「ひとりじゃなかった」仲間を見つけた喜び

小池晃氏(以下、小池):さっきスピーチのなかで、「私は変わったんだ」っておっしゃってました。それはどうして?

香山リカ氏(以下、香山):私は、ある意味孤立してきていて。言論活動の世界では、護憲だったり原発反対だったりとやっていたんだけど、どこかやっぱり、自分一人で行ってて、援護射撃がないというか。背中を押されてばっと前に出ちゃったんだけど、ハッと後ろを向くと誰もいない的なものを、時々感じてたんですよ。

読者の方からのお便りでも、だいたいここに出ているような「止めろ」とか、そういう手紙はたくさん来るんですけど、「すごく考えました」とか、「よかったです」とかは、そんなに来なくて。

朝岡晶子氏(以下、朝岡):そうですよね。

香山:そうすると、「私、間違っているのかな……」とか、「こんなことやっても白い眼で見られているのかな」って思っていたんです。

たまに大学でも、そっと近づいてきて、「応援してますよ」って言って去っていく人とかいるわけ。「一緒にやってくださいよ!」って言いたかったんだけど、そういう人たちは、そっと来て「頑張ってください」って言って去るみたいな。

ちょっと寂しかったんですよね、それが。

でも、今回デモに行って、何万人もの人を実際目で見て。私がいるとわかると、「応援してます」とか言ってくれる人がたくさんいて。

すごくくさいけど、「一人じゃないんだ」っていうふうに。SEKAI NO OWARIの『RPG』、「僕らはもう一人じゃない」「怖くても大丈夫」っていうのが、中二病みたいですが頭のなかでガンガンかかって。

小池:香山さんでも、そんなのあるんだ。僕なんか、(香山さんは)『朝まで生テレビ!』とか出て、「コラッ」って怒鳴って、もう怖いもの何もないみたいに思ってたけど、そうでもないんだ。

香山:昔、姜尚中さんと一緒に出た時に憲法の話になって、「平和は大事です」って話を言ったら、ある右系の論人の方に「あんたたち平和主義者は、だからダメなんだよ!」って言われたんですよ。

小池:金美齢かなんかじゃないの?

香山:いや違う。

朝岡:どうしてそういうことを!

小池:そんな言い方するのね。

「平和主義」と堂々と名乗れる時代が来た

香山:それで、姜さんと終わってからしみじみ、「香山さん、平和主義者っていうのは侮蔑語になったんだねぇ」って。

小池:「お花畑」とかね。

香山:平和主義者とか、憲法を愛するとか言うのは「今や罵りの言葉になったんだね」って言ったの。

でも、この間、中野晃一さんが上智で、私が立教で、一緒に集会をやったんですよ。その時に、最後の挨拶で中野さんが、「今や、『平和主義だ』って、堂々と言えるときが来た!」って。言葉は正確じゃないんだけど。それを大声で、「私は平和主義者だ」ってことを言える雰囲気がやってきたっていう話をしてくれて。

10年くらい前、改憲論議がわっと出てきた時は「お前ら平和主義者は!」って罵られたのが、逆に今は「私は平和主義者です」とか、「憲法を大切に思っています」っていうことをこんなに言えるような。状況は悪いけど「時が来たんだ!」っていう。

たまに研修会に行くと、その仲間は護憲の人ばかりだからいいんですけれど、そこから一歩外に出ると、もう本当に孤独な感じで。

野音でやったとしても、銀座に行けばみんなそのことに全く関係なく楽しんでいて。「このなかに憲法のことなんか考えている人が、どれくらいいるのかな」みたいな感じで寒々帰る感じだったのが。

今は、野音に入りきらないくらい人が来て、終わった後に何万人もの人でデモ行進するっていう。もちろん、日本全体から見れば少数派かもしれないけど、でも、実際に「一人じゃない」っていうのをリアルに感じるっていうのは、本当に大事だなと思いました。

小池:デモやって歩いていても、歩道の沿道の人たちが、最近温かいですよね。みんな声援を送ってくれたり。途中からデモに入ってくれるとか。そういうことが本当に。

前は、そんなことがあると、「えっ!」ってびっくりしちゃうけど。今は、普通になってきてる。そういうのはありますよね。

「国民連合政府」について

香山:逆に、今日聞きたかったのは、日本共産党が「国民連合政府」というのを打ち立てましたよね。それで、私が先ほどから言っているように、いろんな人たちが「平和は大事」とか、「戦争はやりたくない」って思って、そこで個別の運動をしていたのを一緒にしようという話だと思うんですけど。

私が一つ感想として思ったのは、すごいスピード感。みんな「やらなきゃ」って言ってたのを、本当に一夜にして決めて。どういうふうに意思決定したのかなって。すごいスピードのなかで決めたことでしょう。

