「LTVが高い=ロイヤルティが高い」という誤解

後半に入っていきます。従来型のCRMの限界についてです。

各社、2000年代に数億円、数十億円かけてCRMシステムを導入しました。CRMに各社相当なお金を使っているわけですが、調査すると95パーセントの会社が「現状のCRMシステムに満足していない」、50パーセントの会社が「CRMは失敗した」と答えています。CRMをやって「上手くいっている」と回答しているのは、たったの5パーセントなんですよね。それはなぜなんでしょう?

一言で言うと、顧客ロイヤルティ向上という言葉を使っているくせに、ロイヤルティを測ってる指標が顧客の購入金額、つまりLTVだけだからです。「お金を使ってくれている人は、うちのブランドを愛してくれている人だ」と、直接的に考えているわけですね。

ただ、先ほどもお話したように、顧客のロイヤルティは熱狂度調査のような質問で顧客に聞かないとわからないですよね。お金を使ってくれている人たちのなかには「なんとなく習慣的に買い続けている」「他社へのスイッチが面倒くさいから買い続けている」という人たちが、大量に含まれています。なので、LTVとロイヤルティはイコールにはならないんです。

そして、もう一つ大きな誤解があります。「ロイヤルティが高くなると推奨意向も高くなる」とみんな誤解をしています。これも先ほどお話しましたね。必ずしもそうではないんです。推奨意向が高い顧客は、総じてロイヤルティも高いですが、ロイヤルティが高くなると推奨意向も高くなるという相関は弱いんです。

熱狂なくして、推奨は生まれない

みなさん、このスライドを見てください。「推奨してもらいたいなら、まずは顧客を熱狂させよう」という図です。

マーケッターが重視する「どれだけ商品を買ってくれている顧客なのか」というLTVの軸のほかに、先ほどお話しした「熱狂度」と「推奨意向」という2つの軸を追加して3軸のキュービックを作っています。お金を使ってくれているかどうか。ブランドのことを愛してくれているかどうか。人に推奨したいと思ってもらえているかどうか。この3軸で話を進めていきます。

各社のCRMプログラムは、「お金をたくさん使ってくれている人たち、つまり、LTVが高い人たちが、ブランドを心から愛してくれている人たちで、周囲の友人・知人にも推奨する可能性が高い」という考え方が前提にあるので、まずLTVが高い顧客に対して、ダイレクトメールとかEメールで友達紹介キャンペーンなどをやるわけです。「友達を紹介してください。うちのブランドのこと好きなんでしょ? クーポンあげるよ」って。でも、なかなかうまくいかない。なぜなら、先ほど行ったように、LTVと熱狂度と推奨意向は完全に一致しているわけではないからです。

お金を使ってくれているからといって顧客はブランドを愛してくれているわけではない。なので、順番としては、たくさん購入してくれている顧客の熱狂度を高める。施策1の熱狂プログラムの実施が先決なんです。そして、顧客が十分な熱狂状態になったら、友人や家族への推奨を促す。これが施策2の推奨プログラムですね。この順番で進めていくしかありません。

施策2の推奨プログラムというのは、周囲の友人・知人に推奨したくなる施策、ないしは、推奨しやすくなるようなプログラムやツールやイベントを提供することを意味しています。繰り返しになりますが、ブランドに対する熱狂度が上がっていない状態で、「友達紹介してよ」とか「Twitterでハッシュタグ付けていっぱいツイートしてよ」みたいな推奨プログラムを実施してもあまり上手くいかないということです。

ブランドに対して熱狂状態になっている熱狂顧客は、この推奨プログラムで、さらに感情レベルが上がることがあります。彼らがほしいのは愛するブランドからのミッションなんですね。使命がほしいんです。熱狂度が高まると、「もっとブランドに近づきたい」「もっとブランドに貢献したい」「ブランドと同化したい」「一体になりたい」という感情が沸き起こってくるからです。この方たちは、なにか提供してもらうだけではなく、自分たちもブランドに関与したくてウズウズしているんですね。なので、推奨プログラムを上手く走らせると、そのミッションに心から共感をして、どんどんロイヤルティが上がっていきます。

顧客と強い絆を作るためには?

