恋愛という概念はもともと日本にはない

――若者の「草食化」が社会問題として扱われるなど、「恋愛をすることはよいことだ」という上の世代からの圧力がまだまだ強いと感じているのですが、北条さんはどうお考えでしょうか?

北条かや氏(以下、北条):恋愛はすべてよいことだっていうのも、意識的に作られた価値観がするわけで。昔、江戸時代にも恋愛に似た感情はあったわけですけども、やっぱり「ラブ」って翻訳された概念だし。

“色”とか“情”とかいうのは江戸時代にもあったけど、今、私たちが思ってる自由恋愛みたいな少女漫画みたいな、ああいうのはやっぱり歴史的に作られたもの。それになじめない人は一定数いるのは当然だろうと思うんですよね。

でも、バブル世代の人とかって恋愛して、レジャーして、「男にチヤホヤされないと女としてダメ」みたいなのがあるじゃないですか。そういうのが、また結婚圧力ともつながってくるんですけど。「愛されないとダメだよ」みたいな。

「愛され」って言葉が苦手で。女性誌もそうですけど、最初は「モテ」だったんですけど、それが「愛され」になっていって。「愛される」って結婚と近い言葉だと思うんですよね。「1人の男性に愛されて幸せをゲットする」みたいな。

その価値観を100パーセント信じて疑わない自己啓発本コーナーがすごい違和感でしたね。でも、そういう所に置いてくださってるんですよね、この本(笑)。

アンチテーゼで書いた本なのに、皮肉な光景だなと思って(笑)。

――異色ですよね、前例を覆すというか。

北条:そう言っていただけると、うれしいですよね。

――表紙のイラストの女性もちょっと憂鬱な雰囲気でいいですね。

本当は結婚したくないのだ症候群

北条:それはまさに石井さんチョイス。

石井氏(以下、石井):鳥飼茜先生の『おんなのいえ』っていう漫画から絵をお借りしました。29歳の主人公がお見合いして、好きになれるかわからないけど、結婚を前提に付き合うことに決めて……って話(注:単行本第4巻に収録)での扉絵なんですけど、けだるい感じがすごく出てるんですよ。

『本当は結婚したくないのだ症候群』で分析している独身女性の心境とまさに一致してる気がして、「ぜひこの絵を借りたいです」とお願いしました。

北条:この目線がいいなと私も思って。アンニュイな感じが出て。これは本当にもう編集マジックですよ。私は表紙にまったく関与していなくて。

この絵は私もいいなって。若い女性の漫画家で、線の細い女性を描くのが上手な方って多いなと思ってるんですけど。『おんなのいえ』の鳥飼茜さんなんかも、そういう感じで、お上手……上手ってプロの方には失礼ですけど。

かといって、ペラペラかしましい感じじゃないんですよ。独身女性ってキラキラしてるイメージがある一方で、実は本音のところはしゃべらなかったりとかね。既婚者にはあんまり本音をしゃべらなかったりするので。そのあたりをデータとか含めて「本当の本当はどうなの?」というか。

最初のブレストで印象的だったのは、結婚しなくても東京に住んでいると、これからはどんどん独身者が増えていくので、独身のほうがむしろマジョリティになっているから、「結婚しなくてもたぶん大丈夫な社会になると思う」みたいなことを自分が口走ったこと。

そういうひらめきがあったんですよ。それに石井さんが反応してくださった。「たしかに!」みたいな感じでおっしゃって。

石井:絶対マイノリティだと思ってたから、目からウロコでした。

北条:ぜんぜん、違うんですよね!

「独身でも大丈夫だよ」と言い切るのが怖かった

石井:編集者が構成案を作ることもあるし、著者が作ることもあるんですけど、今回は北条さんが作ってくださって。それがすごくまとまってて。構成案ができたら上司に「こういう感じでいきます」って見せるんですけど、「この時点ですごいおもしろい」って。

女性の上司なんですけど、そう言ってくれて。「あとは書き進めながら細かいことを詰めていきましょう」ってなって。

北条さんから原稿が上がってくるたびに「ここがおもしろい」とか「ここをもうちょっと知りたい」とかっていうのをやりとりして、どんどん原稿がブラッシュアップされて。特に5章が私も個人的に好きで。

北条:結論に向かっていく5章ですね。ありがとうございます。

石井:最初に企画の段階で「こういうこと知りたかった」とか「こういうこと言ってほしかった」とか思っていたのを、ちゃんと書いてくださってる感じがうれしいと思って。

北条:私もWordでワーッと書いてお送りして、フィードバックをいただくって感じだったんですけど。章立ても大きくは最初と変わってないんです。ただ、なんでしょう? 編集者であり、30代の独身女性である石井さんが読んで「もっとここが知りたい」とかって、本当に当事者目線じゃないですか。

「ここを掘り下げると、もっとおもしろくなるんじゃないか?」っていうところは、例えば独身女性の自虐芸とのところとかも、自分が書いたものを「ここをこういうふうに掘り下げて欲しい」って言われると、もっとそこでもう一段深く考えざるをえなくなる。

