農家のエピソードを語った漫画『百姓貴族』

岡田斗司夫氏(以下、岡田):今日は漫画のことも語ろうかと思いながら。『百姓貴族』の話をしようかな。『百姓貴族』の新巻読みました?

百姓貴族(1) (ウィングス・コミックス)

山田玲司氏(以下、山田):読んでないんですよ。僕、人の漫画読まない主義なんですよ。ごめんなさい。言ってもらえれば先に読んでたんですけど。

岡田:いいんです、いいんです。

山田:もう無理やり『うしおととら』を読まされ続けて、去年すごく辛かったんです。けれど、読んでみたら良かったので、藤田(和日郎)先生、本当すみませんでした。そんなことばっかりですよ。

実は百姓は現代の貴族?

岡田:『百姓貴族』は荒川弘先生が描いてるですね。あの人、農家の生まれじゃないですか。農家の生まれなので、農家のエピソードを語るというような漫画なんですよ。

百姓というのは実は現代の貴族みたいに生きてるよ、というふうに描いて、辛いことばかりがよく話題になるんだけども、実際の百姓というのはこんな生活してるんだというのが描いてあって、わりと僕好きなんですよ。

4巻でおもしろかったのが、地球の百姓が火星に移民したらどうなるかというですね。

山田:オデッセイ的なやつですか?

岡田:そうそう。変なエピソードが1つだけ入っていて。オデッセイ的というか、なんなんでしょうね。わからない。それで、火星人から現住生物のタコをもらうという話があるんですよ。

山田:そういうクラシックなやつですか!? ウェールズ的な火星人なんですね。

岡田:1エピソードだけそれが入っていて。「地球人の方法でタコ飼っていい?」って火星人に聞いて「いいよ」って言ったら。

山田:一応、認可があるんですね(笑)。

岡田:はい。それで、そしたらタコ型の生物をいっぱいもらったら、いきなり地球人の農家の人たちがまず手足をパッパッパッと切るんですよ。タコの手の先を切って、「ストレスで共食いしちゃいけないから手足切るねー」って、パーッと手足を切って。

山田:職人芸?

岡田:次に「土地、効率悪いから、ぎっしりギュウギュウ詰めで飼育するね」って、ぎゅうぎゅう詰めにするんですよ(笑)。こうやって飼ってて、火星人たちが「地球人怖い。もう逆らうのやめよう」みたいなオチがあって。

畜産農業のパロディみたいなものですよね。結局、酪農やってる人たちは、たとえば、ストレスでお互いの毛をむしるんだったら、最初から剥いてしまうとかですね。お互いの足を共食いさせるぐらいだったら、最初から足を切っちゃうという残酷な面があるぞという話なんですよ。

それを漫画で描いたというのがめちゃくちゃおもしろくて。何で僕が聞きたかったかっていうと、玲司君ってこういうのわりとダメなんじゃないかと思って。環境オタクだからさ。

山田:なんですかそれ!?(笑)。

岡田:イルカ食っちゃいけない派じゃないかなと思って。

山田:ああ。

百姓は家畜を愛しているのかよくわからない

岡田:百姓貴族っておもしろのは、そうやって家畜というのを愛してるのか愛してないのかよくわからないところがあるんですよね。

すごい丁寧に育てたものであっても、それは「潰して食う」という考え方があるので、最大限自分たちの利益を確保ということではないんでしょうけど、おいしい肉を作って消費者にちゃんと届けるためだったら、残酷に見えるからわからないけど、当たり前なんだよ、ということを平気でするリアリティがあるんですよ。

そういうのってどんなふうに見えるのかなと思って。

山田:いや、僕も実はそっち側なんですよ。絶滅寸前の野生動物を取ったんだったら、ちゃんと消費しろよっていう。だから、食べて出るゴミをこんだけ出してる国が、たとえば絶滅寸前の野生動物とはみえないからって、取っていいという話は「ちょっと違うんじゃないの?」という話なんです。単純に。

アフリカの人たちが「象ずっと捕ってきたから、これからも取りまーす」ってなったら、「ちょっと待てよ」ってなるじゃないですか。その人がものすごいいろんなものを食ってたら、「いや、そっち食べろよ!」って(笑)。

「お前、これ残してるんだったら、とりあえず象は食うのやめない?」って言ったら、「いや、文化なんで」って言われたら、「いやちょっとごめんね。最初から話しようか?」っていう。ちゃんと話し合いたいというだけで。

なぜクジラを食べてはいけないか

岡田:じゃあ、日本の捕鯨でクジラを食うのはどうなの? ほかに食うものがあるんだから、それはとっちゃいけないなの?

