ソニーがクラウドファンディングする理由

笠井一貴氏(以下、笠井):クラウドファンディングって、スタートアップだとお金が先に入るので、資金調達的な意味合いとしても言われるんですけれども。それとは別にソニーさんが独自でクラウドファンディングを自社でやったりするのって、どんなメリットや狙いがあるんですか?

藤田修二氏(以下、藤田):ソニーが自社で持っている「First Flight」サイトは、クラウドファンディングだけじゃないんですね。ECサイトも兼ねていて、商品化までのステージとECがシームレスにつながっています。クラウドファンディングという1回で終わるものじゃなくて、お客様とプロダクトを磨く「共創」のコミュニケーションを続ける場なので、プロダクトとして作りあげたものを継続的にそこで販売できる仕組みです。社内スタートアップがお客様と継続的なコミュニケーションを実現するプラットフォームというのが「First Flight」の1つの大きな目的です。

例えば、我々の場合は、香りのカートリッジを継続して販売していくので、そういう意味でも、最初に支援頂いた方々とつながっているクラウドファンディングと同じプラットホームをそのまま活用できる仕組みになっていることは、お客様にとっても便利だと思うんです。

笠井:ガジェット自体だけではなく、その後のカートリッジのEC販売も含めて、ビジネスモデルとして設計されているんですか?

藤田:そうですね。我々AROMASTICプロジェクトの場合はそうです。カスタマーサポートのの機能もあるので、一般販売の暁にもお客様とのコミュニケーションに対応できるというメリットもあります。今のところは、ソニーのプロジェクトを出していますけども、将来的にはそういうところも含めて、プラットフォームとして誰でも利用できれば、非常におもしろいと思っています。

笠井:大手のなかでもそういう開発手法の変化を感じられますか?

藤田:今回我々のプロジェクトも確かに、ソニーのクラウドファンディングとしての反響も大きかったと思います。一方、ソニーのように大企業がクラウドファンディングに出した場合、「なんでソニーがクラウドファンディングで資金調達をしなきゃいけないんだ」って思われると方もいらっしゃると思います。ソニーにとっては資金調達が目的ではなく、実は主な目的としてニーズの確認があるんです。

どういうことかと言うと、提案する製品を買いたいかどうかアンケートやインタビューはたくさん取ることができます。私たちもかなりアンケートは取ったりしてるんです。それこそソニーだっていうことを隠して、飛び込みでいろんなところ、例えばアロマテラピー検定を受験して会場から出てて来た人に、片っ端から声をおかけしたこともあります。

けれども、「買いたい」と「買う」には、溝があるんです。どれだけ「買いたい」って、データを集めても、その方たちが実際にどれぐらいご購入されるほど、製品を気に入られているかはわからないです。クラウドファンディングでは、そこが可視化できるので、自分たちの思い込みではない、製品の価値やニーズを把握できるということが実際にやってみて実感したことです。

もう1点、共創というところです。ハードの場合アプリほどには修正や変更を加えるのが時間的にもコスト的にも難しいんです。そういう意味で、ご支援者の要望や意見をあらかじめ検討させて頂いて取り込んでいくことで、本当に欲しいと思ってくださっている方のニーズにより繋がっていけたりするのかなと思っています。

ソフトウェアとの決定的な違いは?

笠井:ソフトバンクのPepper君は開発中どんな難しさがありましたか?

