトが書かれておりますけれども。あとでじっくり見ていただきたいと思います。

見れば見るほど、ARMがいかに世界の情報革命のコア中のコアになり始めてるかということが認識されると思います。

PC・スマホの外に広がる成長市場

現在のARMの出荷、去年1年間で150億個ぐらいですけれども。2020年にどのぐらいになるかというと、そのARMの部分だけでも4倍、5倍という規模になるであろうということであります。

成長市場というのは、モバイルコンピューティング。ここでいうモバイルコンピューティングというのはスマホだけではなくて、ノートパソコンとか。

そういうものも含まれた場合のシェアでいうと85パーセント以上。スマホだけで言えば97パーセントぐらいじゃないかとも言われております。

また、我々の通信のネットワークにもARMがどんどん使われ始めてますし、IoTの中心になっていくエンベデッド(インテリジェンス)、こちらもARMのシェアが今続々と伸びてる。

モバイルコンピューティングの潜在市場。2020年には、このARMの設計による出荷されるチップの世界潜在市場規模というのが400億ドルとか。エンタープライズで360億ドル。エンベデッドで450億ドル。

というふうに非常に大きな市場があって、それぞれ自動車だとか家電、そういうものにどんどんとその潜在市場規模が広がるということであります。

非常に大きな市場があって、それぞれ自動車だとか家電とかそういうものに、どんどんと潜在市場規模が広がるということであります。

ARMが結ぶパートナーシップ

ARMは、ビジネスモデルとして、先ほど言いましたように、自らチップを製造しているわけではない。

したがって、さまざまなチップのメーカーにARMの設計図をライセンスして、彼らがシステム・オン・チップを最終的に設計し、そしてファウンドリに、TSMCのようなチップの製造メーカーに、あるいは自ら製造している会社に提供しているということです。

ですから彼らチップメーカーと競合しているのではなくて、チップメーカーとパートナーであると。さまざまなチップメーカーにARMはその設計図を提供するというポジションにある。

そこはIntelと違うところですね。Intelは自ら設計製造、全部自前でやるわけですけれども、垂直統合ではなくて分離することによって、多くのパートナーを味方につけているということであります。

ARMはパートナー戦略によるビジネスモデル。そこもソフトバンクと非常に近しいところであります。デザインサポートパートナーだとかソフトウェアのパートナー、いろんなパートナーを1,000数百社持っているということであります。

ソフトバンクとARMはIoT時代を牽引する

ということで今回の投資は、共通のビジョン、ARMと我々ソフトバンクは同じビジョンを持っていると。中立性を維持し、グローバルで連携し、イノベーションへの投資、ということであります。

ひと言まとめて言いますと、ソフトバンクとARMは、次にやってくるもっとも大きなパラダイムシフト、Internet of Thingsに共に力を合わせて挑戦するということであります。

ARMは、モバイルのすでに業界標準ですけれども、モバイルを超える大きな成長ポテンシャル、なかでもIoTは、これからやってくる一番大きなパラダイムシフト。

このことが共有できたので、ARMの経営陣、そしてARMの取締役会と我々は、全会一致でこのことをARMの現在の株主に共同で提案するというかたちになったわけです。

ということで、私の大変なる興奮を今話しまくりましたけれども、ぜひ多くのみなさんにご理解されることを心から願っております。ありがとうございました。