秋元康と小山薫堂が考える「企画力」とは

司会:それではこれより、第1部講演会「企画力で勝つ」を開始させていただきます。本日モデレーターを務めますのは、株式会社ドフ代表取締役社長、また新経済連盟クリエイティブディレクターをお務めいただいております、齋藤太郎様です。

(会場拍手)

そして、本日のスペシャルゲストをご紹介いたします。みなさま、大きな拍手でお迎えください。まずお一人目、秋元康様です。

(会場拍手)

続きまして、小山薫堂様です。

(会場拍手)

それではみなさま、お願いいたします。

齋藤太郎氏(以下、齋藤):改めまして、先ほどご紹介ありましたけれども、秋元康さんと小山薫堂さんをお招きいたしました。今日はテーマが「企画力で勝つ」というものです。

今日来ていらっしゃるのは、新経済連盟の会員各社さんの経営に携わっている方々でしたり、社員の方々だったりする思うんですけれども、経営には企画というものすごく重要なファクターがあります。

みなさま、ビジネスモデルを考え出したりとか、新しい商売を考えるときには、企画というものがものすごく大事だと思うんですけど、そういう意味で、私も企画を生業にしているんですけど、日本を代表する、本当に尊敬する先輩のお二人とこういった場所を恵まれたこと、本当にうれしく思っています。

本当はお二人と親しい熊谷(正寿)理事だったり、藤田(晋)理事にモデレーターをお願いしたほうがいいんじゃないかなと思ったんですけど、「僕らは親しすぎるから、話のつっこみようが難しい」ということで、なぜか私が振られることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

「企画力で勝つ」というテーマで、お二人にいろいろご質問させていただきたいなと思うんですけども……ちょっと広めの話からしてもいい?

司会:はい。

齋藤:漠然と企画って、例えば秋元さんだったら「AKBの秋元さん」とか、小山さんだったら(映画)『おくりびと』だったりでみなさんも認識できるかもしれないですけど。

「企画をする上で、一番大事にしてることはこういうことだよ」みたいなのがあれば、お話をしていただきたいなと思います。じゃあ、小山さん。

(会場笑)

小山薫堂氏(以下、小山):ちょっと秋元さんなんか(キャラ)作ってますか?

秋元康氏(以下、秋元):いや、作ってない(笑)。

(会場笑)

小山:さっき、「柔らかく、ゆるくやる」って言ってたのに、何か偉そうな……。大丈夫ですか?

秋元:(笑)。

企画をするときに考える3つのこと

  小山:あの、じゃあ僕から。この後先輩がすごくおもしろいお話をされるので、僕の目線を下げるために。

僕は企画をやる会社を運営してるんですけれども、社内ではいつも「企画とはなんぞや」というと、「企画とはサービスである。サービスとは思いやりである」といつもスタッフには言ってます。

つまり、「何を求められてるか、何を欲しているかということを、どれだけ人々の気持ちをおもんばかれるか」ということが企画ではないかなと。企画をするときに、いつも自分に問いかけている3つのことがありまして。

それは、「その企画は新しいか」「その企画は自分にとって楽しいか」「その企画は誰を幸せにするのか」この3つを常々問いかけまして、3つとも当てはまってたらすごくいいなと。

どれかそのうちの1つでも当てはまってたら、もう誰も幸せにしないけど、自分がものすごく楽しいからやりたいとか、自分は楽しくないけど、明らかに幸せになる人がいるから、じゃあやろうとか。でも、このどれも当てはまらない仕事は、もうやめようというぐらいの気持ちでやっております。

小山:人々ってもの、より多くの人というよりは、もう本当に1人のためとか、意外と近い人をどう喜ばせるか。それぐらいのほうが多いかなと。すみません、ちょっと漠然とした……先輩。

(会場笑)

齋藤:「それは違うだろう」と思ってます?

