東芝級の不祥事が出てくるのは間違いない

白水美樹氏(以下、白水):そして、「今年、注目しているトレンドについて何かあったら、教えてください」というご質問をいただきましたが、藤野さん、もし、何かご注目なさっていることがありましたら、教えていただけませんでしょうか。

藤野英人氏(以下、藤野):はい。広いトレンドでいうと、今年ということじゃないんですけども、一昨年から言われている「コーポレート・ガバナンス改革」。これが実は最も重要な年になるかなぁと思っています。とくに今年の6月の株主総会に向けて、これがまたテーマになってくるだろうと思います。これは大きな本質的な話になります。

あと、もう1つは、不祥事ですね。また、東芝級の不祥事が出てくるのは間違いないと思います。私は東芝の不祥事が出てからわりと早い段階で、東芝についての記事を日経ビジネスオンラインで書いたんです。「これは粉飾事件ですよ、経営に問題があるよね、こういう状態の会社を放置してたらまずいね」という話を書いたんですよ。

そしたら、すごく驚いたんですね。なにに驚いたかというと、その後、私あてにFacebookメッセージだったりメールがたくさん来たんです。その内容に僕はびっくりしたんですね。「僕は○○電気で働いています。僕は会計の部署にいます。同じことをしています」。

(会場笑)

藤野:「これ、全部ぶちまけたいです。どうしたらいいですか?」というのが、15社来たんです。でかい会社です。大なり小なりそういうことをやっているという話じゃなく、「うちのほうがもっとひどい」と書いてある。

(会場笑)

藤野:私、これ見て、聞いちゃったら全部投資できなくなっちゃうから(笑)。これはやばいですよということで、ちょっとコンプライアンスの人と相談をして、その内容については、それぞれSECや日経ビジネスの方に連絡してくださいと言いました。

でも、それは想像に難くないですよね。例えば、東京電力はすごく結果的にずさんな経営をしていたということだったわけですけれども。

また、東芝についても、前社長の木で鼻をくくったような記者会見。反省をするというよりも自己弁護に徹していて、一体何を守っているのかと。僕は少し会社を守ろうとしていたのかなぁと思っていたんですけど、「あぁ、自己保身だったんだな」と、記者会見を見てすごくがっかりした思いがあります。

山一證券の社長は涙の会見で「社員は悪くない」というのがありましたけど、(東芝は)社員も守ってなかったですね。

だから、私自身すごく思うのは、日本の問題は何かっていうと、日本の経営者がたぶん「クソ」ってそのまま書くのもあれなんですが、挑戦していないんですね。とくに大きな会社が。というのが私の思っていること。だから、そういう会社が変わるということが、とっても大事なことなんです。

上の人たちは自己保身に走っている

藤野:私は、日本に関しては、ぜひインデックス投資で上げていただいて、アクティブにお金を回してもらいたいんですよ。なぜかというと、そういうダメな会社にも投資するのが、インデックス投資なんですよね。日本の時価総額上位のうち、いくつかの会社は挑戦していない会社です。

(会場笑)

藤野:いや、本当に。現場の人たちは真面目だし一生懸命だし、血反吐を吐いて仕事してます。でも、根本的にその上の人たちが、本来、お客様の方を向くべきことが社内事情に向いていて、もしくは自己保身に走っているという現状がよくないと思っているので。

だから、コーポレート・ガバナンスに切り込むというのは、日本の中でいちばん大事なことなんです。これが変わればアメリカ並みに成長すると思います。

あとはですね。例えば、今大きなテーマになってますけど、ビットコイン。ビットコインと名がつくだけで買ったらストップ高というような状態になっていますし。

テーマとしては、もう今年はビットコインだなと思っていたんですけれども、ビットコインのことついてはかなり手垢がついてしまったので、これからビットコインを追いかけてもしょうがない。ただ、ロングタームのトレンドなので、ビットコインというのは聞きますけれども。

でも、ビットコインとか民泊とかも、もう瞬間的に全部手がついちゃった感じがあるので、大きなテーマという面で見ると、そこだけのテーマが食いつくされちゃった場合、その中で見れば深くて大きくて、かつ今後日本でじくじく勝負していくべきなのは、やっぱり、伊藤レポートを中心としたところで書かれてあるコーポレート・ガバナンスの改革というところが大事なところではないかなというように思います。

白水:ありがとうございます。川元さんはいかがでしょう? どんなところにご注目なさっていらっしゃいますか?

