海外で新規事業を創るときのハンデ

琴坂将広氏(以下、琴坂):そもそも事業創出に、国内・国外の違いはあるのでしょうか? 求められるスキルとか経験みたいなものに……もちろん言語とかいろいろあると思うんですけど、それ以外の根源的な要素に何か違いはあるのでしょうか。

青柳直樹氏(以下、青柳):私はアメリカしか経験していないんですが、究極的にはないです。ただ、環境が違うということは認識しなきゃいけないなと。やっぱり業種問わず多くのスタートアップで「人」、特に創業メンバーを集めるとか、資本政策とか(の点で異なってくる)。

ある種当たり前なんですが、「何の事業をやるか」というのと「人」という部分が重要だと。それぞれの分野で優秀でコミットメントの高いマネジメントチームを集めるというときに、「大学も日本で出ていて友達もいて……」みたいな、みなさんの持っている見えない価値をつないで、会社にしていくというプロセスが日本ではあります。

(国外では)それが「かなりない」。周りの人たちは「かなりある」という場所において……中国とか韓国とか全部そうだと思うんですけど、異なるコミュニティでそれをやっているので、そういうベーシックな部分を揃えていく。

自分が学べるメンターみたいな人も、日本だと頭を下げていろんな経営者に会いに行けば教えてくれる方はたくさんいます。だけど、アメリカでは「お前と話して何か意味あんの?」みたいな感じから始まりますので(笑)。

そういった意味でのディスアドバンテージを背負ったハンデ戦だというのがありますが、1個1個の成功の関わる要素というのはあんまり変わらないと思います。

琴坂:井上さん、どうぞ。

中国のスマホゲーム市場における戦略

井上高志氏(以下、井上):逆にちょっとお聞きしたいんですけど、今はスマートフォンとかICTがグローバルでプラットフォーム化してきたので、すごく素敵なプロダクト・サービスを作ると、世界中にバーッと出て行けるみたいな感覚があるじゃないですか。

でも、僕自身がやってる中では、結構ローカルごとにそれなりに味付けしていかないと(いけない)。まずマネージメントの仕方も違うし、「なぜ働くのか」という価値観も違ったりするし、所得水準も違ったりする。そういうところでプラットフォーム上に1個乗せてバーッと広がるものなのか。

例えばゲームの世界でも「一つひとつチューニングがあるんですよ」なのか、そのへんを逆にお聞きしたいんですけど。僕はやっぱり、エリアごとにやり方をちょっと変えていく、アジャストしていかないと難しいなというのが今までの経験であるんですけど。

宮﨑聡氏(以下、宮﨑):ゲームは青柳さんのほうが得意分野だと思うんですけど、一般的に思うのは、それぞれの国で流行ってる前提が違うことってあるじゃないですか?

例えば、中国では我々は最初にゲームを出して失敗したことがあるんですけど、そのときは普通に日本で作ったものをそのままローカライズして、言語だけ変えて出したんです。

中国はPCのオンラインゲームがもともと結構流行っていて、日本では課金のパターンが結構シンプルなんですけど、中国ではやりたい人にはとことん課金するポイントが用意されていて、要は課金しまくると超VIP扱いされてゲームがとても優位に進むという具合に、課金の振り幅が求められます。

スマホのソーシャルゲームでも、中国のディベロッパーが作ったものだとそういうものが当然設計の中に入っています。僕たちが当初アプリを中国市場に出したときは、日本と同じ仕組みでシンプルなものを出していたので、中国のプレイヤーからすると「もっとお金を払って優遇してほしいのに物足りないよ」みたいなそういう国を跨ぐ商習慣の壁があったりするので、前提としては知ってる人たちと組んで参入するという方法に途中から切り替えました。

組んでその市場の知見を貯めて、そのあと自前化するという流れがいいと思います。それは人をハイアリングする上で意識するというのでもいいと思うんですけど、ちゃんと市場を知ってる人たちを前提に勝てるチームを作るのが大前提だと思います。

現地の会社と組むときの判断基準

琴坂:逆に現地の会社と一緒にやることによる問題というか、課題はないのでしょうか? もちろん、うまくいけばよいかと思います。ただ、結婚したとしても、必ずしも幸せな家庭が築けるとは限らないみたいな話だと思うんですけど、一緒にやれるか、やれないのかを判断するときに、どういう価値判断基準にしてますか?