「熱狂度が大事なことはわかった。じゃあどうやって上げていくの?」というお話です。

それには、まず、熱狂顧客とAlways On(常時接続)の状態でつながり続ける必要があります。メールマガジンに登録してもらって、こちらがなにか協力を依頼したい時だけ「どうも、こんにちは。こんなことやってくれませんか?」というのじゃ、顧客の感情レベルなんて上がるわけがないですからね。

ブランドに対するエモーショナルコネクションという、感情的な結びつきの最終ゴールは「Brand Bonding」。つまり「ブランドとの絆」が強固に形成されている状態だと思います。ブランドに対して「絆」という言葉のような強い関係性を作っていくのは、人間と人間における絆の作り方よりもさらに大変な労力を伴います。当然、短期的には作れませんし、お金で簡単に買うこともできない。常につながり続けて、少しずつ上げていくしかありません。

ただ、ここも重要なポイントがあります。 顧客の熱狂スコアは、時間をかけて、さまざまな施策を実施することで直線的に上がっていくものではなくて、経験的に、実際はこんなかたちなんです。

我々が熱狂顧客における熱狂スコアの維持・向上、また、非熱狂顧客を熱狂顧客に育てるために、1番最初に取り組んだのは、顧客が集まるオンラインコミュニティの構築と、オンラインコミュニティ上での取り組みでした。

コミュニティ上で、いろんな調査に協力してもらったり、ブランドに関するさまざまなお題でディスカッションしてもらったり、商品開発やサービス改善プロジェクトを一緒にやったりと、さまざまなプロジェクトを実施することで、コミュニティに登録してくれている顧客の熱狂度を上げていくいうことをやろうとしたのですが、熱狂度の維持や多少の向上の成果は見られましたが、劇的に顧客の熱量を向上させるというところまでは、なかなか届かないという状態が続いていました。

多様な顧客ニーズに対応することが必要

ちなみに、ちょっと細かい話ですが、オンラインコミュニティで、もう1個我々が誤解をしていたことを伝えます。ブランドに対してすでにロイヤルティの高い人たちには、こういう場に来ていただくと、ブランドに対する愛情の高さゆえに さまざまなことに協力してくれると思っていたんですね。調査にも答えてくれるし、オンラインコミュニティで活発に会話もしてくれるし、いろんなプロジェクトに積極的に参加してくれると思っていたんです。でも実際は違いました。

調査に答えたい人は毎回調査には答えてくれるけど、コミュニティでは一切会話しない。コミュニティで、めちゃくちゃ活発に会話をする人が、一切調査には答えてくれない。そんな人たちがいっぱいいます。

考えてみればこれも当たり前のことなんですけれど、いろんな人がいるんです。おしゃべりが好きな人もいれば、とにかくブランドに一言言いたくてウズウズしている人もいれば、調査に協力したくてたまらない人もいる。

いろんな参加型のプロジェクトが好きな人もいれば、ブランドが実施するイベントに行くのが好きな人もいる。当然、すべてに積極的な会員もいますが、たいていは特定の活動に興味がある人たちが大半だったんです。なので、オンラインコミュニティでは、多様な顧客ニーズに対応するためにさまざまなプログラムを用意する必要があります。

オンラインとオフラインの組み合わせ

話が逸れましたが、オンラインのコミュニケーションだけでは、顧客の熱狂度を飛躍的に高めることには限界があります。そこで、必要となってくるのが、オフライン施策なんですね。オフラインで、メンバー同士やブランド担当者が顔を合わせて関係を深めるオフ会、私たちはこれを熱狂ミートアップと呼んでいるんですが、そういう会とか、工場見学とか、新商品発表会などの熱狂イベントを、ぜひ恒常的に実施してあげてほしいんですね。

オフラインの施策は、参加人数が限定されますし、会場が必要ですし、お金も労力もかかります。でも、やっぱりイベントに参加した人たちの熱狂度の向上っぷりは半端ないわけです。そして、イベント参加者がオンラインコミュニティに戻った際に、「イベント最高だった!」「次回も楽しみ!」みたいな盛り上がりを作ったり、その後のコミュニティ内でのプロジェクトの盛り上げ役になってくれたりします。

大切なのは、オンラインとオフラインをサンドイッチで実施すること。イベントをやって盛り上がって、その熱がオンラインに波及して、またオフラインで盛り上がって、オンラインに波及して……みたいな循環を作ることが大切です。

ということで、常に顧客とつながれる環境を作りながら、オンラインとオフラインの施策を組み合わせることが極めて重要だということが、我々にもわかってきました。「オンラインに場所作って、ファンの人たち呼んできて、なんとなくコミュニケーション取りながらそれで終わり」っていうことだけでは、顧客の感情レベルはそんなに簡単に上がらないということです。