自分だと考えずにワーッと書いちゃうんです。思いのたけを書いちゃうんですけど、編集の方がすごいなって思うのは、それを深めてくださるところ。編集者の方は作家にお願いするじゃないですか。

それ、自分はできないって思うんですよね。表現があれなんですけど、言われて、こっちは嫌々考え方を見直しはじめる。章によっては、当初あんまりボリュームが出なかった部分もあって。「独身女性の自虐芸」のところも、思考を深める自信がないから最初はもうちょっと少なかったんです。

ですけど、「もうちょっとこのあたりをボリューミーにしてください」って石井さんから言われると「あ、やっぱりここは考えざるをえない」って自分で思ったりして。

つい、歴史のところなんかは得意だと自認してるんで、すべるっていうかバーッて書けるんですけど、筆が進まないなって部分は石井さんに指摘いただいて、もう1回、2回と書き直すところはありました。

シンデレラ・コンプレックスのところとかもそうです。個人的にはフェミニズムで言われ尽くされてることだから、あんまり書かなくてもって思ってたんですけど。

「もうちょっと説明をしていってください」ってリクエストがあると、「ああ、なるほど。自分もまだ理解が浅かったな」となると。その結果、石井さんが「この箇所は好き」とか「いいですね」って言ってくれると、うれしいんですよね。

個人的には5章は自信がないといえばないんですよね、まだ。やっぱりまだまだ独身女性への圧力は強いので。「独身でも大丈夫だよ」って言い切っちゃうのは怖かった。

あんまり自己主張しないタイプの文章を書いてきたので、それをあえて5章で自己主張っぽいことをしてるんです。

――読者のほうに委ねるしかないですよね。「自分のスタンスはこうだよ」っていうのを言って、あとはお任せするしかない。

北条:ほんと、そうなんですよね。やっぱり社会の目と、石井さんに言われて「ああ、なるほど」と思ったのが、そういう社会の目と自分の目=主観が一致しないというか。一致してたりしなかったりするから、女性たちは悩むんじゃないかって。

けっこう、最後のほうになっても「ああ、これでいいや」って思いがなくて。そういう人もいるかもしれないんですけど、「全部いいですよ」ってなるんじゃなくて「こういう見方もできるんじゃないか」って。

そうするとそのぶん、またページのボリュームが増えるんですよね。自分も新しく気付かされたり。ここはもっと掘り下げるべきだったと、気付いたりとか。偉そうなことを言ってるなって思ってます、今(笑)。

石井:今回の企画はやっぱり当事者目線ってのが大事だなって思いますね。なんかもうアラサーとかっていう年代になると、結婚するか自虐するかしかないみたいな風潮だから。

北条:そうそう。開き直って「もう、結婚できません!」って言うか、それとも安定を求めて婚活に走るかっていう。

石井:それがくやしいって思っちゃって。自虐することが処世術とか言われたりするじゃないですか? それもどうなのかなって思って。

「恋愛したくない人」はマイノリティじゃなくなる

北条:独身女性といっても、個人差とかすごく大きいなと。インタビューで、結婚について話してくれる女性って、属性はバラバラでも何か共通項があって、けっこうみなさん同じことをおっしゃるかなって実は思ってたんですけど、本当に発言内容はバラバラだった。

だから、これだけ多様なのに東京で働く独身女性というだけで十把一絡げ(じっぱひとからげ)にするみたいな気持ちになりました。

「みんな恋愛したがってるはずだ」とか「みんな結婚したがってるはずだ」とか。「みんな男をATMみたいに思ってる」とか(笑)。みんなこうだっていう表現がすごく多いので、そうじゃない自分は、石井さんがさっきおっしゃってたようにマイノリティだと思ってたんですよ。

恋愛したくないとか、あんまり恋愛ガツガツしたくないみたいな人とか、マイノリティだと思わされている。でも、それはマイノリティじゃないって石井さんに会ってわかった。

これからはマイノリティじゃなくなっていくって直感があって、それをしゃべったことに石井さんが「なるほど」っておっしゃってくださったので、自信が出たというか。直感を補強するときに石井さんとのブレストが大事だったんですよね。

上の世代の人としゃべってると「それはマイノリティだ」ってなることが多いですよ。結婚願望がないとか、恋愛願望がない、とか。男目線でのおしゃれを純粋に受け入れられないとか。そうなると上の世代からは「変わってるね」とか言われますよね。

それがちょっと「はあ?」って感じがあって。その怒りもベースになっていて、怒りを実際に補強しようと思ったら補強する材料がすごいたくさんあってですね、歴史とか。それを章ごとに補強していったんですよね。

「女の幸せ」を若者に押し付け続ける上の世代

石井:私、ジャニーズが好きなんです。ジャニーズ好きな女性って、また別の偏見みたいなのを持たれがちで。「イケメンがいいんでしょ?」とか「ジャニーズばっか追いかけてるから、結婚も恋愛もできないんだ」とか「そんな見返りのない人を好きになっても意味がない」って言われたり。

なんか「違うんだけどな」って思うんですけど。年上の友達とかちょっと上の世代の人と話してると、「最近コイバナないの?」とか「誰か紹介してあげたい」とか言われることが多くて。そこで「今は好きな子を応援することがとにかく楽しいからいい」みたいなことを返すと、「わかるけど、石井ちゃんには女の幸せっていうものを知ってほしい」とか言われるんですよ。

北条:女の幸せ(笑)。言ってくる人って、男性? 女性?

