デバイスありきから、Webありきの世界へ

赤塚大典氏(以下、赤塚):Real-Web-Realと書いていますが、Webというのは実世界のメタファーをかなり取り込んで成長してきました。

それは、たとえばページやブックマークという概念とか、ボタンや掲示板という概念とか。

その後、Webは独自の成長を遂げてきていますが、今、もしかするとWebの考え方とかWebで出てきた文化というのが、もう一度こちら側に手繰り寄せられる時期が来ているんではないかと考えています。

当時、その実世界を前提にWebを作っていたのと同じように、今は逆にWebを前提にこちら側のデバイスを作れる状態になるのではないかと思います。

そう思うと、むしろデバイスがあって、その上にWebをどのように乗せるかというよりは、WebあるいはWebのサービスが先にあって、それをいかに表現するかというところに本当にデバイスの意味が出てくるかもしれないと考えて、その考え方に沿って物を作っています。

いくつか紹介します。Webらしさの1つとして、データをシェアする、あるいはそれをリユースする、それをフォークするという考え方があります。

これは、めっちゃグニャグニャと曲がるランプなんです。単に物の形をシェアする、リユースする、フォークするというのを置き換えてできないかを試して、作った物です。

たとえば、どなたかが、あるランプの形を作ってそれをWebに載っけておくと、僕は家でそのランプの形状をダウンロードできるんですよ。

そうすると全く同じ形状のランプができ上がりますし、ちょっと気に入らないと形を変えて、またWebに載っけると、ランプの形状が2つできるという。シェアする、リユースする、フォークすることで多様化が促進されるんです。これは形というところで考えてみました。

WebのPVをデバイスに置き換えると…?

それから、Webの中にはPage Viewという考え方があります。そのページビューを見て、効率とかお金の面とか広告とか、いろんなことを考えます。

じゃあ、Web of ThingsにおけるPVって一体何でしょうと考えると、たとえばそれは実際に物を作っているとか、あるいはサイネージであれば、その物を実際に見ているとか、そういったことがページビューととれると思います。

それで実際にこういうボードを使うと、センサーとかも取り扱えるので、サイネージに人のセンサーを付けることができるんですね。距離センサーとか人感の調査のようなもので、今これを何人の人が見ているのかをページビューとして取り込める。

現在サイネージのほうでは、そういう効果測定みたいなことがしづらいと言われていますが、こういうWeb of Thingsの考え方を取り入れると、そういうこともできるようになってくるかも知れません。

あとはView Sourceというところに着目しているんですけど、皆さんのWebブラウザでコンテキストメニューを開くと、おそらく「ページのソースを見る」という項目があると思います。

あれは単純にソースを見る機能なんですけども、あれのおかげで、どういう表現がどういうコードで書かれているかという知識が継承されていくわけです。

それをもって、また僕が再利用して、新しい表現をしたりできるようになります。オープンソースハードの時代になってくると、もう少しそこを表に出す。オープンソースハードのView Sourceとはどういうことかと言いますと、たとえばデバイスひとつひとつにURLがあるかも知れません。

そのURLにアクセスしに行くと、これを構成する設計図や回路図、プログラムとか設定画面、そういうものが一気に入ってくる可能性があります。それをもって、また新しいデバイスを作っていくという流れが、もしかするとできるかもしれないと考えています。

CSSで、LEDの色を書く

それからビギナーズツールキットというのを作っていまして、これは慶応の山岡さんとFabCafeの方と一緒に作っている物なんです。そうは言っても、JavaScriptができても、結構ハードウェアをいじるのは難しいというのもわかってきました。

それで、こんな物を作ってるんですが、要はWebページを構成するStyleの中にCSSというものがありますが、そのCSSのなかにもハードウェアを制御するのにそれなりに適したプロパティがあります。

例えばLEDです。マルチカラーのLEDとかは、まさにcolorというプロパティが使えます。例えばcolorをblueとすると、LEDというHTMLエレメントももちろんブルーになりますし、実際のLEDもブルーになる。HTMLエレメントとハードウェアを等価に扱ってプログラムすることができます。