秋元:いえいえ、もう全くその通りです。

(会場笑)

「世の中の動き」を見ると、競争に巻き込まれる

秋元:薫堂くんは非常に人格者なので、優しく穏やかに、思いやりとかサービスとか。何となく思ったんですけども、別に異を唱えるわけではなくて、ちょっと薫堂くんのやり方と違うのは。

薫堂くんは会社を持ったり、(自分は)そういうこともしてなくて、本当に個人作業なんですけども、僕はとにかく「マーケットを見ない」という。この10年、20年ぐらいですかね。昔は僕も、世の中の動きとかを考えてたんですけども。

それをやればやるほど、結局過当競争に巻き込まれると。つまり、そこにどんな魚がいて、どうなったってことがわかればわかるほど、魚群探知機があればあるほど、そこには漁船が集まるので。

「そうじゃないのかもしれないな」とあるとき思ってからは、とにかく自分が信じるものをやり続けることのほうがおもしろいかなと。

例えば、みんなが校庭でドッジボールしてるときに、そこからドッジボールに入っても「勝てないな」というような気がいつもするんですね。

だから、みんながドッジボールをやっているんだけども、僕は鉄棒でたった1人から始めて、その鉄棒で何かおもしろいことをやっているうちに、ドッジボールをやっている人たちから「仲間に混ぜて欲しい」って言われるほうがいいかな、というようなことで考えてるような気がするね。企画というか。

だから、外を見てなくて、自分の中だけでおもしろいものがどこまで広がるかという思い込みと、思い上がりの賜物のような気がするんですよ。

決して全てがうまくいっているわけではなくて、そんな偉そうなことを言うつもりもなくて。結局、最後まで、夕暮れまでずっと鉄棒で1人きりだったなってこともよくあるんですよね。「誰も見向きもしないじゃないか」と。でも、みんなの望んでるものを探せば探すほどダメになるような……。

例えば今のテレビが、やっぱり「視聴者が誰を望んでるか」、「どうやったら視聴率が取れるか」ということを考えすぎて、みんなの想像する予定調和を壊せなくなった呪縛に似ているのかなと思うので、全く見たことがないとか、やったことがないとか、そういうものを追い続けてるような気がします。

齋藤:いや、ものすごい意外でした。でも小山さんの「新しいか」とか、「楽しいか」とかに近いところですね、きっと。

この鉄棒は、今誰も注目されてないと。俺がおもろいと思うから、みんなきっとおもろいと思うに違いないと思って、みんなドッジボールをやっているのに、(鉄棒を)やっているってことですか?

ニューヨークで企画中のお化け屋敷

秋元:そうですね。だから、もともとそういうふうに「ドッジボールって勝てないな」って思っちゃうんでしょうね、きっと。やっぱりどこかゲリラで。例えば、「鉄棒の中でどうしたらおもしろいかな」ということを考えたいと思うんですよね。

みんなで人気があるモノのところにいって、みんなが世の中がもぐらたたきみたいな……もぐらたたきのゲームあるじゃないですか?

みんなが注目してるところからもう、もぐらは出ないような気がするんですよね。だから、みんながこっちだと言う(反対の)、こっち側を見てたほうがいいなというのはずっとあるのかもしれないです。

何年か前ですかね?「何やろうかな」と思ったときに「これからはお化け屋敷だな」と思って、ニューヨークにお化け屋敷を作ろうと思ったんですね。

7年ぐらい前から電通と準備してたんですけど、準備してる間に、ニューヨークもロンドンもお化け屋敷ブームになっちゃって、これはダメだというようなことはありましたね。

だから、急遽変更して、「これはもう、お化け屋敷やめよう」ってことになったんですよ。これはもう無理だと思ったんですけど、あるとき寝ててふと気づいたんですよ。

「これ、お化け屋敷だけだから勝てないな」と。「お化け屋敷に何かプラスアルファしたら、勝てるんじゃないか」と思って。

お化け屋敷というのは、入り口から出口まで目的がないじゃないですか。だから目的を作ればいいんだと思って、怖いときに、行けば行くほど得することはないかなと思ったときに、「そうだ!」と「寿司だ!」と。

齋藤:寿司(笑)。

秋元:「寿司ゾンビ」というお化け屋敷を作ろうとしたんです。怖いとこに行けば行くほど、高い寿司が食べれるという……ウニとか、いくらとか。「たいして怖くないな、この辺だったらかっぱ巻き」とか。

(会場笑)

秋元:かっぱ橋とかで売ってるイミテーションの(寿司)あるじゃないですか。それをあちこちに置いておいて、出口で交換する。ウニを取れた人にはウニが食べられる、「寿司ゾンビ」という。真剣に電通とやってるんですよ。

齋藤:これからやろうとしてるんですか。

秋元:今やっているところです。それがおもしろいかなと思って。だからそれは鉄棒で、誰にも知られず終わる場合もあるんですよ。ギャグになると思うんですね。

ヒット企画にはWin-Winの関係が必要?

