1.5次情報の台頭によって

本田哲也氏(以下、本田):時間も限られているので、主にこの2点でお話ししていきたいんですけれど、1個目は「1.5次情報の出現」。

1.5次情報とはなんだろうかと思われるかもしれないんですけれど、いわゆるメディアから出て行く情報が変わってきています。

1次情報というのはわかりやすいですよね。速報であったり、ニュースであったり。2次的な情報っていうのは、もちろん今でもあるわけですが、それをメディア側、編集側が咀嚼したり、テレビでは特集や企画にしていくというところがあって。

昔はこの「1次か、2次か」というところで語られていたわけですけど、その間をあえて「1.5」と呼ぼうと。1次情報に例えば識者とか一般の方のコメントとか解釈が入っていて、それ自体がコンテンツになっているという、このエリア。これがかなり台頭してきているんじゃないかという観点があると思うんですね。

このあたりについて、今度は山田さんから。東洋経済さんは非常に歴史があるわけですけれど、このあたりどうご覧になっていますか?

動的な1.5次情報のおもしろさ

山田俊浩氏(以下、山田):非常にわかりやすいのが、今年の1月から起こっている「文春砲」と言いますか、『週刊文春』だと思うんですね。彼らがやっていることはまさに、自分たちで掘り起こして1次情報として提供することですね。そしてそれに対して、いろんな解釈を加えたりというものが1.5次であって。

かつては多くのメディアが1次情報を取りに行くところにコストを掛けて、そのコストに見合うだけの成果を上げることで稼ぐことができたんですけれども、今はそこがすごく細くなってしまって、1次情報というものが実は少なくなっているんです。

同じものにみんなが行かなきゃいけないというぐらい、1次情報が少なくなっているんだと思うんですね。だからここに将来的にも投資が続けられなきゃいけないと思っていますけれど、やっぱり我々スタッフも席に座ることが多くなっちゃっていて、取材がおろそかになりがちというのは本当に大きな問題ですね。

だからいい意味と悪い意味があって、1.5次情報というのは、もともとの意味で行くと、テレビなどが新聞とかを見せながらみんなで井戸端会議みたいにやる、あれが1.5次的なものだと思うんです。それが、ネット上だとどんどんコメントが上書きされていく、そういったことで成長していくんですよね。そこがすごくおもしろいと思っていて。

1次情報と2次情報というのは静的なものですけど、1.5次っていうのは、今日の記事よりも明日の記事のほうが付加価値が付いている。そこがおもしろいなと思います。

東洋経済オンラインもコメント欄を入れてるんですけど、やっぱり「コメントを見に来る」「コメントを書きに来る」という方も多いので、そういったかたちで、同じ記事を同じ人が何回も見に来るということが起きているのが今かなと思います。

与えられた情報をそのまま流すようになってしまった

本田:さっきの1次情報に取り組むことが減った、人をかけられないみたいな話ですね。そこってやはりコストをかけられなくなったり、東洋経済さんに限らずですけど、人を張り付けられなくなったってこともあるんですか? メディア界を代表して答えるのは難しいと思いますが。

山田:そうですね。あとこれは非常におもしろいんですけれども、私は20年前に記者になったんですね。その頃のイメージですと、電話で話を聞こうと思ったら「なんだ、電話なんかで聞くのか。来ねぇのか」って言われました。

そういうときは必ずこちらから行くものであって、「来期は増益ですか?」って聞くのも顔を合わせながらじゃないと聞けなかったのが、今だと電話しても「電話じゃなくてメールでくれますか?」ぐらいの時代になってきたということなんですね。

ですから、なかなか相手側の顔を見ながら得られる情報、「なんか言い方がおかしいな?」というニュアンスの取り方みたいなものが変わってきて、与えられた情報をそのまま流すっていうモードにだんだん、ジャーナリストっていうのがなっちゃってきたかなと、自分自身もそういうところがあるので感じますね。

本田:ありがとうございます。

山田:コストの問題じゃないかもですね。

誰もが1次情報の発信者になれる時代に

本田:古田さんはどうですか?