ハードウェアっぽいプログラムはどこにもないんですよ。そうすることによって、Webのプログラマーさんは、「実は俺でもハードウェアを制御できるかもしれない」という感覚を持っていただけるんじゃないかと思いまして、今こういった物を製作しております。

ここまでWeb of Thingsで僕たちのデバイスを作っていくために、Webがどうあるべきかという話をしてきましたが、これが教育ではどういうふうに役に立つかということを、この機会があったので少し考えてみました。

STEMという考え方があるのはご存知ですか? STEMというのは、SCIENCE、TECHNOLOGY、ENGINEERING、MATHEMATICSの頭文字を合わせたもので、このページはEVOのエデュケーションページから少し引用させてもらってます。

実は、WoTのデバイスを作っていくという側面で授業を構成した場合、アイデアから、プロトタイプ、開発、フィードバックがあって次のステップへと踏まえていくと、かなりの領域を網羅することができます。

STEMとWeb of ThingsとIoTのデバイスを授業に取り込んで進めていくと、実践的に力がついてくる。それで、このSTEMはそれぞれの領域を独自で一つひとつ学習するというのではなく、網羅的・横断的に一緒に学んでいきましょうと。

例えばサイエンスだけでは物ができないし、テクノロジーだけでは物ができない、HTMLだけでも物ができないので、すべてを網羅的にわかる人材を育てていきましょうという側面があります。

WoTのアイデアソンで生まれたもの

実際にアメリカで、STEMを学習の1つとして、すべての小学校に3Dプリンタかレーザーカッターを入れていくという法案がオバマさんなどから出されました。

あとは70万人に1人、図書館のような感じでFabの施設を入れていこうというものがあります。ここでは、彼らがソフトウェアでアイデアを作るだけではなくて、それをフィジカルに落として、落とすからこそ創造性が高まるという話をしています。

つまり、今後いろんなデバイスを僕たちが作っていかなきゃいけないかも知れませんけど、その場合においては3Dプリンタを動かす、あるいはレーザーカッターを動かすためのソフトウェアの技術、あるいはそれができた後のハードウェアや回路の技術、ソフトハードひっくるめてすべて考えられる人材というのが求められる。そういったことを狙っているのではないかと考えています。

このデジタルハリウッド大学大学院では、IoT、WoT、プロトタイプ実践の全8コマを1区間で行ないました。3コマ、3コマで、初めはグループワークでもってWeb of Thingsのデバイスのアイデアソンをやりました。次にアイデアを派生させるということをちょっと試してみたりとか。

2日目は実装。3日目は発表。それに加えてオプションで、11月15日のMozilla Developers Conferenceで成果のデモ展示を行ないました。

どういうものが出てきたかと申しますと、たとえばグーグルのカレンダーで照明が制御できるよね、と。とてもおもしろいと思ったのは、こういう考え方ができると、いろんなWebのサービスやデバイスをマッシュアップして1つのサービスとして考えられることです。

グーグルのカレンダーって、もちろん人も入力できるんですけど、APIを持っているので、機械も入力することができるんですね。そういうふうに考えていくと、もしかすると人と機械が共同したなにかを制御するサービスが今後生まれてくる可能性があるなと思いました。

悶々Breaker、面接100%通過デバイス

あとは、「悶々(もんもん)Breaker」というのは素晴らしい作品で、皆さん、日頃なにかと悶々とされるわけじゃないですか。それで、車を壊したくなるわけじゃないですか。これを実際に作られた方がいらっしゃいまして、マルチプレイ対応です。ちょっと見づらくてごめんなさい。ムービーも無いんですけど。

こんな車の画面が出てきて、ボタンがこの辺に置いてあってそれをひたすらハリセンで叩くんですよ。

それで、ハリセンで叩くとこの車がバッカンバッカン壊れていくというもので、なんと言うか、確かにクリックでも壊れるんですけど、ハリセンにすることによって、異様に体験が変わるということがとてもよくわかった。