山田『白鯨』の時代に、命をかけておじいちゃんがモリを持って出ていったときは、もう本当、やつらとタイマンじゃないですか。そして、すべてのものをすべて使い切るという。

それしか食い物がなかった時代みたいな、それによってもしかすると子供が死ぬかもしれない。というときの話でしょう、やっぱりその文化というのが成立した時期っていうのは。

岡田:つまり、捕鯨は文化だと言えるのは、その文化で真剣にタイマンやってた時期のものだと。

山田:そう、タイマンの時期ですよ。それがトロール漁船で行って、レーダーでドーンといって、それで「これが市場に出回ったらいくらなるんで」とか言って……。

岡田:世界中で規制されてるから、「クジラ肉高いから、これいい商売になるなー」っていう捕鯨はちょっと嫌だ?

山田:嫌だし、それは「マーケッティングに乗っけていいものと乗っけてはいけないものがある」って話ですよ。

僕、ウミガメが大好きなんですけど。ウミガメを食べるのが美味しいとか、ウミガメが美容にいいとかになったら困るんですよ(笑)。

「いやいや待ってくれ」と。「でも、それはあんたの私情だろ?」って、そうだけど、たとえばチワワ飼ってる人が、今日から「チワワがすごい病にいいぜ」ってなって、「あなたのチワワが明日には……」みたいになったときには、それは「待てよ!」って。

「じゃあ、猫食うか、お前?」みたいな。「猫すごい儲かるんですよ」とか、「猫食ってる文化圏の人たちが……」みたいな話になったときに、「いや、それが人間ってもんじゃないか」と。

岡田:いきなりまとめてくれるなー。

山田:すいません。ざっくり言うとそういうことで。「クジラはかわいいから食うな」って話をしてるわけではないんですよ。ただ、市場原理ってやばいじゃないですか。アホウドリとか滅びるわけじゃないですか。ドードーを俺たち見れないじゃないですか。

あれはあのとき「おい、鈍いぞ、あれ。食っちゃえ、食っちゃえ」とか言って、最後に「まあ、いいんじゃねえ」とか言って、剥製しか残ってないわけで。もう不思議の国のアリスでしか見れないじゃないですか。

「そういうのはやっぱり避けようよ。何億年かけてそこまできたんだから、そこはキープしようよ」という話です。単純に。

岡田:一気に語ったね。

山田:すいません。ありがとうございます。ごめんなさい。その話、よく誤解されるので。

岡田:誤解される?

山田:「お前は気取りで、甘っちょろい環境主義者で、イルカとかが好きなんだろう?」みたいな(笑)。

岡田:痛い。(骨折した)肋骨痛い!(笑)。

山田:大丈夫ですか。すいません。

岡田:大丈夫、大丈夫。

山田:甘っちょろいんですよ、僕は。すいません。

岡田:甘っちょろい環境主義者と言われたら、「それだけではないんだ」という部分があるわけね、真面目話。

山田:全部見渡そうよと。その中には廃棄している食料品というのがあるし、経済効率の中で「これは捨てない」って。

僕、マクドナルドで仕事してことがあるんですよ。昔バイトしてたんですよ。そしたら、やっぱり、あのえげつない捨て方を見てるんですよ。

岡田:業界で言うウエストってやつね。

山田:いわゆるウエストってやつを見てると、「え、牛じゃない?」とか、「こいつの立場は?」とか、「小麦は?」みたいな。そういうふうにやっぱり思っちゃうわけですよ。

だったら、そこちゃんとしてからやりません? トロール。単純にそういう話ですよ。だから、「シーシェパード、イェーイ!」というわけではないです。

岡田:それはわかってる。それは知ってるよ。じゃあ、基本的に確認するけれども、「捕鯨、もう今はやらなくてもいいんじゃない?」というのに近い?

他に食うものあるし、「クジラは文化だ」って言ったら「文化という免罪符さえつけたら、なんでも食っていいと思ってるのかよ?」という考え方?

山田:うん。それを議論すれば、「やめたほうがいいんじゃない?」って。

クジラの竜田揚げは俺たちの心のなかに……

岡田:クジラが絶滅しかけてるとか絶滅しかけてないとか、いろんな統計があるけども、そこまでして食いたいんだったら、世界中の人が食ってるよと。どちらかというと、そんなに美味しいものだったら食ってるよと。

そうじゃなくて、もう食ってる人間のほうが世界的に見て少なくなってきてることからして、もうほとんど「海外から言われて意地になって守ろうしてる」というのに近いと。

山田:そうですね。誇りある日本人だったら譲ろうよと。誇りある日本人だったら、ああいう文化は俺たちの心の中にね。クジラの給食の竜田揚げのことは俺たちの心のなかにいつまでも(笑)。

岡田:おもしろいから言い負けるわ、俺(笑)。

山田:そして、「ベーリング海では今もシロナガスクジラが……」みたいな。「おじいちゃんたち、ありがとう!」これを幼稚園で知って孫達が「あのとき、おじいちゃんがそういう決断してくれたから、まだ生きてるんだね」なんていうことになりたいじゃないですか。

