○×形式で脳について学習

中野信子氏(以下、中野):それでは、授業を始めたいと思います。ちょっと物々しいタイトルをつけてみましたけれども。「ヒトの認知機能と神経伝達物質」という内容でお話をさせていただきます。

もしかしたら、テレビをご覧くださっている方もいるかもしれません。しばしば出演させていただいている番組としては『ホンマでっか!? TV』や『有吉ゼミ』などがバラエティではよく知られているでしょうか。最近では、NHKスペシャルの『私たちのこれから「#不寛容社会」』などにも出演させていただいたりしました。なかなかの反響がありました。

経歴を申し上げますと、東京大学の工学部を卒業したあと、医学系研究科・脳神経医学専攻というところに進学しまして、医学博士をそこで取得しました。

そのあと、フランスの国立の研究所に行きまして、こちらでポスドクをやりまして、現在は帰ってきて、コメンテーターなどなどをしながら、大学で地味に過ごしているというような状況です。

書籍の執筆もすこしずつさせていただいております。近著では『脳内麻薬』が一番わかりやすいかと思うので、ちょっと宣伝を(笑)。これは新書なので、単行本サイズのものに比べて半額程度で手に入りますし。

さて、今日は試験の問題を、いくつか出してくれと言われましたので、最初から、テスト形式でいってみましょう。みなさん、スマートフォン持っていらっしゃいますよね。制限時間5分で、○×(まるばつ)です。やってみてください。今から問題を映します。よろしいですか?

7問あります。○×です。1~7まで番号を振って○×で答えてくださいという感じです。これ、テスト問題というよりは、なんだか飲み会の話のネタみたいな感じですね。いきなり神経細胞の話とかMRIの原理の話とかされるより、この方が印象に残るでしょう。覚えておけばいずれきっと役に立つ知識と思います。

○×の二択ですから、サッと終わってしまうと思います。制限時間を設定しましたが、長すぎるかもしれません。終わってしまった人は、この問題をやってみてください。

(一人だけ挙手した参加者を中野氏が指す)

中野:お答えをどうぞ

参加者1:日本ですか?

中野:日本です。正解です。速いですね、やっぱり。さすが上智の学生さん。こういうのをパッと思いつく人とパッと思いつかない人と、知能の高さが違いますね。

まだ時間がほしい方はどのくらいいますか? もうよろしい方は? じゃあ、もういいですかね。では、進めます。

回答を説明しながら、授業を進めていきたいと思います。

「右脳が発達していると創造性豊か」は本当か?

では、第1問。「右脳が発達していると創造性が豊かになる」。○か×か。

これ、みなさん、どうお答えになりましたかね。○とお答えになった方、どれぐらいいらっしゃる?

(会場挙手)

はい。「そんなことはないだろう」という方?

(会場挙手)

あ、けっこういらっしゃいますね。大穴で「左脳でしょう?」という方?

(会場挙手)

いないかな。この問題は、お答えは×です。

今日はログミーさんというメディアの記録の方がいらしているので、あんまりいろいろな方のおっしゃることをあからさまに否定するということが難しいですけれども、ちょっと頑張ってみましょうか。

さて、1問目の、右脳が発達していると創造性が豊かになる。これはもうほとんど迷信です。皆さんに考えてみてほしいのですけど、「創造性」ってどういう風に数値化しますか? 仮に数値化できたとして、それは本当に「創造性」というのに妥当でしょうか?

まずそこを疑わなくてはなりません。どのように計測するのか。そして、少なくとも「右脳が発達している人」と「右脳が発達していない人」を比べて、「創造性」の数値に有意な差がなければ、「右脳が発達していると創造性が豊かになる」とは言えません。

で、ここでもまた計測の問題が出てきますが、「右脳が発達している」って、どういうことを指すんでしょう? 大きさ? それとも、活性化の度合い? コネクティビティ? これもよくわかりませんね。実は「右脳が発達していると創造性が豊かになる」は、謎だらけの言説なんです。

それではなぜ、右脳が発達していると、などということを、多くの学者の方がおっしゃるのか。多くの人々が聞きたがるからです。大衆が満足して、漠然とした希望を持つことができる。たとえそれが誤りであっても。満足感が高ければ大量に消費されます。

そして、学者だけではなく、みんながそれに乗ってビジネスをするのです。経済は活性化し、雇用も増えるかもしれない。そのこと自体は悪いことではない。だけれども、科学的には誤りなのです。世の中にはそういうことがたくさんありますね。この話はよく覚えておいて、自分で判断できるようになってくださいね。

右脳と左脳の機能は違うが、有意な個人差はない

右脳人間、左脳人間というのはいないのだということを示した論文があります。2010年『PLoS ONE』という雑誌に掲載されたものです。この研究では、2年間にわたって、7歳~29歳までの被験者1,000人以上の脳の神経活動を比較検討しています。

7,000以上の区域に脳の領域を分けて、そのデータ画像から右脳・左脳の機能に個人差があるかどうかということを調べたんです。メタアナリシスというのですが、この解析の結果、右脳・左脳の機能分化に有意な個人差はないということがわかりました。

「ちょっと難しくてよくわからないな」と思われたかもしれませんね。「個人差はない」とは、一体どういうことでしょう? 右脳と左脳には、機能の違い、機能分化はあるんです。機能分化はあるんだけれども、それに個人差はない。

いったいどういうことか。私たちの身体を正面から見て半分に分けてみましょう。分けると、右側には肝臓があります。左側には心臓があります。

たしかに、左側と右側の機能は違いますね? 心臓と肝臓の機能は違いますよね。でも、心臓が発達しているからといって「この人は心臓人間です」とか言ったりするでしょうか? 変ですよね。

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