井上:失敗もしてるんで、あんまり偉そうなことは言えないんですけど(笑)。僕がイメージして近いのはイギリスのヴァージングループ。リチャード・ブランソンがやっている、ああいう多国籍企業がすごくイメージに近いです。ベースにあるのは、「Virgin」という筆記体のサインが入った瞬間に、サービスのクオリティとかそういうものをユーザー・顧客に対して担保してるわけですよね。

そこに乗ってる事業体としては、鉄道があったり銀行があったりモバイルがあったりいろんなのがありますけど、ベースになるビジョン的なもの、バリューというのは共通であって、国が変わってもそこは変わらない。そういうスタンスがあって、その上にエリアごとのローカライズされた味付けが乗っかっている。僕の場合はそんな理解ですね。

そういう企業体を作りたいので、今から10年以内に100ヵ国進出して、100社の子会社を作って、100人経営者を作りたいというのを、社内的にドライブをかけてるんですけど。

琴坂:つまり、何よりも先にビジョンとかカルチャーがあって、それが合わないとどんなに事業シナジーがありそうでも一緒にできないということでしょうか?

井上:そうですね。

琴坂:青柳さんはどう思われますか。

海外企業の買収を成功させる鍵

青柳:ある種海外でも日本でも、ジョイントビジネス、ジョイントパートナーシップ、ジョイントベンチャーの罠みたいなものと似てるかなと思っています。グリーの場合は、創業期の早いタイミングからKDDIさんと共同事業をやるという経験をさせていただいて。

みなさんご存知の会社なわけなんですけど、とはいえ「日本の大企業・KDDIさん」と「10人20人のぽっと出ベンチャー・グリー」ということでカルチャーが違うので、どういうふうに間を埋めていくかみたいなところはありました。

KDDIさんはもともと第二電電とかそういうカラーがあるので、ベースのカルチャーとして寛容さとか共通理解、リスペクトみたいなものがあるのと、一緒にやっていくチャレンジが大きければ大きいほど、目先の細かい日々の補修をしなきゃいけないトラブルみたいなものは相対的には小さくなります。

アメリカの買収のときなんかも、より大きなゴールにまず共感していただいて、お互いのカルチャーのベースの部分のリスペクトを作っていました。

ただ私の場合はアメリカ、しかもシリコンバレーという世界でも本当に特殊な場所にいたので、「儲かる」とか「うまくやるといいことがある」とかそういう部分もちゃんとアラインさせないといけない。カルチャーとビジョンと、小さい成功を見せる。

「だからグリーとやったほうがいい」と、買収してから半年くらいの期間で見せられるかどうかというところが、非常に大きな鍵だったなと思ってます。

日本でも海外でも過去いろんな買収をしてきているんですが、成功した買収というのは、だいたい半年以内に非常にわかりやすい成果を出している。それ以降はそういうところにこだわるようにしています。

琴坂:なるほど。半年以内に成果を出す、出せるというのは、やはり国内で培った力であったり、事業の強みというものを海外でも活かしてるということだと思います。

しかし、日本と現地の環境が違う中で、国内で培える力のどういったものを活かすことが必要なのか。どういった強みであれば活かせるのかに関して、何かご意見がありますでしょうか?