小さい会社を育てることが、経済の活力になる

川元由嬉子氏(以下、川元):そうですね。さっき、仲木さんの話にもあったんですけれども、小さい会社ですよね。今、「大きい会社は全部ダメ」とおっしゃっていましたけれども、私は日本は政治も社会も含めて、小さい会社を育てようという気運に欠けていると思うんですね。これがやっぱりアメリカとの大きな違いだと思うんです。

昔、アメリカで働いていたときに上司に言われて、これは裏をとってないので確かなことは知らないんですけど、アメリカの州の年金の何割かは、必ず小さい運用会社に運用させるという決まりでやっている州がけっこうあるということなんですね。

小さい会社を育てなくちゃいけない。これが経済の活力だということを、アメリカは社会としてとっても理解している。だけど、日本は、潰れればいいのにっていう会社を助けることに、多大なエネルギーを費やしますよね。単に潰したいっていうことではもちろんないんですけれども、そこにかけているエネルギーは、かなりムダではないかと思うんですね。

今、いろんな社会問題があります。例えば、労働市場改革をしなくちゃいけない。女性が働くためにはああしなきゃいけない、こうしなきゃいけないっていろんなことを言われますけれども、私は小さい会社、新しい会社を増やすということを、政策の目標にすればいいと思うんですね。

私もありがとう投信という小さい会社で、きわめてフレキシブルなスタイルで働いておりますけれども、小さい会社は豊富に人を雇えないから、なんとか働いている人材を多く活かそうという、インセンティブが働くわけですよね。そうしますと、自然と合理的で成長に資する労働システムを選び取っていくはずなんですね。成長しながら。

ですから、成長する、新しい企業をもっとプロモートする、支援することが大事だと思うんです。

例えば、最近、日本は非常に労働生産性が低いということを言われていますね。私も大手の投信会社の方とお名刺交換しますと、「この人、何の仕事しているのかな?」という名刺をいっぱいいただくんですね。

でも、ありがとう投信に来てみてくださいよ。本当に小さい会社で、少人数でもう八面六臂といいますか、もう何でもやりますよね。そういう会社ばっかりになったら、自動的に労働生産性は上がるじゃないですか。でも、まだまだ小さい会社には厳しい社会だと思います。

マイナンバーだとかNISAだとかいろんなシステムが入ってくると、小さい会社は投資負担が大変です。全部大きい会社ベースで価格設定されてますからね。大きい会社は平気でしょうけれども、小さい会社は大変なんですよ。税金だって、軽減税率だとかが入ってくると、小さい小売店は大変ですよね。

だから、日本は小さい企業をもっと大事にする、もっと育てていくという、そういうトレンドが必要だということに気づいてほしいなぁと。そのように常日頃から思ったりしています。

白水:ありがとうございます。それはもう個人の投資家さんもそうですけども、私たちのような機関投資家も含めて、小さな企業に注目して育てていく土壌を築かなければいかなければいけないなぁと考えています。

多くの方々が受け入れられるという社会に

白水:仲木さんはいかがでしょうか? 何かトレンドやご注目なさっている点はございますか?

仲木威雄氏(以下、仲木):ちゃう角度からいきますね。私のトレンド、藤野英人ですね。藤野さんのトレンドの見方はおもしろいんですね。アートですね。私は筋肉ですから、これはめちゃめちゃ参考になるんです。

アートのところを持った方々の発言なり。いますごく便利でSNSができて、自分の今の筋肉バカの考えで、現場の小さい会社の経営者と話していて、「あっ、これは一緒のことを思っているな」「あっ、これいけるな」と。

(藤野さんが)「ヤンキーの虎」の話(注:日経ビジネス2014年12月29日号に掲載された、藤野英人氏の「地方消滅なんてうそ『ヤンキーの虎』が経済支える」のこと)を書かれたときに、私ももろリアルにそれは感じていましたので。

私は文章にはできないです。ただ、藤野さんの発信を見ていると「あっ、このトレンドおもしろいな」と思ったり、自分と思考の違う方々を追いかけるというのはひとつありかなと。

そのおもしろい人の中に、村口(和孝)さんっていうベンチャーキャピタリストがいます。DeNAをあそこまで大きくしたのは村口さんじゃないかと思うぐらい。たぶん、村口さんだと思います。村口さんのネット関係ビジネスに関して、今度は金融のフィンテックのブロックチェーンですね。

あの人の目のつけどころには、いつも驚かされるというか、びっくりするというか。村口さんにとっては当たり前のことなんですが。

ベンチャーキャピタリストの視点を自分の中に入れるというのは、トレンドをつかむ意味でいいんじゃないかなと思います。自分と違う視点を持っているアート。実際、村口さんご自身がアートと思っているかわかりませんけど。アートと私、そしてVCとして、どんどん世の中をこれから変えていく、ゼロから作っていく方々の視点で見ていくべきじゃないかなと思います。

あと、いま私が考えているのは、LGBT、性的マイノリティの方々の問題ですね。日本では8パーセント。この方々が彼ららしい生き方をできる社会にこれから変わっていくのであれば、これはとてもおもしろいなぁと。

「Human Understanding」と言いましたけど、互いの多様性を理解できる、理解する、拒否せずに受け止める、頑なにならない。やはり日本はまだ堅いですから、そのへんがふっと変わる瞬間には、また別のトレンドが出てくるんじゃないかなと。

今、川元さんがおっしゃった中小企業が活躍できる素地も、そこと同じぐらいにできてくるんじゃないかなと思ったりはしています。ぜんぜん根拠はないんですけど。

LGBTだけに注目したいという意味ではなくて、多くの方々が受け入れられるという社会、そっちにどんどん向かって行ければ、よりみんながありのままに、自由に、自分らしく生きていける社会になるので、この1年ではないですけれども、そこに今後数年注目していきたいなぁと思っております。