石井:女性です。女性の方が多いです、むしろ。こっちの価値観をいったん認めたうえでの全否定(笑)。

北条:男の人って意外とそこまでは言わないんですよね。「変わってるね」とか言われることはあるけど、女の人だと親身になってくれるぶん、より的外れっぷりもでかいというか。親身になって、変なところ掘り下げられる。

――善意なんでしょうね。うちも母親から「女の幸せ」について言われます。男の人って少年っぽさというか、自由でいたいという気持ちがベースにあるから、なんだかんだでうちの父は「自由にしていいよ、もう」「後悔のない人生を歩みなさい」みたいなことを言ってくれて。

北条:ああ、まったく同じ事を言われました、私も父親に。「女の幸せ」って漠然としたものを、押し付けてくるその無邪気さっていうのがすごいなと。なんなんだろうなって。式や花嫁衣装に対する憧れとかも……。

――美輪明宏さんも「結婚式は仮装大会」とおっしゃっていました。

北条:美輪明宏さんもけっこう、結婚制度には批判的というか、アイロニカルな物言いをされますね。私としてもこれを出した後に、あるサイトの交流会があって行ったんですよね。そこで、「正社員と結婚制度はなくすべきだ」って話題になって。本当に私もそう思うんですよね。

1つの制度に入らないと社会保障から切り離されるようなことが、納得いかない。社会保障のことでまわりから揶揄される、からかいが許される風潮もある。結婚を目指して邁進してないと「変な人」って見られるのはおかしいな、という思いはずっとベースにありますよね。

――本当におかしいです。アラサーという、この手垢の付き過ぎたイメージと強迫観念……。なんでここまで「こうしなさい」って言われるのか。人それぞれなんですけどね、結局どの世代でも。

北条:そうなんですよね。決めつけ、というか決めつけたタイトルになってるんですけど、「本当は多様だよ」ってことが伝わるといいなと思ってるんですよね。

――本当にシンプルなことなんですよね。「多様なんだよ」ということがもっと伝わってほしいです。

『Qさま!!』収録の裏話

――今日はテレビや書籍とは違う北条さんの一面が見れて、よかったです。

北条:ありがとうございます。(2016年)2月22日に『Qさま!!』出るので(取材は2月初旬に実施)、もしよかったら。クイズに出たんですけど。たまたまスペシャルなのか、1時間の番組なんですけど。

東大系出身と京大系出身みたいな。京大枠の文化人が少ないらしいんですよ。だから院卒なのに、お呼びがかかった。東大の方が母数も多いし、芸能人では菊川怜さんとか。東大卒アイドルとか、現役東大生とか、いるんですよ。京大はあんまりいないんですよね。

――京大の方って、あんまりエンターテイメントというか表舞台には出ないイメージがあります。

北条:サブカルにいくのかもしれないです。

――ミスコンやると反発が出るとか、そういう文化じゃないですか。

北条:ミスコンは毎回出るんですけど、つぶされるっていうか。潰されても毎年出るらしい、っていうのがすごいですよね(笑)。

――つぶすって普通しないじゃないですか(笑)。自由な校風ですね。あの言論の戦い方も。私は美大出身なんですけど、美大以上におもしろい何かを感じます。

北条:美大マインドと通じるものがありますね。そういうところがあるので正当なタレントってあんまりいないらしくて。本当、マネージャーさんから連絡が来て、すぐ決まったんですよ。それで一昨日、収録で。

なんか、「プレッシャーSTUDY」っていって、間違えたらその場で脱落みたいな。最初で間違えたら、そのあと収録にほぼ参加できない。照明が赤くなって、退場させられるんですよ。それは絶対いやだと思って。ありがたいことに、それはならなかったんですけど。

――意外とガチですね。

北条:ガチです。打ち合わせもなかったんですよ。事前に一応、学力をはかる小テストみたいなのがWordで送られてきて。それを答えただけ。収録では、その問題とまったく関係ない問題が出るんですよ。ほんと、その場でガチンコでやってるので。

22日の放送では、京大チームの代表は宇治原(史規)さんなんですが、彼が1問も正解できなかったという。あれがどういうふうに編集されるのかなって。彼みたいな秀才な方でも、そういう瞬間があることにおどろきました。本当に、出演者の方々も皆おどろかれていました。もしよかったら、見てください。

――見てみます。それでは、もうお時間が来てしまいましたね。あっという間ですね。

北条:そうですね。今日は楽しかったです。カフェがおもしろすぎてテンション上がりました。

――よかったです。ぜひプライベートでもいらしてください。本日はありがとうございました。

北条・石井:ありがとうございました。

本当は結婚したくないのだ症候群