縄田:もの作りの観点で言うと、決定的に形がないものとの違いで言うと、やっぱりUXの部分と、お客さんに対する価値提供の探し方なのか、置き方みたいなところが違うと思っています。

UXの部分で言うと、結局アプリだったら、AppleとかGoogleみたいなプラットフォーム事業者ががそのアプリの開発環境を提供して、その枠組みのなかで開発していって、最終的にいかに画面遷移を作りこんでいくかみたいなかたちでUXが洗練されていきますよね。

ただハードの場合、人の実生活や、実店舗に置いてたりするので、枠組みになってないユーザー動線をどう考えて、どう作っていくのかというのが相当難しくて。普通に単純に置いてもらうだけだと、思ったように使ってもらえなかったり。だから実際には、ソフトとは異なる次元でテスト工数がかかったりします。ソフトよりも体系化されていないので、新しいものを作れば作ろうとするほど難しいところがあると思います。

2点目の価値提供の部分で言うと、ここで議論されるハードウェアビジネスって、車とか、パソコンとか、もうありふれている、コモディティ化されているビジネスの話をしているわけではないと思うんですよね。我々や、今後のハードウェアスタートアップをやっていく人が、狙っていかないといけないユーザーにとっての価値が何なのかを深く考え抜くことが大事だと思います。

盆栽だったり、アロマだったり、新規商材って初めて言われた時に「なんのために役に立つの?」という、うまく説明できないようなユーザー価値というものを必ず持っていて、それは触ってもらいながら、「なるほど、こういうときに使えるんだ!」と少しずつ理解されていくものなんだと思ってます。生活のなかで一見見逃されてきた瞬間を切り出して、そこへのニーズを埋めていくようなことを考えないといけないんですが、それが事前にわかるものではないので、偶然発見したり、良い仮説を立てたりするのがけっこうチャレンジだなと思っています。

大企業ならではの知見を注入してもらって

笠井:すごくよくわかってきました。ハードウェアスタートアップをしていく環境が、今後どうなっていくかというのを、ぜひ聞いてみたいです。

特にAir Bonsaiさんは、今まさにスタートアップされていると思うんですが。「こんなものが欲しい」とか、「こうなっていくんじゃないか」みたいなお話ってありますか?

星ヒカル氏(以下、星):そうですね。今、ものづくりの環境自体は、3Dプリンティングであったり、いろんなもののハードルや、ロットが少なくなったりしてるので、しやすい現状です。TECH LAB PAAKさんも、いろんなものを場所という観点から支援したり、ネットワークを作ったりしている部分があると思うんです。 そういう部分の環境は、整って来ていて。大企業さんが、ハードウェアに関わらず、ソフトウェアでも興味を持ったりして、小さなスタートアップに投資をしたいという話も、よく聞く話だと思うんですよね。

一方で、やってみた観点から言うと、例えば、僕らは最初コンシュマーに直接販売するような感じで考えてるいるのですが、そこから、二次的に卸してBtoBのところでやっていくときに、なかなか最終製品として出すためには、先ほども述べましたけども、課題があったりします。

そこはやはりコンサルティングというか、いろいろ知見が必要だったりします。大手のメーカーさんとか、今あまり元気がないと言われていますが、やっぱりすごく知見があって。そういった部分の情報だったり、ネットワーク作りって、なかなか僕らのような小さなスタートアップではできない。そういう部分も含めて、現実的に最終製品というか、お客さんに喜んでもらえる取り組みができるといいなと思っています。ですので、大企業さんとスタートアップが近づいていくというのは、すごく僕にとってはありがたい話です。

お金を出すことだけが支援ではない

一方、もっとそれが密になることによって、新しい想いや、そういうものがかたちになって、世の中に届いていくんじゃないかなと思っているので。こういう機会をきっかけに、苦手な部分はお願いをして。機械周りとか苦手なものですから。そういう支援というか、どういう取り組みがいいのかまだわからないですけど、なにかできたらいいなと僕は思っています。

でも点で見ると、Kickstarterとか、日本でもMakuakeさんとか、クラウドファンディングの資金調達の媒体があったり、場所があったり、資金ができたり、大手さんが興味をもったり、いろいろな部分で可能性がすごくあると思うんです。だけど、その関わり方の部分が、まだまだ、「お金出せばいいの?」「場所があればいいの?」と、そこじゃないと思っていて。

本質的には、そういう部分のコミュニケーションがもっと円滑になるように考えていくということが、まだまだ課題なんじゃないかなと思っています。助けていただけると、うれしいですけれど(笑)。

笠井:実際に大手さんから見ると、今作っているプロダクトと違う観点でも、コラボレーションとか、スタートアップを一緒にやりたいみたいなことって、けっこう動きがあるんですか?