古田大輔氏(以下、古田):はい。1次情報について、僕はもう1つ触れたいことがあるんですけれど、1次情報って、20年前は、新聞やテレビや雑誌の記者が取ってくるものだったんですよね。

ある事象があったら、それを新聞やテレビや雑誌の記者が取材して出す。それが1次情報になって、そこから先に展開してたんですけれど、今ってまったく変わっちゃったんですよね。

例えば、Aさんという人がある事件に絡んだら、その人が自分でFacebookとかTwitterに1次情報を出すようになっちゃった。そうすると、今までは新聞やテレビの人たちが1次情報を取る人だったんですけれど、1次情報を出すプレーヤーの数が、何千倍、何万倍になってしまった、と。

そのなかで、1次情報が山ほど出てくるわけですよね。それまではプロの人たちが出していた1次情報を、そうではない人たちがどんどん情報を出せるようになった。でも、そうなると、目の前で火事とか事件とかを見て一般の人が表現するんですけれど、それは正確性に欠けているかもしれない。

そういう時に、その情報に対してなんらかの裏打ちを取った上で、意味解釈を与えた上で1.5次情報を出さないといけないメディアの必要性が、このソーシャルメディアの時代になってものすごく大切になってきたわけです。

メディアに問われる「情報検証能力」

ここ10数年ぐらいの間に、ブロガーが存在し始め、ソーシャルメディアが隆盛となり、それで情報を解釈する、まとめるメディアが生まれてきたという流れになっていると思います。

そこにおいて、まとめるメディアの人たちの「情報検証能力」が問われる。

BuzzFeedがグローバルでやり始めた「デバンキング」という企画があるんですよね。デバンキングってどういう意味かというと、情報を検証する、ウソを見破るということ。

例えば、ある人物がTwitterで「こんなことがあったよ~」とツイートしていると。それに対して、メディアの人たちがそれをバーっと集めて「こんなツイートがありました、おもしろいですね」っていう記事を出している。それに対してBuzzFeedが、「いや、それ間違いですよ」というような記事を書く、ということをやっているんです。

1次情報の量が激増して、それを活かして自分たちで記事を書くメディアが激増した。でも、そのメディアが激増することによって、品質が担保されなくなってきた。では、BuzzFeedはそれを検証しましょうということを、今やっているんです。1.5次情報の検証というものも今、出現しているという。

本田:1.5次情報マーケットというか、そこがすごく大きくなっている感じはありますよね。

1次情報の発信はもはやメディアの役割ではない

山田:もう1個の視点で、個人の方が1次情報を発信できるようになったというのもありますけれど、企業もそうですよね。

例えば、以前であれば「地震が起きた」というのを気象庁がいくら言ったって、それを受け取って上手に伝えるのはメディアだというところがありましたけど、今は気象庁のホームページは速報でもっとも早く1次情報を出している、いわゆるニュースメディアでもあるわけですよね。

いちばん情報に近いところが1次情報を瞬時に出してくれているので、そういう意味では1次情報を出すのはメディアの役割ではなくて、そこに近い人たちが発信するようになっていますよね。ひょっとしてそれは1次じゃなくて、0.9次かもしれないんですけど。

本田:そうですね。

古田:まさに今回、僕がホワイトハウス記者団と広島にいた時に感じたのが、それです。広島でのオバマ大統領の行動をいちばん近くから放送したのはホワイトハウスなんですよね。

ホワイトハウスのWebサイトのなかで「オバマ大統領LIVE」といってバーッとやってるわけです。そこの人たちがいちばん近くにいるから、ほかのメディアがどんなに生放送しても、そっちのほうが迫力があるわけですよね。

しかも、そこに報道官として入っている人たちというのは、もともとメディアで活躍していた人たちがヘッドハンティングされホワイトハウスに入っているので、そうなってくると単に「1次情報を出しました」というだけでは勝負できない世界がもう今、出てきているんだろうなと思います。

本田:この1.5次情報の出現というのはひとつわかりやすい話ですよね。では、2次情報というもの、私もこれはなくなるわけじゃないと思ってますし、どうなんでしょうね?