学ばせ、交流し、使命を与え、共創し、興奮させる

次に、顧客を熱狂させるための施策をプランニングする際のポイントについてお伝えします。ポイントは、この5つです。

まず、「Learn」。そのブランドのことが好きで好きでたまらない彼らは、ブランドについてもっと知りたがっているんですね。だから、もっと情報を提供してあげてください。「こんな細かくて深い情報を伝えてもツマラナイのでは?」というようなブランドの歴史、哲学、苦労話も、彼らにとっては大好物です。ブランドサイトに載せても誰も読まないようなものでも、熱狂顧客からすると「知らなかった!」「もっと知りたい!」という情報が社内に隠れているはずです。ぜひ惜しみなく彼らに提供してあげてください。

2つ目が交流です。「Interact.Have a Relationship」は、ユーザー同士の交流だけではありません。熱狂顧客は、同じブランドが好きな者同士での交流以上に、メーカー担当者との交流を求めています。実際、我々が運用しているブランドコミュニティでも、ブランド担当者がコメントすると「実際のブランド担当者と直接お話することができて感激です!」なんてコメントをいただくことは少なくありません。ぜひ積極的に熱狂顧客と交流してください。

3つ目は、さっきも申し上げた「Mission」です。熱狂スコアが高い人たちに、怖がらずに、しっかりと、明確にミッションを与えてみてください。このレベルにいらっしゃる方々は、ミッションを非常に喜びますから、「ついに来ましたね。ちょっと頑張りますよ、僕!」 という反応が得られるはずです。ただし、くどいですが、熱狂スコアが低い顧客にMissionを与えても響きません。逆に「なんでそんな面倒くさいことをしなくちゃいけないんだ」という反応になりますので、注意してください。熱狂度を上げて、その後にMissionです。

具体的なMissionとして、例えば、東京ビッグサイトとか、いろんな展示会場で開かれるBtoB向けのExpoにブランドのブースを出展した時に、熱狂的な顧客にブースにお越しいただいて、商品の素晴らしさを、Expoに来場しているバイヤーさんに直接話してもらうとか、面白いんじゃないかと思います。「僕は、この商品がこんな理由で、もう大好きで大好きでたまらないんですよ」というような意見を、お客様からバイヤーにしてもらう。その説得力って半端ないと思うんですね。こういうふうにブランドに協力することを、ブランドに対して熱狂的な顧客はものすごく喜んで協力してくれると思います。ほかにも、社内報に出てもらうとか、広告プロモーションの一翼を担ってもらうとか、いろんなミッションの与え方があると思います。

4つめが共創ですね。「Collaboration」「Co-creation」。一緒に新商品の方向性を考えたり、サービスの改善をしていく。こういった顧客参加型の商品開発や、新用途開発などの共創プロジェクトを、どのくらい恒常的に実施できるかが勝負です。Always Onで常時つながる、というと聞こえはいいですが、つながってるだけじゃ顧客側も飽きちゃうわけです。顧客を飽きさせず、熱狂度を向上させていくためには、新しいプロジェクトをどんどん提供していく必要があります。

ということで、オンラインコミュニティを作って、顧客と双方向でゆるやかにつながる場を構築したあと、「さあ、じゃあ会話してください。以上」ではなくて、いかにこの5つのポイントをちゃんと考えながら、顧客がコミュニティに参加し続けたくなるような必然性を作ることができるかが、とても大切なんです。

オンラインコミュニティを作った後って、いろいろなことをやりたがってしまうんです。でも、顧客の人たちって、別に経済的な報酬がほしいわけではない。みなさんのブランドが好きでたまらないんです。その人たちに、もっと好きになってもらうために、どんなおもてなしをして、彼らの感情レベルを上げてあげるか。そういうことを真剣に考えないといけません。

人間の根源的な欲求に立ち返る

ちなみに、これは海外の論文で、「オンラインブランドコミュニティに消費者がエンゲージする(し続ける)11の動機」をまとめているものなんですが、非常に的を射ているのでご紹介します。熱狂顧客が、経済的なメリット以外の動機によって突き動かされていることがよくわかります。

1「ブランドインフルエンス:Brand Influence」、コミュニティのメンバーがブランドに影響を及ぼしたいという気持ち。

2「ブランドへの情熱:Brand Passion」、メンバーがブランドに対して保有している情熱的な感情。

3「コネクション:Connecting」、コミュニティのメンバーであることによって、自身より大きなよいものとつながっているという感覚。

4「ヘルプ:Helping」、ほかのコミュニティメンバーを知識、経験や時間を共有することによって助けたいという感情。

5「気の合う会話:Like-minded conversation」、自分に似ているコミュニティのメンバーとブランドについて喋りたいということへの興味。

6「実利的な報酬:Reward(utilitarian)」、コミュニティへの参加を通して、経済的な報酬(例えば製品、金銭的な報酬など)を得たいという欲求。

7「 快楽の報酬:Reward(hedonic)」、コミュニティへの参加を通して、快楽的な報酬(例えば楽しさ、友好的な環境、社会でのステータス、娯楽など)を得たいという欲求。