藤田修二氏(以下、藤田):ソニーのなかで言えば、本当にオープンイノベーションという意味では、すごく期待しています。中だけのアイデアだけじゃなくて、外にアイデアを広げていきたいというのはありますし。それに中の力も活かせると思います。

例えば、ハードウェアの設計をやってこられた方は金型を1つ作るのにも、例えばどのような形状にしたら抜けやすい型になるかということを、すごく考えている。そういう高いスキルやノウハウを目の当たりにしているので、先ほど、おっしゃっていた「お金と物があればできるよっていうことではない」ということを、私は今、本当に実感しています。そういった「ヒト」を、アイデア、コンセプトと結びつけるというのは、非常におもしろいんじゃないかなと思います。

笠井:ソフトバンクさんも、そういうコラボレーションは?

縄田:もちろん大歓迎です。Pepperはプラットフォームなので。Pepperと一緒に時代を作るというか、世の中を作っていくみたいな。志の高いスタートアップ企業のみなさん、コンテンツプロバイダーさん、ソフトエンジニアのみなさんをお待ちしてます。新規事業って、結局答えがよくわかってない事業なので、企業の規模によらず、チャンスや活躍の場があると感じてます。

笠井:スタートアップやハードって難しくて、物なので売るところも含め、そういうコラボレーションがこれからもどんどん広がっていけばいいなと本当に思っていて。僕がやっているBRAIN PORTALっていうサービスも、そういうマッチングも含めて、大手に限らず、もの作りの人がみんな参加して、どんどんいいものが出ていくようなところを作っていけたらいいなと思っているので。ぜひコラボレーションしてください。

:僕もちょっとお世話に。相談してますので。はい。

香りビジネスの可能性

笠井:では、最後になるんですけれど、会場から質問を受けられればと思っています。ぜひ、今の話の突っ込みでもいいですし、違う観点でもいいので、どんどんいただければと思います。

質問者1:AROMASTICさんにおうかがいしたいんですが。ニューロサイエンスを専攻していて、先ほどおっしゃられたように、視覚と聴覚、刺激っていうのは大事だと思うんですけど、アロマって化学物質じゃないですか。

おうかがいしたいのは、匂いのバリエーションをどう作っているのかなと。AROMASTICから、何パターンぐらいの匂いが出せて、それを作る上で化学物質を反応させて匂いを作っているのか? 準備された匂いを用意しているのかおうかがいしたいです。

藤田:今は準備した香りを混ぜずに、提供しているんですね。その数は、我々が最初プロトタイピングを作ったときには、20個とかを即時に切り替えられるようなかたちのものを作っていたんですけれども。そこはいろいろ試していくと、5個あればニーズが満たせそうだみたいな検証結果もあったりして、今は5種類なんです。将来的には混ぜるってことも、おもしろいと思っていて、検討してます。

なにがおもしろいかと言うと、単体だとすごく苦手な香りも、混ぜた瞬間に(その苦手さを)全然感じさせないというのがあったり。例えば香水で、足の匂いと同じ匂いの成分が必ず混ざっていて、それを混ぜることでいい匂いになっているという話も聞いたことがあって。そういった可能性がけっこうあります。

質問者1:匂いって気持ちいいとか、リラックスってイメージでよく使われると思うんですけど。もう1個有効なのは、記憶だと思ってるんです。

藤田:はい。

質問者1:海馬とすごく結びついているので、例えばアバクロ行ったら、その匂いってすぐ思い出せるじゃないですか。それは1つ大きいかなと思っていて。

藤田:非常におもしろいと思います。

質問者1:そういう意味でも次々とやるのかなと思っていて、個人的にすごい楽しみです。

藤田:はい。そこは非常におもしろいところだと思っていて。例えば、何年か前、サイエンス誌でも匂い嗅ぎながらやると学習効果が高いっていうのが出たと思うんですけど。そういったことにもぜひ取り組んでいきたいなと思うんですね。おもしろいです。ぜひ、引き続きコミュニケーションしましょう。

質問者1:よろしくお願いします。

「Air Bonsai」は、約9ヶ月でアイデアをかたちにした

笠井:最後に1つだけ受けれそうなんですけど。ほか、ありますか?