齋藤:小山さん、いかがですか? 今の。

小山:僕、秋元さんがすごいなと思った瞬間があったんですよ。あの、ニューヨークの話していいですかね?

秋元:どうぞ、どうぞ。

小山:先月、ニューヨークに一緒に行ったんですよ。

齋藤:そうなんですか(笑)。

小山:もう1人、強烈な方がいらっしゃったんですけど。

齋藤:お二人をもってして強烈。

小山:僕らをもってしても強烈な方がいて。

齋藤:すごいですね。今日いらっしゃる方ですか?

小山:今日はいらっしゃってないんですよね。2人で帰りのJFK(ジョン・F・ケネディ国際空港)に向かうタクシーの中で、ずっといろんな人の悪口を言われてたんですよ。

(会場笑)

小山:ずっと(笑)。いろんな人ですよ。1人じゃない。「あいつ嫌だ」、「こいつ嫌だ」。それで突然、僕に「それで、薫堂は誰が嫌いなんだよ?」って言われて(笑)。

(会場笑)

小山:それで、僕はあんまり嫌いな人っていないんですよね。それで、「僕ちょっと今、誰って言われてもあんまりいないんですよ」って言ったら。「だからお前はダメなんだ」と。

(会場笑)

小山:「嫌いな人を言えない人間は、俺たち信用しないんだよ」みたいなことを言われて、それで僕もちょっと強がって「いや、いますよ!すっごい嫌なやついますよ!」って言ったら、「じゃあ誰?」って言われて「いや、ちょっと名前を思い出せないんですけど」って言ったら、「名前を思い出せないものは嫌いじゃないんだよ」って言われて(笑)。

そのときに僕、秋元さんすごいなと思ったのは、「とにかく嫌いな人がいる」と。「その人のことを嫌いすぎて、好きなんじゃないかなって錯覚することがある」と。それで、「年に1回、その人とご飯を食べよう」と言って、ご飯を食べながら「やっぱり嫌いだ」って思って「よし、俺ブレてないと思うんだ」って言われたときに「すごいな」って。

それぐらい、やっぱり守りぬくというか、自分のその思いを守りぬいて、そこに近寄る人を寄せ付けないぐらいの強い思いを持っていろいろ企画もやられてるのかなと思ったら、そこは僕すごいと思います。

僕はやっぱり、誰かに嫌われてるなと思ったら、やめようって気になるんですよね。じゃあ、これはやめとこうとか。

齋藤:企画がですか?

小山:企画とか。僕はやっぱり、Win-Winじゃないとダメだなと思ってしまうタイプなんですよ。自分だけ儲けてると思われた瞬間に、共感を得られなくて失敗するだろうなと思ってしまうタイプなんですよね。

だから、くまモンも「儲けてないです、僕は本当に儲けてないです」と言いながら、本当に儲けてないんですけど。

(会場笑)

小山:そうやっとかないと、なんかうまく回らないんじゃないかなという。でも、秋元さんはAKBで相当儲けてらっしゃると思うんですけど、それを批判にも感じさせないぐらいの強い企画力を身につけるから、たぶんいいんじゃないかなと。これが中途半端な企画力だと、批判されるんじゃないかなと思うんですよね。

齋藤:だって他の人がやってないから、「これはもう秋元印」っていうのをバチって。「いや、似てるやつ俺も考えてた」って起こりえないですからね。

嫌いな人から見える、自分の方向性

秋元:何か薫堂くんの話だと、薫堂くんがいい人で僕が悪い人……。

(会場笑)