8「ヘルプ探求:Seeking assistance」コミュニティの仲間から知識、経験や時間をシェアしてもらうことで助けてほしいという気持ち。

9「自己表現:Self-expression」、コミュニティは自身の興味や意見を表現できる場を提供してくれるという気持ち。

10「最新情報:Up-to-date information」、コミュニティが最新の情報を提供し、常にブランドや商品に関してよく知っている状態にしてくれるという感情。

11「検証:Validation」、ほかのコミュニティメンバーが自身の意見、アイデアや興味の大切さに賛同してくれるという感情。

熱狂の3ステップ

熱狂顧客はどのように生まれるのか、という話に移ります。

熱狂には「コト」に対する熱狂と、ブランドに対する熱狂の2つがあります。コトに対する熱狂とは、例えばキャンプやサーフィンに対する熱狂。ブランドに対する熱狂というのは、コールマンやボルコムに対する熱狂、ということです。

いまから熱狂の3ステップをお話しますが、これは、その商品やサービスが持つ基本価値や期待価値が一定レベルをクリアしていることが大前提になっています。あまりよくない商品やサービスなんだけど、表面的な施策によって顧客を熱狂させることはできません。

さて、熱狂のステップです。例えば、私は2年前からサーフィンとオートキャンプにハマっています。サーフィンは予定がなければ、ほぼ毎週末千葉北まで行きます。キャンプも月に1回か、少なくても隔月に1回は行っています。もう熱狂状態です。ハマるキッカケは、社員や友達からの誘いでした。「一度、一緒に行きましょうよ」と。そして、行ってみたら「これはおもしろい!」と、ズブズブハマっていった。この熱狂の入口は、人それぞれだと思いますが、マーケティングの視点からすると、これをどう意図的に作るかということが1つ目のステップとなります。

入口から入ってきたら、つまり消費者から顧客になったら、そこからどうやって熱狂度を上げていくか。これが熱狂プログラムになります。そして、熱狂度が向上した顧客に、推奨プログラムを走らせることによって推奨行動を促していく。それが、次の新規顧客の熱狂の入口を作るという循環を作るわけです。

ちなみに、みなさんにも、昔ハマっていたけれど、今はやめてしまった、ということがあると思います。あの頃は毎日毎日そのことで頭が一杯なんて状態でも、その熱は未来永劫続かないものも多いですよね。

以前、うちで小さな調査をやったんですが、「熱狂が覚めるとき」の要因として最も多かったのは、「仲間がいなくなったから」が一番でした。その次に、経済的な理由や飽きが挙がっていました。例えば、ライフステージやライフスタイルが変わることによって仲間がいなくなり、熱狂が冷めてしまい、商品の購入額が下がってしまうことを回避するならば、あらかじめその顧客の周りにいる仲間に代わる新たな仲間ネットワークをメーカーが主導して作ってあげてしまう、なんて回避策も考えられるかもしれませんよね。

カスタマージャーニーは顧客の感情の旅をデザインすること

数年前からカスタマージャーニーが流行っていますので、みなさんも社内でワークショップをやって、カスタマージャニーマップを作ってらっしゃると思いますが、大事なのは顧客の感情ですよね。なので、僕は「カスタマーエモーショナルジャーニーマップ」と言ってもいいぐらいだと思っているんです。この顧客の感情の移り変わりこそが、最も重要です。

ここで大切にしていただきたいのは、先ほどのピラミッドで考えた3つの施策と、理想とする顧客の感情がしっかり合致しているかです。順番としてよくないのは、この施策をやったら、顧客はどんな気持ちになるかという検証です。それでは順序が逆です。やらなければいけないのは、ジャーニーに書いた理想とする顧客の感情が、その施策によって作られるのかという検証です。

なので、順番としては「熱狂の入口→熱狂度の向上→推奨の促進」の3ステップで、理想とする顧客の感情はどんなものかを書き出す。そして、それが一本の熱狂の旅路としてつながっているかを確認する。そして、最後に、その感情が上の「施策」によって作られるのかを検証する、という流れを意識してください。