マルチプレイ対応なので、みんなで1つのページを作ってると言えるんですよ。いろんなアクセスから1つの物を作っていく1つの好例かなと、なんとなく思っています。

あと、「面接100%通過デバイス」という物を考えられた方がいらっしゃいまして、これは面接でどうしても緊張するので、緊張したくないというモチベーションで作られたシステムです。

具体的には、心拍数を取るセンサーを使いまして、心拍数が高い時は緊張してると仮定して、何かメッセージを送れたり、Webで警告してくれたり、そういったものを作りましょうと考えられていました。

あと、告白する時にも使うとか。

デバイスが生む新しいコミュニケーション

Dチームは新しいコミュニケーションチャネルを作ろうという話ですね。一言で言うと、ウェアラブルWebみたいなものなんですけども。

見ていただいたほうが早くて、「お茶の水で起こして」って書いてあります(笑)。おそらく彼は総武線に乗って寝てるんですよね。それで、お茶の水近くになると誰かが前に行って起こしてくれます。

彼は起きて電車を降りるんですけど、その空いた席に起こした人が座る。つまり、両方に結構メリットがありますし、そこに生まれるはずの無かったコミュニケーションが生まれてるんですよね。なんか素敵な話だと思って、こういうものができあがりました。

Mozilla Developers Conferenceのほうではこんな展示をしてきました。

そこでは心拍を計っていたチームがずいぶん改良してくださいまして。心拍数でWebを検索するというか、心拍数をクリエイトしてWebの画像を検索するということをやりました。例えば心拍数が高かった場合、海とか森とか山とか、心を落ち着かせるような写真を検索して人に見せていったり。

落ち着いてる時には、もう少し盛り上がるための写真を出したりとか。あと、ここに出てくるマンガは「戦闘力にしましょう」みたいな話になったらしくて、心拍数を戦闘力に見立てて、身体情報とWebの新しい関係を作っていっていました。

これが叩くやつですね。右側にあるのがハリセンです。あれを叩くと車が壊れていきます。

ストーリーがモノの価値を高める

これは先ほどのお茶の水のやつでございます。より自然な格好にしていきたいということがあり、Tシャツのなかに埋め込まれましたけど、なにか生まれそうな雰囲気があります。

これで新しいコミュニケーションができたかどうかはまだ聞いていないのでわからないですけども、こういった取り組みをしました。

同じような取り組みを、慶応大学のSFCや東京テクニカルカレッジさんという専門学校と行っています。これは私ではなく、KDDIラボの方が授業を行っています。

このような授業をFabbleというツールを使って行っていまして、これは多くの物作りを推進するドキュメンテーションサービスです。

ここでもやはりオープンソフトの考え方を入れていきたくて、この考え方をオープンソースハードウェアのほうに持っていくと、よりオープンソースハードウェアが多様化して、質が上がったり、スピードが速くなったりするのではないかという仮説の下に、ドキュメンテーションサービスという物を作っています。

2つの時間軸をサポートしていまして、1つは製作過程を記述するということです。いかにそのデバイスを作れるかということをステップバイステップで、クックパッドのデバイス版のようなものを作っています。

この時、特に重要視しているのが、派生、複製、そして貢献をいかにできるか。貢献ができるための隙間を少しずつ空けた設計をしています。

あとは開発過程ですね。そもそもなんでこれを作ろうと思ったのか。なんで今、こういうデザインなのか。なんで今、こういう素材を使っているのか。といったことをメモして取っておきます。

物の裏に潜んでいる物語をきちんと紡いでいこうというのが、やりたいことです。実際、私もズボンとか買うんですけど、「このズボンの藍は手染めで、四国のあそこで作ってるんですよ」とか言われてしまうと買っちゃうんですよね。なぜかわからないですけど。

