周りに流されない就活をするために

南場智子氏(以下、南場):今日は来てくれて本当にありがとう。今回が初めての企画ですが、私はこういったセッションがやりたくてしょうがなかったので。参加してくれたみんなに応えて、いい会にしたいと思います。

今日の会の目的は何か。私は、自分が就活したときのことを思い出すと、ものすごく情けないくらい周りに流されていました。

当時、有名になりかけていたマッキンゼーという会社に新卒で入ったんだけれども、それは大前研一さんが本を書いていて、絶好調のときでした。

「カッコいい~」みたいな感じで受けに行ったら、すごくたくさんの人が受けていて、クリティカル・シンキング・テストというテストをやりました。それでものすごい勢いで絞りこまれていくという。

「けっこう倍率高いな」「じゃあ、勝たなきゃ!」と。アホじゃん。「じゃあ、勝たなきゃ」という感じの……なんていうんだろう? そういう病気みたいな。周りの価値観で生きてる感じでした。

入社するまでは「コンサルティングって何?」って調子で、まったく内容がわからなかったんだよね。聞かれても答えられなかったし、あまり関心がないというか。私ほどクルクルパーの人はここにはいないと思います。

日本では独立した価値観の醸成が難しい

子供って親に認められるのがすごくうれしいんだよね。それは古今東西みんな一緒です。親や大人にほめられたりするのがすごくうれしい。

そこからしっかりとした自我を作っていくために教育があります。教育というのは「周りからの承認」に加えて、自分でしっかりと判断できる力や「価値観」を醸成するためにあるんですね。

ところが、残念ながら日本の教育は、「答えは1つ」という枠の中で間違えない達人を作り……なぜか知らないけれども、自分が可能な範囲で一番上の大学に行くと。そういう枠に入れられています。実は自分で選べないんです。

アメリカの教育はそうじゃないのかというと、一部にはエリーティズムというものがあります。私もアメリカに3年しか住んでいないのでわからないんだけど、ただ、一番優秀な子がみんなハーバードやスタンフォードに行くかというとそういうわけでもありません。

例えばウッドロウ・ウィルソン大学とか、ダートマス大学とか、小さくてもむちゃくちゃ輝く大学がいくつもあります。その中でいろいろな大学を訪問して、先輩と話して、ここで何ができるのかなって考えて、入りたい大学を決めるわけです。

そのときの入試も「1つの正解をどれだけ言い当てるか」ということじゃなくて、「自分がどんな人物になりたいのか」「そのために高校時代どんなことをやっていたのか」ということをすごく問われます。

一方で、「やっぱりアイビーリーグだよね」という親は、その大学に入る履歴書に書くために、子供にボランティア活動をやらせたりしているので、アメリカの教育制度が完全に素晴らしいとも思いません。

でも、社会に「独立した価値観を醸成することがいいことだよね」という認識はありますね。一方で、独立した価値観を醸成している振りをする人もいるという。それだけの話です。

“安定した会社”という幻想との訣別

日本の場合は、「やっぱり頭が良いとか、成績が良いということがいいよね」という社会の通念がとても強い。そのために、間違えないで答えを見出すという訓練をしてきた人も多いはずです。

それがある程度就活に持ち込まれます。薄れているとはいえ、日本の会社にはまだまだランキングがある。あるいは進路の選択にもランキングがある。そういうところが根強く残ってるんだよね。今はその過渡期で、急速に変わろうとしてるんだけども。

私は、その周囲の価値観で職業選択をしてしまうと、みんなとんでもないことになると思っているんです。まさに今が過渡期です。

今の世の中の人たちが「この会社は素晴らしい。こんな会社に入れたら素晴らしいよね」と言っている会社が、君たちの将来の幸せをまったく保証しない。そういう時代になっています。

それはわかるでしょう。シャープがどうなりましたか? 東芝がどうなってますかということを考えてください。日本の誇りのエレクトロニクス産業はガタガタですよね。

じゃあ、どこがいいの? 考えてみてください。トヨタは盤石ですか? 本当に10年後、自動車産業においてGoogleに勝っているだろうか。いろいろ考えてみてよ。まったくなんの保証もない。

今日ここに来てるみんなはあんまり「安定」を希望していないと思うけれども、でも万が一、盤石な会社で安定した将来を築きたいと思っていたとしたら、その価値観で選んだ会社は一番不安定です。

「どんなことがやりたいのか」というのがはっきり決まってないとしても、これだけガランガランと洗濯機みたいに変わっていく世の中において、何が自分の将来を幸せにしてくれるのでしょうか?