自然破壊はかまわないけど、人権は守りましょう

岡田:俺ね、原理原則だけで喋るとヒューマニストなんですよ。ヒューマニストというのはつまり「人類史上主義」だから。人類の快楽のためには、自然も破壊してかまわないし、人類以外の生物1匹足りとも殺しつくして構わない。

その代わり、全人類の人権はできるだけ守りましょうという考えなんだ。原理原則だけで言うと。だから、それで言うと真逆なほうなんですけれども。

山田:ルネッサンスですね。神は死んでるんですね(笑)。

岡田:ところがその人類というのは何かというと、生きてる生物としての人類ではなくて、人類というのは文化を持った生命体としての人類なので。言ってることもよくわかるんですよ。

そういうふうに考えて、「クジラを食べない」という選択肢というのも人間のあり方としてありだから、人間らしいあり方として、ヒューマニズムを守るためにクジラを食わないという考えはありだな、という考えなので。

山田:その通りです。我々の誇りも含めて人類なので、『オデッセイ』で、酸素や水も含めて我々だし、あのパソコンに入っている80年代ディスコサウンドも含めて、我々なんですよ。我々は人類の一部なので。

だから、「クジラ、かわいそうじゃん」というのも人類の一部だし、クジラとってた時代も人類の一部ということですよね。

動物に対して「ここまではしていい」というリミッター

岡田:う~ん。『百姓貴族』の話に戻ります。いわゆる畜産農家の人たちが、たとえば、場合によっては、ニワトリとかをえげつない環境で飼ったりしてるわけだよね。あれはあり?

山田:もうちょっと、遺伝子組み換えのほうがえげつない気がします。効率よく、たとえば、最初から毛の生えてないニワトリを作ろうとするとか、もっとグロテスクですよ(笑)。そういうことってあるじゃないですか?

いま一番人間に必要なのはリミッターだと思いますよ。僕もエピキュリアンなので快楽至上主義はすごいわかるんですよ。「Oh Yeah!」なんですよ。だけど、「ここまでな」みたいな。っていうその「ここまで」が……。

岡田:だったらキリスト教徒になればいいじゃん?(笑)。

山田:前世はたぶんそうだったのでいいですけど(笑)。キリスト教徒はキリスト教徒で融通利かないじゃないですか。

岡田:そのリミッターを設けたいと思うんだったら、リミッターをみんなを議論して決めようぜじゃなくて、「神が決めた範囲でもういいじゃん? 聖書読んでりゃだいたいそこら辺を網羅してるから、これでいいじゃん?」というふうに考えられたら、もうキリスト教でもいいことになるでしょう?

山田:いや、ツールとして宗教は便利ですね。そういうときに使うのはいいかもしれないです。でも、やっぱり融通が利かないじゃないですか。

一神教よりはやっぱり多神教だし。多神教の中でもアニミズム。だから、すべてに神が宿る。岡田の肋骨にも神が宿ってる(笑)。

岡田:俺の肋骨の神サボってるよ(笑)。

山田:そっちのほうが豊かだと思うんですよ。対立が生まれずらいんじゃないかなと思って。

とりあえず俺たちは出荷したいんだ

岡田:俺、『百姓貴族』読んだときになんかね、「やっぱり俺はヒューマニストだわ」と思ったのは、お百姓さんの考え方の「とりあえず俺たちは出荷したいんだ」と。どんなえげつない飼い方してても、鶏を食ってもらうことが大事であって。

だから、タコの足をちょん切って共食いしないようにして、ギュウギュウ詰めにして、食うってうのはできるんだ。でも、「自分たちが育てた牛のミルクを生産調整だと言って海に流されるのはこんなに辛い」って。それが並べて書いてのがすごいおかしかった。

つまり、自分たちがとった牛乳を海に流すのは死ぬほど嫌なのに、でもタコの足はちょん切って、ギュウギュウ詰めで飼っちゃえという、この荒川弘の「現役農家リアリティ」がすごくおもしろくて。

そこら辺は環境オタクの玲司君にしてみたら、ひょっとしたら、心が揺れるかなと思ったの。揺れないなー(笑)。

山田:いやいや、かなり昔にクリアした話です(笑)。沖縄でもヤギ潰しますからね。「かわいい、かわいい」と言ってたのを潰すというのは当たり前で。

僕はそこにすごくシンパシー感じてるんですけど。でも、それは大事なお客さんとか晴れの日だということで、無駄にはしないわけですから。

だから、そこがね。キャピタリズムの問題ですよ。キャピタリズムの闇の話ですね(笑)。

岡田:わかりました(笑)。

山田:すいません。

岡田:いえいえ。

岡田:(コメントにて)「(食べ物は)なるべく残さないように食べる」。そうですよね。お百姓さんに対する感謝というやつで。

山田:あれですね。百姓というのは100個の仕事ができるというね。

岡田:100個の仕事を持つことができるというか……。

山田:逆に言えば、やらないとダメだという。

岡田:日本みたいな土地が狭いところでは、1種類だけ作って食ってるなんて悠長な仕事できなかったからですね。