小池:あの戦い、国会でも論戦をやりましたよね。SEALDsの集会にも、僕らも毎日出て行って、「立憲主義って何だ?」「民主主義って何だ?」って聞くなかで。

8月、9月……。これをやっていたって、いずれ強行してくるだろうっていうのはあるから、その時何を言うかっていうことは考えました。

で、あれ(強行採決)やられて。2時か3時に強行されたのかな。その次の日の衆院会総会をやって。ただ、みんなやっぱり思いは同じだったから、議論したってこれしかないんじゃないかっていうことは一致したっていう。

香山:SEALDsの人たちのコールでも、「野党は頑張れ」っていうのがあったじゃないですか。あの時、別にどの党というのじゃなくて、「野党頑張れ」っていうね。まさに、あれですよね。

小池:「野党は頑張れ」「野党は共闘」ってね。

「野党は頑張れ」なんて、ああいう集会であれだけ言われたことってないですよね。それだけ期待も大きいし、責任も大きいっていうか。それに応えようということで、それですぐばっと出して、「よかった」って言われて、本当にうれしいんだけど。

「野党」の存在意義

でもやっぱり、僕は政党があの声に応えなきゃ政党の存在意義が問われると思ったし。みんなそんな感じでしたよね。

香山:だから、「どうせ終わったら、それぞれの党が勢力争いみたいになっちゃうんでしょう」みたいな。「今は、大義名分で共闘していると聞こえがいいからやってるだけなんじゃない?」って、どこかで思っていた大人もいたと思うんですよね。

そこで志位さん(共産党委員長)が特派員協会でお話されたときも、何度も「本気で」って言葉を言っていたじゃないですか。そんな主観的な言葉をどれくらい信じていいか、私にはわかりかねたんですが(笑)。

でも、例えば「85パーセントの確率で」とかじゃなくて、「本気で」っていう言葉を何度も言われたところが、ある意味これまでと違うというか。パッションというか。それは感じたんです。

小池:SEALDsが「本気で止める」「本当に止める」って言ったんですよね。あれはすごくインパクトがあったし。本気でっていうのは、要するに。

香山:「連合構想に救われました」って人もいましたよ、今。

小池:あれがなかったら、あそこまで戦った人たちが次どうするかって、途方に暮れちゃいますよね。その時に、共産党にとってどうかっていうことは置いておいて、この思いに応えるにはどうするかっていう。

共産党をどこまで信じていいの?

香山:私は別に今まで共産党支持とか、そういうわけじゃなかったので、あえて聞きますけど、「共産党は置いておいて考える」と言ってくださったんだけども。

一般の今まで共産党支持じゃなかった人は、そこにそれこそ本気で信じていいのかっていう、一抹の不安があると思うんですよ。「本当に共産党というのは置いておいて、この戦争法案反対ということだけで、手を組んでくれるの?」と。

「でも、やっぱり……」みたいなのことを、大人はどうしても考えちゃうわけですよね。そこを志位さんは「本気で」って言葉で言ってくださったんだと思うんだけど。それを信用するにはどうしたらいいんですか?

小池:立憲主義、憲法を守らない政治。こんなに明からさまに憲法より自分が偉いんだよっていう。こんな総理大臣いないわけですよ。

香山:それはわかるんですよ。

小池:ほっといたら、日本の民主主義壊れるから。日本の民主主義壊れたら、共産党なんか存在意義なくなっちゃうじゃない。存在否定されちゃうじゃないですか。

そういう意味で言ったら、そこのところで、今はもう全て横に置いて、一点で戦うしかないじゃないですか。

香山:でも、新しいグループを作るとか、党を作るとかはないんですか? 

こんなこと言ったら失礼かもしれないけど、例えば、共産党の名前を捨てるとか。党をなくしちゃうみたいな。

とにかく今は「安倍を倒す」

小池:それを置いておいて、捨てないでいいんじゃないですか? 置いておいて。とにかく今は、「安倍を倒す」という一点で。我々が主張していることも一旦脇に置くから。

捨てちゃったら、なかなか……。

香山:SEALDsっていうのもよかったのは、フレッシュな名前で、フレッシュな顔ぶれだったから、「この人たち……」っていう(既成概念がなかった)。

さっきからどこどこと関係あるとか言っているけど、本当にそうじゃないじゃないですか。今までの政治闘争と。そこが、みんなが安心して「新しいことが始まったから行ってみようか」って言えた、一つのハードルの低さになったとは思うんですよ。確実に。

やっぱり既成の団体なり政党の名前があると、これまでの歴史があるから、「とは言っても、あの人たちあの時こうしたし」みたいな。共産党だけじゃないですよ。そういうのが生じちゃうじゃないですか。

そこで二の足踏んじゃったり、様子見ちゃったりする人が出るんじゃないかと思うんです。

小池:逆に僕らも割り切って、暫定政権だってはっきり言ってるし。今の立憲主義を破壊する政治をリセットすると。そこまでのことだっていうことをはっきり言っているわけだから、逆にそこは信用してほしいっていうか。

香山:でも人間って、本気っていうのを、どうやって信用するんですかね?