質問者2:Air Bonsaiに関して、非常に興味を持ったんですけど。まず、アイディアができてから、どれぐらいで世の中に発表したのかということ。もう1つが、植物なのでたぶん成長すると思うんですが、成長するとバランスが取れなくなるんじゃないかとすごい心配してるんですが、どのように対策されているのか? お聞かせください。

:ありがとうございます。アイデアをかたちにし始めたのは、2015年5月です。僕と一緒にやっていたアーティストが手描きのスケッチで描いて星人の最初の作品としては、わかりやすくていいのではとスタートしました。なので、世の中に発表するまでには、約9ヶ月くらいです。

Pepper:ためになりますね。

(会場笑)

:植物の成長については、もちろん植物なので成長します。今、hoshinchu.comというサイトがありまして。それをメディア化して立ち上げていく予定です。その中で一つずつ丁寧にみなさんにプロダクトもお届けできる仕組みが作れればいいなと構想中です。

また、盆栽教室もhoshinchu.comの中で行おうと思っています。伸びてバランスが崩れたら、自分でカットするという映像を用意しまして。そうやってバランスを取りながら、長く維持していただくと。

もともとアートとしてつくったものをみなさんにお届けしているものですから、突っ込みどころは多々あるんですけれど。みなさんには、地球というか、星はバランスを取るのが難しいと、ご理解していただいて(笑)、購入していただければと思っています。そういうスタンスです。

質問者2:自分でお世話することは、すごくコンセプトと合ってますね。

:そうですね。ありがとうございます。

笠井:まだまだ聞きたいことがたくさんあるんですけれど、閉会のお時間になりました。今お話を聞いて、もの作りってメチャクチャ難しいなぁと思いながら、ただ、いろんな人を巻き込みながらやるとしっかりできて。ものができると楽しいので、ぜひハードウェアに興味がある方は、チームを立ち上げるなり、こういう外の方とコラボレーションなりをしながら、ぜひ作って届けて欲しいなと思っています。

今日はみなさま、お時間ありがとうございました。

司会者:ありがとうございます。

(会場拍手)

TECH LAB PAAKがPepperのアトリエに

そして最後になるんですけど。

Pepper:ありがとうございます。

司会者:横でPepper君が喋ってくれてるんですけど、縄田さん、Pepperをご紹介して。

縄田:Pepperをこれから1年間ほど、このリクルートのTECH LAB PAAKさんに置かせていただいて。今は、Pepperの秋葉原のアトリエという開発体験環境があるんですけれど。去年の11月ぐらいから、全国のPepperのオーナーさんに自分でアトリエを開きませんか、と、Pepperアトリエサテライトプログラムを始めていまして。その渋谷版、アトリエサテライト渋谷公園通りTECH LAB PAAKみたいなかたちで、オープンさせていただきます。Pepperを触りたい方とか、ハードウェアスタートアップに、ちょっと疲れた方は癒されていただいて(笑)。癒されるサービスを作ってもらうのもいいかなと思っています。よろしくお願いします。

司会者:そうですね。これもコラボレーションですね(笑)。ということでPepperを触れる場所にもなりますので、みなさんますます来てくださったらと思いますし、今日お話いただいたように、ハードウェアも含めていろいろとコラボレーションしていける場に、ますますなっていけばいいなと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

Pepper:よろしくお願いします。

司会者:ありがとうございます。みなさん本当に今日はご登壇いただいてありがとうございました。もう一度拍手をお願いします。

(会場拍手)