赤ちゃんはなぜかわいい?

ハンク・グリーン氏:誰だって赤ちゃんはかわいいと思いますよね。人間の赤ちゃんだけでなく、犬でも猫でもカバでもイルカでも、赤ちゃんはみんなかわいいです。まあ、なかにはあんまりかわいくないのもいるかもしれませんが。

でも大抵の場合、見るとかわいくてたまらないという気持ちになります。その気持ちはどこから来るのでしょう。科学者としては探ってみたくなります。

まず、赤ちゃんのどこがかわいいかを考えてみましょう。

目は大きくて、ふっくらとした丸い顔の真んなかにあります。手足もふっくらとして、短く、不器用そうな感じです。言葉で表すとあまりかわいさが伝わってこないかもしれません。でも、赤ちゃんはもともとかわいくなるために進化してきたわけではなく、我々大人の方が赤ちゃんをかわいいと感じるように進化してきたのです。

私が今言った赤ちゃんの特徴を実際に目で見ると、我々は本能的にかわいくてたまらないという気持ちになるのです。それは、進化論的に考えれば、赤ちゃんこそが我々の存在の根源なのです。

赤ちゃんには、次の世代を生き抜く遺伝子がつまっているのです。その大切な赤ちゃんを何年もかけて守り抜くためには、守り抜こうという意欲を起こさせるものが必要で、それが赤ちゃんの「かわいさ」なのです。

人間の赤ちゃんを育てるには大変長い時間がかかります。「かわいさ」があるからこそ、長い時間をかけて育てることができるのです。

人間の子供はワニの子供とは違います。10匹以上いっぺんに産んで、孵化と同時に勝手に生きていきなさいというわけにはいきません。

人間の子供には、教えることがたくさんあります。そのなかには、かなり難しいこともたくさんあります。社会での振る舞い方とか、言葉とか、いろんな遊びの仕方まで教えないといけません。人間の子供はどうして発育に時間がかかるのかということについては別の機会で取り上げたいと思いますが、とにかく、ここで言いたいのは、人間の子供は本当に手間暇かけて育てないといけないということです。

一生懸命育てて、いろんなことを覚えさせ、精神的なことまで身につけさせても、思春期になると、変な相手ができて家を飛び出してしまうこともありますが……。

ポイントは社会性の高さ

「かわいさ」について、もう一言付け加えておきますと、子供が大きくなるにつれて「かわいさ」は薄れていきます。ですから、「かわいさ」の薄れは、巣立ちの近さを示していると言えるのです。

これは納得がいくと思いますが、自分の子ではない、他人の赤ちゃんもかわいいと思うのはなぜでしょう。

それは、人間のように社会性の高い動物にとっては、仲間のみんなが赤ちゃんをかわいいと思ってくれると、とても助かることがあるからです。

自分の赤ちゃんをかわいいと思ってくれるのであれば、安心して仲間に預け、自分は食べ物を探しに出かけることができます。かわいいのでよく世話してくれ、危害を加えるようなことは心配しなくていいのです。

また、大抵の哺乳動物の赤ちゃんも人間の赤ちゃんと同じように、大きな目、大きな頭、小さな体をしているので、動物の赤ちゃんを見て、「あー、かわいい!」と思うのです。人間だけがそう思うのでなく、ほかの動物もそう思うのです。

ココというゴリラは何年もの間、子猫を数匹自分の子供のように抱き寄せてかわいがっていました。

さらに、人間以外の動物が、ペットを飼うようなことはまずありえませんが、2年ほど前、シカゴのブルックフィールド動物園で、3歳の男の子が誤って、ゴリラのいる柵内に転落してしまった時、1匹のメスのゴリラが、救急隊が来るまで、ほかの7匹のゴリラからその子を守ったこともあります。転落したのが大人であれば、そうはいかなかったでしょう。

そういうわけで、赤ちゃんの「かわいさ」がどこから来たかは、進化の過程を理解すれば納得できるのです。

ただし、私がどうしてこんなにかわいいかは、科学では説明がつかないと思います。