小池:それは、政治家の顔で判断するしかないじゃん!

香山:顔!? (笑)

小池:志位さんのロックスターのような訴えとか。政治って、結局言葉じゃないですか。

香山:そうなんですよね。

小池:そこを、本当に信じてもらえるような、迫力と論理を持って。

学問への愚弄を感じて

香山:先ほどの沖縄じゃないけど、安倍さんの言葉みたいなものが信用できない状況になっちゃってるわけじゃないですか。誰を信用していいかって。安倍政治の話になると、例えば今回、みんな多くの人が動いたのは、立憲主義みたいなことを、小林節さんとか長谷部(恭男)さんとかが、憲法調査会とかで「違憲です」と言ったと。

「違憲です」と言ったのもそうだけど、後の対応が、高村(正彦)さんなんかが、「自分たちは学者なんかよりもよっぽど憲法を知ってる」みたいなことを言って。ある種、学問に対する愚弄みたいになってくるじゃないですか。

小池:反知性主義ですよね。

香山:学問だから偉いってわけじゃないけど、そんなに簡単に学問を否定してしまう態度にも、やっぱり学者だけじゃなくても、危機感を抱いた人はたくさんいたと思うんですよ。

小池:そうですよね。

香山:学問というものに対して、人は一縷の望みというか、期待とか、そこに権威というか、研究者が真剣にやっていることに対しては信用があるわけじゃないですか。

SEALDsだったら、若者の覇気を信用するとかあるでしょ。

小池:共産党のどこに信用してくれってなると、さっき顔って言ってあれだけど(笑)。

やっぱり、歴史を逆に見てほしいな。僕ら、全部間違ってなかったなんてことはないけど。しかし、裏切ったことはない政党ですよ。国民に対して約束したことを、根本的に裏切ったそういう歴史はない。

やっぱり、あの戦争の時に、治安維持法なんかで小林多喜二なんかが殺される歴史あったけど、でも、戦争反対貫いた。その歴史とかね。

政党がこの間やってきたこと。それを見てもらって、それで判断してもらうしかないんじゃないかな。

そういう意味でいうと、名前変えるとかって話だったけど、名前変えずに頑張ってるぞっていうことが、逆に共産党を信用してもらう一番の柱になるんじゃないかなっていうふうに思いますけどね。

香山:なるほど。

共産党への見方はどう変わった?

朝岡:香山さんは先ほどご自身は、安保法案、戦争法案の戦いのなかで変わられたっておっしゃってましたけど。共産党を特に支持してこられなかったと。この戦いの中で、それでも共産党に対する見方とか、何か変わられたことってありますか?

香山:すごい失礼な言い方だけど、本当はなんだかんだ言っても、党勢拡大みたいなところが至上命題のところであるんじゃなかろうかみたいなのが刷り込まれているわけですよ、やっぱりいろいろ。

そういうある種の陰謀論みたいなのになると、私の周りでも、ちょっとした動きを見ても「ほら、これもそうじゃん!」とか、何でも文脈で読み取れてしまうっていうのが、私のなかでもあったのかもしれない。

だけども、この一連の今回の国会前の動きとか。その前も、池内さおりさんみたいな若い方の登場。吉良(佳子)さんとか見てて。たまにいろんな集会で会うと、普通に話せる人っていうのかな。

政治家って、「政治家喋り」みたいになっちゃって、対話できない人もいるんですよね。

朝岡:そうなんですね。

小池:僕? 僕?

朝岡:(笑)。

香山:(笑)。

これはたまらんな、みたいなね。普通に話せない。

でも、彼女たちなんかは、ある意味本当に普通な女性で、「あ、元気〜?」みたいな感じで話せて。「そうか、こういう人たちなんだ」って思ったりして。

全面信用できてるかっていうとわからないんですが(笑)。

変な先入観でなんでもかんでも「これって、こういう動きじゃないの?」っていうのは全く意味ないし。そんなことしている場合じゃないっていうのかな。それは思う。どの党から来た人だから信用できないっていうことを。

あんまり無邪気に全部を信用するというのもあれだけど。逆にそういうことを言ってる場合じゃないなみたいな。

小池:そうですよねぇ。この政治を目の前にして、いろいろアレルギーとかいう話もあるけれども、そんなこと言ってる場合じゃないっていうか。とにかく……、ね!

若干違いがあっても。

香山:そこは難しくて。今までも、SEALDsもそうだけど、緊急行動ということで学者の会も立ててきて。でも、もうこれからは緊急じゃない。継続的な何か動きをするときに、そうすると人間がすることだから、権力争いみたいになっちゃったりとか、人同士だから、「あの人はやってない」とか、「この人はやり過ぎてる」とかいろいろなると、それはつまらないことだから。

常に、何が敵っていうか、私たちは何を止めたいのかことを考えていかなきゃいけないなって思うんですよね。

朝岡:確認が必要ですよね。