価値観が一人ひとりバラバラなので、答えは1つじゃないんだよね。今の起業ブームというのも危ないと思っています。「スタートアップで働くということがクールだよね」という価値観も実はみんなに当てはまる答えじゃない。

とにかく、ブームや人の価値観、みんなが「いいよね」と言っていることに乗っかるのはこの瞬間からやめてほしい。

あとから振り返って「あのセッションに行ってよかったな」「あれから少し自分で考えられるようになったな」と言ってくれたら、すごくうれしいです。そういうきっかけが提供できたらなというのがこの会の趣旨です。

就活自体を「初めて独力で大きな意思決定をする」といういうプロセスにしてほしい。そのためには、汗をかいて情報収集してほしいです。

自分だけの正解を選んできた講師陣

今日はすごく便利ですよ。だって自分で行かなくても、こんなにすごい人たちが来てくれちゃいます。今日私が協力をお願いしたパネリストの皆さんは、もちろんDeNAと親しい人たちです。こんなにクソ忙しいのに、土曜日に来てくれるなんて、親しくないと来ないよ。

DeNAに縁のある人は頑張って来てくれるから、そういう人に頼んだんだけど、バックグラウンドはそれぞれ多様な人にお願いしました。

例えば、DeNA卒業後に起業した塩田元規。

それから、ベンチャーキャピタルやエンジェルとしてスタートアップに投資してる人も呼んだ。彼らからは、「スタートアップってどういうことなのかな?」ということも知れるし、「ベンチャーキャピタルってどういうキャリアなのかな?」ということも知れると思う。

それから、学生起業家も呼びました。宇佐美くん。私、この人と1回しか会っていません。彼と一緒に慶應大学でパネルディスカッションしたんだよね。「ちょっとこういう会やるから来て」って言ったら二つ返事ですぐに引き受けてくれました。

それから、イケてる大企業。まあ大企業と言っても、「イケてる永久ベンチャー」をうたってるかなり大きな規模の会社。まあ、私のなかでイケてる会社はDeNAですね(笑)。あとは、ドワンゴの川上さんが大好きなんだよね。

それから、ちょっと大きくなってる会社の中で、社内起業してる人も呼びました。

意思決定するときのビジュアライズ

私はよく“ビジュアライズ”と言うんだけど、みんなが意思決定をするときに「この道を選んだら、こんな毎日になるんだな」ということを絵にできるぐらい、映像で想像できるぐらいに何回もイメージを思い浮かべて、「ここでまず自分のキャリアの第1歩を踏み出そう」とビジュアライズできるまで情報収集をしてほしい。

そして今日は、別に就活生に限定していません。1年生も、2年生も、3年生も、4年生も来てます。それは、この年代のみんなにはなるべく早くから職業について考えてほしいと思っているからです。

何年生でも……本当は高校生でも始めてほしい。もちろん大学院生も。その職業の毎日をビジュアライズできるよう、納得するまで情報収集をして、自分にとってのアンサーを見つけてほしいんだよね。それは自分の親友のアンサーとはぜんぜん違うはずです。今日がそのきっかけになれば。

アカツキ塩田氏の新入社員時代

今朝はその第1弾は、アカツキ代表取締役CEO塩田元規です。塩田は我が社に新卒で入りました。今振り返って「新卒で誰ができた?」と言われたときに、真っ先に頭に思い浮かぶぐらいできるやつでした。覚悟が違った。

だから、DeNAでぜひ幹部になってほしかった。頑張って頑張って仕事をして、十分に貢献して、あるとき「辞める。起業する」と正直に言ってくれました。「自分は起業したいんだ」と。そこまでの仕事ぶりが素晴らしかったので、やっぱり心から応援できた。それで送り出しました。

私はまだアドバイザーでも、インベスターでもなくて、事業家というアイデンティティーなので、多くの人から「出資してください」と言われても投資しないんだけど。

でも、将来投資する立場になったときに、私に「投資してくれ」と言ってきたときに、投資するかどうかをどうやって決めるかというと、やっぱりものすごく提案書が立派な人でもなくて、ものすごく面接で納得感があったやつ・優秀だったやつでもなくて、一緒に汗を流して仕事ぶりを見て、すごかったやつだと思うんだよね。

だから、「塩田みたいなやつには投資したいなあ」と思っていましたが、なんかもう必要ないくらいビュービューいってんだよね。

その塩田からちょっと本音を聞こうかなと思ってます。今日はいろんな立場の人を呼んでるんだけど、「とにかく気にしないで本音を言ってくれ」とお願いしています。

だからいい話を聞けるんじゃないかなと思う。じゃあまず、その塩田からお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)