相対的にしっかり作り込まれたクオリティの高い2次情報というものは、これはこれで価値が上がっている気もするんですけれど、そのあたりっていかがですか?

2次情報の価値はどこにあるのか

山田:結局のところ、これって、時間の消費の仕方をどうするかということの考え方だと思うんですよね。「ニュースを得るのは隙間時間を使ってやることだ」という考え方が浸透すると、2次情報って本当に難しくて。

やっぱり一定度、リニアに時間を取っちゃうわけですよね。30分間は見なきゃいけない。例えば、テレビの特集番組をやるといっても、それを2時間ずっと見ないといけないということがあるかもしれない。映画なんかもそうですよね。

やはり紙の雑誌も没入してほしいわけですよね。50ページの特集があると、そこに没入したり。

ただ、かつては、そういうことを好む人がいたので、成り立っていたんですけど、今はたぶんそうじゃなくて、むしろ手元に置いておくことの重要性とか。

あと、たくさんのことが書いてあること。そこさえ見れば一定度、例えば、『週刊東洋経済』で去年一番売れたのはマイナンバーの特集だったりするんですけれど。

そうすると、東洋経済が出したマイナンバーの特集を手元に置いておけば、なにか知りたいときにはそこに書いてあるだろうということで、まず買って置いておくみたいな。そういったものになっているのかな、と。

ただ、そうなっちゃうとネットのほうが本当は強いので。今は、微妙な位置に2次情報はあるのかなという気がしないでもないですね。

BuzzFeed調査報道チームが生み出す記事

本田:そうですね。古田さん、どうですか? BuzzFeed的には、2次情報というのはちょっと遠いコンテンツなんですか?

古田:そういうわけでもないです。例えば、我々、調査報道チームというのをグローバルで持ってるんですけど。今、ニューヨークとロンドンで約20人のチームがいて、彼らが去年、その20人のチームで出したのって9本です、1年間かけて。

本田:9本?

古田:9本。だから、もうまったくもってわりに合わないんですけれど。ただ、彼らが出してくる調査報道コンテンツはものすごく読み応えがある、ものすごく長い長文の記事だったりするんです。

僕が去年見たなかで「これは素晴らしいな」と思ったのは、例えばアフガニスタンでアメリカ軍が作っている学校、それが実はぜんぜん利用されてない。廃墟みたいな。オープンの時だけ、「アメリカ軍はこんなにいいことをしました」って賑々しいイベントするんですけど、実はぜんぜん使われてないとか。

また、これもすごくよかったなと思うのが、自分の子供をドメスティック・バイオレンスで殺された女性たちの記事。

アメリカのいくつかの州においては、ドメスティック・バイオレンスで、自分の子供を殺され、彼女自身もドメスティック・バイオレンスの被害者なのに、保護者として自分の子供を守れなかったということで、その人自身も、牢屋に入れられているケースがあると。

というのを調査報道でいろんな事例を炙りだして、「これはおかしくないか?」と指摘することによって、釈放される人が出てきた。そういうすごく力の入った特集企画もやっています。

ただ、やはりそれをやろうと思ったら、ものすごく時間とお金のかかる綿密な調査が必要になってきます。なかなか2次情報の特集企画だけで、それをもってメディアとして成り立たせるのは難しいだろうなと考えています。

本田:なるほどですね。今日は企業の方も多いと思うんですけれど、1次情報バブルみたいな話は、例えば企業のプレスリリースとかもそういう一部ですから、非常にコンペティティブになるということと。

あと、2次情報、これはいわゆる企業のオウンドメディアとか、今コンテンツマーケティングと呼ばれているところって、実はここに入ってくることもあると思うんですよ。メディアだけの話じゃないし。

1.5次情報のマネージメントというのは、これはやっぱり大きなテーマなのかなと思いつつ、次のトピックにいきましょう。