きっかけは子供が生まれて撮った膨大な写真の保存と共有

津田啓夢氏(以下、津田氏):わかりました、ありがとうございます。ここからは、笠原さんにどういうきっかけでアプリを開発されたのかを伺います。どちらのサービスも、離れたところでの繋がりっていうのを意識されてると思うんですけど。

笠原健治氏(以下、笠原):「みてね」の場合、スマホアプリみたいな印象があったと思うんですけど、ブラウザでも見れるようになってます。お父さんお母さんはアプリから、おじいちゃんおばあちゃん、親族の人はブラウザから見るっていう。

メールでおじいちゃんおばあちゃんを招待すると、URLが発行されて、更新がある度に自動でメールが飛んで、そのメールをクリックすると、PCでもスマートフォンでもブラウザ環境があればどこでもみることができる、という発想が元々でした。

ただ、アプリを求める声が多くなって、今年の8月からアプリで使えるようにしたのが、経緯です。

津田:まずはWebのほうからだったんですね。

笠原:そうです。子供が生まれて、当時は僕もデジカメとかビデオカメラとか用意してたんですけど、1週間経つくらいからスマホでばかり撮っていて。かつこんなに撮るんだなと。過去撮ってきた累積数をあっという間に上回りそうな勢いで、撮りまくっていました。

1週間経った頃、撮った動画や写真を親や妻とどうやって共有しようかとか思いまして。あるいは妻が沢山撮ってくれるであろう動画をくまなく見たいというか。そこで見れないの写真が増えると、「悔しい!」「見たい!」ということがあったりして。

津田:ご自身のモヤモヤが最初のきっかけということですね。

笠原:そうです。月に1回ノハナで、写真を家族に送るっていうことと、Dropboxで写真動画をリアルタイムで共有することにしました。

子供の写真の共有、楽しいはずのコミュニケーションが義務感に

笠原:ノハナに対する満足度は高かったです。Dropboxに対してはアップロードが遅いこと、何を共有する共有しないっていう選択をすることが手間に感じてしまって。画質も気になりました。

津田:そうなんですか。

笠原:ツールとしては有能なんですけど、ビューアーとしては想定されていないようでした。親もそれを見るのが大変で、しょっちゅう見ないといけないとか。親ともPCの共有を始めたのですがデータも一杯になってきて。

反応がないということもあります。見てくれてるのかどうか分からないという。自分としては、最初は楽しくてモチベーションも高く、どんどん共有したいっていう気持ちでやってたのが、だんだん義務っぽくなってきて。

津田:ルーチンっぽい。

笠原:そうです。結局2、3週間くらい間があいて、親から電話がかかってきて、早く共有してくれって言われてしょうがなくやる、という。楽しいはずの体験がつまらなくなって、それがもったいないなと思っていて。

周りに聞いても、共有できる仕組みがないよねと。人によってはブログやiPadで共有しているとかいろいろありましたけど、そこは皆困ってそうだなと。

1番多いのはメールやLINEで共有しているケースだったんですけど、それだと流れていってしまうし、これっていう1枚でないと共有しづらいです。メッセージも加わえないといけないので、何気ない日常を共有するには重いツールだと思いました。

子供はかわいい! 思いっきり自慢したい! でもSNSじゃなくて家族間で

笠原:自分の課題解決から始まってるとはいえ、大勢の人が困っていることであれば、社会的にも意義のあるサービスなんじゃないかなと思い、やっていこうと。コンセプトとしては、その子の人生をまるまる残していけるような機能を作りたいと思って開始しました。

子供への熱が高まっている今、今日、今週撮った写真や動画を共有して、気付いたら熱量が高い履歴が残っているような、ストックとしても価値が出るようなものです。

津田:ずっと見ていける感じがいいですよね。

笠原:そうですね。子育ても楽しくなるんじゃないかと思っています。子供がかわいいっていうのを思いっきり自慢もしたい。それはFacebook、Twitter、Instagramでも言えるんですけど、頻度を気を付けなきゃいけないから遠慮してしまいます。でも受け止めて欲しいっていう気持ちがあって。

あるいはおじいちゃんおばあちゃん、親族から、できるかぎり沢山見たいと言われます。別の角度から違うシーンもくまなく見たいっていう気持ちがあるみたいです。

そこをうまくマッチングすれば、内輪だけで上手く盛り上がれる場をつくれるんじゃないかなと。あとは、ストックとして成長を楽しく振り返ることができます。月別にページができていたり、1秒動画なので忙しいママでも簡単にできます。

ふとした瞬間の成長を実感できるのは、次へのモチベーションにもなってきますし、実感できる場も作りたいです。

テクノロジーを使えば離れている家族でも皆で子育てができる

笠原:インターネットなどテクノロジーとしての役割の中で、皆で子育てをできるのではと思って。核家族化が進んでいく中、1度はバラバラになった家族なんだけれども、ネットで人と人を繋げることができます。