秋元:僕がWin-Winにしてないと……。

小山:いや、違うんです(笑)。

秋元:薫堂くんが言わんとしてることはわかるんですけど、嫌いな人というのは、その……何だろうな。なぜ嫌いかということが、自分の方向性なんですよね。

つまり、どんなものでも「好きでもないです、嫌いでもないです」というのは、結局自分がないから好きでも嫌いでもないんじゃないですか。自分を持ったら、必ず好きか嫌いかあるわけで、その人が嫌いというのは、きっと自分にすごく似てるか、自分と全く価値観が違うのどっちかなんですね。

なので僕は、(その人に)会うぐらいだからきっと本当に嫌いじゃないのかもしれないんですよね。会って話をしてると「どうもこの人の価値観とか考え方は違うな」と思ったりするんです。

でもそれが、僕が30代、40代の頃から変わってないということは、自分の価値観が変わってないんだなということで、安心するということなんですけど。

もちろん僕も、薫堂くんみたいにみんなから好かれたいですし、真ん中で、すごくいいイメージで売ろうとしてるところとか……本当は腹黒いですよ。

(会場笑)

「おニャン子クラブ」の大ヒットから学んだこと

秋元:僕はわりと、どう思ってもらってもしょうがないなという(考えが)、どっかこう……あるんですよ。世の中というのは冗談が通じないんだな、ということがわかったんですけど。

僕が20代のときに「おニャン子クラブ」というのがバカ当たりしたんですけど、そのときに「秋元さん、印税ですごい儲かってるでしょ」って言われるじゃないですか。

そのときに、僕は東京生まれで、昭和33年生まれなんで、何か「いやいや、儲かってないです」とか「みなさんのおかげです」とか言うのが恥ずかしくて、「いやあ、儲かってますよ」って言っちゃうわけですよね。

そのときに、よせばいいのに、「あんまり儲かりすぎて、おニャン子御殿建てたんですよ」というのを言ってたんですよ。そしたら本気にする方がいるんですね。ギャグでも。

だから、そういうずっと恥ずかしくて冗談で言ってたことが、いつの間にか秋元康=金満化とか、お金の儲かってる人とか、計算高いとか、そういうイメージだった。薫堂くんはそういう轍を踏まないように、いい人のふりをずっとしてるけどね。

(会場笑)

秋元:それは僕も大人だからわかるんですけど、薫堂くんは確かにくまモンでは一銭も取ってないでしょ。でも取ってないですけど、くまモンをダシにして違うとこから……。

(会場笑)

秋元:それはそうでしょ、くまモンを当てた人ですからね。所詮同じなんでしょ? だけど、そういうことをやるのは、やっぱりさすがプロデューサー、うまいなと思うんですよね。

僕は、企画というのは、イソップ童話の北風と太陽でないといけないと。つまり、旅人、あるいは世の中、あるいはユーザー、消費者で、とにかく風がビュービュー吹いても絶対コート脱がないでしょ。だから、太陽のようにぽかぽかしていく。自分から脱いでもらうしかない。

これは、今のインターネットの時代で言えば、昔だったら場所が悪い所にお店出しても絶対ダメじゃないですか。だけど今は、もうどんな遠い場所(でも)、中身さえよければ、太陽のようにぽかぽかしてれば、勝手に旅人がコートを脱ぐように、人が近づいてくるんですよね。

だから、僕はそこの1点だけですかね。企画をするときに「これの優位性は何なんだろう」と。つまりもうスタッフにもずっと言ってるんだけど、「カルピスの原液を作らなきゃだめだ」と。

カルピスの原液さえ作れば、例えば「カルピスウォーターにさせてもらえませんか?」とか、「ホットカルピスにさせてもらえませんか?」とか「アイスクリームのカルピス味を作りたいんですけど」とかいうお話をいただけて、それで薫堂くんがいうところのWin-Winになるわけですね。

だけど、この原液がない。なんとなく当たっちゃったものというのは、すぐ同じものを作られるし、競合が出てくるし。だから常に、「この優位性はなんなんだろうな」ということ。

だから例えば、アイドルを作るときも、アイドルを作ることはできるんだけども、他のアイドルとどこか違う。それは「専用劇場を秋葉原に作ろう」、「365日、公演してるアイドルはいないだろうな」ということを考えるとか。そこの差別化みたいなのが……。生々しい話をしたので、今度はいい話をしますね(笑)。

(会場笑)

制作協力:VoXT