そういう物の裏に潜む物語は、今後のデバイス、物においてかなり価値を高める可能性があるとして、そういった物を紡いでいくためのメモがあります。

デバイスから"派生物"が生まれる土壌を作る

現状800プロジェクトくらいあって、大学や専門学校で利用、そしてFab Labでも利用を開始されています。

ここで少しだけどんなものをやっているかと言いますと、これはですね、Fab Walkerと言いまして、四足で歩くロボットです。足を取り替えることによってさまざまな歩き方をする。これはSFCでやった授業なんですが、ここではオープンということの意味と、オープンはなぜ嬉しいのかといったことを伝えるための授業を行いました。

そこで、いかに複製できるか、派生物を作ることができるか、そしてそれを再利用、再配布することができるかという着眼点において授業を行いました。Fab Walkerは、ちょっと間違えると転んじゃったりするんですけども、これをフォークしてくださいという授業です。

そうしましたら、物を運べるようになりました。なぜか電源が付いていて、物が近くなるとそこで止まってくれるとか、そういった機能も付きました。

単純に歩くだけのものから、物を運べる機能が付いたり、あるいはこれなんかハロウィンのときにお菓子をあげる機能を実現しようというものらしくて。

このほかにも犬っぽく作ったり、絵を描くロボットを作ったり、いろいろな派生物ができました。こういった派生物のなかから、小さな前進なんですけど、次のiPhoneやテレビ、あるいはラジオなど、そういう物が生まれる可能性があるんじゃないかと思っていて、いかに派生物を作っていける土壌を作れるかということが今の僕の基本であります。

それからこれはKDDI Laboさんから掲出されたものです。これはCHIRIMENというボードを使って授業をまとめていて、授業を開始するのに何を用意するべきか、目的は何にするべきか、このような手順で授業を行ないましょう等、授業のレシピを作っているということになります。

僕がこれを共有してリユースすることもできるし、僕なりにアレンジするものがあれば、このレシピをフォークして新しい授業を作ることも、もしかするとできるわけですね。

ここは少し授業ということに対して楽しくやっていきたいところで、実は去年、慶応KMD(KEIO MEDIA DESIGN)にいる大川先生のところにあるSOI、School On Internet上で、クラスレシピ、いろんな授業をレシピ化していきましょうということをやりました。

そしてそれをフォークできるようにして、みんなが授業を再利用していきましょうという試みを行いました。この時はアジア3、4カ国で100何人かが参加してくれたんですが、あまりにもドメインが広すぎて、全然まとまらないという状態がありました。

ワークショップのノウハウを共有するための仕組みを

今ちょっと考えているのは、例えばArityとかRaspberry Piとか、そういったエレクトリックデバイスを使った授業、あるいはワークショップというのは日本だけでも相当あります。でもワークショップをやったら、やっただけで終わってしまって、それが次の人に伝わっていないんです。

そういうワークショップのノウハウ、あるいは手順というものをきちんと共有していく。そういうワークショップネットワークみたいなものを作っていきたいなと、専門学校の先生と一緒に話していて、まだ本当に始まってもいなくて、第1回のミーティングが(2015年)12月2日の5時から行われます。

Mozilla Japanのオフィスで行われるので、もしこういうことにご興味がございましたら、ぜひご参加いただきまして、教育はプロではないのでいろんなご意見をいただきたいなと思います。ぜひご協力いただけると嬉しいです。

あともう1つご紹介しておきたいのがFab Learn Asiaで、作りながら学ぶこれからの教育ということで、STEM系に関するイベントです。こちらにも先ほどのサービスやワークショップを出しますので、こちらもお時間ございましたらぜひお越しください。

今日はWoTの話から、WoTを使った授業、そして授業そのものをオープン化していくとどんな狙いがあるかといったような話をしました。WoTというのは、企業から押し付けられるものじゃなく、僕たちが作っていける時代です。そういう時期でもあるので、コミュニティベースでみんなの意見を募りながらAKFを作っていきます。

あとはFabbleはfabble.ccで公開していますので、ぜひこちらもご覧になって、一緒に広げていく活動をできたらよいなと思います。

はい、今日は40分、ちょっと詰め込みすぎて浅かったかも知れませんけども、またなにかありましたら質問とかしてください。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

制作協力:VoXT