今の時代に合った形、テレビ、スマートフォン、ブラウザなどといった方法で、配偶者も祖父母も、皆で育てよう、皆が見守ってかつ楽しめるんじゃないかと。ユーザーの声でも、「普段の様子を知ることができるので、次に会ったときにもそこから話ができる」と、よく言われます。

津田:話題のきっかけにもなるってことですね。

笠原:うちの家族の場合、Dropboxが週に1度になり、2週に1度になり、月に1度になりと過疎化していって、「心配だ」と電話をしてきたりとかして。

最近どう、奥さん元気にしてるのとか、孫はどうしてるのとよく言われてたんですけど、「みてね」に移行してからは、いい意味でそういった電話はなくなりました。

津田:それは良いんですか?(笑)

笠原:心配してかけてくる電話はなくなりました。皆元気にしてるねとか、今週は運動会、ピクニック、お茶会があったんでしょって。もちろん電話もするんですけど、全部知ってる前提で話ができるんで、生産性がよくて、面倒な会話がなくて済むっていうのもいいですね。……まあ、男性的な意見ですけど(笑)。

(会場笑)

笠原:おじいちゃんおばあちゃんの話ってややこしくなりがちです。状況を同じだけ知らないので、どうでもいい余計なこと聞いてきたりとか。

津田:実際、煩わしさはありますよね。

笠原:そういう煩わしさはかなりなくなりました。週に1度、2週に1度の電話であっても、リアルタイムで知ってる分、話しやすくなりました。

津田:双方のご両親との会話って生まれたりするんですか?

笠原:そこはほどほどですね。そこをやり過ぎるとお互い苦痛だと思うので。気を遣ったコミュニケーションは、「みてね」上ではしてほしくないです。問いかけには必ず答えるとか、それって面倒じゃないですか。

基本、コメントしっぱなし。僕もあえてそこにコメントを返すこともないですし、自分として何か気になったことがあれば、コメントを返すという感じにしています。両親もそうですね。

それほど多くはないですが、過去にコメントの応酬があったのは、例えば、下の子が奥さんのお父さんに似てるんじゃないかっていう話が始まって。うちの姉がそれを指摘して、「僕もそう思ってた」ってコメント書いていて、そしたらおじいちゃんが1回スルーしたことを書いて……。でもその後まんざらでもないというコメントを照れながら書いてくれたり。

そのコメントに何たらかんたらって喋ってる、みたいな、そういう掛け合いも楽しいですし、かけがえのない履歴になります。その子供自身も、後々そういうのを見ると思うんです。もしかしたら嫌だと思うコメントもあるかもしれないですけど。

一方で、おじいちゃんおばあちゃん、お父さんお母さんがこういうことを言ってくれてた、っていうことを含めた写真、動画は、かけがえのないものになっていくと思っています。

津田:確かに昔の紙のアルバムって、喋れないですもんね。過去の写真を見ながら今の状況を喋るしかなくて、コメントは残ってないですよね。

笠原:よっぽどマメな人で付箋なりメモなりしてれば別でしょうけど。僕自身も、リビングにあるアルバムをたまに見返すのが子供の頃から好きで。子供にとって、そういう存在になっていければと。

子供がふとした瞬間「みてね」を見たときに、いろいろ思い返せるような、原点に立ち返ることができるような、そういうサービスにしていければと思っています。パパやママのためのサービスではあるんですけど、そこから祖父母、親族、家族中が繋がっていく。

家族同士も、子供の成長後も長いスパンで繋げたい

笠原:ゆくゆくは子供自身もアカウントを持って、自分自身がアップロードすることもあるかもしれないですし、その子の成長に上手く寄り添っていくことができるようなサービスにしていきたいなと思っております。

津田:基本的に3世代っていう考え方なんですか?

笠原:そうなりますね、はい。

津田:子供が成長して何十年か経ち、また新しい家族がっていう話になりますよね。

笠原:それはベストですね。今開発中の機能ですが、例えば、妹と繋がっていて、妹に子供が生まれたときに、妹自身も自分の子供用のアルバム作ることができるような。そういう機能を開発中です。

それを使えば、お子さん自身が成長後に、自分自身の子供のアルバムをつくるときも使えるようになります。

梶原:この話すごい良いと思うんですよ。笠原さん的には原点に立ち返ることができるようにしていきたいと考えている。子供が大きくなっていったときに振り返ったり。そういう意味では、Webサービスって1年、2年やってクローズってたくさんあるじゃないですか。笠原さん的には、ずっと長くやっていきたいと。

笠原:もちろんです。思いもコミットも、5年10年、できれば20年30年やっていきたいと思ってます。自分自身が1番のユーザーであり、自分自身がなくなると、サービス的に劣化すると困るので、そこは責任を持って長い時間をかけて育てていきたいです。