青柳:それは非常に難しいところで。先ほどの成功体験の罠みたいな話で「日本でうまくいったものを持ち込みたくなる」というのがある。ただ完全に非連続なこと、しかももともと自分たちと文化が違うところに戦力が弱い形で行って違うことをやろうとすると、失敗の確率が当然上がるじゃないですか。

琴坂:(失敗の確率が)上がりますよね。

青柳:そういう中で、おっしゃるとおり何を強みと再定義して持っていくか。何を持っていかないカルチャーにするか。例えば日本で「朝会やってます」みたいなのはカルチャーじゃないと定義するとか、そこはセンスかなと思っていて。

陥りがちなのは、モデルごと全部持っていくということ。それよりは、うまくいくエッセンスだけ持っていって、あっちでやっていることに振りかけるみたいなのがよかったです。

うちの場合は最初にゲームプラットフォームみたいなのをやろうとして、「日本でも数社しかやってないですよね」みたいな(笑)。当時グリー・ミクシィ・DeNAくらいしかやってない。

そういうかなり再現性が低いものをやろうとしたときは、なかなかうまく活かしづらかったんですけど。個々のゲームとしてはグリーは成功させたものを持ってたので、その中でのいくつかのテクニックみたいなものをアメリカ流にアレンジしようと。そういうことで、(日本の)チームを中に入れて「一緒にやってくれ」というふうにする。

1個のイベントでいいんですけど、それが成功すると「何かよさそうだな、もっと教えてくれよ!」みたいな話になって非常によかったなと。そういう持っていき方があって、「どこが連続性のあるもの、どこが非連続のもの」というところの切り分けが非常に難しいなと思います。

琴坂:難しいですよね。

拷問のようなフィードバックで英語を習得

宮﨑:青柳さんに聞きたかったんですんですけど、アメリカでやってるときに買収に際して、先ほどお話のあった「日本のやり方を持っていく、持っていかない」とかがあったと思うんですけど、青柳さんがアメリカ流のマネージメントを体得したと思えるまでにどれくらいかかったとか、そこまでにどんなチャレンジがあったかとか教えてください。

琴坂:そういえば、青柳さんはそもそも英語は話せましたっけ?(笑)

青柳:私、英語を頑張りまして。大学時代のTOEICの点数は600点でございました。そのあとなぜか外資系の証券会社に入社させていただいて、そこから英語を勉強しました。ただ、それでもTOEIC900点にはいかないくらいのタイミングで渡米しました。

1年目が終わったくらいで、他のアメリカ人のマネジャーから「お前の言い回しは全然違う」と。例えばHowとWhatをたまに使い間違えたり、そういう中学生でやりそうな文法レベルでも1年目はつまずいていて。いまだに海外でスピーチとかすると汗かきます(笑)。

琴坂:しかし、限られた英語力でもリーダーにはカリスマ性が必要というか……青柳さんは現地でCEOをされていましたが、そういうハンデを克服するためにどういう努力をされていたのでしょうか?

青柳:まずコミュニケーションというところが一番大きかったので、全社の前で話すというのと、そのあと他のマネジャーとかリーダーから「俺どうだった?」と聞いてフィードバックを受けるという。それは結構拷問に近かったんですけど、やってきました。

やっぱり厳しい判断をしていくときにちゃんと前に立って説明をするとか、みんなを勇気づけるようなことをやっていく。たまにその中でうまくいく機会があって、2年目くらいですかね。「ようやくちゃんとリーダーとして務めていけるな」と思いました。

特に、買収した会社のマネージメントが優秀で。インド人だったんですけど、横でその人を見ていて「こういうふうにやればいいんだな」みたいなことを学んで、彼のやり方を自分の中に取り入れていった。

(立ち上げて)ちょうど丸2年、その方と一緒に働いて1年くらいのところから、自分としてのアメリカにおけるマネージメントスタイルがようやく確立できたなと思います。

琴坂:宮﨑さんはどのくらいの期間で「会得した」と思ったんですか?

宮﨑:僕はまだ会得してないかもしれないですね。

琴坂:なんと、謙虚ですね(笑)。

宮﨑:たぶんできてないと思います。

琴坂:英語は全然問題ないでしょうか?

宮﨑:英語も青柳さんよりできないと思います。

青柳:いやー、できるよ(笑)。

宮﨑:いやいや、できない(笑)。

井上:2人はシリコンバレーでよく会ってたんですか?

宮﨑:よく会ってました。だから「青柳さん今調子いいんだろうな」「今苦しそうだな」とか、2人で話してるとだいたいわかるようになりました(笑)。