不安にならないためには信頼が大事

白水:ありがとうございました。あっという間にもう1時間55分が経過いたしまして、あと5分となってしまいました。最後にお三方に一言ずつ、ごあいさつをいただきたいと思います。

ここにいらっしゃってくださっている長期投資の仲間のみなさま、長期投資といっても毎日コツコツ続けていく中で、とても不安になったり、「本当にこれでいいんだろうか」というような、いろんなお気持ちになるかと思います。

そういった方々に向けて、今後の心構えですとか、そういったことも踏まえて、お一言ずつお願いできませんでしょうか。川元さんからお願いいたします。

川元:今日の私の最初のお話は「不安にならないためのお話」ということで申し上げました。そこをもう一度繰り返し申し上げておきますと、不安にならないためには信頼が大事、自分の持っている株式の価値を信じ、マーケットを信じ、そして、世界の経済が成長していくということを信じて、ゆったりとリスクを取りましょうということを申し上げました。

信じることですね。価値があると信じること。これが大事だと思います。マーケットはきっとあなたに報いてくれるでしょう。今日はお越しいただいてどうもありがとうございました。

(会場拍手)

相場の神様に愛されますように

白水:ありがとうございます。では、続いて藤野さんお願いします。

藤野:私が入社したて、新人の頃、競合他社なんですけど、フィデリティ投信という会社のベテランの女性ファンドマネージャーがわりと気に入ってくれて、よくごはんをごちそうしてくれて、いろんなことを教えてくれたんです。

そのときはなんで教えてくれたのかってすごく不思議だなと思ったんですけども、彼女的に言うと「投資」だったんですね。若い人たちに自分の考えを伝えていきたいということで。それが自分のすごく身になっているんですけれども。

彼女が言っていた中ですごく覚えているのは、いつも会社に出社して、コンピュータの画面をつけて立ち上がるときに、神棚があるわけでもなんでもないんだけども、「柏手」をしているんですよ。パンパンって。外資系の女の人ですよ。アメリカ出身のね。

その人が「相場の神様に愛されますように」って、いつもお祈りをするという話なんですけど。そのときは「この人は変なお姉様だな」と思ったんですけど(笑)。でも、今から考えてみると、相場の神様に愛されますよというか、最終的には運ってすごく大切で。

彼女はむしろ人一倍努力する人で、努力して努力して努力するんだけれども、最後は身を委ねるというか、川元さんの(言われていた)信頼というのもあるかもしれないけれども、「まぁ、あとはなんとかなるさ」みたいなところがすごい大事じゃないかなと思うんですね。「健全な楽観」というか。同じようなことを仲木さんもお話ししていたと思うんですけど。

そういう、どこか神頼みじゃないんだけれども、「相場の神様に愛されますように」ぐらいのところで、毎日毎日なんとなくお祈りをするぐらいのところでいいのかなぁというふうに、最近はすごく思っています。

2016年、今年1年、みなさんも相場の神様に愛されるようにお祈りしたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

白水:ありがとうございました。それでは仲木さんお願いいたします。

仲木:はい。大企業の経営者が云々かんぬんみたいな話もありました。信越化学の金川(千尋)さんの言葉が好きで、「余人をもって代え難い経営をする(のが買収対応の鉄則)」。「余人をもって代え難い」。たぶん、あれを言えるのは、すごく経験しないと言えない言葉だと思うんですが、そういう経営者もいると思います。一方でそうじゃない経営者もいる。だから、それは日本経済の変わり目だなと思います。

私は2011年に、スポーツジム&整骨院に設立しました。いろいろきっかけがあったんですが、信頼して任せた代表者を解任せざるを得なくなり、自分が代表取締役をやるようになりました。ただし、もちろん運用会社メインでやってますが。

そこですごく感じたことは、トレーナーやスタッフ、めちゃめちゃレベルが高い。めちゃめちゃ勉強している。アスリートのために自分の労力を使って。なんですけど、給料が上がらないんですよ。いや、少し上げたんですよ。ただ、ベースが低いですね。

私が申し上げたいのは、やっぱり物価が安いことについて、もう少し、みなさん、逆に危機感を持ったほうがいいんじゃないかと思ったりします。世界から見ても、日本はあまりにも安くて安定を追いすぎます。ということは、それに甘えてしまっている可能性もあると思うんですね。物価というものに改めて向き合うべきなんじゃないかなと思います、みなさまがもっと豊かになるために。

多くの方々が、みなさんの目の前の仕事を本気でやれるような環境を作るのが、われわれ運用会社であり、直販投信の会社だと思っていますので、みなさんともに一緒に歩ませていただければと思っております。本日はどうもありがとうございました。

(会場拍手)

白水:ありがとうございました。それではそろそろこのへんで終了のお時間となりました。みなさまが投資の神様に愛されますように。

そして、意志と覚悟、行動を持って、居心地のよい投資を続けていただけるように、私どもも日々全力でご協力してまいります。今年度もどうぞよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。

(会場拍手)