売上利益ともにかなりのボリューム感があるモデルだと思っていて、ビジネス的にも、長い時間をかけてつくっていく必要があると思っています。

梶原:それって大きい話というか、すごい話だなと思うんですね。10年15年、20年っていうね。

笠原:Webサービスでそういったスパンで始めるのは、珍しいですね。まず、ユーザーを増やして、1年2年盛り上がってみたいなパターンが主流ですから。

梶原:よくそういうの聞きますけど、長く腰を据えてやっていこうっていうサービスって、僕はすごく意味があるというか。

笠原:そうですね。でも、この分野をやってる人は多いです。

津田:実際、ユーザー側からしても、簡単にやめられたりしたら困る話だと思うんですよね(笑)。

笠原:すごい迷惑だと思います。「みてね」に写真も動画も全部上げたから、あとは全部消しちゃってます、みたいな人もいますし。そこは重い責任だなと思っています。

津田:「まごチャンネル」はどういった感じなんですか? ハードディスクが中に入ってるっていう……。

梶原:ディスクはボックスの中に入ってますが、我々でもバックアップをとらせていただいてます。何かあったときにはそこから復旧したいと思ってるんで。ユーザーさんに長く使ってもらえるようにしていきたいと思ってます。

個人的な体験から来ているサービスでもありますし、ちょろっとやってお終い、みたいなつもりは、全然ありません。

津田:「まごチャンネル」のサービスは、笠原さんから見てどういう印象ですか? ユーザー層は少し違うのかなって思うんですけど。

笠原:その辺はまだ調査中です。ユーザーさんに、「テレビで見たいですか?」「有料だとしたらどれくらい払いますか?」とか、今、いろいろ聞いています。両親ともにガラケーでネット環境がないっていう人からは、「そういう見方があるんだ、いいですね」と言われます。

僕、「まごチャンネル」を2台、クラウドファンディングでオーダーしました。

梶原:そうなんですよ。見たら、「笠原さんオーダーしてくれてる!」って。

津田:(笑)。2台?

笠原:自分用と親用と使い分けようと。どういう感じか使い勝手を見ながら、やっていく必要があると思ったんで。テレビで見たときにどういった感想になるのかなとか。

AppleTVで映すこともあるんですけど、AppleTVだと刹那的というか、一時的にその場で見て皆で楽しむけれど、日常的に見る流れは作れてないじゃないですか。そこは「まごチャンネル」の場合、流れとしてサイクルを持てますよね。

そのときにどんな気持ちになるのかを体感してみたいです。テレビという大画面で、かつネットの環境がなくても見れるという、そこはいいなと思いますね。

人間は「コミュニケーションをしたい」欲求がある

津田:おふたりとも「家族」をテーマにされてますけど、皆、コミュニケーションしたいんだなっていうのは、おふたりのサービスを見ていて思います。例えば文字が生まれるのって、コミュニケーションをとりたくて、出てきたと思うんです。

ネットで遠くに離れた家族と繋がるっていうのも、すごく原始的な欲求っていうか。家族があって、それに対して皆コミュニケーションして、次代を担う子たちをつくっていくっていう。

「コミュニケーションを加速させるツール」っていう意識はあったんですか?

笠原:フタを開けてみたら、すごくコミュニケーションしてるなっていう感じです。元々Dropboxでは、誰もしてなかったわけです。でも今は、夜中の23時くらいに写真を上げても、おじいちゃんおばあちゃんや姉、翌朝にはうちの両親が、ばんばんコメントしてきていて。

彼らも義務的というより、言いたくて言ってるというか。姉も書きたくてしょうがないというか、全部書きすぎると申し訳ないなって止めてるって感じにもなってて。皆コミュニケーションしたいんだって。嬉しいですね。

ところで、うちの子って、突然、すごい固まるんですよ。皆さんそうかもしれないんですけど、この間お茶会やったときにチームメンバーがいたんですが、急に固まるんです。

津田:固まるっていうのは、動画を撮ろうとすると動かなくなるとか?

笠原:男の人とか同世代とか、人がたくさんいると緊張するんですよ。僕に似たんだと思うんですけど、フリーズしちゃって。いつもの元気はどこにいってしまったのかって。

普段はすごく元気なんだけれども、急に固まって。親としてはちょっと心配で、半分遺伝しちゃったって。いずれ解消していくんでしょうけど、もう少しうちとけてくれたら嬉しいんですが。

これはピクニックに行ってるときで、例によって同世代ばっかり集まっていました。保育園の友達とかもいて、普段知ってるにもかかわらず、場所が違うっていうこともあってか、固まっちゃって。それに対してうちの妻のお父さんがコメントをしていて。

「固まってるのは頭の中がフル回転してるから固まってるんでしょう、そのうち慣れるよ」って言ってくれていて。僕はそれが嬉しくて、「そういうこともあるのか!」と。

津田:(笑)。

笠原:お父さんの見方を教えてくれるのが、いいなと思った瞬間でした。昔、自分が親とおばあちゃんと同居していて、おばあちゃんなりの見方を教わったような感じです。

両親とは違う見方を、普段から見聞きしていたというか、自分自身も親となった今、自分たちの解釈ではない先人の解釈を知ることができるっていうのは、ちょっと嬉しかったです。